【R18】ご主人様と僕

ましゅまろ

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鎖の重さ

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律の背中には、鞭の痕が赤く浮かんでいた。マンションの無機質な部屋の中、律はまだ四つん這いのまま、首に巻かれた革の首輪の感触に意識を奪われていた。冷たいフローリングに触れる手と膝がわずかに震え、痛みと羞恥が混ざり合った熱が体を駆け巡る。それなのに、律の心は奇妙な安堵に包まれていた。ご主人様の声、視線、命令――すべてが、律をこの瞬間に縛りつけていた。
ご主人様はソファに座り直し、律を見下ろしていた。鋭い目つきは変わらず、だが口元には満足そうな笑みが浮かんでいる。手に持ったグラスの中の氷がカランと音を立て、静かな部屋に響いた。
「律、こっちに来い」
低い声に、律は反射的に体を動かした。四つん這いのまま、ぎこちなくご主人様の足元まで這う。首輪の金属パーツが小さく鳴り、律の耳にその音がやけに大きく聞こえた。ご主人様の革靴の先が視界に入り、律は思わず息を吞んだ。
「顔を上げろ」
命令に従い、律はゆっくりと顔を上げた。ご主人様の顔がすぐそこにあり、律の心臓が跳ねる。30代前半の落ち着いた顔立ち、だがその奥に潜む支配的な気配に、律は抗えない。ご主人様の手が伸び、首輪に指を引っかけて軽く引き上げた。
「この首輪、似合ってるぞ。まるで生まれつきお前のものみたいだ」
「…ありがとう、ございます…ご主人様」
声がかすれた。褒められたことが、なぜか胸の奥を熱くする。ご主人様の指が首輪から離れ、律の頬を軽く撫でた。その感触に、律の体が小さく震える。
「いい反応だ。俺の犬として、ちゃんと躾けられそうだな」
ご主人様が立ち上がり、部屋の隅に置かれた黒いボックスに近づいた。律は動かず、ただご主人様の背中を見つめる。ボックスから取り出されたのは、細い鎖と小さな錠だった。ご主人様が振り返り、律に近づく。鎖の先には小さな金属の輪が付いていて、それがカチャカチャと音を立てた。
「これ、お前の足に付ける。動くなよ」
「は、はい…」
律の声は震えていた。ご主人様が屈み込み、律の右足首に冷たい金属の輪を巻きつける。カチリと錠が閉まる音が響き、鎖の重みが足首に伝わった。鎖のもう一方の端は、部屋の壁に固定されたフックに繋がれた。律は動こうとすれば鎖が引っ張られ、自由を奪われることを悟った。
「これで、お前は俺のそばから離れられない。犬はご主人様のそばにいるもんだろ?」
ご主人様の声には、どこか楽しげな響きがあった。律は鎖の重さに戸惑いながらも、なぜか安心感を覚えていた。ご主人様に縛られている。この鎖は、その証だ。
「律、俺に感謝しろ。こうやって、お前をちゃんと俺のものにしてやってるんだから」
「感、謝します…ご主人様…」
律の声は小さかったが、心からの言葉だった。ご主人様は満足そうに頷き、再び鞭を手に取った。律の背中が無意識に縮こまる。さっきの10回の鞭の痛みが、まだ肌に残っている。それでも、律は逃げなかった。逃げたくなかった。
「次は、もっと我慢することを覚えろ。犬はご主人様の望むことなら、どんな痛みでも受け入れる。分かったな?」
「はい…ご主人様…」
「いい返事だ。じゃあ、15回だ。声を出してもいいが、動くなよ」
鞭が再び空を切った。鋭い痛みが律の背中に走り、思わず「うっ!」と小さな声が漏れる。鎖がカチャリと鳴り、律の体がわずかに揺れた。2回目、3回目…。鞭の音と律の抑えた声が、部屋に響き合う。痛みは鋭く、肌が焼けるようだった。それなのに、律の心の奥では、別の感覚が芽生えていた。ご主人様に支配される喜び。痛みすら、ご主人様からの愛情の証のように感じ始めた。
「ひっ…あっ…」
「まだ半分だ、律。ちゃんと数えろ」
「は、はい…8、9…」
律は必死に声を絞り出し、鞭の回数を数えた。ご主人様の視線が、律の震える体をじっと見つめている。15回目が終わったとき、律は息を荒げ、額に汗が浮かんでいた。背中は熱く、赤い痕がさらに増えている。ご主人様は鞭を置き、律の髪を優しく撫でた。
「よくやった。俺の犬、なかなかやるな」
その言葉に、律の胸が温かくなる。痛みも、鎖の重さも、すべてがご主人様との繋がりを強く感じさせる。律は涙目でご主人様を見上げ、かすれた声で言った。
「ご主人様…僕、もっと…ご主人様の犬になりたいです…」
ご主人様は一瞬目を細め、口元に笑みを浮かべた。
「その言葉、忘れるなよ。俺は律を完璧な犬にしてみせる。ゆっくり、な」
ご主人様の手が律の首輪を軽く叩き、鎖を指でなぞった。律は鎖の冷たさとご主人様の温もりを同時に感じながら、この部屋で過ごす時間が、すでに自分の全てになりつつあることを自覚していた。
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