ちょっとだけ切ない短編集

北きつね

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初めて食べた手料理はしょっぱかった

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 俺が通う高校までは電車で30分くらいかかる。

 朝早い電車で駅員が居ない日もある。
 市にある工業高校に通っている。そこで、部活をやっている。

 最寄り駅までは、家から自転車で通っている。
 自転車置場はすぐにいっぱいになってしまうのだが、朝練に向かうような早い時間帯なら自転車置き場も空いている。

 毎日、電車に乗るわけでも無いのに、ベンチに座って居る2人のおばちゃんにも挨拶をする。
 寝ているのか起きているのかわからないけど、挨拶しないでいると後で思いっきり怒られたりする。

隆史たかし今日も部活か?」

 今日はおばちゃんは起きているようだ。
 俺が挨拶する前に話しかけてきた。

「おはよう。朝練だよ」
「そうか、そうか、感心。感心。頑張るのじゃよ」
「解っているよ。それじゃ行ってくる!」

 今日は土曜日。部活が終われば、明日は休みだ。強豪校でもないので、日曜日は練習試合や公式戦がなければ休みになる。
 1年半、こんな生活をしている。最初の頃は、祖母も朝起きて朝食や弁当を作ってくれていたが、負担が大きいのは解っている。そこで、学校に申告して、朝の1時間と夕方(夜)の2時間だけバイトする事の許可を貰った。
 家計を助けるとかではなく、祖父母に金銭面で負担をかけたくなかった。

 朝は、学校の近くにあるパン屋でバイトをする。
 先輩の実家だったこともあり問題なく雇ってもらえた。それだけではなく、朝練の終わりや昼飯の足しにしろと大量の”焼き仕損じた”事になっているパンをくれる。
 同級生や下級生に配っても十分余る。

 身体が辛くないと言えば嘘になるが、充実した日々を過ごしていた。
 殺された弟や、死んでしまった両親のことを思い出さなくて済むくらいには充実していた。

「おはようございます」
「伊吹くん。おはよう。早速悪いけど頼むね」
「はい。大丈夫です!」

 作業服に着替えて、工房に入る。
「あっ先輩。おはようございます」
「おっブキ。今日も早いな」
「はい。貴重な食料ですから!」
「違いない」
「先輩。あっもう春休みですか?」
「あぁ」
「そういえば、先輩たちは大学には進まないのですよね?」
「俺はそのつもりだ。モリやハニーはわからないけどな」
「そうなのですね」
「お前は?成績だけなら大学に行けるのだろう?」
「どうでしょう?」

「伊吹くん、パン屋をやればいいよ。なんなら、家の奴と変わってくれてもいいよ」
「ハハハ。それもいいですね」
「ブキ。お前な。でも、パン屋をやりたければ言えよ。修行先くらいなんとでもするからな」
「えぇわかりました」

 いつものように繰り返される会話。俺の心を軽くしてくれる。
 弟は、学校でいじめられて自殺した事になっている。父親と母親は、人に会う道中でトラックに跳ねられて死亡した。

 俺が学校に通えているのは、祖父母が居たのはもちろんだが、俺が死を享受しようとした時に引き戻してくれた幼馴染が居たからだ。奴には感謝してる。絶対に本人には言わないが、心の底から感謝している。

「ブキ。そう言えば、お前彼女は?」
「いませんよ?作る暇があると思いますか?」
「そうだな・・・。無理だな。すまん」
「謝らないでくださいよ。切なくなりますよ」

 雑談をしながら、焼き上がったパンを並べる。
 地元の人気店なので、朝から結構な客が買いに来る。学校の近くなので、朝早くから出勤してくる先生もよく見かける。

 昼に焼くパンの仕込みを終えたら、部活に向かう。
 バイトの許可をもらう時の条件が、部活に入る事と、部活を休まない事だったので、1年の夏休み明けから毎日バイトをしてから部活に出て、授業を受けて、部活をしてから、先生に紹介してもらったお好み焼き屋でバイトをして帰る。
 お好み焼き屋も直接は知らないが、学校の卒業生がやっている店なので、暇な時にはレポートを書いていても怒られることはない。俺は、十分恵まれた環境に居る。

 帰りの電車は21時近くになってしまう事もある。

 この帰りの電車が一番つらい。
 眠気との戦いだ。なので、基本立って帰る事にしている。一度眠ってしまって、最寄り駅を通り過ぎて、少し離れた駅まで連れて行かれる。
 以前通り過ぎたときには、駅員に事情を説明して、駅舎に泊めてもらった。

 今日も無事に最寄り駅で降りられた。
 明日は休みだが、昼からお好み焼き屋のバイトが入っている。食事も出るので、俺としては嬉しい。最初は夕方だけだったが、店長が休みの時に来て欲しいと言われた。

 1年半くらいのバイトで、そこそこの金額が溜まった。
 祖父母に渡したのだが、半年が過ぎたくらいで俺名義の通帳とカードを渡された。バイト代が全部振り込まれていた。それだけではなく、俺が渡した両親の保険も一円も使われない状態で残されていた。

 祖父母は、年齢的な事があるので、俺をひとり残して逝ってしまう事を何度も何度も謝ってきた。お金の事だけでも苦労して欲しくないと言っている。
 そんな事・・・。祖父母が居なければ、俺は、弟を自殺に追い込んだ奴と、両親を殺した奴を殺して、自殺していただろう。そうしなかったのは、祖父母の存在と、3歳年上の幼馴染の奴が居たからだ。
 奴は、商業高校を卒業後に地元の新聞社に入社した。コネだと笑っていたが、すごく頑張っていたのを俺は知っている。恋人のひとりでも居てもおかしくない容姿なのだが、子供の時から浮いた話が一切ない。新聞社に入ってからは、会う事が少なくなった。なにかスクープを狙っていると張り切っていると、奴の両親が笑いながら教えてくれた。

 少し早足で自転車置き場に向かう。

 自転車のピックアップに失敗した。
 少し遅かったようだ。駐輪場が閉まってしまっていた。しょうがない。歩いて帰ろう。点々と街灯が光っている道を歩いて帰る。時々通る車のヘッドライトが俺を照らす。後ろから来るだけならいいが正面から来ると、眩しくて目を細めてしまう。

 前から来た車が、すれ違った先でUターンした、俺を追い越した所で止まった。

「タカ!」
「ん?あぁ」

 幼馴染だ。そう言えば、車を買ったとか言っていたな。

「ん?ハル?」
「自転車は?」
「間に合わなかった」
「乗りなよ」
「悪いな」

 助手席に乗り込む。
 車なら、数分で着く疲れた身体には丁度いい。

「ハル。仕事が終わったのか?それにその格好?」

 喪服のようだ

「先輩の葬儀に行ってきた」
「そうか・・・」
「大丈夫だぞ、お清めの塩はかけてあるからな」
「そんなことを気にしたわけじゃない」

「そうだ。タカ」
「ん?」

 なにか、いいにくそうだ。

「なんだよ?」
「あとでお邪魔していいか?」
「いいけど、玄関からこいよ?」
「はいはい」
「風呂に入るから、1時間後くらいが嬉しい」
「わかった。おばさんたちにも話があるから早めに行く」
「わかった。ばーちゃんとじーさんに言っておく」
「ありがとう」

 俺達の家は少し特殊な感じになっている。
 国道に面しているのだが、高台になっている場所に家が並んでいる。駐車場は、高台の部分を掘って作られているのだが、そこから家には行けなくて、一度道路に出てから、高台を登る必要がある。一番奥がハルの家で隣が俺の家になっている。長屋ではないが、勝手口がつながっている構造になっている。俺とハルの部屋は隣り合っている。

 部屋に入って、ジャージに着替えてから、風呂に向かう。
 風呂はこのサイズの家には似合わない広い感じになっている。175cm(自称)の俺が肩まで使って足を伸ばせるくらいには広い。洗い場も3人程度なら並んで入られる。子供のときには、ユウハルと俺で風呂に入った。

 俺が風呂に入ろうとした時に、ハルが訪ねてきた。
 祖父母にはハルが訪ねてくる事は伝えていた。最近、よく来て居るようだ。祖父母も要件が解っているのだろう、了承していた。夕飯は、バイト先で食べる事を告げているので用意はされていないのだが、ハルがなにか食べるかもしれないと、風呂から出たら冷蔵庫を漁って簡単に作られる物を用意しようと思っている。
 祖父母もそのほうがいいだろうと言ってくれている。そう言えば、俺が作る料理を食べさせることが殆どでハルが作った料理は食べた事がなかったな。

 風呂から出て、冷蔵庫を開けたら、祖父母が俺を呼ぶ声が聞こえた。

「ハルちゃんが今日は帰るってよ」
「え?今からなにか作ろうと思ったのに!」
「タカいいよ。明日はダメだけど・・・そうだ、14日に時間貰える?」
「14日?」
「予定でもあるの?」
「バイト終わりでいいか?」
「問題ない。今日くらいだろう?」
「そうなる」
「わかった。駅まで迎えに行く。それでいい?」
「わかった」

 祖父母に挨拶して帰っていった。

「ハルの奴、なにか有ったのか?顔色が悪かったけど?」
「そうじゃな。いろいろ仕事が忙しいのだろうな」

 それ以降、祖父母は黙ってしまった。
 何を話していたのか気になるのだが、聞けるような雰囲気ではなかった。

 14日。2月14日。セントバレンタインとかいうらしい。
 俺には呪われた日として記憶されている。

 弟と両親を無くした日だ。

---
 その日は、俺はハルと数名の同級生と遊びに行っていた。帰って来ても誰も居ない。ユウが帰ってきているはずだと思って、ユウの部屋に向かうがランドセルも無ければ、帰ってきた形跡がなかった。
 どっかで寄り道でもしているのだろうと深く考えなかった。
 日が暮れて、それでも帰ってこないユウを心配して探しに行く事にした。俺とハルは港を探すことにした。ユウが学校でいじめられているのは知っていた。俺もハルも両親も祖父母も学校なんて通わなくていいと言っていたのだが、ユウは学校に通うことを選択していた。

 そして・・・
「タカ!」
「ハル?ユウは居た?」
「ダメだ。灯台の方は?」
「居なかった、直ちゃんが居たから聞いたけど、ユウを見ていない、来ていないって言っているよ」
「え?おっちゃん今日もサボっていたの?」
「らしい。それよりも!」

 俺達は30分かけて港を探した。
「ハル!」
「ここじゃないのかも?それとも、もう帰って・・・」
「ハル!」
「ごめん」
「・・・。ハル・・・。懐中電灯・・・。ちが・・ぜ・・・ぜったい・・・違う!!!!!!!!」
「タカ?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!ユウぅぅぅぅぅ!!!!!嘘だぁぁぁぁっぁぁ!!!!」

---
 ユウは自殺と判断された。
 翌日には、遺体は”警察”が処理をしたと教えられた。両親は抗議したが聞き入れられなかった。

 学校もいじめの事実を隠蔽した。
 生徒同士のコミュニケーションの食い違いと発表していた。

 コミュニケーションの食い違いで、身体に痣を作って帰ってくるか?教科書が破れるのか?体操服に死ねとか書かれるのか?両親は、校長や教育委員会に足を運んで状況を問い合わせた。

 結局は何も変わらない。
 そもそも、ユウは本当に自殺だったのか?

 なんでユウと一緒に海に落ちたランドセルの中から、濡れていない。しっかりした状態の遺書が発見される?
 なんでユウは足首がない状態で海に浮かんでいた?
 なんでユウは体中に痣があった?
 ユウのランドセルに括り付けられていた家の鍵だけがなんで見つかっていない?
 なんでユウの左足首が見つかっていない?
 なんでユウの右足首に石がく括り付けられている?
 なんでユウの飛び込んだ場所が特定出来ていない?
 なんで港で俺とハルが見つけた血痕がユウのもの血液でないと断定された?

 なんで、なんで、なんで・・・。

 何も、進展がないまま1年が過ぎようとしていた。
 両親は少し前から、地元の警察では話を聞いてくれないので、知り合いを頼って東京の出版社の人と話をしていた。その流れで、検察の人に会う事になった。

 東京に行く当日に最寄り駅に向かう最中にトラックに跳ねられて両親が死んだ。
 トラックの運転手は、覚醒剤中毒者でトラックを盗んで暴走して、両親を跳ねたと言われていた。不幸な事故だと・・・。

---
 今年の14日は木曜日だ。
 いつものように、パン屋でバイトして、朝練に参加して、授業を受けて、部活に出てから、お好み焼き屋でバイトして帰る。

 この前よりは早い電車で帰る事ができた。
 夜にハルと待ち合わせしているので、今日は自転車で来ていない。送ってもらう気まんまんで待っている。

 明確に約束の時間を決めていたわけではない。
隆史たかしどうした?」
「あぁハルと待ち合わせしているけど、遅れているみたいなだけだよ」
「そうか、寒いから早く来るといいな」
「そうだな。おばちゃんたちも早く帰らないと風邪を引くぞ」
「そうだな。ワシらは帰るとするか」

 2人のおばちゃんは自分の家に帰っていった。
 終電までには時間がある。
 何本かの電車が到着しては、客を降ろして、出ていく。

 顔見知りが多いから、簡単な挨拶をして一言二言交わして分かれる。
 またすぐに会えるだろうと思って、挨拶を交わす。

 スマホを確認するが、連絡が入っていない。
 遅くなりそうだったから、家に電話をするが祖父母とも出ない。しょうがないから、メールしておく。この仕組は、先輩に教えてもらった。特定のメールを受けたら、ディスプレイに表示するという物だ。先輩に、俺の事情を説明したら、一工夫してくれて、タッチパネルのディスプレイを電話の横に設置してくれた。メールをタップすると、俺にメールが返されるという物だ。
 メールを出す時に、俺が期待する答えを決められたフォーマットでいくつかの選択肢にして出す事で、祖父母は選択肢を選ぶ事で返事が出せるという物だ。

 しばらく待っても返事が来ない。
 先に寝てしまったのかもしれない。部屋の明かりに比例して電話の呼び出し音がなる仕組みなのだ。これも先輩が実験的に作った物をもらって導入したのだ。

 2時間くらい駅でハルを待っていたのだが現れなかった。

 なんだよ。用事ができたのなら連絡の一本でも入れてくれたら助かるのに・・・。

 そう思いながら、駅の掲示板にハルが来た時の為にメッセージを残しておく。
 俺の名前と、ハル宛てである事と、家に帰るとだけ残した。これで解るだろう。

 坂道を上がると、俺の家が見えてくる。
 え?

 は?

 なに?

 なんで?

 なにがあった?

 誰か、馬鹿な俺にわかりやすく説明してくれ?
---

 2月14日。
 俺は、弟と両親と祖父母と幼馴染を失った。

 葬儀は、ハルの両親が仕切ってくれた。
 葬儀が終わって、ハルの両親に呼び出された。

「隆史君」
「・・・」
「隆史君」
「大丈夫です。聞こえています」
「よかった。おばさんとおじさんは強盗に殺された。それは間違いない」
「えぇ警察にそう言われました」
「その強盗が春子を・・・春子を・・・」
「そうなのですか?」

 祖父母は、どこかに出かけようとしていたらしい。
 俺が丁度帰りの電車に乗った時だ。押し入ってきた強盗と揉み合いになって・・・。

 警察が駆けつけたときにはすでに強盗は居なかったらしい。
 その時点で俺に連絡が来てもおかしくなかった。警察は、俺に連絡してこなかった。理由はわからない。部屋が荒らされていて、連絡先がわからなかったと言われた。そんなわけない。電話やタッチパネルには連絡先が表示されている。
 警察は嘘をついている。リビングだけではなく、俺の部屋まで荒らされていた。そして、使っていない両親の部屋やユウの部屋まで・・・。まるで何かを探していたようだ。

 ハルを殺したのも同じ犯人だという事だ。
 犯人がそう自供している。祖父母を殺して、慌てて逃げ出した強盗犯は、ハルに逃げる所を見られて、襲って殺したと自供したらしい。しかし、距離の問題もある。ハルが発見されたのは、隣町のコンビニの駐車場で、ポストにより掛かるように倒れていたらしい。
 犯人の供述が正しければ、ハルは犯人に刺されてから、自分で車を運転して、コンビニに移動して、そこで倒れた事になる。なんでそんなことをしたのだ。

 おばさんとおじさんには心当たりがないという。
 憔悴仕切っている2人から、俺が渡した通帳が返された。

「これは隆史君が持っていなさい。これから必要だろう?」
「これから?」
「そう、これからだ!いいか、隆史君。君は生きている。生きている」

 そうか・・・俺は、生きている。
 これからも、飯を食って、糞をして、オナニーをして寝る。朝起きて、歯を磨いて・・・。
 なぁ・・・俺、生きている必要あるのか?ハル?教えてくれよ。

「隆史君」
「・・・」
「隆史君。春子が君の事を好きだったのは気がついていたか?」
「え?」
「やっぱりな。ほら、春子は”これ”を取りに家に戻ってきて・・・・」
「え?これ・・・チョコレート?」
「あぁ春子の初めてのチョコレートのハズだよ」
「お・・俺に?」
「そうだよ。君にだよ。2日くらい前から作って居たよ。君に渡すと言っていたよ『受け取ってくれるかわからないけど、これから始めないとダメ』と言ってね」
「・・・なんで?始める?」
「あっそれは春子の気持ちだろう」

 違う。おばさんはなにかを隠した。
 でも、ハルが俺のことを?でも?でも?

 心当たりがないと言えば嘘になる。近すぎて考えなかった、今ははっきりといえる俺もハルの事が好きだ。

「なぁおばさん。ハル・・・。料理できたのか?」
「・・・。もう少ししっかり教えておくべきだったよ」
「だよな・・・」

 いびつな形になっているチョコレート。
 袋を開けると、ハルの手書きのメッセージが入っていた。

 ”タカへ。気がついていないと思うけど、子どもの頃から好きだ。どんどん大人になっていくタカが眩しかった。女の子と一緒に居るところを見ると嫉妬した。やっとタカに報告できる状況になった。だから、その前に私の気持ちを伝える。隆史。好きだ。春子”

「ハハハ。ハル。これはずるいよ。おばさん」
「解っている。でも、隆史君」
「大丈夫。死のうなんて思わないよ。ハルに怒られたくないからね」
「うん。うん」
「おばさん。もっと・・・ハルに・・・料理を教えておいてよ・・・」
「そうだね」
「おばさん。これじゃ・・・ハルと結婚・・・したら・・・俺が・・・毎日・・・料理を作らないと・・・」
「そうしてくれるか?」
「りょ・・・うかいだよ。チョコレートを・・・こんなに、しょっぱく作る・・・ハルに・・・まかせ・・・られない。あま・・・い。チョコかと思ったら……」

 おばさんにも食べてもらう。

「うううう。隆史君。そうだね。あの子・・・チョコレートをこんなに水っぽくして・・・料理の才能・・・ないようね」
「・・・・ハルぅぅぅぅ・・・・」

---
 俺は、惰性で学校に通った。
 バイトも続けている。もちろん部活もだ。警察は、犯人が覚せい剤をやっていて、金欲しさに強盗に入ったと決めつけた。ハルは刺されて逃げた先で死んだと言われた。

 どうでもいい。犯人を殺しても、祖父母もハルも帰ってこない。

 卒業したタクミ先輩とユウキ先輩に呼ばれている。
 在学中にいろいろと伝説を残した先輩たちで、俺も何度か世話になった。

 待ち合わせ場所に行くと、先輩たちの他に1人の男性が居た。ユウキ先輩の父親だと名乗った。

 一つの封筒を渡された。
 ハルが、ユウキ先輩に出した封書の様だ。開けられている。中身を確認して、俺にわたすのが適切だろうと判断したようだ。

 え?

 先輩たちを見る。嘘ではないようだ。先輩の父親は警官だと言った。そして、謝ってきた。
 この書類をどうするのかは俺にまかせてくれるらしい。

 迷わず先輩たちに預けた。
 全部を読んでしまうと、俺はきっと・・・。大量殺人者になってしまう。

 ハル・・・。これでいいよな?
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