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第三十一章 本腰
第三百十一話
しおりを挟むゼーウ街から、チアル大陸には、デ・ゼーウが用意した船で向かうことになった。
チアル大陸に本拠地を置いている商人に頼む予定だったのだが、デ・ゼーウが前に拿捕した船を下賜した者が立ち上げた商家だ。運営実績も問題がない。チアル大陸との取引も行っている。
船は、元アトフィア教の司教が使うために作られていた物なので、豪華になりすぎた感じの船だ。
船倉は、無かったと言っていたが、奴隷を連れ帰る為の場所が存在していた。アトフィア教らしい船だ。
その奴隷を詰め込んでいた場所を船倉に改造した。
この船で、アトフィア教の港にも出向くと言っていた。知っていてやっているのだとしたら、船長や船員たちの性格は攻撃に偏るのだろう。
「ツクモ様」
「船長か?いや、商隊長と呼んだ方がいいか?」
「たかが、船一艘での商隊です。どちらでも、ツクモ様の呼びやすい方で、お願いいたします」
「わかった。船長。それで?俺に何か用事でもあるのか?行程は、ルートガーに一任している。船のことは、船長に任せる」
「いえ、船の旅にも慣れていらっしゃるようなので、暇を持て余しているのかと思いまして、雑談でも、と、思いましたが?」
「ははは。船長。話しやすい言葉で構わない。それで?本音は?」
「はぁまぁデ・ゼーウから聞いていた通りの人ですね。遠慮なく・・・。ツクモ様に、聞きたいことがあります」
船長は、座っていた椅子から立ち上がって、頭を下げた。船長なりのケジメなのだろう。
「ん?知っていることで話せることなら教えるぞ?その代わり、対価が必要になる話もあるからな」
「それは怖いですね。私が払える範囲でお願いします」
「それは、船長次第だな」
「はぁ・・・。ツクモ様たちは、あの異常な魔物を倒せると聞いたのですが?」
本題は、新種の話だ。
船乗りは、やはり”知っている”ことが確定した。
「船長。俺たちは、新種や”できそこない”と呼んでいるが、船長たちには、固有の呼び名はあるのか?」
「呼び名ですか?考えたことが無かったです」
「そうか・・・。その異様な魔物は、新種と”できそこない”と呼んでいるが、俺たちも完全に倒す方法が解っているわけではない」
カイとウミとライの力技しかない状況だ。
船長は、期待していた答えではないだろう。
「そうなのですか?」
「あぁ」
船長は、落胆した表情をみせる。
「なんだ?困っているのか?」
「いや・・・。そうですね。俺たちは、逃げの一手で見かけたら外洋に逃げるので、被害は軽微なのですが、仲間内で何隻かやられてしまった者たちが居まして・・・」
船長は、困っているという問いかけに、最初は否定をしようとしたが、途中で言葉を変えて、正直に話をすることにした。
商人としては、弱みを見せることに繋がるのだが、船長としては、乗組員や仲間の命の方が大事だと考えなおした。
「ん?」
逃げる?
船長が口にした、逃げの一手は戦術としては正しいと思う。道の魔物で、倒し方も解らなければ、逃げるのが一番だ。トレインにならないようにすれば、逃げるのは”有り”だ。命をかけて戦う必要がなければ、逃げてしまうのが安全だ。
しかし、”外洋”に逃げれば大丈夫なのは、新しい情報だ。
「なにか、ありましたか?」
「外洋には居ないのか?」
「そうですね。外洋に逃げれば、追ってきません。浅い所にしか現れないので・・・」
外洋には居ない?
でも、外洋で見かけたという話もある。どちらが正しい。または、どちらも正しいのか?
船長たちが見た”新種”や”できそこない”は外洋に出ない。それとも、逃げ始めたら、追ってこないのか?
浅い所にしか現れない?
大陸と大陸には、外洋がかならず存在している。
「船長。今の話では、新種や”できそこない”は、その大陸で産まれたことになるが?」
「違うのですか?そもそも、あいつらは何者なのですか?」
「まだ確定していないが、”できそこない”は、進化に失敗した魔物だと考えている。新種は進化に成功した魔物だ」
「え?進化?通常進化でなくて?」
船長は、魔物が進化することを知っている。
情報が命である商人でも知らない者がいる情報だ。船乗りは、船乗りに独自のネットワークと”識者”がいるのか?
「そこが解っていない。ゼーウ街の近くで、魔物が一か所に閉じ込められていて、そこに新種と”できそこない”が居たことから、人為的に引き起こされているのではないかと思っている」
「え?そうなると・・・」
「何か、心当たりがあるのか?」
「俺が見たわけではないのですが・・・」
船長が語ったのは、船を使った商売をしている者たちの集まりに参加した時の噂話だ。
どこかの商隊が、中央大陸の港町から、魔物を大量に船に積み込んだ。
向かうのは、”チアル大陸”。その船は、洋上で何者かの攻撃を受けて船員が全滅してか・・・。理由は定かではないが、船が放棄されたのは事実らしい。
しかし、船で何が発生したのか見た者は皆無だ。
その船が漂って、”チアル大陸”の裏側に漂流したのが発見された。
ロックハンドに”できそこない”が出現した理由か?
時期がはっきりしないから・・・。特定は、難しいと思うが・・・。そうか・・・。
乗組員の生存者はいなかった。
そして、積んでいたはずの魔物の姿も見られなかった。
「それからです。いろいろな大陸で、ツクモ様たちが呼んでいる”新種”や”できそこない”を見かけるようになったのは・・・」
「他の大陸でも見るのか?」
「はい。見かけます」
「船長たちは、逃げると言っていたが、他の大陸では、対処はどうしている?」
「基本は、戦います。しかし、姿が崩れている奴ら・・・。”できそこない”ですか?奴らは、なんとか倒せるのですが、”姿が崩れていない”魔物は倒せないので、傷を与えて、”逃げる”を、繰り返します」
「え?それで?」
「俺たちは、遭遇していないのですが、傷を負わせると、そこから崩れていく奴が現れるようです」
「崩れる?”できそこない”になるのか?」
「見た奴らの話では、腕がいきなり取れたりするようです」
「それは・・・。”討伐”と違うのか?」
「いえ、取れた腕を・・・。その、くっつけるようなのです」
再生するのではなく、くっ付ける?
カイやウミからは聞いたことがない。
倒せてしまうので、知らないだけなのか?
それとも、進化の方法で違いが産まれるのか?
「は?生物として・・・。いえ、魔物だとしても、聞いたことがない。俺も見たことがない」
「はい。なので、遭遇した連中は、足を狙って、傷を付けて、行動力を奪うことから始めるようです」
「そうか・・・。動けなくしてから・・・」
「そうですね。スキルを使えば、楽にはなるようですが、それでも、得られる物が・・・」
「あぁスキルカードが出るけど、使ったカードを考えれば・・・。レベル2か3程度では・・・」
やはり、船長たちも、形態こそ違うが商人なのだろう。
”逃げ”を選択するのは間違っていない。
”新種”や”できそこない”からドロップするカードが、進化前の個体と同レベルなのは認識している。
”新種”や”できそこない”が想像通りに、人為的な偶発から産まれたのなら、本腰を入れて調査と駆除方法の確立を行わなければ、”新種”や”できそこない”を大量に生産して攻め込んでくるような愚かな事を行う大陸が出て来る。
「はい。ですので、”逃げる”のが、一番だと考えているのです」
「その情報は、今後の新種と”できそこない”への対応に繋がる。討伐方法や対応策が見つかったら、船長にも情報を流す」
商人とは違う情報網を持つ船長たちに流せば、他の大陸にも情報として流れる。
商人と船乗りからの別々のルートから同じ内容の情報が流れてきたら、信じるしかないのだろう。
「それは・・・。いえ、ありがとうございます」
船長が、躊躇したのは、船長が”ゼーウ街”所属なことだ。
チアル大陸から無償で重要な情報を貰うのは憚れる。
その為に、船長は”断る”という選択肢を飲み込んだ。
「あまり、期待はしないように、俺も新種にだけ構っているわけではない」
「いえ、ツクモ様なら、胸を期待で一杯しています」
「ははは。それで、船長。魔物を詰め込んだ船は、どこに向かう予定だった?」
「あぁ・・・。船の持ち主は、森林大陸の者でしたが、向かうのは、アトフィア大陸です」
想像ではあったが、具体的な言葉を聞いた。
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