トラウマ警官は、歪んだ愛に囚われる。

🍚🐴

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最終話 逃げられない。

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やってしまった。
文字通り、本当にしまった。

どうして僕は、この二人の前だと理性を保てないのだろう。
天井をぼんやり見上げ、深く溜息を吐く。

「何でまだここにいるんですか」

目覚めると、僕は床で寝ていた。
両脇には、約十年ぶりに再会した二人――千紘と市井がいて、挟まれるように眠っていた。

「⋯⋯重いです」

呼びかけても反応はない。
二人の腕が僕の身体の上に乗り、身動きが取れずに苛立ちが募る。

「どいて下さい!」

ドン、と拳を落とすと、ようやく二人は薄く瞼を開け、大きな欠伸をした。

「お前⋯⋯そういう時はおはようってキスするところだろ。やり直せ」

「いいねぇ~、そうすれば一発で目が覚めるな~。マツリちゃんからのキスなんて」

「ハァ!?何言ってんだアンタら!いいから早く退けよ!」

再び拳を振り上げた瞬間、今度はあっさり二人に腕を掴まれる。
力強く握る腕力に、一瞬で敵わないことを悟り、唇を噛み締めた。

「お前って昔から敬語とタメ口ごっちゃだよな。よくこの縦社会で通用できたな」

「そっ、れは⋯⋯!アンタ達だけですから⋯⋯」

「えー、そうなの?あ、あと頑張ってオレって言ってたのも可愛かったけど、それはもう止めたんだね」

「なっ、やめ!」

市井が言いながら頬にキスしてくる。
気を抜くとすぐこういうことをされる。油断も隙もない。

「ていうか、署に戻らなくて良いんですか!?こんなところで油売ってないで、早く出てって下さい!」

「相変わらず冷たいなぁ。募る話もあるのに。ねえ、辰巳」

「あぁ、そうだな。例えば、十年前、俺たちに何も言わずに姿を晦ました理由とかな?」

「そ、れは⋯⋯」



僕は十年前、二人の前から突然姿を消した。
中学三年生になるとき、母親が過労で倒れ、母の実家である九州に引っ越した。
春休みだったこともあり、二人には告げなかった。
そもそも告げる必要性も感じなかったし、当時はこれで解放されると思い、喜んでいた。

引っ越して一か月が過ぎるまでは、慣れない土地に馴染むことや、勉学に勤しみ、次こそは失敗しないように、交友関係も慎重に築いていった。

しかし、やがて問題が訪れる。

初めてまともに友達ができ、放課後に家に集まってAVをみた。
年頃の僕らは互いに冷やかし、女優の声がすげぇだの、おっぱいがでけぇだので盛り上がった。
その夜、久しぶりに自慰行為に励んだ。
だけど、どうしても上手くいけず愕然とする。脳裏に浮かぶのは、あの二人の顔だった。

諦めて寝た夜も、もどかしい気持ちは消えず、日が経つにつれて解消されない欲求が積み重かった。

無意識に身体は反応し、後ろを使ってしまった。
その日の感覚は、言葉にできないほど強烈で、同時に自身の身体の異変を認めざるを得なかった。


したくないのに、後ろを使うたび、二人の顔が頭をよぎる。
消したい記憶なのに、歳を重ねるほど鮮明になる。
頭のどこかで感じていた感情が、今、限界を超えて押し寄せる。

何度も何度も身体を重ねて、弄ばれて、犯されて。
自分でも知らない性感帯を見つけられて、性感帯じゃないところも気持ちよくなってしまって。
二人の手つきが優しくて、見せる笑顔が格好良くて、触れるところがドキドキして。
これ以上はまずいと察し、逃げるように二人の元を去ったのに。

当時は二人のことが好きだったなんて、絶対認めたくなかった。
それでも身体は切なく、思い出すたび、制御できずに熱を帯びる。

十年経ち、忘れたはずの感情の蓋は、再びこの二人によって簡単に外された。

「僕、もう観念します⋯⋯。本当は、ずっと二人のことが⋯⋯」

「でもこうしてまた会えたから、良かったよ、本当に」

「そうだな。色々と手を回した甲斐があった」

市井は立ち上がり、台所でケトルを沸かす。
ポケットから小瓶を取り出し、インスタントコーヒーと混ぜる。

千紘はテレビを付け、昨日の事件の進捗を語ったニュースを見ていた。
自然な二人の動作に、不自然さを感じるには少し時間がかかった。

「お前が九州に行った時、すぐにでも連れ戻そうと思ったけどな。いかんせん俺たちは多忙だし、なかなか時間が取れなかった」

淡々とした千紘の口調。視線はテレビから外されることはなく、その光景はどこか不気味に感じる。

「な、なに……」

「まさか警察官を目指してたなんてね。知った時は驚いたよ。俺たちの影響?んなわけないか、親の話はしなかったしね」

「いったい、何を……」

「おー。ちゃんと全員捕まったみたいだな。あとで礼言っておくか」

テレビのニュースに目を向けても、二人の不可解な発言が頭から離れない。

「ねー。はい、コーヒー淹れたよ。マツリちゃんの好きな砂糖とミルクたっぷりのやつ」

市井がコーヒーを差し出してくる。
その色と香りだけで、いつも高橋先輩に淹れてもらったものだと分かる。

「な、なんでこれを⋯⋯」

「今日はたっぷり入れてあるから、この後も楽しめるね」

早く飲んでと促され、僕はついそのコーヒーに口をつける。
甘い。とても。甘ったるくて、思わず顔を顰める。
二人はそれを見て、微笑んだ。

あ、さっき、これに何か入れて……


「警察学校は大丈夫だったか?お前、ひ弱そうだし可愛いから、変なやつに目つけられてないか心配してた」

「まぁ、俺らがお目付け役を手配してたから大丈夫だったと思うけど。側にいなかった分、やっぱり気になってたし」

身体が熱く、頭がボーッとする。
その熱は全身に広がり、触れていないのに反応してしまう。

「お、もう効いてきたのか?お前んところの高橋とか言う奴も、いけ好かないけど欠かさず飲ませてたみたいだな」

飲ませてたって、あのコーヒーのこと?
ダメだ。身体が熱い。段々と思考が鈍っていく。

「昨日のパブでも入れてたしな。効果抜群だろ」

「約十年、ずっと飲ませてたからね。まあほんとに微量だけど。初めて出来た、中学も高校も警察学校でも、よくジュース奢って貰ってたでしょ?」

そういえば、そんなこと、あったような⋯⋯。
確かに、その日の夜は、何だか妙に身体が⋯⋯。

「⋯⋯やめ、ろ」

「あんまり入れると、マツリちゃんが他人に欲情する恐れもあったし、調整が大変だったんだ」

鼓動が早くなる。
昨夜も、同じことが起きた。
身体が疼いて仕方ない。全身から汗が吹き出る。

でも、だって、それは、僕が二人の事を好きだから、こうなっちゃうのもしょうがない事だと思ってた。のに、違うの?

「それにしても今回の事件はちょっと被害者が多く出てしまったな」

「そうだね。女の子たちには申し訳ないけど、どうしても都合付けてマツリちゃんに会いに行きたかったし。まあ仕方ないよね」

何を――何を言ってるんだ、さっきから。
この二人は、まるで、まるで――

「警視庁の管轄から事件が発生しないと、俺たちの立場で九州なんてなかなか行けないからな」

「今、入金終わったよ。礼も言うけどちょっとやりすぎって文句も言っとこ」

混乱して言葉を失う。
それどころか、ずっと身体がおかしい。
熱は下半身に集中し始め、緩く芯を持つ。
息が荒くなり、僕は力なく二人を睨みつける。

「あ、ごめんごめん。何の話かわかんないよね。実は俺たちの仕業なんだよね。正確に言えば、俺たちが手配したコマの仕業だけど」

「司法取引で減刑したヤツがいただろ。まあ表向きはそうだが、殆どお咎めは無しだ。捕まった奴らはそのコマが仕向けた前科持ちのクズだから、直接俺らとは無縁だけどな」

「⋯⋯さっきから⋯⋯ずっと、何を言って⋯⋯」

「だから言ったでしょ。俺たちの立場じゃ九州なんて行けないんだ。何かがないと」

「いきなり九州で事件起こす訳にもいかないからな。東京から徐々に西日本をターゲットにした、良い作戦だったろ?」

冷や汗が出る。この震えは武者震いかも分からない。
まるで凶悪犯罪者を目の当たりにしたような、そんな感覚が芽生えた。
いや、今目の前にいる二人は、もう――

「これも全部マツリちゃんに会う為の手段だからね。あぁ、そろそろ身体、限界なんじゃない?」

「なぁ。俺たちのこと、ずっと忘れられなかっただろ」

ズキズキと下半身が疼く。
嫌なのに。ダメなのに。逃げ出したいのに、身体はどうしようもなく切なくて、言う事を聞かない。

それを、好きだなんて勘違いして。

「好きだよ、マツリちゃん」

「もう絶対手放さないからな」


僕は、間違っていたんだ。
警察官を目指したあの日から、ずっと。
目の前に、悪魔が嗤う。

僕も被害者の一人だった。
身体は燃えるように熱くて、求めるように恋焦がれて。
入念な完全犯罪によって、まんまと二人に溺れてしまっていた。

――もう逃げられないと、僕は静かに目を閉じた。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

ミカヅキモ
2025.12.01 ミカヅキモ

あらすじを読んで、面白そうだなぁと軽い気持ちで読んでみたら、あらまあなんてこと!ドストライク過ぎる!私の持論として、BLは、エロくて、受けが可哀想な目に遭うほど面白い!なのですが、それを立証してくれる良い作品です。これからも3人の行く末を見届けることができたら嬉しいです。

2025.12.02 🍚🐴

コメントありがとうございます!
奇遇ですね。私も全く同じ持論を抱えてしまっているので、これからも受けには不幸な目を見てもらいます😓✨
そう言っていただけるととても励みになります!完結までぜひお読みいただけると幸いです。

解除

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