日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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20.蒼き楽園

決意とためらい

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ハワイの朝は静かで、どこか優しかった。
レイが日本を離れてから十日が経ち、蒼い空と穏やかな海の風景にも少しずつ馴染みを覚え始めていた。

それでも、彼の心が休まったことは、一度もなかった。

──いや、正確には「彼女」と話しているときだけが、唯一、何かから解き放たれた気がしていた。

その日の午後、レイと結城桜は、海辺にある小さな東屋に腰を下ろしていた。
目の前には、青い海と白い砂浜。遠くにはカヌーを漕ぐ子どもたちの姿も見える。
桜は、足元で揺れる麦わら帽子をそっと手で押さえながら、言った。

「ねぇ、レイくん。……将来、あなたはどうしたい?」

その問いは、以前にも似たものを投げかけられた記憶があった。
だが今回は違った。もっと深く、もっと個人的で、もっと大切なものを問われていると感じた。

「……“国の未来”をつくる。それが、僕の使命だと思ってた。ずっと、そう思ってたんだ」

「今でも?」

「……わからない。使命だとは思ってる。でも、“それだけでいいのか”って、君に会ってから考えるようになった」

桜は微笑む。

「うれしいな。その“わからない”って答え、すごく人間らしい。……今のレイくんには、それが一番必要な気がする」

「人間らしい……か。ずっと“人ならざるもの”みたいに扱われてきたからな」

「神童とか、天才とか、救世主とか?」

「どれも、僕じゃない。誰かがつけたラベルだよ」

そう言って、レイは海に視線を向けた。

水平線の向こうには、戦火に沈む大陸がある。
だが、この島には、戦争の匂いはない。
あるのは、風と波と──目の前の、少女の笑顔。

「桜。君はどうなんだ? 君は未来に何を望む?」

桜は、少し考えてから答えた。

「私ね、日本の未来を“開かれた国”にしたいの。世界と対話できる、“心の翻訳機”がある国。
誰かを排除せず、かといって迎合もしない、芯のある優しさを持った国にしたい」

「……君らしいね。優しくて、理想に満ちてる。でも現実を見てる」

「ありがとう。でもね、私、怖くなるときがあるの」

「怖い?」

「うん。私は今こうして綺麗ごとを語ってるけど、
きっとどこかで、誰かの苦しみに目を向けられずにいる。
私の“理想”で誰かを押し潰してしまうかもしれない。……それが、怖い」

その言葉に、レイはゆっくりと目を閉じた。
自分もまた、同じ罪を抱えていた。

──理想は、美しい。
──だがその裏で、犠牲になる誰かがいる。

「……それでも、進まなきゃならない。そう思ってる」

「うん。私も」

海風がふたりの沈黙を撫でていく。

レイは、桜を見つめた。
彼女の横顔は、まるで海に浮かぶ小さな灯台のようだった。
光を放ち、彼自身の道を照らしてくれる。

「……君がいるなら、どんな未来もきっと大丈夫だと思える」

桜は少しだけ顔を赤らめた。

「ずるいなぁ、レイくん。そういうこと、さらっと言うんだから」

「本当のことだから」

「……ありがとう」

ふたりの距離が、また少しだけ縮まった気がした。



夕暮れ。

ふたりは東屋を離れ、並んで小道を歩いていた。

「ねぇ、レイくん」

「ん?」

「私は……あなたの未来に、少しでも関われたら嬉しいな。
あなたがどんな道を選んでも、隣じゃなくても、遠くからでも、
あなたが笑っていられるなら、それでいい」

言葉が、胸の奥にしみた。

「……君は、僕にとって特別だ。たぶん、誰よりも」

その瞬間、桜が足を止めた。

「……レイくん、私ね、もしも──もしも、これが運命の出会いなら」

「うん」

「私……あなたを、好きになってもいい?」

言葉が空気を震わせた。
レイは、返事をしなかった。いや──できなかった。

だが、彼の心の奥で、何かが静かにほどけていった。



その夜。
レイは一人、星空を仰いだ。

「……好きになってもいい?」

あの言葉が、波のように心に響く。

これまで“国家”という重責を背負い続けた少年が、今ようやく、“一人の少年”としての未来を考え始めていた。
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