51 / 58
【君はいつも公園で】公園のベンチで
しおりを挟む今日も、残業で遅くなった。
最寄り駅は地下三階に改札がある。部屋を借りる時には、気にしなかったのだが、今は少しだけ後悔している。確かに、エレベータやエスカレータの設置はされている。しかし、商店街方面だけだ。俺が住んでいるマンションに近い出口は、階段で地下三階から上がらなければならない。
疲れた身体には、地下三階から地上にあがるのだけでも疲れてしまう。
しかし・・・。今日は、まだましだ。
店が空いている時間に帰ることが出来た。店と言っても、飲み屋だ。食事を摂る雰囲気ではない。
しょうがないので、今日もいつもの弁当屋で何か買って・・・。残っているのは、限られているが・・・。
「いらっしゃい。今日は、珍しく唐揚げ弁当がありますよ」
店主とも店員とも顔見知りだ。
町ですれ違えば挨拶をするくらいには・・・。
店員のおすすめに従って、唐揚げ弁当を購入する。
「あと、”いつもの”ある?」
「ありますよ。一つでいいですか?」
”いつもの”
追加のおかずだ。白身の魚に塩を振らないで皮目をパリパリになるまで焼いた物だ。この焼き魚は凄く美味しい。塩を使っていないと言っているのだが、魚の味を感じられて、俺の好物の一つだ。
ご飯は、もちろんの様に大盛りにしてもらっている。
これだけ贅沢な弁当なのに600円で買えるのは脅威だ。
おつりを受け取って、店を出る。この店が無ければ、コンビニ飯の毎日になる。終電がなくなるまで開いている奇特な弁当屋だ。
俺が借りている部屋は、大きな自然公園を抜けるのが近道だ。
この時間の公園には誰も居ない。
寝る為に部屋に帰る。誰も居ない部屋で弁当を広げて食べて風呂に入って寝る。
部屋で弁当を食べるのも、公園のベンチで弁当を食べるのも同じだ。同じ一人だ。どこで食べても同じなら公園で食べる。
大学を卒業して10年。
仕事を頑張っていれば、出会いがあると信じていた。大学の時の彼女とは卒業後に自然消滅した。
ブラック企業だとは思わない。
残業代も、休日出勤の手当も、その他の手当もしっかりと出ている。
いつものベンチが見えてきた。
今日は、先客は居ないようだ。
弁当をベンチに置いて、自動販売機で買った缶コーヒーを開ける。
プルタブを開ける音だけが静かな公園に響いた。
ここ1年くらいは、雨の日以外は、ベンチで夕飯を食べている。
1年くらい前によく見かけていた奴に会える可能性を信じて・・・。
今日も、居ない。
また会えたら・・・。
缶コーヒーに口をつけて、弁当を広げる。
”唐揚げ弁当”と”メンチカツ弁当”が、個人的な幻の弁当だ。遅い時間には既に売り切れていることが多い。
揚げ物は、火を落としてしまうと、追加で作る事が難しい。なので、俺が買える事が少ない。いつもは、”焼肉(牛)弁当”か”焼肉(豚)弁当”か”焼肉(鳥)弁当”か”野菜焼き弁当”か”焼き魚弁当”になる。それでも弁当が残っている時は幸運だと思っている。最悪は、おにぎりとカップの味噌汁になることもある。
弁当から、唐揚げを取り出して、口に放り込む。
冷えているが凄く美味しい。ご飯は、その場で入れてくれるので温かい。ご飯の温かさが独りを癒してくれる。ご飯の温かさが唐揚げに移って少しだけ幸せな気分になれる。
弁当の蓋に、追加で買った”焼き魚”を置いて解して食べる。好みの味だ。
弁当を半分くらい食べた所で、珈琲の残りを飲む。
弁当に珈琲は合わないという人も居るが、俺はなんとなく気に入っている。珈琲を飲み終わってから、今度は水のペットボトルの封を切る。会社から持ってきたものだ。
なぜか、会社では水が貰える。残業していると、自販機の水が無料になる。福利厚生だと言っていたが、もっと違う物に・・・。いや、水だけでも助かる。
ペットボトルに口をつけて水を飲む。
俺は何をしているのだろう・・・。
上を見上げれば、木々の隙間から星空が見える。
都会と言われる場所だが、周りに明りが少ないと綺麗に星空が見える。
ベンチに背中を預けて、星空を見ている。
手が届かないと解っていても、取れそうな気になってしまう。
いろいろな物と同じだ。
幸せは転がっている。女神の後ろ髪を捕まえた者だけが幸せになれる。俺には、伸ばすべき手が無かったのかもしれない。
弁当を食べて、帰ろう。
ん?
弁当の蓋に置いていた魚が無くなっている。
気が付かない間に全部を食べてしまったのか?
”にゃ!にゃ!にゃ!”
!!
ベンチの下から声が聞こえた。
「やぁまた会えたね。君に会うために、このベンチ・・・」
しゃがんでベンチの下を覗き込む。
今日は逃げない?
前には、この段階で逃げられてしまっていた。
”にゃにゃにゃ”
どうした?
食べ終わった容器に水を入れて、置いてやる。
俺の顔をじっと見てから、水を飲み始めた。
1年くらい前は子猫だったのに、ここまで大きくなるのか?
君は、雨の日にベンチの下で震えていた。
助けようにも逃げられてしまった。
それから、何度も君を見かけた。
俺が好きな焼き魚は、君も好きなようで、ベンチに半分だけ残しておくと、出てきて食べていく・・・。
姿を見なくなってから1年。
君がどこで何をしていたのか解らない。
でも、俺は次に会えたら決めていた。
「俺の所に来るか?お前も独りなのだろう?」
”にゃ”
俺が差し出した手を舐めてくれる。
1年以上経っているのに覚えていたのか?
違うよな?
美味しい物をくれた人へのお礼なのだろうか?
「触るぞ?」
手を広げると、自分から身体を押し付けて来る。
汚れていると思っていたけど、毛並みや柔らかい。
「いいのか?」
”にゃぁぁ”
手に身体を押し付ける。
反対の手で、猫を抱きかかえる。
”にゃぁぁ”
よかった。
しっかりと抱きかかえられた。
借りている部屋は、ペットOKだ。
弁当を片づけて、部屋に急いだ。
猫の気分が変わらない間に、部屋に連れて行こう。
まずは、シャンプーだな。猫用のシャンプーなんて置いていない。近所のコンビニで売っているかな?
でも、嫌がるかな?
明日は、会社を休もう。
旧友に会えた翌日くらい・・・。休んでもいいだろう。年休の消化もしなければならない。
それに、動物病院にも連れて行きたい。ペットショップで必要な物を買おう。
やることが沢山ある!
また会えた。
こんなに嬉しいとは思わなかった。
そうだ!
名前を決めないと!
俺たちが・・・。
「お前の名前は、”よぞら”だ。よぞら。これから、俺がお前の家族だ」
”にゃ!”
嬉しそうに鳴いてくれた。
涙が出るくらい嬉しい。
会社にメールして、起きたら電話して、休暇を申請しよう。最悪でも午前中は休みにしてもらおう。
忙しい。
忙しいけど・・・。
”にゃ!?”
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる