「大人になったら付き合ってください」──8年後、本当に来た。

ましゅまろ

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好きを言いにきた

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蒼の腕の中で、はるの鼓動が伝わってくる。

抱きしめるのなんて、何年ぶりだろう。
いや、8年という歳月は、もう“年数”なんかじゃ表せないほどの距離だった。

「……マジかよ、ほんとに来たんだな……」

蒼は、はるを離すと、顔をまじまじと見つめた。

「……背、伸びたな。声も低くなってるし……顔は、なんか、ちょっとだけ大人になってる」

「おにいちゃんは……全然変わらないよ」

はるは笑った。その笑い方が、8年前とまったく同じで、
蒼の胸がぎゅうっと締めつけられる。

そのとき、奥から咳払いが聞こえた。

「あの……とりあえず中に入れてあげたら?」

さっきの女性――蒼の同棲相手が、困ったような笑顔を浮かべていた。

「あ……ごめん。えっと、はる、上がって」

「……お邪魔します」

はるは、ぎこちなく靴を脱ぎながら、玄関をくぐった。

リビングに入ると、テーブルには朝食の片付け途中の食器が並んでいた。
生活感のある部屋。知らないカップ。見慣れない香水の匂い。

でも、ソファの位置も、窓のカーテンも、
はるの知ってる“蒼の部屋”が確かにそこにあった。

蒼は、女性に向き直った。

「ごめん、ちょっとだけ話させてもらっていい?」

「うん、大丈夫。私は出かける準備するから」

女性は気を利かせたように部屋を出ていった。

気まずい沈黙が、一瞬だけ流れる。

「……あの人、彼女?」

はるが静かに聞いた。

「……うん」

蒼は、目をそらしながら答えた。

「もう3年くらい、一緒に暮らしてる…」

「……そうなんだ」

はるは少しだけ目を伏せたあと、立ち上がった。

そして――カバンから、折り畳まれた紙を取り出した。

「これ、8年前に書いたんだ。
いつか18歳になったら、絶対に見せようって決めてた」

蒼は、それを受け取って広げる。

そこには、まっすぐな文字で、短い言葉が綴られていた。

『大人になったら、絶対に、蒼くんに会いに行く。
好きって、ちゃんと言いに行く。
そのとき、まだ間に合うなら、もう一度、そばにいたい。』

「……俺、泣くぞこんなの」

蒼は小さく笑って、手のひらで目を覆った。

はるはまっすぐに言った。

「高校卒業して、今日で18歳になった。
だから――約束どおり、“好き”を言いに来たの」

蒼の呼吸が止まる。

言葉にできない感情が、胸の奥で波打っていた。
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