61 / 91
61.出発
しおりを挟む
出発の朝は、まだ太陽が昇りきらない薄い灰色の空の下だった。
寝室には既に準備を整えたスーツケースと手荷物が整然と並んでいる。
大きなキャリーケースは蓮が両手で抱えるとやっと持ち上がるほどの重さで、中身はほとんど沙耶のものだった。
ドレスや靴、化粧品、ヘアアイロン、シャンプーの詰め替えまで――沙耶が「ヨーロッパ旅行には欠かせない」と微笑んで詰め込んだものばかり。
蓮の荷物はほんのわずか。
下着や最低限の着替え、小さな洗面道具を小さなポーチに入れただけ。
⸻
それでも沙耶は微塵も気にする様子はなく、むしろ当然という顔をして優雅に蓮を見つめた。
「じゃあ、全部持って」
「……はい……」
蓮は重たいキャリーケースを右手で引き、左肩に二人分の手荷物バッグを提げた。
肩に食い込む紐がすぐに痛みを作るけれど、それが不思議と心地良かった。
「大丈夫?」
沙耶は優しく微笑む。その声色の奥にはいつも通りの冷たい支配の色があった。
「……はい……持てます……」
沙耶は満足そうに小さく頷くと、そっと蓮の首に指をかけた。
⸻
「いい子。……あなたは荷物を運ぶのが役目なの。旅行中もずっと私に尽くしなさい」
「……はい……」
その言葉だけで胸が甘く満たされ、自然に息が詰まった。
沙耶は細い指を蓮の髪に絡め、軽く引き寄せて耳元で囁く。
「あなたの荷物はほとんどないわね。でもそれでいいの。……全部、私のために使いなさい」
「……はい……沙耶さんのためなら……」
小さな声でそう呟くと、沙耶は満足そうに唇を細く歪めた。
⸻
タクシーが到着し、二人は家を出た。
蓮は重たいキャリーを引き、二人分の手荷物を肩に食い込ませながら、沙耶の一歩後ろを歩いた。
沙耶は何も持たず、ただ小さなショルダーバッグを片手に軽やかに歩くだけ。
それが自然だった。
むしろそうして沙耶の後ろを追い続けるこの形こそ、蓮にとって一番しっくり来る。
⸻
空港へ向かう車内、沙耶はスマホでホテルの予約メールを確認しながら小さく笑った。
「楽しみね。パリのホテルはスイートルームにしたのよ」
「……はい……」
「広くて素敵な部屋で、あなたが全裸に首輪をつけて待ってるの。……考えるだけで楽しいわ」
「……っ……沙耶さん……」
羞恥で顔が一気に熱を帯びる。
それを見て、沙耶は小さく息を吐き、指をそっと蓮の太腿に置いた。
「良い子。……パリでもローマでも、ずっと私だけを見ていなさい」
「……はい……」
⸻
飛行機が飛び立つ頃、蓮は窓から遠ざかる街をぼんやり見つめながら、
これから訪れる異国の地でさえ沙耶の檻の中にあるのだと思い、甘い痺れに身体を震わせた。
世界中どこへ行っても――沙耶の犬でいる。
それが自分のすべてだった。
寝室には既に準備を整えたスーツケースと手荷物が整然と並んでいる。
大きなキャリーケースは蓮が両手で抱えるとやっと持ち上がるほどの重さで、中身はほとんど沙耶のものだった。
ドレスや靴、化粧品、ヘアアイロン、シャンプーの詰め替えまで――沙耶が「ヨーロッパ旅行には欠かせない」と微笑んで詰め込んだものばかり。
蓮の荷物はほんのわずか。
下着や最低限の着替え、小さな洗面道具を小さなポーチに入れただけ。
⸻
それでも沙耶は微塵も気にする様子はなく、むしろ当然という顔をして優雅に蓮を見つめた。
「じゃあ、全部持って」
「……はい……」
蓮は重たいキャリーケースを右手で引き、左肩に二人分の手荷物バッグを提げた。
肩に食い込む紐がすぐに痛みを作るけれど、それが不思議と心地良かった。
「大丈夫?」
沙耶は優しく微笑む。その声色の奥にはいつも通りの冷たい支配の色があった。
「……はい……持てます……」
沙耶は満足そうに小さく頷くと、そっと蓮の首に指をかけた。
⸻
「いい子。……あなたは荷物を運ぶのが役目なの。旅行中もずっと私に尽くしなさい」
「……はい……」
その言葉だけで胸が甘く満たされ、自然に息が詰まった。
沙耶は細い指を蓮の髪に絡め、軽く引き寄せて耳元で囁く。
「あなたの荷物はほとんどないわね。でもそれでいいの。……全部、私のために使いなさい」
「……はい……沙耶さんのためなら……」
小さな声でそう呟くと、沙耶は満足そうに唇を細く歪めた。
⸻
タクシーが到着し、二人は家を出た。
蓮は重たいキャリーを引き、二人分の手荷物を肩に食い込ませながら、沙耶の一歩後ろを歩いた。
沙耶は何も持たず、ただ小さなショルダーバッグを片手に軽やかに歩くだけ。
それが自然だった。
むしろそうして沙耶の後ろを追い続けるこの形こそ、蓮にとって一番しっくり来る。
⸻
空港へ向かう車内、沙耶はスマホでホテルの予約メールを確認しながら小さく笑った。
「楽しみね。パリのホテルはスイートルームにしたのよ」
「……はい……」
「広くて素敵な部屋で、あなたが全裸に首輪をつけて待ってるの。……考えるだけで楽しいわ」
「……っ……沙耶さん……」
羞恥で顔が一気に熱を帯びる。
それを見て、沙耶は小さく息を吐き、指をそっと蓮の太腿に置いた。
「良い子。……パリでもローマでも、ずっと私だけを見ていなさい」
「……はい……」
⸻
飛行機が飛び立つ頃、蓮は窓から遠ざかる街をぼんやり見つめながら、
これから訪れる異国の地でさえ沙耶の檻の中にあるのだと思い、甘い痺れに身体を震わせた。
世界中どこへ行っても――沙耶の犬でいる。
それが自分のすべてだった。
0
あなたにおすすめの小説
朔望大学医学部付属病院/ White Dictator
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
White Dictator______通称:『白衣の独裁者』
<ホワイト・ディクテイター>
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
圧倒的な「実力」と「技術」で捩じ伏せ・現場を支配する凄腕たち。
___ ごく僅かな一瞬の隙も逃さない神手の集まり。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる