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第10章 誠か正義か
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しおりを挟むそれはある冬の昼下がりのことであった。
年明け初めての幹部会合である。
土方に乞われ、幹部一同膝をそろえた会合にお茶を出す。
江戸からやって来た新たな顔ぶれが揃い、幹部会合も一段と大規模なものになったものである。
「本日の議題は二つ。」
土方の澄んだ声が広間に響く。
むさくるしい男たちは、黙ってそれを聞いた。
「新たに加わった伊東先生には新選組参謀を務めていただくことに相成った。」
「この伊東甲子太郎、身命を賭して役目に励む所存。」
伊東の端正な顔立ちに余裕の笑みが浮かぶ。
土方は伊東の方を一瞥することなく、話を続けた。
「それから、山南さんには副長から総長に昇格し、引き続き隊の取りまとめをお願いしたい。」
土方の言葉に山南は短く承知、と答えた。
先ほどの伊東とは打って変わって、土方が山南に送る視線は信頼を含んだものであった。
「次に、屯所の移転について。」
ばさり、と木の枝にのしかかる雪が一気に地面に落ちた。
薫はびくっとして木のある方を振り返ったが、他にはそちらを向く者はない。
この住み慣れた屋敷から引っ越すというのだろうか。
薫一人のわがままでどうすることもできないのだけれど、
やっと慣れてきた場所を手放すのは惜しい。
「新たな隊士も増え、八木邸と前川邸だけでは手狭になってきた。
さしあたり、新たな屯所として西本願寺の一角を間借りできないかと考えている。」
誰かが声を上げたわけではなかったが、空気がざわりと揺れ動いたのが薫でもわかった。
「西本願寺といえば、大の長州贔屓ではないか。」
空気を破るように、山南が腕を組みながら静かに言った。
「左様。先の戦でも長州を匿ったとされる。」
「わざわざ虎口に飛び込まずとも…。」
「虎口だから飛び込むのだね、土方君。」
「意見が合うたぁ、珍しいこともあるもんだ。」
土方はようやく伊東の方を見た。
腕を組んだまま、山南は口を一文字に結んで難しい顔をしている。
「ご公儀を通して願い出たとしても、門主の光如殿がうんと言うかどうか。」
「だから、あんたに頼みたい。」
山南は驚いたように目を見開かせた。
その視線の先には全幅の信頼を寄せるように爽やかな笑顔の土方があった。
「悪名高い新選組副長ではなく、新選組総長にしかできない仕事だ。」
山南は目を閉じ、何か思案した後で柔らかな声で、承知と答えた。
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