日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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13.超克の選択

越境する意志

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1942年(昭和17年)9月10日。
東京・外務省別館 地下会議室――。

コンクリート剥き出しの無機質な空間に、白い蛍光灯が静かに灯っている。
一枚の長机を挟み、スーツ姿の男と帝国大学の制服を着た少年が向き合っていた。

外務次官代理・松岡洋右。
そしてもう一人は、日本の外交地図そのものを塗り替えた存在――蒼月レイ。

「……これは、“国の名の下に発せられた声”ではありません。
だが、“この国が生き残るための声”です」

松岡は、分厚い封筒を机にそっと置いた。
それは米国・ルーズベルト政権からの“私的覚書”――だが、そこには未来を左右する文言が記されていた。

《アメリカは、日本が三国同盟を公式に破棄するならば、
今後のアジア再建における主導的地位を日本に与える余地を認める》

「これは“降伏”ではない。“未来の分岐点”だ」

封筒を開き、内容に目を通したレイの表情が、静かに引き締まる。

「……ようやく、アメリカと“同じ未来”でを語り合える時代が近づいてきたんですね」

レイは立ち上がった。
資料を手にして、軽く一礼し、その場を後にする。



同日夜。
ワシントンD.C.・ホワイトハウス・大統領執務室。

ルーズベルトは一通の文書を読んでいた。
彼の傍らには、陸軍、海軍、OSSの幹部が居並ぶ。

「これが……14歳の少年が送った“答え”か」

「はい。明確な三国同盟の“脱退意志”とともに、日本の未来像が綴られています」

大統領は、分厚い資料に目を落とし、ゆっくりとページを繰った。
そこには、「新しい東アジア」「連邦的秩序」「共栄と相互尊重」という、これまでの外交文書にはない概念が並んでいた。

「これは……“帝国の言葉”ではない。“市民の言葉”だ」

「まるで、彼は国そのものを“人格化”して語っている」

顧問のひとりが言うと、ルーズベルトは低く笑った。

「敵国の少年にここまで心を動かされるとは、思いもしなかったよ。
彼は、私よりも未来を見ている」

そして、手元のペンを取り、サインを記した。

「まだ見ぬ友に、応えよう」



1942年9月12日。東京駅・深夜。
構内には薄暗い灯りだけが残り、列車の準備が静かに進められていた。

そのホームに、一人の少年が現れる。
トランクひとつと、帝国大学の鞄。制服の胸元には、白い布で縫われた“旭日”の章。

蒼月レイ――日本からアメリカへの“非公式使節”として、再び旅立とうとしていた。

「……君が歩むその道は、もはや“日本”という枠の中には収まらない」

背後から、静かな声がかかった。
振り返ると、そこには岸信介がいた。

「だが君が見ているのは、“世界の未来”なんだろう?」

「ええ。だから、行かなきゃいけないんです。僕が戻ってきたとき、
この国に“誇れる未来”があるように」

「レイ。忘れるなよ。人間は“未来”だけじゃ動かない。“過去”に囚われる者の方が多い」

「だからこそ、過去を否定するんじゃなく、乗り越えたいんです。
“信頼”という名前の道で」



発車のベルが鳴り響く。
レイは黙って乗車口へと歩いていく。振り返らず、ただ前を向いたまま。

その小さな背中に、今や数千万の民意が重なっていた。

彼はまだ、14歳。
だが彼の手は、すでに“国交”という運命の扉を開けていた。
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