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あやかしとの遭遇
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「三番目のドレスはマーメイドドレス。膝までは体に密着して、裾にかけて尾びれのように広がっているデザインです」
「友人の結婚式で見た事があります。とてもエレガントな印象で、綺麗なドレスですよね」
八百坂様も慣れない場に萎縮していた八百坂様だけど。ご友人の結婚式の事を思い出し、自然な笑顔がこぼれた。
「とても素敵な挙式だったんですね」
「ふふっ。私も幸せな気持ちになりました」
「おめでとうございます! そうなりますと、似たようなデザインの物は避ける事が多いです。
どうしても好みのドレスなので、と着られる方もいらっしゃいますが。八百坂様はどうされますか?」
しばし考えた後、八百坂様はふるふると首を横に振った。
いくら仲の良い友達でも、似たようなドレスを選んだと思われるのは気まずいから。
「ドレスの違いを分かりやすくする為、最後のドレスのご説明だけさせて頂きますね」
「はい、お願いします」
八百坂様は上品に笑う方のようだ。
清楚でおっとりした雰囲気の女性で、穏やかそうな新郎様とお似合いだな。
不躾だとは思ったけど、説明を聞きながら新婦様のこともチラリと見る。
「四番目のドレスはスレンダーライン。スカートの膨らみが無く、細身のデザインは共通しています。
大人っぽいデザインが多く、マーメイドラインに比べてセクシーさが抑えられています」
他にもベルライン、エンパイアドレスと様々な種類があるけども。
一度に全部言われると頭がパンクしてしまう。
早見さんもそう考えたのか、他のドレスは気になるようならご説明するつもりらしい。
「好みなどもありますし、気になるものがあれば遠慮なくお申し付け下さいね」
「ありがとうございます」
自分に似合いそうな傾向が分かり、八百坂様の表情も明るくなった。
「相沢さん。持って来たドレスを戻しておいて。場所が分からなかったら、入口近くに掛けておけばいいから」
「分かりました」
サッと説明すると、早見さんは八百坂様の側に控える。
ただ突っ立っているだけより雑用でも何でも出来る事がある方が助かる。私は嬉々として、かつ丁寧にドレスを元の位置に戻していく。
(このドレス、サイトのトップページに載っていたドレスだ!)
お母さんからの連絡を受け、直ぐにこのお店の事を調べた。
Bertina。
イタリアの女性の名前で、光り輝く気高さ・高潔さを意味する。
貸衣装店の名前がそのままブランド名でもあり、新進気鋭のドレスデザイナーと契約を交わし、アトリエ兼貸衣装店のような状態らしい。
ここ数年で人気になってきたブランド。
不思議なことに、どれだけ探してもデザイナーの顔が出て来ない。分かるのはドレス作りに込められた想いと、数々の受賞記録だけ。
容姿、年齢、活動拠点。
全てが謎に包まれているのに、女性を美しく華やかに輝かせるドレスは女性達を虜にしていく。
ウキウキしながらドレスを戻していると、視界の端に変なものが見えた。
(今のって……いや、そんな事あるはず無い。初出勤で緊張しているからドレスと見間違えたのかも)
受け入れがたい現実に、私の脳は現実的にありそうなことに置き換えようとしている。
けれど、私の体は見たままの反応を示していた。
全身の血が凍りつくように体が寒い。何気なく見下ろした腕は鳥肌が立っている。
このまま顔を背けていた方が良いのに。
私の意思に反して、首がギギギッと八百坂様の方に動く。
「ひっ!?」
あまりの恐怖に喉がキュッと圧迫され、とっさに悲鳴を飲み込んだのは良かった。
わずかに残った理性の欠片が「人を見て絶叫するのは失礼な行為だ」と告げる。
「なっ……えっ?」
混乱して上手く言葉が出てこない。
思わぬ状況にへたり込むと、少し離れた位置にいる早見さんが大きく目を見開いた。
(首が伸びてる!)
清楚でお淑やかな八百坂様の首が、巨大な蛇のように、にゅるんと伸びている。
首ってあんなに伸びるものだっけ?
よくよく見ると、蛇と言うより首長竜に近いかもしれない。
目の前で異常事態が起きているのに、私以外は誰も驚かない。
早見さんは全く動じていないし、八百坂様もショッピングを楽しむように、自然な表情でドレスを眺める。
まるで、驚かない事の方が自然みたい。
背中にドッと嫌な汗が流れ、全力疾走の後のように心臓がばくばくする。
口の中が乾いて、何か言おうにも声の出し方を忘れてしまった。
自分の体なのに自分の思うとおりに動かせない。
パニックだけが加速して、助けを求めて早見さんを見る。
仰天して立ち尽くしていた早見さんだけど、そこからの動きは別人のようだった。
迅速な動きで私の側に来ると、私の手を取り素早く立たせる。
そして、間髪入れずに朗らかな笑顔で八百坂様に笑いかけた。
「申し訳ございません。今日入社したばかりの新人が、緊張で体調を崩してしまって。休ませてきますので、少しの間お待ち頂けますか?」
「まあ、それは大変ですね。私の事は構わず、早く休ませてあげて下さい」
「ありがとうございます。直ぐに戻りますので!」
私を気遣う視線が心苦しい。
早見さんは私の背に手を添えて、有無を言わせずスタッフルー厶に入る。
そのまま早足で事務所に押し込まれ、人の気配が無い事を確認してそっとドアを閉めた。
「友人の結婚式で見た事があります。とてもエレガントな印象で、綺麗なドレスですよね」
八百坂様も慣れない場に萎縮していた八百坂様だけど。ご友人の結婚式の事を思い出し、自然な笑顔がこぼれた。
「とても素敵な挙式だったんですね」
「ふふっ。私も幸せな気持ちになりました」
「おめでとうございます! そうなりますと、似たようなデザインの物は避ける事が多いです。
どうしても好みのドレスなので、と着られる方もいらっしゃいますが。八百坂様はどうされますか?」
しばし考えた後、八百坂様はふるふると首を横に振った。
いくら仲の良い友達でも、似たようなドレスを選んだと思われるのは気まずいから。
「ドレスの違いを分かりやすくする為、最後のドレスのご説明だけさせて頂きますね」
「はい、お願いします」
八百坂様は上品に笑う方のようだ。
清楚でおっとりした雰囲気の女性で、穏やかそうな新郎様とお似合いだな。
不躾だとは思ったけど、説明を聞きながら新婦様のこともチラリと見る。
「四番目のドレスはスレンダーライン。スカートの膨らみが無く、細身のデザインは共通しています。
大人っぽいデザインが多く、マーメイドラインに比べてセクシーさが抑えられています」
他にもベルライン、エンパイアドレスと様々な種類があるけども。
一度に全部言われると頭がパンクしてしまう。
早見さんもそう考えたのか、他のドレスは気になるようならご説明するつもりらしい。
「好みなどもありますし、気になるものがあれば遠慮なくお申し付け下さいね」
「ありがとうございます」
自分に似合いそうな傾向が分かり、八百坂様の表情も明るくなった。
「相沢さん。持って来たドレスを戻しておいて。場所が分からなかったら、入口近くに掛けておけばいいから」
「分かりました」
サッと説明すると、早見さんは八百坂様の側に控える。
ただ突っ立っているだけより雑用でも何でも出来る事がある方が助かる。私は嬉々として、かつ丁寧にドレスを元の位置に戻していく。
(このドレス、サイトのトップページに載っていたドレスだ!)
お母さんからの連絡を受け、直ぐにこのお店の事を調べた。
Bertina。
イタリアの女性の名前で、光り輝く気高さ・高潔さを意味する。
貸衣装店の名前がそのままブランド名でもあり、新進気鋭のドレスデザイナーと契約を交わし、アトリエ兼貸衣装店のような状態らしい。
ここ数年で人気になってきたブランド。
不思議なことに、どれだけ探してもデザイナーの顔が出て来ない。分かるのはドレス作りに込められた想いと、数々の受賞記録だけ。
容姿、年齢、活動拠点。
全てが謎に包まれているのに、女性を美しく華やかに輝かせるドレスは女性達を虜にしていく。
ウキウキしながらドレスを戻していると、視界の端に変なものが見えた。
(今のって……いや、そんな事あるはず無い。初出勤で緊張しているからドレスと見間違えたのかも)
受け入れがたい現実に、私の脳は現実的にありそうなことに置き換えようとしている。
けれど、私の体は見たままの反応を示していた。
全身の血が凍りつくように体が寒い。何気なく見下ろした腕は鳥肌が立っている。
このまま顔を背けていた方が良いのに。
私の意思に反して、首がギギギッと八百坂様の方に動く。
「ひっ!?」
あまりの恐怖に喉がキュッと圧迫され、とっさに悲鳴を飲み込んだのは良かった。
わずかに残った理性の欠片が「人を見て絶叫するのは失礼な行為だ」と告げる。
「なっ……えっ?」
混乱して上手く言葉が出てこない。
思わぬ状況にへたり込むと、少し離れた位置にいる早見さんが大きく目を見開いた。
(首が伸びてる!)
清楚でお淑やかな八百坂様の首が、巨大な蛇のように、にゅるんと伸びている。
首ってあんなに伸びるものだっけ?
よくよく見ると、蛇と言うより首長竜に近いかもしれない。
目の前で異常事態が起きているのに、私以外は誰も驚かない。
早見さんは全く動じていないし、八百坂様もショッピングを楽しむように、自然な表情でドレスを眺める。
まるで、驚かない事の方が自然みたい。
背中にドッと嫌な汗が流れ、全力疾走の後のように心臓がばくばくする。
口の中が乾いて、何か言おうにも声の出し方を忘れてしまった。
自分の体なのに自分の思うとおりに動かせない。
パニックだけが加速して、助けを求めて早見さんを見る。
仰天して立ち尽くしていた早見さんだけど、そこからの動きは別人のようだった。
迅速な動きで私の側に来ると、私の手を取り素早く立たせる。
そして、間髪入れずに朗らかな笑顔で八百坂様に笑いかけた。
「申し訳ございません。今日入社したばかりの新人が、緊張で体調を崩してしまって。休ませてきますので、少しの間お待ち頂けますか?」
「まあ、それは大変ですね。私の事は構わず、早く休ませてあげて下さい」
「ありがとうございます。直ぐに戻りますので!」
私を気遣う視線が心苦しい。
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