日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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20.蒼き楽園

光の出逢い

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ハワイ・オアフ島、午後。

レイは、海沿いに建つ静かな図書館の中庭を歩いていた。
建物の外観はコロニアル風でありながら、内部は西洋と東洋の美が溶け合う不思議な空間だった。

彼の手には、分厚い原書の論文集。
最近興味を持った「文明の起源と未来構造」に関する英・独・仏の三か国語併記の学術書だった。
人類の文明がどのように栄え、なぜ滅び、いかに再生するのか──
その問いに、いま最も現実的に取り組んでいるのは、15歳の少年、蒼月レイかもしれなかった。

「……このままでは、また繰り返す。世界は“終わる理由”を抱えたまま前に進んでいる」

そう呟いたそのときだった。

「それ、本当に読むんですか? 私、それ途中で挫折しました」

声がした。

振り向いた先に立っていたのは、一人の少女。
長い黒髪を後ろでまとめ、知的な印象の眼差しをもつ。
ハワイの陽射しのもとでも、日本的な清楚さが際立つ――
彼女は、明らかに日本人だった。

レイは静かに微笑んだ。

「……知りたいんです。どうして人は過ちを繰り返すのか。
そして、どうすれば“終わらせずに済む”のかを」

少女は、一瞬目を見張った。

「やっぱり……本物のレイさんなんですね」

「……え?」

彼女は、胸元に抱えていた書類ファイルをそっと掲げた。
その表紙には、こう書かれていた。

「蒼月レイ構想における精神的帝国モデルの検証」
監修:東アジア思想研究会・ハワイ分科会

「私、あなたの思想研究をしているんです。……というか、ずっとファンでした」

恥ずかしそうに言う少女の頬が、ほんのり赤らんだ。



彼女の名前は――結城 桜(ゆうき・さくら)。
15歳。
父は物理学と哲学を融合させた思索で知られる国際的学者。
母は、アジア女性として初めて複数の国際会議に登壇した政治家。
そして桜自身も、ハワイの教育機関で国際思想と文化政策を学びながら、日英中の三言語で論文を発表するほどの才媛だった。

「こんな形で会えるなんて、夢みたい……。正直、握手するだけでも涙が出そう」

「……そんなに“大きく見られる”のは、少し照れますね。僕も同じ年齢ですから」

レイは控えめに笑ったが、桜の目は真剣だった。

「……でも、私、あなたの言葉に何度も救われたんです。
“戦わずして勝つ”という発想、“共存”という理念。
あなたの存在がなければ、日本は今頃…。私はここで暮らせていなかったと思います」

レイはその言葉に、言葉を返せずにいた。

自分の“思想”が、どこかで誰かを支えていた。
こうして“顔のある誰か”が、その思いを真っ直ぐに伝えてくる時──
それは、数字でも、群衆でも測れない“意味”を持っていた。



図書館の裏庭のテーブルに並んだ二人は、気がつけば数時間、話し込んでいた。

「……つまり、文化政策において“翻訳”は手段じゃなくて、“精神の再構築”だと私は思うの」

「面白い。思想の“母語”をどう扱うかで、国際協調の質が変わる……か」

「そう。英語で話せば通じる、というのは“通じたフリ”なんです。
でも、本当の意味で心が通じ合うには、“言葉そのものの魂”を理解しなきゃいけない」

「……君はすごい」

レイは素直にそう言った。
対等に、深く語り合える存在は、極めて稀だった。

彼女は、微笑んだ。

「私、昔から思ってたの。
あなたと出会えたら、きっと“言葉じゃない何か”で話せるんじゃないかって」

その瞬間、風が吹いた。

海からの風が、桜の髪を揺らす。
レイの視線が、ほんの少しだけ長く、彼女に留まった。

──そして、彼は静かに言った。

「……明日も、話せる?」

「もちろん」

世界は変わる。
だが、たった今、この瞬間もまた、二人の世界が始まりつつあった。
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