異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
169 / 179
第六章 約束

第三話 目標と罠

しおりを挟む

 共和国に攻め込む者たちを含めて、アルトワ・ダンジョンに移動した。
 実効支配している場所を確認してから、落としどころを考える事になった。

 俺たちが見聞きしてきた情報を、皆に伝えたところ、今なら共和国の半分は無理でも、1/3くらいは取れると考えているようだ。
 経済戦争を行うのには、お互いに準備が足りていない。

「ユリウス。共和国への対応だが・・・。適当な落としどころを決めてくれ、王家に渡すにしても、飛び地では管理が難しいだろう?」

「それは・・・」

「アルノルト様。大丈夫です。考えがあります」

「え?」

 クリスティーネが、”大丈夫”だと言い切る。

「まず・・・」

 クリスティーネの計画が解った。
 ”ぶっ飛んでいる”計画だけど・・・。確かに、領土の割譲よりも、共和国としても飲みやすい上に、デメリットが少ない(ように見える)。俺たちのメリットは少ないように見えて、長期的に見れば大きなメリットに繋がる。それに、共和国には知られていない情報がある。クリスティーネの考えは、オープンになっていない情報を上手く使った”詐欺”のような行為だ。

 クリスティーネの考えでは、共和国にあるダンジョンで、俺が攻略したダンジョンを接収する。

 共和国からもぎ取るのは、ダンジョンの周辺の権利だけだ。近隣の村や街は、王国の領土にはしない。ダンジョンから産出する物の権利も主張しない。商取引の優先権は取得する予定だが、絶対に必要な権利ではない。

 共和国は寄り合い所帯なので、クリスティーネの提案も受け入れる土壌が出来上がっている。
 俺たちが攻略したダンジョンは、共和国内では力が弱い国の領土になっている。共和国は、その国を切り捨てる可能性もあるのだが、疲弊した国を貰っても、王国としては困る。ライムバッハとしても荷物が増えるだけでメリットがない。

 そこで、ダンジョンとダンジョンの周辺を割譲する。
 アルトワ・ダンジョンの様に、塀で囲んでしまう。

 ウーレンフートのノウハウということで、押し通すつもりのようだ。
 スタンピードに備えて、周辺の村や町に被害が行かないようにする為だと強弁するようだ。

「クリス。代官というか、ダンジョンを管理する者たちには、心当たりがあるのか?」

「それこそ、ウーレンフートにいる者たちや、辺境伯領にいる者たちを派遣すればいい。」.

 最悪は、ヒューマノイドに管理を行わせればいいだけか・・・。

「ん?素材の買い取りはするのか?」

「それこそ、商人が来ているわよね?」

 ギルベルトがいい笑顔で頷いている。
 どうやら、既に手配をしているのだろう。ギルベルトの商会なのか、親の商会なのか、マナベ商会なのか解らないが、既に入り込んでいるのだろう。マナベ商会でダンジョンの素材を買い取るのは・・・。あまりメリットに感じない。
 そうか、値段調整を行う役割を持たせたいのだな。
 共和国内に安い採取品が回るのを防ぐのだな。それなら、マナベ商会でも大丈夫だ。話が決まったあとで考えればいい。

「あぁ」

「別に、王国としては、元々無いダンジョンだから、そこで儲けようと考えなければいいのよ。もし、王国の商人が商売をしたいと言えば、許可を出してあげる程度でいいと思うわよ」

 戦略拠点としての意味と、共和国との緩衝地帯を作るのが目的だ。
 共和国が一致団結して、王国に攻め入ることは考えにくい。共和国がこのまま進むと暴動が発生する可能性がある。その時に、王国にまで飛び火しないようにしたいのだろう。

「そうか・・・」

 そうなると、メリットは、ダンジョンを自由にできることと、リソース稼ぎになることか?
 共和国には知らせていないけど、ダンジョンの採取を絞っているから、以前と同じように採取を行おうと思ったら、4-5倍の人間が必要になる。

「クリス。ダンジョンへのアタックには、奴隷を禁止したいけどできるか?」

「どうして?」

「共和国のダンジョンにアタックしている時に、奴隷を壁の様に運用している者たちが多かった」

「・・・」

「奴隷を否定するつもりはないが、使いつぶす前提の奴隷運用は認められない」

「アル。奴隷の解放条件に繋がるから・・・。ダンジョンへの入場を禁止するのは・・・。難しい」

 ユリウスの言葉は正しいのだろう。
 王国では、ダンジョンの中で得たものを主人に渡すことで、奴隷から解放される場合がある。その為に、ウーレンフートでは、奴隷だけでダンジョンにアタックしている者たちも存在している。

 しかし、奴隷を使いつぶす輩が、共和国のダンジョンでは多い。ウーレンフートとは比較にならない。ウーレンフートと同じではどこかで破綻してしまう。

「アルノルト様。ダンジョンにアタックする時に、ウーレンフートの様に、メンバーの登録は可能ですか?」

 メンバー?
 ダンジョンに潜る前に登録するようにしている帰還予定を記入して、それまでに帰還しなければ、捜索隊を派遣する場合もある。

「ん?ウーレンフートで運用している仕組みなら組み込めるぞ?」

 あの仕組みは、ホームでカードを発行しているから、似たような仕組みなら運用が可能だ。

「それなら、奴隷以外には、ダンジョンのアタック前に、アタック料を取りましょう。ダンジョンの保護を理由にすればいいでしょう」

「あぁ。それで奴隷は?」

「奴隷は、無料にします。その代わりに、奴隷の”価値”を提示してもらいます」

「ん?”価値”」

「そうです。ロストした時には、提示された”価値”分の支払いを命じます。従わなければ、王国が管理するダンジョンへの入場を禁止して、王国への入国を禁止します」

「ほぉ・・・」

「クリス。それでは、奴隷の価値を低く提示するのではないのか?アルが求めているのは、奴隷のロストを防ぐことだ」

「ユリウス。クリスの案で大丈夫だ」

「なに?」

「ユリウス。愚かな奴が、奴隷を銅貨1枚の価値と提示した場合。ダンジョンにいる管理人や人手が欲しい者が、奴隷を銅貨1枚で買い取ることができる。それに、提示された価値が低ければ、奴隷はその場で自分を買い取ることもできるだろう?ダンジョンの管理所から、奴隷に銅貨1枚を貸し出してもいい」

「・・・。クリス?」

 クリスティーネが頷いている。
 俺の推測で大丈夫なようだ。

 ユリウスも納得していることから、基本方針をクリスティーネがまとめることに決まった。

「アルノルト様。是非、教えていただきたいことがあります」

「なんだ?」

「ダンジョンのコアを攻略したら”何が”出来るようになるのですか?」

 やはり聞いてきたのか?
 報告は受けているのだろう。

 エヴァンジェリーナの名前を出して、まだ教えていないから、先に”エヴァンジェリーナに教えてから”と言えば引いてくれるだろう。

 周りを見ると、話を聞きたいと思っている顔が揃っている。
 クリスティーネやユリウスは報告を呼んでいるから知っていることも多いだろう。アルバンやカルラから話を聞いている人も居るだろう。いろいろ不可解な事が多いけど、報告とすり合わせれば結論には達しているのだろう。

 隠してもメリットには繋がらない。説明しても、デメリットにはならない。

 アルトワ・ダンジョンからウーレンフートに移動してもいい。
 共和国への強襲が終了したら、アルトワ・ダンジョンに戻ってきてもらって、実際に見てもらったほうがいいかもしれない。

 エヴァンジェリーナの約束を考えれば、アルトワ・ダンジョンからウーレンフートに移動して、王都に向かったほうが早いかもしれない。
 新しく作った馬車が使える。
 それに、ユニコーンとバイコーンが使えるのも大きい。国境で問題は発生するとは思えないが、電撃的な作戦でも難民が発生する可能性はある。難民が国境に押しかけたら・・・。

 ダンジョンの説明と一緒に、現状の説明をした方が・・・。俺も楽だ、効率もよさそうだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...