異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
122 / 179
第五章 共和国

第二十一話 悪夢

しおりを挟む

 おいらは知っている。
 兄ちゃんは、ダンジョンに潜ったり、おいらたちと雑魚寝したり、剣を持って戦わなくてもいい人だ。

 王国に住む人なら、赤子以外なら聞いた事がある。ライムバッハ。
 それが、本来・・・。名乗るべき家名だ。王国の辺境伯の跡継ぎだった。難しい事はわからないけど、兄ちゃんは目的があって、辺境伯の名前を外して活動している。

 兄ちゃんの朝は早い。
 寝ている時間は、誰よりも短い。おいらの半分くらいだとカルラ姉ちゃんが言っていた。

 おいらは・・・。違う。カルラ姉ちゃんも知っている。

 兄ちゃんは、よく魘される。
 姉ちゃんから聞いたら、これでもよくなってきているらしい。

 カルラ姉ちゃんがいうには、昔はもっと酷かったようだ。魘され方も徐々に落ち着いてきている。らしい。

 2-3日寝ないで過ごしていた時期もあったようだ。カルラ姉ちゃんもその頃の事は知らないと言っていたけど、クリスティーネ様がカルラ姉ちゃんに兄ちゃんの睡眠時間を教えていた。
 カルラ姉ちゃんからおいらに出された指示で、大事だと言われたのが、兄ちゃんの護衛だ。

 でも、兄ちゃんに護衛が必要だとは思えない。詳しく話を聞いたら、兄ちゃんが”捕えられた人”を助けようと無理をする前に、捕えられた人を殺すのが、おいらやカルラ姉ちゃんの役目だ。おいらやカルラ姉ちゃんが、兄ちゃんの敵に捕まったら、兄ちゃんが動き出す前に、死ぬように言われている。

 それから、もう一つの役目が兄ちゃんの睡眠時間を記録しておくことだ。毎日ではない。気が付いたときに行えば良いと言われている。クリスティーネ様からは、どのくらい兄ちゃんが寝ているのか?魘されていないか?記録しておくように言われている。

 酷いときよりは、”マシ”になってきている。カルラ姉ちゃんは、記録を見ながら教えてくれた。

 それでも、兄ちゃんが寝ているところをあまり見ない。
 移動中に、うとうとしているのを見るけど、ちょっとしたことで、すぐに目を覚ます。

 そして、恐ろしいほどに、時間通りに起きて来る。本当に、待っているおいらやカルラ姉ちゃんが吃驚するくらいに、ピッタリな時間に起きる。
 野営の時は、おいらもカルラ姉ちゃんも、兄ちゃんを起こした記憶がない。交代時間になると兄ちゃんが起きて来る。朝も同じだ。

 今日も、少しだけ寝ると言って目を閉じた。
 新しい魔法を開発して、水中を歩いた。疲れているはずだ。

 でも、兄ちゃんはあと10分もしたら目を覚ますだろう。

 兄ちゃんは起きだしてからも怖いくらいに普通だ。
 カルラ姉ちゃんは、寝起きが最悪だ。機嫌が悪いだけではなく、目つきも悪い。なぜ起こしたと怒っているようにも思える。それだけではなく、受け答えも起きてから15分くらいは怪しい。会話が成立しない時もある。話した内容を忘れていることもある。だから、カルラ姉ちゃんは、起きてから30分くらいは時間を空けないと、いろいろ怪しい。でも、兄ちゃんは、起きてから数秒で意識がしっかりしている。
 おいらは、カルラ姉ちゃんほどではないが、カルラ姉ちゃんよりだ。兄ちゃんの様に、起きられる様になれればいいけど、あれは無理だ。いろいろな魔法が使えるのも尊敬するけど、あの寝起きは尊敬を通り越して、畏怖さえも感じる。カルラ姉ちゃんと話して、実は寝ていないのでは・・・。と、疑ったこともある程だ。

 エイダが記録してくれるようになってから、おいらたちの仕事は減った。カルラ姉ちゃんが、兄ちゃんに正直にうち開けたら、兄ちゃんは笑いながら、エイダに記録できるような仕組みを作ってくれた。

「アル?」

「兄ちゃん!」

 やっぱり、時間通りだ。

「異常はなかったか?」

「うん。大丈夫」

 今は、ダンジョンの中。
 最下層には、ボスが居る。この場所で寝られる兄ちゃんはやっぱり大物だと思う。それだけじゃなくて、おいらを信頼してくれるのは嬉しいけど、魔物が出る可能性がある場所で・・・。

「アルは、寝なくていいのか?2-3時間なら寝てもいいぞ?」

「え?おいら?うーん。眠くない」

「そうか、それなら、最下層に挑むか?」

 最下層には、ボスが居る。
 今までの強さから考えると、それほど苦労はしないとは思うけど・・・。

 前から兄ちゃんに聞きたかった事を訪ねてみる。

「兄ちゃん。変なことを聞くけどいい?」

「ん?答えられることなら、答えるぞ」

「兄ちゃん。なんで、そんなに、睡眠時間が短くて大丈夫なの?おいらも、カルラ姉ちゃんも、8時間とは言わないけど、長時間は寝ないと、ぼぉーとしちゃうよ」

「ははは。カルラは、どれだけ寝ても、寝起きの機嫌は悪いよな」

 兄ちゃんの表情を見ると、怒っていない。
 呆れてもいない。ごまかそうとしている訳でもなさそうだ。

「うんうん」

「アルも、機嫌が悪い時があるけど、カルラよりは”マシ”だろう?」

「え?おいら?カルラ姉ちゃんよりは・・・。って、酷いな」

 おいらも寝起きがいいとは言わない。でも、兄ちゃんと比べたら、多分、すべての人が”寝起きが悪い”と言われてしまう。兄ちゃんと比べないで欲しい。カルラ姉ちゃんと同じだと言われるのも心外だ。

「ハハハ。悪い。悪い。アル。俺は、”寝ない”のではない。”寝られない”だけだ」

「え?」

 ”寝ない”と”寝られない”
 起きるのは同じだけど、兄ちゃんは”寝ていられない?”

「起きちゃうだけだ」

 起きちゃう?
 寝られない?

 なんで?

「・・・。なんで?」

 声に出ちゃった。でも、本当に、解らない。

「アル。寝ていると、夢を見るよな?」

 兄ちゃんは笑ってから、少しだけ考えてから、話を始めた。

「うん。覚えていないことも多いけど、見るよ?」

 誰でも、夢は見るよ?

「寝ると、短時間でも夢を見る」

「え?あっ。うん」

 短時間でも?
 うーん。見ているとは思うけど、覚えていない。

「夢は、いい夢ばかりではない」

「あっ」

 そうか・・・。
 兄ちゃんは、魘されている。
 おいらは聞いたことがないけど、カルラ姉ちゃんが・・・。

「睡眠時間が短ければ、寝なければ、悪夢を見ることも・・・。ない。父が、母が、カウラが、ラウラが、そして、ユリアンネが・・・。夢だと解っていても、手を伸ばしてしまう。夢の中でも助けられない。俺は・・・」

 そうだ。
 兄ちゃんは・・・。

「・・・。兄ちゃん」

「あぁすまん。アルに、そんな顔をさせてしまった。そんな理由で、俺は”寝られない”状況になってしまっているだけだ。短時間睡眠を繰り返すのは、昔からだから気にするな」

 昔から?

「・・・」

 兄ちゃんは、謝りながら、おいらの頭を撫でてくれる。
 辛いのは兄ちゃんなのに、こんな質問で、兄ちゃんを困らせたのはおいらなのに、謝らないで欲しい。でも、兄ちゃんは、謝るのが当然だと思っている。

 頭を撫でる手を止めて、おいらを見て来る。

「アル。食事をして、少しだけ休んだら、最下層に挑戦するか?」

「あっうん!わかった」

 兄ちゃんが、話を逸らしたけど、おいらには、兄ちゃんの苦悩は解らない。
 おいらは、悪夢でも・・・。妹に会いたい。おいらには、他に縋るものがない。

 兄ちゃんが、食事を出してくれた。
 簡単な物だと笑っているが、ダンジョンの中で食べると考えれば贅沢な物だ。兄ちゃんと一緒に居ると、携帯食を食べる機会が全くない。兄ちゃんと離れて、単独行動している時には、食事だけは辛いと思えてしまう。

 柔らかいパンと味付けされた肉の薄切り。それに、新鮮な野菜を一緒に食べる。
 あとは、よくわからないけどおいしいスープを飲んだ。食器は、簡単に水洗いをする。

 兄ちゃんは、少しだけ休むと言って、壁に寄りかかりながら目を閉じる。
 おいらは、眠くないから、武器の手入れをして、兄ちゃんが目を開けるのを待っている事にした。

 兄ちゃんの”少しだけ休む”は、30分だ。
 きっちり30分後に、目を開けて最下層に挑む事になる。おいらも、最低限の整備だけは終わらせておこう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安
ファンタジー
ごく普通のフリーター・岩倉運命は謎の少年に刺され、命を落としてしまう。そんな岩倉運命だったが、サダメ・レールステンとして転生を果たす…

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

処理中です...