51 / 120
13.超克の選択
越境する意志
しおりを挟む
1942年(昭和17年)9月10日。
東京・外務省別館 地下会議室――。
コンクリート剥き出しの無機質な空間に、白い蛍光灯が静かに灯っている。
一枚の長机を挟み、スーツ姿の男と帝国大学の制服を着た少年が向き合っていた。
外務次官代理・松岡洋右。
そしてもう一人は、日本の外交地図そのものを塗り替えた存在――蒼月レイ。
「……これは、“国の名の下に発せられた声”ではありません。
だが、“この国が生き残るための声”です」
松岡は、分厚い封筒を机にそっと置いた。
それは米国・ルーズベルト政権からの“私的覚書”――だが、そこには未来を左右する文言が記されていた。
《アメリカは、日本が三国同盟を公式に破棄するならば、
今後のアジア再建における主導的地位を日本に与える余地を認める》
「これは“降伏”ではない。“未来の分岐点”だ」
封筒を開き、内容に目を通したレイの表情が、静かに引き締まる。
「……ようやく、アメリカと“同じ未来”でを語り合える時代が近づいてきたんですね」
レイは立ち上がった。
資料を手にして、軽く一礼し、その場を後にする。
⸻
同日夜。
ワシントンD.C.・ホワイトハウス・大統領執務室。
ルーズベルトは一通の文書を読んでいた。
彼の傍らには、陸軍、海軍、OSSの幹部が居並ぶ。
「これが……14歳の少年が送った“答え”か」
「はい。明確な三国同盟の“脱退意志”とともに、日本の未来像が綴られています」
大統領は、分厚い資料に目を落とし、ゆっくりとページを繰った。
そこには、「新しい東アジア」「連邦的秩序」「共栄と相互尊重」という、これまでの外交文書にはない概念が並んでいた。
「これは……“帝国の言葉”ではない。“市民の言葉”だ」
「まるで、彼は国そのものを“人格化”して語っている」
顧問のひとりが言うと、ルーズベルトは低く笑った。
「敵国の少年にここまで心を動かされるとは、思いもしなかったよ。
彼は、私よりも未来を見ている」
そして、手元のペンを取り、サインを記した。
「まだ見ぬ友に、応えよう」
⸻
1942年9月12日。東京駅・深夜。
構内には薄暗い灯りだけが残り、列車の準備が静かに進められていた。
そのホームに、一人の少年が現れる。
トランクひとつと、帝国大学の鞄。制服の胸元には、白い布で縫われた“旭日”の章。
蒼月レイ――日本からアメリカへの“非公式使節”として、再び旅立とうとしていた。
「……君が歩むその道は、もはや“日本”という枠の中には収まらない」
背後から、静かな声がかかった。
振り返ると、そこには岸信介がいた。
「だが君が見ているのは、“世界の未来”なんだろう?」
「ええ。だから、行かなきゃいけないんです。僕が戻ってきたとき、
この国に“誇れる未来”があるように」
「レイ。忘れるなよ。人間は“未来”だけじゃ動かない。“過去”に囚われる者の方が多い」
「だからこそ、過去を否定するんじゃなく、乗り越えたいんです。
“信頼”という名前の道で」
⸻
発車のベルが鳴り響く。
レイは黙って乗車口へと歩いていく。振り返らず、ただ前を向いたまま。
その小さな背中に、今や数千万の民意が重なっていた。
彼はまだ、14歳。
だが彼の手は、すでに“国交”という運命の扉を開けていた。
東京・外務省別館 地下会議室――。
コンクリート剥き出しの無機質な空間に、白い蛍光灯が静かに灯っている。
一枚の長机を挟み、スーツ姿の男と帝国大学の制服を着た少年が向き合っていた。
外務次官代理・松岡洋右。
そしてもう一人は、日本の外交地図そのものを塗り替えた存在――蒼月レイ。
「……これは、“国の名の下に発せられた声”ではありません。
だが、“この国が生き残るための声”です」
松岡は、分厚い封筒を机にそっと置いた。
それは米国・ルーズベルト政権からの“私的覚書”――だが、そこには未来を左右する文言が記されていた。
《アメリカは、日本が三国同盟を公式に破棄するならば、
今後のアジア再建における主導的地位を日本に与える余地を認める》
「これは“降伏”ではない。“未来の分岐点”だ」
封筒を開き、内容に目を通したレイの表情が、静かに引き締まる。
「……ようやく、アメリカと“同じ未来”でを語り合える時代が近づいてきたんですね」
レイは立ち上がった。
資料を手にして、軽く一礼し、その場を後にする。
⸻
同日夜。
ワシントンD.C.・ホワイトハウス・大統領執務室。
ルーズベルトは一通の文書を読んでいた。
彼の傍らには、陸軍、海軍、OSSの幹部が居並ぶ。
「これが……14歳の少年が送った“答え”か」
「はい。明確な三国同盟の“脱退意志”とともに、日本の未来像が綴られています」
大統領は、分厚い資料に目を落とし、ゆっくりとページを繰った。
そこには、「新しい東アジア」「連邦的秩序」「共栄と相互尊重」という、これまでの外交文書にはない概念が並んでいた。
「これは……“帝国の言葉”ではない。“市民の言葉”だ」
「まるで、彼は国そのものを“人格化”して語っている」
顧問のひとりが言うと、ルーズベルトは低く笑った。
「敵国の少年にここまで心を動かされるとは、思いもしなかったよ。
彼は、私よりも未来を見ている」
そして、手元のペンを取り、サインを記した。
「まだ見ぬ友に、応えよう」
⸻
1942年9月12日。東京駅・深夜。
構内には薄暗い灯りだけが残り、列車の準備が静かに進められていた。
そのホームに、一人の少年が現れる。
トランクひとつと、帝国大学の鞄。制服の胸元には、白い布で縫われた“旭日”の章。
蒼月レイ――日本からアメリカへの“非公式使節”として、再び旅立とうとしていた。
「……君が歩むその道は、もはや“日本”という枠の中には収まらない」
背後から、静かな声がかかった。
振り返ると、そこには岸信介がいた。
「だが君が見ているのは、“世界の未来”なんだろう?」
「ええ。だから、行かなきゃいけないんです。僕が戻ってきたとき、
この国に“誇れる未来”があるように」
「レイ。忘れるなよ。人間は“未来”だけじゃ動かない。“過去”に囚われる者の方が多い」
「だからこそ、過去を否定するんじゃなく、乗り越えたいんです。
“信頼”という名前の道で」
⸻
発車のベルが鳴り響く。
レイは黙って乗車口へと歩いていく。振り返らず、ただ前を向いたまま。
その小さな背中に、今や数千万の民意が重なっていた。
彼はまだ、14歳。
だが彼の手は、すでに“国交”という運命の扉を開けていた。
42
あなたにおすすめの小説
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
皇国の栄光
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。
日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。
激動の昭和時代。
皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか?
それとも47の星が照らす夜だろうか?
趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。
こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる