ちょっとだけ切ない短編集

北きつね

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【僕の選んだ道】君が居てくれたら

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 何度この道を歩いたのだろう。
 最初に歩いたときは、君に会うためにこの道を選んだ。

 君は、道の途中で僕を待っていてくれた。

 僕と一緒に、君の家まで歩いたね。
 楽しかったよ。

 道端に咲いている花の一輪一輪が僕たちを祝福してくれているようだった。

 君が居れば良かった。
 君と歩く道が好きだった。

 君が居なくなってしまった道は寂しい。
 君を消してしまった者たちが憎い。

 君が行方不明になったと聞いて、楽しく輝いていた道を君の家まで急いだ。
 道端に咲いている花を見る余裕もなかった。

 君が無残な姿で帰ってきたのは2か月後だった。
 僕は、知らせを聞いて、君と歩いた道を一歩一歩・・・。重い足取りで歩いた。
 道端に咲いている色とりどりの花が、白黒に塗りつぶされてしまった。僕には、花の色が解らない。花の種類が解らない。君が居たから輝いていた花たちが同じように見える。

 今は、花たちが僕を祝福してくれている。
 君が消えてから、何度も何度も何度も何度も何度も何度も・・・。歩いた道だ。身体が、頭が、心が、足が、五感の全てが君を求めている。

 僕は、もう振り向かない。
 まっすぐに、僕は、僕が選んだ道を進む。他の道もあっただろう。でも、僕には、この道しか見えなかった。

 ゴメン。
 君が辿った道を辿ることはできない。先に謝っておく・・・。僕は、君が居れば、それだけで良かった。君は僕の全てだった。君が帰ってきた日に決めた。僕は、君とは違う道を選ぶ。君のご両親と祖父母と妹さんの涙を見てしまった。僕に縋って、”なぜ君と一緒に居なかった”と叩かれた胸が痛む。

 僕は、君が待っていた場所で君が来るのを待つ。
 道は既に分かれてしまった。僕たちが交わることが出来るのは、この場所だと思っている。

 疲れたよ。
 10年。君が戻ってきてから、10年も経ってしまった。

 君をそちらの道に落とした奴らを見つけるのに・・・。
 大丈夫。安心して、アイツらは、君と同じ道を歩かせない。

 君のご家族が感じた以上の苦しみを彼らに与える。

 君と僕の道を穢した彼らを許す必要はない。
 でも、僕にも慈悲はある。
 彼らには、”生”を自分の意思で終わらせるだけの慈悲をあげよう。そう、彼らには自分で道を選ぶ権利を与える。なんて、僕は慈悲深い人間だ。彼等は、君に、”道を選ぶ権利”を与えなかった。黄泉に続く道に叩き落した。そんな彼等を、僕は”道を選ぶ権利”を与えるのだ、慈悲深いだろう。

 彼らの告白もしっかりと保存しておこう。
 君は知らないだろうけど、10年で世の中は変わったよ。

 ネットがマスコミに変って情報を伝達してくれる。彼らの告白の真偽は、僕には関係がない。僕が望むのは、君だけだ。

 最後の仕上げをしよう。
 彼らの告白を動画にして、いろいろなサイトに流そう。

 足の指は必要ないよね。どうせ自分では立って歩けないのだから、切り落としてあげる。
 手の指も10本もいらないよね。あまり使っていないようだし、無くてもいいよね。
 腱を切り裂いて修復が出来ない状況にしておいても平気だろう。君たちには、匿ってくれた家族がいる。
 目も片目が有れば十分だろう。どうせ見ても何も感じないのだよね。
 どうせ人の話を聞いていないのだろう。耳も必要ないよね。

 そんなに慌てないで順番だよ。順番。誰が主犯格なのか僕には関係ない。君たちに序列は必要ない。僕が決めた順番があるだけだ。
 僕に医学的な知識があればもう少しうまく縫えるのだろうけど、後が残ってしまうだろうね。頬を切り裂いて縫い合わせよう。君たちの手をお互いに縫い合わせておくよ。大丈夫。腐って落ちる前に、君たちの優しくて優秀な家族が見つけてくれるよ。

 煩いから口を縫い付けようか?
 そうそう、黙っていてくれたら嬉しいよ。手元が狂って、針を突きさす回数も減るだろうね。

 狂っている?
 そう?君たちにはそう見えるのだね。そう思うのは、君たちが正常だと思い込んでいるからだよ。僕は、君たちの鏡に映った状態だよ。君たちが歩いた道の先に僕が居るだけだ。

 そうだ!大事な事を忘れていたよ。
 股間にある物も切り落とそう。順番に、君たちに食べさせてあげるよ。隣の人の股間を切り落として、口に入れてあげる。食べきった人から解放してあげるよ。僕は、慈悲深い人間だからね。

 そんなに怯えないでよ。僕は、君たちみたいに殺した後で、バラバラにして海に投げたりしないよ。
 大丈夫。殺してはいない。

 君は、祖父母に会えただろうか?
 君の祖父母は、君に会うための道を選んだ。君の両親は、妹さんが君と同じ場所に旅立った後に、君と妹さんを追う道を選んだ。

 君に会うために歩いた道の先には、君が居ない。君だけではなく、君の話ができる人たちも居ない。

 全て、目の前に居る5人の責任だ。

 僕は、神ではない。君たちを許す立場には居ない。だから、僕に謝られても困る。
 それに、僕は、君たちを殺したりしない。そんな簡単な道に進ませるわけがない。

 君たちは、これから長い長い一生をしっかりと道を選びながら・・・。選ぶ道は少なくなっているだろうが、道を歩いてほしい。

 僕は、もう道を選ぶのも、道を探すのも、道を歩くのも、疲れてしまった。

 君の家に続く道
 僕は、君に会うためにこの道を歩いた。
 途中で待っていてくれる君を見つけて微笑んだ。

 君と一緒に歩いた道。
 僕は君が待っていてくれた場所で眠ることにするよ。

 道が違えてしまったけど・・・。
 僕は君を愛しているよ。今でも・・・。
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