92 / 120
23.世界を結ぶ声
新しき国のかたち
しおりを挟む
1943年3月下旬。東京。
帝都の春は、柔らかな陽射しとともに訪れた。
桜並木の蕾はほころび始め、疎開や配給という言葉を聞かなくなった街には、確かな“安堵”の空気が流れている。
東京駅前。巨大な掲示板には、新しい制度を知らせる公告が貼り出されていた。
《帝国倫理基本法、4月1日施行》
《軍政機構、正式に「国防省」へ再編》
《新国会制度、次期通常選挙より適用開始》
かつて「統制」と呼ばれたものの多くは姿を消し、「改革」の名のもとに法と制度へと変貌した。
それは、決して革命ではない――秩序の中にある静かな進化だった。
⸻
帝国大学・講堂。
この日、蒼月レイは久しぶりに“講演”という形で人々の前に立っていた。
壇上に立つ彼の姿は、少年というにはあまりにも威厳があり、政治家というにはあまりに透明だった。
「皆さん。日本は、いま“国家のかたち”を変えようとしています」
彼の言葉に、千人近い聴衆が耳を傾ける。
「力によって支配する国は、やがて力によって滅びます。
ですが、制度と信頼によって支えられた国は、永く続く」
彼は一枚の紙を取り出す。
それは、新しい国会の「三権分立修正案」だった。
・行政の長は国民の信任によって選ばれ、
・立法府は「民意の代理人」としての機能に徹し、
・司法は政治と断絶し、独立性を保証される。
「私たちは、“不完全な民主主義”を、“希望ある民主主義”へと進めていきます。
天皇陛下の権威を損なうことなく、そのご存在のもとで民意を制度として表現する。
これが、我々が目指す――“新しき国のかたち”です」
拍手はなかった。
だが、それは沈黙という名の喝采だった。
その場にいた誰もが、その言葉の重さにただ身を委ね、声を上げることすら憚られた。
それは――最大の敬意の証だった。
⸻
講堂の裏手。
講演を終えたレイが静かに息を吐いたとき、隣で控えていた桜がそっと微笑んだ。
「……すごい演説だったわ。あんなに静かなのに、心に響いた」
「ありがとう。……でも、まだ道半ばだ」
彼は歩き出す。
「軍の改革、司法の独立、そして教育――今のうちに“未来の礎”を築いておかないと」
桜が問いかける。
「……じゃあ、あなたの理想の“日本”って、どんな国なの?」
レイは立ち止まり、振り返った。
「誰もが“未来”を持てる国。
努力が報われて、権力が私物化されず、そして――
“世界に誇れる、思慮と優しさを持つ国”だよ」
桜は黙って頷いた。そして、彼の隣に立つ。
⸻
その夜。赤坂の官邸では、首脳会議が開かれていた。
議題は、次の5年計画。
重化学工業の再編、農村部へのインフラ投資、教育制度の刷新、そしてアジア諸国への戦後支援準備――
「世界は、やがて変わる。だが、日本はその前に“変われた”」
レイはそう締めくくった。
彼の背後には、これまでともに歩んできた人々の顔があった。
加藤蔵相、島村国防大臣、結城桜――
そして、天皇陛下から授かった“信”の言葉が、今も胸に残っていた。
⸻
帝国は、目覚めた。
過去に葬られなかった希望。
そして、いまここにある静かな革命。
それは剣を掲げたものではなく、紙と制度と信頼によって作られた、もう一つの“戦後”だった。
世界がまだ戦火の中にあるなか、
この島国の片隅で、未来が始まろうとしていた――
帝都の春は、柔らかな陽射しとともに訪れた。
桜並木の蕾はほころび始め、疎開や配給という言葉を聞かなくなった街には、確かな“安堵”の空気が流れている。
東京駅前。巨大な掲示板には、新しい制度を知らせる公告が貼り出されていた。
《帝国倫理基本法、4月1日施行》
《軍政機構、正式に「国防省」へ再編》
《新国会制度、次期通常選挙より適用開始》
かつて「統制」と呼ばれたものの多くは姿を消し、「改革」の名のもとに法と制度へと変貌した。
それは、決して革命ではない――秩序の中にある静かな進化だった。
⸻
帝国大学・講堂。
この日、蒼月レイは久しぶりに“講演”という形で人々の前に立っていた。
壇上に立つ彼の姿は、少年というにはあまりにも威厳があり、政治家というにはあまりに透明だった。
「皆さん。日本は、いま“国家のかたち”を変えようとしています」
彼の言葉に、千人近い聴衆が耳を傾ける。
「力によって支配する国は、やがて力によって滅びます。
ですが、制度と信頼によって支えられた国は、永く続く」
彼は一枚の紙を取り出す。
それは、新しい国会の「三権分立修正案」だった。
・行政の長は国民の信任によって選ばれ、
・立法府は「民意の代理人」としての機能に徹し、
・司法は政治と断絶し、独立性を保証される。
「私たちは、“不完全な民主主義”を、“希望ある民主主義”へと進めていきます。
天皇陛下の権威を損なうことなく、そのご存在のもとで民意を制度として表現する。
これが、我々が目指す――“新しき国のかたち”です」
拍手はなかった。
だが、それは沈黙という名の喝采だった。
その場にいた誰もが、その言葉の重さにただ身を委ね、声を上げることすら憚られた。
それは――最大の敬意の証だった。
⸻
講堂の裏手。
講演を終えたレイが静かに息を吐いたとき、隣で控えていた桜がそっと微笑んだ。
「……すごい演説だったわ。あんなに静かなのに、心に響いた」
「ありがとう。……でも、まだ道半ばだ」
彼は歩き出す。
「軍の改革、司法の独立、そして教育――今のうちに“未来の礎”を築いておかないと」
桜が問いかける。
「……じゃあ、あなたの理想の“日本”って、どんな国なの?」
レイは立ち止まり、振り返った。
「誰もが“未来”を持てる国。
努力が報われて、権力が私物化されず、そして――
“世界に誇れる、思慮と優しさを持つ国”だよ」
桜は黙って頷いた。そして、彼の隣に立つ。
⸻
その夜。赤坂の官邸では、首脳会議が開かれていた。
議題は、次の5年計画。
重化学工業の再編、農村部へのインフラ投資、教育制度の刷新、そしてアジア諸国への戦後支援準備――
「世界は、やがて変わる。だが、日本はその前に“変われた”」
レイはそう締めくくった。
彼の背後には、これまでともに歩んできた人々の顔があった。
加藤蔵相、島村国防大臣、結城桜――
そして、天皇陛下から授かった“信”の言葉が、今も胸に残っていた。
⸻
帝国は、目覚めた。
過去に葬られなかった希望。
そして、いまここにある静かな革命。
それは剣を掲げたものではなく、紙と制度と信頼によって作られた、もう一つの“戦後”だった。
世界がまだ戦火の中にあるなか、
この島国の片隅で、未来が始まろうとしていた――
1
あなたにおすすめの小説
紫電改345
みにみ
歴史・時代
敗戦の色濃い昭和19年11月
大日本帝国海軍大佐の源田実は「本土防衛の切り札」として
各地のエースパイロットを集めた超精鋭部隊「剣」―第343海軍航空隊を設立
だが剣部隊ではない紫電改運用部隊はあまり触れられることはない
鳴尾飛行場所属 第三四五海軍航空隊 通称部隊名「光」
関西地方の防空を担った彼らの軌跡をいざご覧あれ
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
戦艦大和航空科 大艦巨砲のその裏に
みにみ
歴史・時代
46cm三連装三基九門という世界に類を見ない巨砲を搭載し
大艦巨砲主義のトリを飾るような形で太平洋の嵐へと
生まれ出た日本海軍の技術力の粋を集結した大和型戦艦一番艦大和
その巨砲の弾着観測を行う航空科
あまり注目されることのない彼らだが竣工から沈没まで哨戒や対潜に多く従事してきた
そんな彼らの物語をご覧あれ
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
離反艦隊 奮戦す
みにみ
歴史・時代
1944年 トラック諸島空襲において無謀な囮作戦を命じられた
パターソン提督率いる第四打撃群は突如米国に反旗を翻し
空母1隻、戦艦2隻を含む艦隊は日本側へと寝返る
彼が目指したのはただの寝返りか、それとも栄えある大義か
怒り狂うハルゼーが差し向ける掃討部隊との激闘 ご覧あれ
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる