チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

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第五章 マヤとミル

第五話 眷属

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 ミルは目を覚まさない。魔法陣が消えれば、”起き出す”と言われた。原因は、わかっている。マヤが怒っているのだろう。
 心臓は動いている。血色もいい。明日ではなく、今にも起きそうだ。

 でも、ミルは起きてこない。

”マスター”

 誰かが呼んでいる。

「ロルフ?」

”いえ、ロルフ様は、ヒューマと外に出ています”

「外?なにか有ったの?」

”いえ、定時の見回りです。それと、眷属に接触があった者を向かい入れるための準備をしています”

「ん?あぁロルフがなんか言っていたな・・・」

 確か、4-5日前にアイルスコル(狼)の眷属に接触してきた魔物が居るようだ。
 大物で、先代との繋がりは無いと言っていた。ロルフが確認して、目的を聞いてくると言っていた。それが、今日だったようだ。

 ミルが眠ってから、日付の感覚が一切なくなっている。
 自分が起きているのか、夢を見ているのかさえもわからない。死んではいないようだ。

”マスター。お食事の準備ができています”

「食欲がない。食べていいよ。もう少しだけミルと一緒に居る」

”マスター。昨日もお食べになっていません”

「そう?大丈夫だよ」

”マスター。お願いです。我らの為にも食べてください。スープを一口でも、飲んでいただけたら・・・”

「・・・。うん。わかった。ありがとう」

”いえ、私のわがままをお聞きいれ頂きありがとうございます。こちらです”

 ジャッロオークの案内で、部屋を出る。
 綺麗に掃除が行われた神殿の姿が目に映る。そこには、眷属になっている者たちが掃除をしている姿があった。

 俺の姿を見ると、皆が手を止めて駆け寄ってくる。
 そして、口々に感謝の言葉を告げている。

 止めてくれ・・・。俺は・・・。自分のために、神殿を使っているだけだ。

”マスター。俺たちだけでなく、眷属になった者たちは、強い種族もいましたが、日々死と隣り合わせでした”

「・・・」

”マスターは、俺たちに、警戒しないでも寝られる場所と、清潔な寝床と、そして安心出来る仲間を与えてくれたのです”

「・・・」

”マスター。俺は・・・。いや、私たちは、自分自身とマスターがいれば・・・。だから、お願いです。ご自身を・・・”

「・・・」

 目の前に出されたスープはお世辞にも美味しそうに思えなかった。
 野菜や肉が入っているが、形も不揃いだ。でも、カップを持ち上げると、湯気が顔にかかる。懐かしい匂いがした。母さんが、居ないときに父さんが作ってくれた。味噌が入っていない。出汁も適当な味噌汁もどきのような匂いだ。父さんと弟と一緒に笑いながら食べた。

 カップに口をつけて、スープを飲み込む。
 美味しくない。美味しくないけど・・・。すごく、美味しい。

”マスター!”

「え?」

 ジャッロが慌てる。
 わからないが、涙が流れている。俺は泣いているのか?

 気がついたら、スープを飲み干していた。
 心が温かくなった。肉は、硬かった。野菜は不揃いで、柔らかいところもあれば硬いところもあった。でも、俺がスープを飲んでいるのを、眷属たちが見て喜んでいる。それだけで、心が温かくなってくる。

「ジャッロ。ありがとう。明日からも、食事を頼むよ」

”はい!マスター。ヴェルデゴブリンに直接、お声がけいただけないでしょうか?”

「わかった。厨房にいるのか?」

”はい。先代様が残された、レシピ帳を見ながら頑張っています”

「そうか・・・。ん?レシピ帳?」

”はい。ロルフ様が、マスターには人族の食事が必要だと・・・。それで、私たちの食べ物ではなく、マスター用の食事を作らなければと思い。オーク族とゴブリン族とコボルト族で手分けして探しました”

 俺が、ミルの側にいる間に、眷属同士で話し合いを行ったようだ。
 オーク種が、内部の警備を行う。
 ゴブリン種が、内部の維持を行う。手先が器用な者が多いために、神殿の修繕を行っている。ただ知識が無いために、魔道具の修復ができないようだ。そのために、出入りできない部屋や区画があるらしい。
 コボルト種も、ゴブリン種と同じだが、ゴミの処理を行ったり、大まかな掃除を行ったり、神殿に居たスライムや魔蟲を始末している。

 神殿内部は、二足歩行が出来る魔物で住む場所が限定されない者たちが行うと決めたようだ。
 それには、もう一つの側面があり、ドラゴニュートに進化したヒューマたちは進化前でも、かなり強い種族だった、アウレイアやアイルも同じだ。そのために、神殿ではなく、転移門を守る役割だ。他にも、散らばっている、初代の眷属や意識有る魔物たちに話をつけに外での活動を行っている。

 リデルたちだけが、特殊な位置だ。進化した個体の一部が、長距離の念話が出来るようになっている。リデルたちは、同種族なら距離に関係なく念話が通じるのだ。そのために、外に出ているヒューマたちやアウレイアたちやアイルたちに、最低1体がついていって、情報の交換を行っている。リデルから、話を聞いたジャッロの説明では、リデルたちの念話は上位者である俺には繋げられるようになっているようだ。試していないので、距離の問題がどうなっているのかはわからない。だが、情報は強力な武器になる。護衛も一緒なので、ある程度は安心出来る。
 長距離の念話ができない者たちも、短距離(と言っても、通常の念話の10倍以上の距離らしい)は可能なので、マガラ神殿の周囲で警戒をおこなっている。

「わかった。皆には、迷惑をかけたな」

”マスター。それは、違います。私たちが・・・”

「ありがとう。それにしても、ロルフはいつくらいに戻ってくる?」

”夕刻にはお戻りです”

「わかった。その前に、ヴェルデに会いに行こう」

”はい!”

 ジャッロが嬉しそうに立ち上がって、部屋の外に出る。
 厨房がどこにあるのかわからなかった。そんな施設があるのかと思ったが、違った。

「・・・。ジャッロ?本当に、ここで?」

”はい”

 神殿の中でも異彩を放っている場所だ。
 何に使っていたのか解らないが、神殿の外にあるような洞窟になっている。中は、10メートル程度で行き止まりになる。ジャッロが示したのは、その洞窟の中だ。

 洞窟から、音が聞こえているから、中に誰かが居るのだろう。

「ヴェルデ」

 洞窟の入り口から呼びかけてみる。
 返事が聞こえる。ジャッロと違って、ヴェルデは普通に言葉を発している。念話が使えるのはわかっている。俺の念話のリストにヴェルデも乗っている。

「マスター!!」

 跪こうとしたので、立たせた。

「ヴェルデ。ここで、料理をしているのか?」

「あっ・・・。はい」

「確か、神殿の宿らしき場所に、厨房が有っただろう?」

「・・・。はい・・・。マスター。人族のサイズで作られていて、僕たちには使えません」

 そうだ!
 ゴブリンは、進化しても、小学4-5年生くらいだ。大人のサイズで作られた厨房だと使いにくいだろう。

「そうか、悪かった。サイズの調整を行おう」

「え?あっ。それもですが、私たちでは、魔力が少なくて・・・。長時間の利用ができなくて・・・。こちらで、ヒューマたちが持ってくる木を燃やして・・・」

 ロルフに相談だな。
 厨房を新しく作る。そして、料理を教えないと、味のないスープを飲むことになる。調味料を探せば、味の幅も広がる。

「ヴェルデ。しばらくは、ここで頑張ってくれ、ロルフが帰ってきたら、お前たちに使える厨房を作る。俺に、お前たちが作った料理を食べさせてくれ」

「はい!はい!マスター。わからない事が多いのですが、がんばります!」

「うん。料理は、俺も苦手だけど、教えられることもあるだろうから、聞いてくれ、今度、一緒に料理を作ろう。基礎的なことしかできないが、いいか?」

「もちろんです!よろしくお願いします」

 ヴェルデだけではなく、ジャッロも喜んでいる。
 まだ、何かができたわけではないが、眷属たちが喜んでいるのは伝わってくる。

 俺は、必要とされているのか?
 マヤ。ミル。俺は、眷属たちと一緒に居ていいのか?
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