異世界でもプログラム

北きつね

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第四章 ダンジョン・プログラム

第十六話 出発

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「パスカル!」

 眠っていたヒューマノイドを起動する。
 エイダのAIを解析して俺が作り直した、ヒューマノイドだ。異世界に転生する前の自分に似せたヒューマノイドだ。ダンジョンにいる全てのヒューマノイドの上位者になるように設定している。

『はい。マスター』

「パスカル。念話ではなく、声が出せるだろう?」

「はい。マスター」

「よし、皆」

 近くに居たヒューマノイドやオペレーションを行っていたヒューマノイドが、俺とパスカルの前に集まってくる。

「パスカルだ。俺が居ない時に、指示を出す」

 パスカルが、一歩前に出て、ヒューマノイドたちを見回してから、頭を下げる。

「パスカルです。皆さんのことは、マスターから情報を頂いています。マスターの大事な場所です。しっかりと守ります」

 パスカルが、ヒューマノイドたちに向って宣言をしてから、俺を見て頭を下げる。
 AIの初期設定は上手くできたようだな。流石に、Pascal でAIの構築は行わなかったけど、Pascalは、PascalでPascalコンパイラが書けるだけあって自由度が高い。ALGOLの良いところを継承しているのが、今更ながら感心させられる。パスカルのUI部分は、Pascalを使って書けるDelphiを使ったが、IDEもしっかりしているし良い言語だけど・・・。

「どうかされましたか?」

「いや、大丈夫だ。パスカル。ダンジョンを頼む。無駄にダンジョンアタックを難しくする必要はないが、守ってやる必要もない」

「心得ております」

「任せた」

 パスカルと、ヒューマノイドたちが片膝をついて俺に忠誠を示す。忠誠云々はよくわからないが、俺に従ってくれているのは素直に嬉しい。家族とは少しだけ違うが、仲間ができたように思えてくる。

”びぃーびぃー”

 ちょっと間抜けなBEEP音がした。ディスプレイには、カルラが映し出される。
 地上での調整が終わって戻ってきたのだろう。

 出発には、まだ数日は必要になるだろう。パスカルに、数日で運営に問題が出ないか確認してもらう。問題が出た時の連絡方法も合わせて確認する。パスカルに、命令として伝えるのを忘れない。管制室から出て、カルラが待っている部屋に移動する。

「マナベ様」

「待たせた」

「いえ・・・。しかし・・・」

「あぁパスカルだ。ウーレンーフートのダンジョンを担当するヒューマノイドだ。エイダを連れ出すから、変わりが必要だろう」

「あっ」

 カルラも、俺の意図を汲み取ってくれたようだ。

「マスター」

「あぁパスカルは、戻ってくれ」

「はい」

 パスカルが、俺とカルラに頭を下げてから、管制室に戻る。

「カルラ。執事とメイドのヒューマノイドだ。あと、馬としてユニコーンとバイコーンを用意した。念話が使えるはずだから、細かい指示が伝えられる」

「え?」

「なにか、問題になりそうか?」

「あっいえ・・・。ただ」

「あぁクリスや皇太孫か?」

「はい。欲しがると思うか?」

「ユニコーンとバイコーンは確実に所望すると思います。あと・・・」

 カルラが言いかけたが、貴族や豪商の連中だろう。俺の設計した馬車でさえ欲しがったようだ。確実にユニコーンとバイコーンを欲しがるだろう。

「うーん。面倒だな。そうだ!」

「・・・」

「ダンジョン内でテイムをしたことに、しようと思っている。確か、ユニコーンとバイコーンは、50階層くらいで出てきたよな?ボスを倒したら、テイムができたことにしよう」

「ふぅ・・・。そうですね。しかし、ボスを倒したら、テイムができるのですか?」

「ん?無理だぞ?でも、『パスカル!』」

『はい。マスター』

『25階層に、隠しボスの部屋を作って、ユニコーンとバイコーンを待機させろ』

『はっ。しかし、25階層は、草原ではありませんが?』

『今は、森だったか?』

『はい。昆魔虫たちの楽園です』

『そうか、いいよ。隠し部屋を作って、草原フィールドを設置しろ』

『かしこまりました』

 念話を切って、カルラに流れを伝えた。

「マナベ様。なぜ、25階層なのですか?」

「ん?馬鹿な貴族や、強欲な商人とかが、アタックをしてくれるだろう?」

「は?」

「パスカルたちのいい訓練になると思わないか?」

「・・・」

「カルラ。ホームと協力的な者たちには、”非推奨”を徹底するように伝えてくれ、25階層だが50階層相当の実力がないと突破は難しいとだけ伝えればいい」

「かしこまりました。マナベ様。準備がよろしければ、地上に戻りますか?」

「そうだな。カルラが迎えに来てくれたことだし、久しぶりに地上に戻るか」

「はい!」

 カルラが先を歩いて、俺が続く、執事とメイドが俺の後ろに続いている。
 地上に戻ると、アルバンとエイダが待っていた。

「兄ちゃん!」

「アル。馬車はどうだ?」

「うん。すごくいいよ。あっ!今は、車輪が壊れたから、修理を頼んでいる」

「そうか、車輪が壊れた?」

「うーん。おっちゃんは、”車軸が歪んでいる”とか言っていた」

「そうか、ホーム内か?それとも」

「鍛冶の村!」

「わかった。アル。案内を頼む」

「うん!」

 アルに案内されて、鍛冶の村に向かった。
 以前は、抜け穴を使って、村に向っていた。だが、今ではしっかりとした門が作られている。

 鍛冶の村に入ると、熱気と一緒に鍛冶仕事の音が聞こえてくる。入り口には遮音の結界を展開している。

「兄ちゃん。ここだよ」

「おぉ」

 村で一番と言っていいほどの大きさの鍛冶場だ。

「おっちゃん!馬車は直った?」

「おぉアル防。直っているぞ・・・」

「おっちゃん。兄ちゃんは、マナベ様だよ?」

「え・・・。えぇぇぇ。マナベ様?本当なのか?」

 おっちゃんと呼ばれた男性は、持っていた槌を落として驚いていた。設計図を書いたのが俺だとは知っていても、若いとは思っていなかったようだ。ホームの主だとは聞いていたが、俺には会っていなかった。

 馬車を設計通りに製作した親方は、アルが乗り回して破損した修理箇所や内容の説明を丁寧にしてくれた。
 破損箇所の話を聞いて、親方や職人たちと、負荷がかかった場所を特定した。特定ができたら、改良方法を考えることになった。この馬車は一点物になるのが確定しているので、素材に妥協する必要がない。ダンジョンの下層でのみ、入手が可能な素材を使うことにした。特に、負荷がかかる車輪や車軸を強化した。他にも、馬を繋ぐ部分を強化する。アルが繋いだ馬は、ホームが保持していた一般的な馬だったが、実際にはユニコーンとバイコーンになる。親方の提案を受けて、力がかかる部分の補強を行う。

「マナベ様。すべての補修と改良を行うには、4日・・・。いや、3日程度の時間を頂きたい」

「5日の時間と、素材を預けます。いいものをお願いします」

「もちろんです。3日で直して、試運転を行って、調整を行います」

「それでは、5日後にまた来ます」

 親方に素材を預けた。

「兄ちゃん?」

「アル。先に、ホームに戻って、今から5日間の寝床の確保を頼む。カルラ」

「わかった」「はい」

 アルは、命令を聞いてホームに向って駆け出した。

「悪いけど、アイツらに、書状を頼む」

「かしこまりました。3日で届けてきます。それで書状は?」

「ホームで書く」

「?」

「辺境伯領から、共和国に抜けることになるだろう?」

「わかりました。ですが、すでに手配は終わっています」

「ん?」

「共和国との国境には話が通っています。並ぶ必要はありますが、マナベ商会の名前で通過できます」

「お!ありがとう。それなら、久しぶりに、ホームでゆっくりとするか?」

「はい。・・・。しかし、ゆっくりは難しいと、愚考します」

「難しい?」

「はい。アルバンが、ホームに戻って、マナベ様が5日間といえ、ホームに居ると解ると・・・」

 しまった!
 忘れていた。いろいろな奴らが、手薬練を引いて待っている可能性まで考えなかった。

「・・・。もう、ダメだよな?」

「はい。諦めてください」

 ホームに戻ると、カルラの予想言霊が当たっていた。書類仕事がなかっただけは良かったが、慰めにもならなかった。模擬戦と、ホームに関しての会議を交互に繰り返した。これなら、黙って最下層に戻ればよかった。
 皆が俺を頼りにしてくれると考えて、5日間を過ごした。
 馬車は、試運転のときにカルラとアルとエイダにユニコーンとバイコーンを渡した。サイズは伝えてあったが、調整が必要になってしまった。引っ張る力が親方たちの想像を遥かに超えていたこともあり、更に強化をしなければならなかった。
 結局、馬車を受け取ったのは、更に10日の時間が必要だった。

 10日の間に、共和国の情勢も解ってきた。情勢は、悪い方向に傾いているようだ。
 地球に居た時になら、渡航禁止命令が出るくらいになっている。実際に、単独の行商などは、共和国を避けて、辺境伯領に留まる選択をする者も増えてきているようだ。
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