4 / 120
1.蒼き異才、動き出す
絶対戦略会議
しおりを挟む
昭和十六年(1941年)五月――
帝国陸海軍合同戦略会議、通称「絶対戦略会議」が、皇居外苑・近衛師団司令部の特設地下会議室で開催された。
これまでの会議とは異なる。
議題は一つ。「真珠湾作戦の是非と、新戦略案採用の可否」。
そしてそこには、前代未聞の存在がいた。
――十三歳の少年、蒼月レイ。
「今回、第三課からの推薦により、特例として本戦略会議への出席を許可する。異論は認めない」
香取大佐の強い一声のもと、数十名の将官たちは黙っていた。
だが、空気は重い。少年一人に、帝国の運命を論じさせる――
それを面白く思わない者が、少なくなかった。
⸻
「皆様、今日は私のような若輩者に貴重な場をいただき、感謝いたします。――ですが、私はこの国の未来を守るために、遠慮せず提言します」
レイの声は静かに、しかし確かに会場を貫いた。
スクリーンに投影されたのは、米国の産業力、航空母艦の増産計画、ルーズベルト政権の外交方針など、驚異的な情報量に基づいた未来予測。
「日本がいま、戦争を仕掛ければ、“最初の一撃”では勝てます。しかし、二撃目、三撃目が来たとき、我々は“予備”を失っている」
「ではどうする?」
海軍軍令部の将官が苛立ちを隠さず問う。
「“勝つ”のではなく、“勝ったように見せる”のです」
ざわつく会場。
「真珠湾では、“米艦隊が壊滅したと錯覚させ”、それによって世論と軍部に一時的な混乱と停戦機運を生ませる――
その間に、外交を通じて“有利な講和”を引き出す。それが、我々が取るべき“戦略的勝利”です」
少年の手元にあるのは、数百枚に及ぶ図表、兵器生産量、石油在庫量、外交文書。
「軍の皆様。私は戦争を否定しているのではありません。戦争を**“外交の延長”**として使うべきだと言っているのです。これは兵ではなく、国家の戦いです」
⸻
会場が静まり返る中、一人の老将が立ち上がった。
海軍元帥・山本五十六。当初は出席予定になかったが、レイの提案を「見ておくべき」と密かに招かれていた。
「……この少年の戦略、見事だ」
山本は低く唸るように言った。
「我々は今、“勝利”に酔いかけていた。だが、“滅びないこと”こそが、本当の勝ちだと……忘れていたようだ」
その言葉に、多くの軍人が顔を伏せた。
⸻
絶対戦略会議は、未曾有の結論に達した。
真珠湾作戦は、蒼月レイによる“改訂案”をベースとする形で再設計されることが、正式に決定したのである。
だが――
その夜、帝大構内に停められたレイの自転車が、何者かによって燃やされていた。
白紙の手紙ではなく、**“実行”**に移った明確な警告。
帝国は変わり始めた。
だが、同時にそれは、古い力が牙を剥く予兆でもあった。
「これで本当に、日本の運命を変えられるのだろうか――」
少年は、ひとり呟いた。
その声をかき消すように、夜空を軍用機のエンジン音が掠めていった。
帝国陸海軍合同戦略会議、通称「絶対戦略会議」が、皇居外苑・近衛師団司令部の特設地下会議室で開催された。
これまでの会議とは異なる。
議題は一つ。「真珠湾作戦の是非と、新戦略案採用の可否」。
そしてそこには、前代未聞の存在がいた。
――十三歳の少年、蒼月レイ。
「今回、第三課からの推薦により、特例として本戦略会議への出席を許可する。異論は認めない」
香取大佐の強い一声のもと、数十名の将官たちは黙っていた。
だが、空気は重い。少年一人に、帝国の運命を論じさせる――
それを面白く思わない者が、少なくなかった。
⸻
「皆様、今日は私のような若輩者に貴重な場をいただき、感謝いたします。――ですが、私はこの国の未来を守るために、遠慮せず提言します」
レイの声は静かに、しかし確かに会場を貫いた。
スクリーンに投影されたのは、米国の産業力、航空母艦の増産計画、ルーズベルト政権の外交方針など、驚異的な情報量に基づいた未来予測。
「日本がいま、戦争を仕掛ければ、“最初の一撃”では勝てます。しかし、二撃目、三撃目が来たとき、我々は“予備”を失っている」
「ではどうする?」
海軍軍令部の将官が苛立ちを隠さず問う。
「“勝つ”のではなく、“勝ったように見せる”のです」
ざわつく会場。
「真珠湾では、“米艦隊が壊滅したと錯覚させ”、それによって世論と軍部に一時的な混乱と停戦機運を生ませる――
その間に、外交を通じて“有利な講和”を引き出す。それが、我々が取るべき“戦略的勝利”です」
少年の手元にあるのは、数百枚に及ぶ図表、兵器生産量、石油在庫量、外交文書。
「軍の皆様。私は戦争を否定しているのではありません。戦争を**“外交の延長”**として使うべきだと言っているのです。これは兵ではなく、国家の戦いです」
⸻
会場が静まり返る中、一人の老将が立ち上がった。
海軍元帥・山本五十六。当初は出席予定になかったが、レイの提案を「見ておくべき」と密かに招かれていた。
「……この少年の戦略、見事だ」
山本は低く唸るように言った。
「我々は今、“勝利”に酔いかけていた。だが、“滅びないこと”こそが、本当の勝ちだと……忘れていたようだ」
その言葉に、多くの軍人が顔を伏せた。
⸻
絶対戦略会議は、未曾有の結論に達した。
真珠湾作戦は、蒼月レイによる“改訂案”をベースとする形で再設計されることが、正式に決定したのである。
だが――
その夜、帝大構内に停められたレイの自転車が、何者かによって燃やされていた。
白紙の手紙ではなく、**“実行”**に移った明確な警告。
帝国は変わり始めた。
だが、同時にそれは、古い力が牙を剥く予兆でもあった。
「これで本当に、日本の運命を変えられるのだろうか――」
少年は、ひとり呟いた。
その声をかき消すように、夜空を軍用機のエンジン音が掠めていった。
133
あなたにおすすめの小説
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~
蒼 飛雲
歴史・時代
ワシントン軍縮条約、さらにそれに続くロンドン軍縮条約によって帝国海軍は米英に対して砲戦力ならびに水雷戦力において、決定的とも言える劣勢に立たされてしまう。
その差を補うため、帝国海軍は航空戦力にその活路を見出す。
そして、昭和一六年一二月八日。
日本は米英蘭に対して宣戦を布告。
未曾有の国難を救うべく、帝国海軍の艨艟たちは抜錨。
多数の艦上機を搭載した新鋭空母群もまた、強大な敵に立ち向かっていく。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年夏まで執筆
九九式双発艦上攻撃機
ypaaaaaaa
歴史・時代
欧米列強に比べて生産量に劣る日本にとって、爆撃機と雷撃機の統合は至上命題であった。だが、これを実現するためにはエンジンの馬力が足らない。そこで海軍航空技術廠は”双発の”艦上攻撃機の開発を開始。これをものにしして、日本海軍は太平洋に荒波を疾走していく。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる