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ジェミニ家の人々①
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「「おかえりなさいませ‼」」
ユアとカイルを出迎えたのは浅黒い肌を持ち、雲を衝くような二人の大男だった。しかも、背の高さばかりでなく恐ろしい顔や筋肉の塊のような体つきなども全く同じときている。
(この人たちは……)
ユアの身は自然とカイルの後ろに隠れる形となった。
双子は災厄を世にもたらす存在として広く認知されている。その出自にかかわらず双子が生まれた場合どちらか片方を即座に殺すことが当たり前の世界で双子を、ましてや成人した双子を見ることなど奇跡にも等しいことだった。
「──カイル様、こちらの方は?」
「大事な客人だ」
「お客人?」
双子の大男は同時に眉を顰め、血のように赤い双眸がユアのことを物珍しそうに見つめてくる。
「あの……ええと、こんにちは」
ユアはカイル越しにぎこちなく挨拶をするも、双子の大男たちから返事はなかった。
「行くぞ」
「う、うん……」
突き刺さるような視線をひしひしと背中に感じながらユアはカイルの後に続く。
双子の門番はユアを驚かせることに一役も二役も買ったが、武で名を馳せる家だけに門番もそれに似つかわしいものだと考えれば、千歩くらい譲って一定の理解はできなくもない。
が、屋敷へと続く広々とした庭はおよそキングススレイヤーの異名に全くそぐわない多種多様な花が庭一面に咲き乱れ、ユアは大いに困惑した。
「……もしかして──」
「言っておくが俺の趣味じゃないぞ」
「え? ……実はカイルって私の心が読めたりするの?」
疑惑の視線を投げかけると、カイルの片頬がピクリと上がった。
「お前、なんだかんだ言って俺のこと馬鹿にしているだろ」
「馬鹿になんかしていない。本当にそう思ったから聞いてるだけなんだけど」
立ち止まったカイルは呆れ顔を向けてきた。
「俺と花を何度も交互に見ながら首を傾げていれば嫌でもわかるさ」
「私ってばそんなにあからさまだった?」
「だったからそう言っている」
突き放したようなカイルの物言いに、ユアの頬はぷっくり膨らんだ。
「だってしょうがないじゃん。みんなから怖がられているキングスレイヤーがこんなメルヘンチックな場所に住んでいるなんて普通は思わないもん」
「俺を怪物かなにかのように言うな」
「でも似たようなものでしょう?」
カイルは物言いたげな表情でユアを見るも、結局口を開くことなく歩き出す。
程なくして新雪がそのまま色づいたような美しい屋敷が見えてくる。やはりキングスレイヤーらしくないと心の中で思っていると、仕立ての良い黒服に身を包んだ少年が玄関前に立っているのをユアの瞳は捉えた。
(恰好からすると執事みたいだけど……それにしてもなんだか不思議な子)
体つきこそ少年のそれだが、妙に怪しい色香と美貌を兼ね備えている。どこかちぐはくな印象をユアに抱かせる少年は、両手を後ろに組みながらにこにこと笑んでいた、
少年の姿を見たカイルは「あいつ暇なのか?」と、首を捻っていた。
「お帰りなさいませご当主様。──で、行き先も告げずに朝っぱらからどこへ行ってたんですか?」
少年は最初こそ主人を迎えるに相応しい態度であったが、すぐに砕けた物言いへと変化する。変わらず少年はニコニコとしているが、どこかで仄暗さが垣間見える青い瞳が油断なくユアを見ていることに気づいた。
再びカイルの背後に隠れる形になるユアへ、少年は笑みを薄ら寒いものに変えながら「へぇ」と意味ありげに呟いた。
「ツヴァイ、あまりいたいけな少女を怯えさせるんじゃない」
「それどこで拾ってきたんですか?」
「拾ってきたわけじゃない。お前も会いたがっていただろ」
ツヴァイと呼ばれた少年は亜麻色の髪を掻き上げながら目を輝かせ、
「じゃあこの子が聖女か」
「──ッ」
人形のように精緻な顔が無遠慮に眼前へ迫る。ユアが視線だけでカイルに助けを求めると、突然呻き声を上げたツヴァイがその場にうずくまった。
「怯えさせるなと言ったばかりだろう」
「だからって殴らなくてもいいじゃないか」
「ミゼルはどうしてる?」
「どこかの誰かさんの代わりに執務室で山のような書類と格闘してますよ」
「そうか。──行くぞ」
「う、うん」
頭をさするツヴァイを少し気の毒に思いながら、ユアはカイルの後に続く形で開かれた扉の先へ進む。
屋敷に一歩足を踏み入れると吹き抜けの造りをした大広間がユアを出迎えた。
これといった調度品などは見当たらず、想像していたよりも屋敷内はこざっぱりとしていた。
(もしかして王宮の生活がそれなりに長かったからそう思うのかな?)
胸やけを起こすほどの華美な装飾を思い出しながらやたら音鳴りがする木製の階段を上り、奥へと伸びる廊下に出て進めば、階段と同じようにまた音鳴りがする。
(そんなに古そうな建物には見えないんだけど……)
不思議に思いながら歩いていたユアは、ふと前を歩くカイルが全く足音を立てていないことに気づいた。
「ねぇ、なんでカイルは歩いても音が出ないの?」
「なんでだと思う?」
「キャッ!」
予想外の方向から声が聞こえてきて、ユアは心臓が飛び出そうなほどビックリしてしまった。
恐る恐る後ろを振り返ると、さっきまで玄関でうずくまっていたはずのツヴァイがなぜかニコニコしながら立っていた。
「……い、いつから後ろにいたんですか?」
「いつから? もちろん最初からだよ」
ツヴァイは笑顔を絶やさぬままにそう嘯《うそぶ》く。
「気配が全然しなかったんですけど?」
嘆かわしいとばかりに首を左右に振ったツヴァイは、
「だめだなぁ。この程度の気断ちに気づかないなんて。これから先が思いやられッ!!」
いつの間にかツヴァイの背後に回っていたカイルが拳骨を落とす。
ツヴァイは頭を抱えながら苦悶の表情を浮かべていた。
「懲りない奴だな」
「気を断たないでくださいよ……」
「お前がそれを言うな」
呆れたように溜息を落とすカイル。
それはもっともな話だとユアは苦笑した。
ユアとカイルを出迎えたのは浅黒い肌を持ち、雲を衝くような二人の大男だった。しかも、背の高さばかりでなく恐ろしい顔や筋肉の塊のような体つきなども全く同じときている。
(この人たちは……)
ユアの身は自然とカイルの後ろに隠れる形となった。
双子は災厄を世にもたらす存在として広く認知されている。その出自にかかわらず双子が生まれた場合どちらか片方を即座に殺すことが当たり前の世界で双子を、ましてや成人した双子を見ることなど奇跡にも等しいことだった。
「──カイル様、こちらの方は?」
「大事な客人だ」
「お客人?」
双子の大男は同時に眉を顰め、血のように赤い双眸がユアのことを物珍しそうに見つめてくる。
「あの……ええと、こんにちは」
ユアはカイル越しにぎこちなく挨拶をするも、双子の大男たちから返事はなかった。
「行くぞ」
「う、うん……」
突き刺さるような視線をひしひしと背中に感じながらユアはカイルの後に続く。
双子の門番はユアを驚かせることに一役も二役も買ったが、武で名を馳せる家だけに門番もそれに似つかわしいものだと考えれば、千歩くらい譲って一定の理解はできなくもない。
が、屋敷へと続く広々とした庭はおよそキングススレイヤーの異名に全くそぐわない多種多様な花が庭一面に咲き乱れ、ユアは大いに困惑した。
「……もしかして──」
「言っておくが俺の趣味じゃないぞ」
「え? ……実はカイルって私の心が読めたりするの?」
疑惑の視線を投げかけると、カイルの片頬がピクリと上がった。
「お前、なんだかんだ言って俺のこと馬鹿にしているだろ」
「馬鹿になんかしていない。本当にそう思ったから聞いてるだけなんだけど」
立ち止まったカイルは呆れ顔を向けてきた。
「俺と花を何度も交互に見ながら首を傾げていれば嫌でもわかるさ」
「私ってばそんなにあからさまだった?」
「だったからそう言っている」
突き放したようなカイルの物言いに、ユアの頬はぷっくり膨らんだ。
「だってしょうがないじゃん。みんなから怖がられているキングスレイヤーがこんなメルヘンチックな場所に住んでいるなんて普通は思わないもん」
「俺を怪物かなにかのように言うな」
「でも似たようなものでしょう?」
カイルは物言いたげな表情でユアを見るも、結局口を開くことなく歩き出す。
程なくして新雪がそのまま色づいたような美しい屋敷が見えてくる。やはりキングスレイヤーらしくないと心の中で思っていると、仕立ての良い黒服に身を包んだ少年が玄関前に立っているのをユアの瞳は捉えた。
(恰好からすると執事みたいだけど……それにしてもなんだか不思議な子)
体つきこそ少年のそれだが、妙に怪しい色香と美貌を兼ね備えている。どこかちぐはくな印象をユアに抱かせる少年は、両手を後ろに組みながらにこにこと笑んでいた、
少年の姿を見たカイルは「あいつ暇なのか?」と、首を捻っていた。
「お帰りなさいませご当主様。──で、行き先も告げずに朝っぱらからどこへ行ってたんですか?」
少年は最初こそ主人を迎えるに相応しい態度であったが、すぐに砕けた物言いへと変化する。変わらず少年はニコニコとしているが、どこかで仄暗さが垣間見える青い瞳が油断なくユアを見ていることに気づいた。
再びカイルの背後に隠れる形になるユアへ、少年は笑みを薄ら寒いものに変えながら「へぇ」と意味ありげに呟いた。
「ツヴァイ、あまりいたいけな少女を怯えさせるんじゃない」
「それどこで拾ってきたんですか?」
「拾ってきたわけじゃない。お前も会いたがっていただろ」
ツヴァイと呼ばれた少年は亜麻色の髪を掻き上げながら目を輝かせ、
「じゃあこの子が聖女か」
「──ッ」
人形のように精緻な顔が無遠慮に眼前へ迫る。ユアが視線だけでカイルに助けを求めると、突然呻き声を上げたツヴァイがその場にうずくまった。
「怯えさせるなと言ったばかりだろう」
「だからって殴らなくてもいいじゃないか」
「ミゼルはどうしてる?」
「どこかの誰かさんの代わりに執務室で山のような書類と格闘してますよ」
「そうか。──行くぞ」
「う、うん」
頭をさするツヴァイを少し気の毒に思いながら、ユアはカイルの後に続く形で開かれた扉の先へ進む。
屋敷に一歩足を踏み入れると吹き抜けの造りをした大広間がユアを出迎えた。
これといった調度品などは見当たらず、想像していたよりも屋敷内はこざっぱりとしていた。
(もしかして王宮の生活がそれなりに長かったからそう思うのかな?)
胸やけを起こすほどの華美な装飾を思い出しながらやたら音鳴りがする木製の階段を上り、奥へと伸びる廊下に出て進めば、階段と同じようにまた音鳴りがする。
(そんなに古そうな建物には見えないんだけど……)
不思議に思いながら歩いていたユアは、ふと前を歩くカイルが全く足音を立てていないことに気づいた。
「ねぇ、なんでカイルは歩いても音が出ないの?」
「なんでだと思う?」
「キャッ!」
予想外の方向から声が聞こえてきて、ユアは心臓が飛び出そうなほどビックリしてしまった。
恐る恐る後ろを振り返ると、さっきまで玄関でうずくまっていたはずのツヴァイがなぜかニコニコしながら立っていた。
「……い、いつから後ろにいたんですか?」
「いつから? もちろん最初からだよ」
ツヴァイは笑顔を絶やさぬままにそう嘯《うそぶ》く。
「気配が全然しなかったんですけど?」
嘆かわしいとばかりに首を左右に振ったツヴァイは、
「だめだなぁ。この程度の気断ちに気づかないなんて。これから先が思いやられッ!!」
いつの間にかツヴァイの背後に回っていたカイルが拳骨を落とす。
ツヴァイは頭を抱えながら苦悶の表情を浮かべていた。
「懲りない奴だな」
「気を断たないでくださいよ……」
「お前がそれを言うな」
呆れたように溜息を落とすカイル。
それはもっともな話だとユアは苦笑した。
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