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第三章 ダンジョン
第五十四話 模擬戦(前篇)?
しおりを挟む控室はまともだった。
飲み物や軽食が置かれているが、何が入っているかわからないから、自分が持ってきた物だけを口にする事にした。
結局、模擬戦は建前できに1対1になった。どうせ、途中から1対多になるだろう。
俺としては、集団戦で手加減をするいい演習だったのだがしょうがない。
ニヤニヤ笑いをしているオークもどきと仲間たち。
その笑いがいつまで持つのか楽しみだ。
仕切りは、グスタフがしてくれるので、少しは安心する事にする。
「それで、ランドル率いるパーティー”影なる牙”と”シンイチ・アル・マナベ”との模擬戦を行う」
グスタフが、宣言をして、俺とオークもどきが中央に移動する。
賭けの内容が読み上げられていく。
「両者。並びに、冒険者ギルドの元ギルドマスターのテオフィラ。及び、商業ギルドのギルドマスターのアレミル。相違ないか?」
俺は、問題ないのでうなずく。
「グスタフ様。ランドル達が勝利した場合には、私の助命をお願いします」
そうか、さっき”元”と言ったから、もう手が回っているのか?
それに、アレミルとか言われた商業ギルドのギルドマスターも顔色が悪いな。この後、諮問会議でも行われるのか?
グスタフが、俺を見る。
別にどうでもいい話なので、”お好きにしてください”と告げる。
「わかった、テオフィラ及びランドルは、勝利した場合には、王都での諮問会議を免除する。そのかわり、負けた場合には、テオフィラ及びランドルは犯罪奴隷。パーティーメンバーで負けた者は、全員マナベ殿の奴隷となる。例外は認めない」
パーティーメンバーが文句を言い出す前に、オークもどきとテオフィラが”問題ない。勝てばいい!”と言ってしまった。
本当に、上が馬鹿だと下は大変だな。でも、下衆の所には下衆が集まるようで、もらえると思っているワトを考えて、問題ないと思っている奴も多いようだ。
「内容はわかりました。それで、オークもどきのあぁ・・・”汚れた牙”でしたか?誰が出るのですか?」
「”影なる牙”だ!おい!」
オークもどきが厨二病臭いパーティー名に訂正して、命令したら22名が前に出てきた。客席で薄ら笑いを浮かべている5人が居るが、アイツらは別口なのか?
そして、明らかに奴隷だとわかる男性の獣人?5人を含めた27名が対戦相手と考えていいのか?
オークもどきを入れると、28名か少し少ないかな?
「それで順番は?」
グスタフが一歩前に出る。
「マナベ殿。その前に、賭け金の提示をお願いします。昨日は、金貨一枚と言っていましたので、3枚の金貨をお願いします」
「増やしてもいいのか?」
「どうですか?」
「いいぞ!どうせ、勝つのは俺たちだ!」
「だそうです」
「わかりました。これでお願いします」
金貨30枚が入った袋をグスタフに預ける。
「あぁそうだ。オークもどきたちに言ってもわからないでしょうから、先に言います。グスタフ殿。賭け金の支払い能力がなくなった場合にはどうなるのでしょうか?」
「犯罪奴隷ですので、鉱山送りです」
「はぁ・・・。それで?」
「そこから、彼らは自分を買い戻す資金を得ます。それをマイナス分だけマナベ殿に支払わせます」
「・・・。まぁいいです。そんな物では足りないのは解っているでしょ?」
「しかし」
「いいですよ。ギルドが補填してくれないのはしょうがないとして、後ほど取引をさせてください」
「わかりました」
よし、口約束だが資金回収の目処がたった。
「俺からはもう無いです。そこの堪え性がないオークもどきが問題なければ始めましょうか?どうせ、最初はそこの奴隷を出してくるのでしょう?」
目が潰れていたり、片腕がなかったり、足の状態が良くない奴隷を引っ張り出してきて、何がしたいのだろう?
「そうだ。グスタフ殿。そこの生意気な奴が”負けました”と言うまで絶対に止めるなよ!それに、連続で戦ってもらうからな!」
「グスタフ殿・・・それは・・・」
「いいですよ。順番は決めておいてくださいね。あぁオークもどきにわかりやすく言った方がいいですか?」
「貴様!後悔するなよ!」
「後から悔やむから、後悔なのですよ?やる前から後悔するバカはいませんよ?本当に、頭の中に入っているのは、筋肉ですか?話すのが疲れます。始めてください」
オークもどきはもう我慢の限界と言った感じになっている。
俺が言い出した条件を考えもしないで飲み込んでいく。本当に、こいつがトップだったのか?
それとも、実質的なトップはテオフィラで、オークもどきは実戦部隊のトップだったのか?
まぁ気にしてもしょうがないな。
愛刀を取り出して片手で持つ。
「グスタフ殿。いつでもいいですよ」
それが合図になったようだ。
なんたらの牙からは、奴隷の一人が進み出てきた。
右目が潰れている。奴隷紋だけではなく、首輪もされている。急遽、昨日か今日買われたのかもしれない。他の4人を見ても同じような感じになっている。
呆れて言葉も出ない。
思考加速を使って、詠唱時間を短縮する。
武の加護にある。身体強化を唱える。
”我、アルノルトが命じる。武の精霊よ、我の身体を強化せよ”
”我、アルノルトが命じる。武の精霊よ、我の速度を強化せよ”
配置している物を使っても良かったのだが、なんとなく唱えてみた。久しぶりに使ったが問題はなさそうだ。
まだこちらに突っ込んできている。
どうやら、俺を捕まえるように命令されているようだ。
少しは考えているようだな。
勝ち負けの判定後にしか次の人間が戦えないルールにはしていない。順次投入していけばいいのだ。
面白い事をやろうとしているようだな。
”鑑定”
思考加速が行われているから余裕で鑑定ができる。
奴隷の後に控えているのは、火の加護がある奴か、その後ろが風の加護で、水の加護持ちも居るようだな。
そろそろ到着しそうだし、タックルの体勢になっている。
ゆっくり目に横に移動して、足を払う。ころんだ所で、足を腹の上に置いて、刀を首に押し付ける。
奴隷は首を横に振るだけで”まいった”宣言をしない。
口をパクパクさせているだけだ。奴隷紋で、言葉が出ないようにしているのか?それとも・・・。下衆のやる事だな。
グスタフを見ると唖然とした顔をしたが、俺の勝ちを宣言した。
刀を、オークもどきに向けて
「次、面倒だ。奴隷だろう?そこに居る全員を相手してやるよ。倍率を倍にするのなら乗ってやる!」
勝手に全員で来いと言っておきながら賭け金を増やす。
でも、それに乗ってしまう脳筋。やはり、オークもどきというのは正しい認識だろう。
残った奴隷が全員で飛びかかってくる。
一人ひとり刀の柄で殴りながら意識を刈り取っていく。
ここまで、鑑定と身体強化/速度強化以外を使っていない。
奴隷の一人が手に持っていた物を、俺に投げてきたが、嫌な予感がしたので、余裕を持って躱す。
そのまま最後の一人の意識も刈り取った。
”鑑定”
”しびれ粉:触れた者を一定時間しびれ状態にする”
屑だな。奴隷にこんな物をもたせて戦うのか・・・。
全員の意識を刈り取ってから刀の切っ先を、オークもどきに向ける。
「次!」
「貴様!行け!」
体裁くらい整えろよ。
魔法師っぽい奴ら全員が詠唱を始めているぞ?
「1対1の体裁も守れないほど余裕がなくなったのか?」
「うるさい!お前が悪い!お前を倒さないと、俺は、俺は・・・。殺れ!」
何か、オークもどきが追い詰められている?
やっと、この戦闘の意味が理解できたのか?
並んだ5人から同時に初級の魔法が放たれる。
こんな物ならキャンセルする必要さえ無い。誘導もされていないから、躱すだけなら簡単だ
心をへし折るには早いような気がするから、魔法を躱して、魔法師に肉薄する。
速度がある剣士だと思われたほうがいいだろう。
「遅い!」
次の詠唱を始めているのだが、思考加速を持っていないのか、詠唱が遅い。
魔法の初ドを許してしまうと何があるかわからない。詠唱が早そうな者から意識を刈り取っていく。
「これで金貨、1万枚!次!」
オークもどきに切っ先を向けて、宣言する。
金貨の枚数もついでに宣言する。
「マナベ!何を言っている。金貨は、まだ100枚だ!そのくらい払ってやる!」
「やはりオークもどきと保身に長けたバカですね。グスタフ殿。すでに、賭け金は金貨1万枚・・・。正確には、1万240枚ですよね?」
全員の視線がグスタフに集まる。
「えぇそうですね。一人あたり、1万枚ですね。確実に奴隷のまま一生過ごす事が確実ですね」
「あぁぁ!?何を言っている!一回10枚だろう?」
「オークもどきは、やはりオークにも劣っているようですね。賭け金は倍になっていくのですよ。一人倒せば、20枚。二人で40枚。三人で80枚、四人で160枚、五人で320枚、六人で640枚、七人で1280枚、八人で2560枚、九人で5120枚、十人で10240枚。さて、あと15人。全員負けたらいくらになるのでしょうね」
「貴様!騙したな!」
「騙していませんよ。最初にそういいました、オークもどきも”元”ギルドマスターも、商業ギルドのギルドマスターも意義を唱えませんでした。楽しみだな。最初に奴隷を出してくるなんて、俺にボーナスをくれるような物ですからね。それに、次は魔法師ですか、馬鹿ですね」
ニヤリと笑ってしまいそうになる。
テオフィラが、商業ギルドのギルドマスターを見て怒鳴り始める。
「アレミル!貴殿が、賭けがしやすいように、1対1の方がいいといい出したのだぞ!責任を取れ!」
「仲間割れとは見苦しいですよ。あぁ賭けの方も、俺の勝利に大量の人間が賭けていますから、楽しみにしていてくださいね」
逃げ出そうとするアレミルを観客席に居た冒険者たちが取り囲む。
観客席に向かって声をかけるのも忘れない
「誰か、商業ギルドに向かってください。職員が居るでしょうから、連れてきてくれると嬉しいです。マナベ商会のマナベが呼んでいると伝えてください。冒険者ギルドの”元”ギルドマスターと組んで賭けをした者が居て、財産を抑えておきたいと言えばやってくれます」
「マナベ殿。王都冒険者ギルドの職員を1名ですが付けます」
「そうですね。その方がいいでしょう。頼みます」
数名の冒険者が、昨日グスタフと一緒に居た者と商業ギルドに向かってくれるようだ。
これで財産を抑える事ができれば、いくらかは回収できるだろう。
さて、オークもどきを見ると、顔を真赤にしてプルプル震えている。
「負けを認めますか?今なら、1万枚程度だから頑張ればなんとかなるかもしれませんよ?」
「ふっふざけるな!貴様。殺してやる。絶対に、絶対に、絶対に、殺してやる!」
「はい。はい。出来もしないことを言わない。聞いているこっちが恥ずかしくなりますよ。それで、どうしますか?早く次の人をお願いします。準備運動にもなっていませんよ?本当に、ダンジョンに潜っていたのですか?あぁすみません。”潜らせていた”の間違いでしたね」
煽らなくてもいいのは解っているが、オークもどきが発する言葉が気持ち悪い。
徹夜すればなんとかなるとか、最終的に精神論に持っていく馬鹿な奴等を見ているようで腹が立ってくる。
「ダーリオ!」
オークもどきが名前を呼んだ。
ホォ・・・少しは、強そうな者が出てきた。大盾を構えて、巨大なメイスを持っている。
いわゆるタンクというやつか?
確かに、速度型の剣士とは相性がいいだろう。
「旦那。もう俺ですか?もっと楽しみましょうよ」
「うるさい。殺れ!」
ダーリオと呼ばれた奴が、やれやれという顔で前に出てくる。
もともとは最後の方に出てくる予定だったのだろう。
「マナベって言ったよな?」
「あぁ」
「お前さんには恨みはないが、俺も奴隷にはなりたくないし、馬鹿だけど、ランドルの旦那には命を救ってもらった恩義があるから、お前を倒させてもらう。足の一本でも折れば、終わるだろうから、少し痛いが我慢してくれよ」
「そうですか、わかりました」
盾を鑑定する。
ミスリルの大盾で、魔法耐性も付いているようだ。さて、どうしようかな?
勝つだけなら簡単だけど、ギリギリを演出したほうが次の戦いができるし、俺の訓練にもなる。
「こい!」
「行きます!」
まずは、何も考えないで突っ込んでいく、刀を盾に当てて弾かれるようにする。メイスが振ってくるのを躱して大盾がない方向に回り込もうとするが、大盾が目の前に移動してくる。面白い。徐々に速度を上げてみる。
7割位の速度で盾が遅れるようになってくる。この位で、動いているのが良さそうだ。
戦闘訓練にもなる。メイスを躱しながら、盾の同じ位置を狙う。
先に、メイスの方が限界に来たようだな。
盾はまだ盾としての役割を持っているが、メイスが何度も全力で地面に叩きつけられて居る。俺がその都度、柄の部分に蹴りを入れているのも大きいだろう。多分、次の一撃で柄が折れるか曲がるかする。盾も、限界に近いようだ。
最初の頃は、頻繁に仕掛けてきていた、シールドバッシュでの攻撃が行えなくなってきている。盾で攻撃を防ぐのがやっとだ。
いい訓練になった。
タンクとの戦闘はわかったけど、タンクが居るパーティーとの戦闘訓練がしたくなったな。
そうだ!
こいつらが奴隷落ちするのなら、俺が買い取って、ホームの護衛と俺の訓練に付き合わせればいいか!
「さて、終わりにするか!」
「なめる・・・なよ!」
速度を上げて、後ろに回り込んで、盾を持つ手とメイスを持っている手を打ち付ける。
膝の裏を蹴ってバランスを崩した所で、首筋に刃を押し付けて
「どうする?薄皮位なら切っても死なないよな?」
ダーリオは両手を上げて負けを認めた。
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