ちょっとだけ切ない短編集

北きつね

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【銃弾の行方】最後の銃弾

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 お前たちが居なくなって、丁度20年が経った。
 長いようで、短い20年だ。世の中は変わったよ。お前と娘と三人で住むはずだった家の跡地は公園になった。やっと、財産の処分が出来た。もう、俺も60に手がかかる年齢だ。本当なら、お前と観光地を回っていただろうな。

 お前たちの所にはいけない。解っている。お前たちが、こんな事復讐を望んでいない。いつも、自分の事よりも、私の事を、娘の事を優先していた。だから、最後も私のやりたいことを優先する。

 お前たちを弄んで、火を付けて殺した奴らを許せると思うか?

 20年だ。
 20年。この日を考えて、夢見て、準備をしてきた。お義父さんとお義母さんを見送った。そっちで見ていてくれ、愚かな男の「最後の・・・」。

 さぁ始めよう。
 最後の宴だ。

---

 男は、一人の男性を銃で脅しながら、廃墟となっている港近くにある船大工の工房に入った。
 そこには、4人の男が、口枷をされ手足を拘束されて、転がされている。

 拘束された日時にばらつきがあるのか、既に衰弱している者も居る。
 排泄物だけではなく、男たちに食べさせた物だろうか、腐った臭いが充満している。

「安心して君で最後だ」

 男は、連れてきた男の後頭部を殴った。手際よく、手足を拘束する。抵抗が出来ない状況にしてから、口枷を嵌める。

「大変だったよ。やっと、やっとだよ。君たちに辿り着いた。まさか、警察にも仲間が居るとは思わなかったよ」

 警察手帳を取り出して、楽しそうに床に投げ捨てて、制服姿の警官の頭を持って、床に置かれた警察手帳に顔面を打ち付ける。
 鼻血がでるが、構わずに何度も何度も打ち付ける。警官は抵抗をするが、

 男は、衰弱している男を殴りつける。
 拳から血が出てきているが気にする様子を見せない。復讐の為に拉致を繰り返して、20年前の事件の首謀者を追い詰めた。そして、最後の一人を拘束してきた。

「まさか君が主犯だったとは思わなかったよ」

 転がされている男の髪の毛を持ち上げて、頬を蹴り上げる。

「娘の恋人の君が・・・。残念だよ。まさし君」

 まさしと呼ばれた男は、必死に何かを訴えているが、口枷が邪魔で言葉にならない。

 まさしと呼んだ男の眉間に、黒く光る冷たい銃口を押し付けた。

 今まで、喚いていたまさしだが”殺される”恐怖が襲い始める。
 言葉は既に何も意味を為さない。

 まさしを壁に寄りかかるように座らせる。
 他の4人を椅子に座らせる。しっかりと手の届く範囲に来るように調整をしてから、まさしの顔を思いっきり踏みつけるように蹴る。

 首に細いワイヤーを巻き付ける。最後の一人であるまさしも椅子に座らせる。
 全員の首にワイヤーを巻き付けてから、天井に取り付けられている滑車にワイヤーを通す。
 ワイヤーには重りが付けられている。

 重りは、5人の中心の上下するテーブルに置かれる。重りを置けば、テーブルが下がる。テーブルが下がれば、自然と5人の首が絞まる形になる。
 ワイヤーは、別々になっている。ワイヤーの切断に成功すれば、首が絞まることはない。

 銃口をまさしに向けながら引き金を引いた。

 破裂音が鳴り響いた。

「安心しなさい。殺しはしない。私は、君たちとは違う」

 所謂リボルバーと言われるものだ。6発の銃弾が入っている。男が空砲を撃ったので、残りは5発。

 男は、銃を中央のテーブルに置いた。銃の重さで少しだけテーブルが下がる。

「そうだ。解っていると思うけど、助けは期待しないほうがいい」

「ん?あぁまさし君には説明をしていなかったね。ドアと窓には・・・」

 男は、朗々と仕掛けを語った。

 そして、持ってきたカバンからビデオカメラとパソコンを取り出す。男は、パソコンを起動してビデオカメラを設置する。

「大丈夫ですよ。君たちの告白を録画するだけですからね」

 そういって、男はトンカチとペンチを持ち出した。

「最初は、そうですね。妻を凌辱した貴方からにしましょうか」

 一人の男は青い顔をさらに青くして、首を横に振り続ける。

「そんなに喜んでくれると嬉しいですよ。ほら、首を下げると、貴方の重りが宙に浮いて、首が絞まりますよ」

 楽しそうな男の声だけが部屋の中に響いている。
 持っていたペンチで、嫌がる左手の小指の爪を挟み力いっぱいに握り込む。

 男の絶叫が部屋に響き渡る。

「気を失うのはまだ早いですよ。あぁそうだ言い忘れましたが、まさし君以外には痛覚が鈍くなる薬を飲ませてありますよ。それと、気付けの薬も大量に仕込んでいるので、なかなか気を失わないはずですよ。まずは左手を潰しましょう」

 男は、爪を切るように左手の指を潰していく

「どうしました?」

 必死に何かを訴えている。口枷があるので、言葉にならない。

「そうでした。忘れていました。口枷を外しましょう」

「やめ、て、くだ、さい。お、れは、たの、まれ、た、すけて」

「ははは。助ける?私の妻は、貴方に犯されたのですよ?」

「ち、がう。お、れ」「いいえ、貴方です。そうですよね」

 男が、他の4人を見ると、皆が首を縦に振っている。必死だ。

「それに、別に違っていても構いません。どうせ、残りも話を聞くのですから、楽しみましょう。そうだ。警察官が居るので、言っておきますが、私は昨日、ガン宣告を受けて、延命治療を断った。痛みを和らげる薬だけを貰っています。そうです。貴方たちが、横流しをしている物と同じ覚せい剤です。さすがに、医療用なので合法ですが、法律は便利ですね。私は、覚せい剤で夢と現実の区分ができないことになっています。その為に、この場と同じ内容の小説を書いてあります」

 男は楽しそうに、口枷を外した男の左手をハンマーで叩く.骨の折れる音や肉片が周りに飛び散る。

「さて、次は娘を犯してくれた者ですが、全員なので順番は難しいですね。まぁいいでしょう。まさし君は、最後にしておきましょう。そうなると、時計回りにした方がよさそうですね」

 左手を潰された男の左側の男が、身を捩って逃げようとするが、身体を逃がそうとすればワイヤーが首に食い込む。
 逃げられるはずがない。

「あぁ君は、左利きでしたね。右手を潰しましょう。大丈夫ですよ。順番に潰してあげます」

 首を横に振るが、男は構わずに椅子に足を固定してから、右手の爪を潰してから、ハンマーで右手を打ち付ける。

 ぐちゃぐちゃにした右手から流れる血を止める為に、右腕の血管を紐で絞める。

 まさしを除く5人の男の利き手ではない手を潰した。

「まさし君は違った趣向にしようとおもっています。君だけは特別な存在ですからね。大丈夫ですよ」

 男は、まさしの足も椅子に固定する。
 拘束してから、取り出したのは5寸釘だ。

 足の甲に釘の先を当てて、ハンマーを振り下ろす。

 口枷を嵌めた状態での絶叫だが、はっきりと解る。

 合計10本の五寸釘で足を床に縫い付ける。

「痛かったですか?娘は、もっと痛くて、悔しくて、哀しくて・・・。貴方は、よく平気でしたね」

 男は、カバンの中から何かの溶液が入った注射器を取り出す。

「これですか?安心してください。毒ではないです。ただの麻酔薬です。部分麻酔の時に使う物です。まさし君を殺さないように、一生懸命に勉強したので大丈夫です。下半身の痛みを感じなくなりますよ。足の痛みも無くなると思います」

 男は、部分麻酔をまさしに施す。
 もちろん、今までまさしのグループの人間を使って実験を繰り返している。

 麻酔が効いてきたことを確認して、まさしの足をハンマーで叩いてぐちゃぐちゃにする。
 そのあとで、ハンマーで股間を殴打する。何かが潰れる音と、血と混じった物が足下に貯まり始める。

「さて、準備が出来た」

 男は、外に出てから、数分で戻ってきた。
 男たちが座っている椅子の下に30cmくらいの箱を置いていき、そこからひも状の物を伸ばした。

 鼻歌でも謳いだしそうな機嫌の良さで、男は作業をしている。
 男に急ぐ必要はない。

「よし。椅子の下には、火薬を仕込んだ箱を置いた。まさし君以外は、足の拘束を解けば逃げられるだろう。まさし君は、麻酔が切れた状態で、足の釘を抜けば逃げられるかもしれないけど、その足では難しいだろうね」

 男たちは、虫の息だ。
 男の言葉に耳を傾けるしかない。

「さて、君たちと違って、君たちにも生き残るチャンスをあげよう。最後のチャンスだと思ってくれていい」

 男は、持っていた拳銃をテーブルに置いた。

「銃弾は5発。誰かを上手く殺せば、椅子が倒れる。一人分の重りが浮いて、ワイヤーに余裕が産まれる。二人殺せば?三人殺せば?四人殺せば?後は解るよね?」

 男は楽しそうに、男たちに小型マイクを取り付ける。ワイヤーに巻きつけるような形にしている。

「準備は整った。まずは、パソコンで録画を開始する。インターネット上に保存して、パソコンからの応答が獲られなくなったら、動画をインターネット上に公開する」

「録画が開始されたら、ろうそくに火を灯すよ。2時間程度で、導火線に火が付くと思う。それからは早いよ。出来れば、導火線が燃え始める前に脱出するようにしてください」

「そうだ。言い忘れました。20年前に、私の妻と娘にしたことを告白してくれたら、助けてあげますよ。もちろん、誰かに罪を被せてもいいですよ」

 男は、そう言って、パソコンの横に置いてあった椅子に腰を降ろした。

「私の、最後のゲームを開始します」

 録画を開始した。ろうそくも燃え始める。口枷を外した男たちは、絶え絶えの口調で、罪の告白と擦り付けを始めた。
 男への暴言も含まれているが、意味がないことは本人たちが解っている。

 男は、椅子に座って、男たちの醜い抵抗を眺めている。
 昼のドラマでも見ている雰囲気だ。

 1時間が経過した。
 男たちは、拳銃に手を伸ばさない。手を伸ばして拳銃が握れれば、生き残れる可能性は高い。しかし、握れなかったら、最初に殺されるのは自分だと思っている。牽制しあって拳銃に手が伸ばせない。

「あと、15分」

 4回の音が部屋に響いた。

 銃は、まさしの手にある。

 残りの銃弾は1発。

 最後の銃弾は・・・。
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