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第八章 王都と契約
第十七話 契約
しおりを挟むブロッホはブラックドラゴンで、他のドラゴン族とは感性が違うとは言っていたのだが、俺の所に来てからはドラゴンの姿になっていない。人の姿で、食事をするのが楽しいと言っていたので、無暗に力を使う事はないと思っている。
二人を見ると落ち着いてはいないが、話ができる状態だと思う。
やっと契約の話が切り出せる。二人の様子をみると、契約が必要になるとは・・・。思えない。契約は、ギルドのためには必要だけど、個人で考えれば必要ない。ミヤナック家や王家との話し合いの結果を契約として残す以上の意味はない。
「それで、ミヤナック家だけでいいのか?」
ハーコムレイを見ると、奥歯でアルミホイルを噛んだ時のような表情をしている。
ミヤナック家だけの訓練にしたいようだけど、ローザスが口を挟みそうだ。
「リン君。最初は、ミヤナック家が使えるようにしてくれる?」
ローザスが笑いながら提案してきた。ハーコムレイは、ローザスを睨みつけるが、口を出すつもりはないようだ。
現実的な提案だが、ローザスは?王家を守るための組織が・・・。近衛を鍛えなくていいのか?
「ん?いいのか?」
いろいろな意味を込めての”いいのか”だったが、ハーコムレイはローザスの言い出した話を不思議に思っていない。
何か取り決めがあるのか?
それとも、動かせない理由があるのか?
「個人が、正式に手続きをして、神殿に入るのは大丈夫だよね?」
神殿に来て、ギルドに登録して、神殿の施設を使うのを禁止したりしない。
神殿の利用には、制限を設けない。
ただし、ブラックリストは作成する。
ギルドとの取り決めだ。
細かい部分は、ギルドに任せる事になるが、神殿の裏側にさえ入らなければ、問題が発生したら”パージ”してしまえばいい。
ブラックリストに載せられたものは、通常の利用は出来ない。神殿を通過するだけで、サービスを受ける事は出来ない。ギルドと決めた事だが、まだ運用の方法を検討している。ロルフが提案した方法になると思っているが・・・。
「問題はない」
「その訓練ができる場所には、個人も使える?」
ローザスが何を考えているのか解らないが、ローザスの疑問には明確な答えが出せる。
それに、個人でギルドに登録する?
問題があるとしたら、犯罪者や奴隷を登録する行為だ。
それは、ギルドとも話し合って取り決めが行われている。
問題になったら、利用を取り消す。ギルドへの登録だけではなく、神殿の通過が出来ない。
「大丈夫だ。ギルドに登録をしてもらうことにはなるとは思うけど・・・。問題はない」
ギルドに登録が必要になる。
これは、元々決めていた。ギルドで、管理を行えば、大きな問題に発展した時でも対処が可能だ。それに、ギルドの運営には、ハーコムレイだけではなく、ローザスの名前が連なっている。
王家派閥の者なら、抑止力としては十分だろう。敵対派閥の人間なら、問題を起こした状況で、王家派閥に報告が到達してしまえば、敵対行為だと騒がれたら、最悪の場合は紛争に発展する。引き金は、自分が引きたくないだろう。
「それなら、ミヤナック家だけでいいよ。ハーレイ。いいよね?」
ローザスが、凄い笑顔で、ハーコムレイを見る。
何か考えがあるのだろう。
神殿が利用される立場なのはわかるが、具体的な方法がわからない。
解らない事を考えてみても仕方がない。ハーコムレイの表情からは何も読み取れない。
「はぁ・・・。近衛とか文句を言いそうだがいいのか?」
「近衛?あぁあんや奴らに配慮しなくていいよ」
ん?
近衛と何かあるのか?
近衛は、王家派閥で構成されているのでは?
「・・・。リン=フリークスが居るのだぞ?少しくらいは配慮を・・・」
ハーコムレイの反応からも、近衛は・・・。
そうか、前から感じていた違和感の正体は、これか!
ハーコムレイの護衛は居るが、ローザスの護衛は決まった人間が二人だけだ。最初は、ハーコムレイの・・・。ミヤナック家の護衛がついているから、ローザスが護衛を連れていないのかと思ったが、近衛が信頼できないから、護衛として連れてきていないのか?
もしかしたら、順番は逆なのかもしれないけど、近衛が信頼できないのは、今に始まったことではなさそうだ。
「はい。はい。でも、大丈夫だよ。ね。リン君」
「意味が解らないが、わかった。大丈夫だ」
何も気が付かなかった。
考えるだけなら大丈夫だろう。
だから、大丈夫だ。
自分で考えておきながら意味が解らない。
そうか・・・。近衛は敵になる可能性があるのか・・・。敵の敵も敵の可能性が出て来るのか・・・。面倒だな。
「リン=フリークス!」
「なんでしょうか?」
ハーコムレイは、気が付いたと考えたようだ。視線が厳しくなるが、一瞬で元に戻った。
俺を見てから、大きく息を吐き出してから、頭を軽く振った。
「はぁ・・・。お前は、悪い所だけ、ニノサ殿にそっくりだ」
正面を見てから、本当にろくでもない事を言いやがった。
ニノサに似ている?
俺が?
褒められたと感じないのは、今までのニノサの評判が悪いのだろう。俺が、悪いわけではない。いい父親ではあるけど・・・。
「それは、誉め言葉ではないですよね?」
ハーコムレイをしっかりと見ながら聞いてみた。
「それが解っているのなら、改めろ」
あぁ・・・。全部、言いやがった。少しは、配慮してもいいと思うのだけど・・・。
「何を”改め”たらいいのか、わかりませんが、わかりました。善処します」
「・・・。リン=フリークス。わざとやっているのか?」
「なんのことでしょうか?おっしゃっている意味がわかりません」
「はぁ・・・。まぁいい。それよりも、ミヤナック家として、神殿を使った訓練を申し込みたい」
ハーコムレイが残念な者を見るような視線で俺を見ているがきにしないことにした。
突っ込んだら負けだ。
ミヤナック家が神殿を使った訓練を申し込む。
立場の強化にも繋がる。それ以上に、ギルドの信用度に繋がる。
「そうですね。手続きの簡略化の為に、ルナ。ルアリーナ・フォン・ミヤナックに手続きを行ってもらいましょう。俺の承諾があれば、あとは事務手続きが必要になるだけで、その事務手続きを行うのがギルドです」
ルナと普段の呼び方をしたときのハーコムレイの目つきが怖かったから言い直した。
面倒な人だ。そもそも、ルアリーナはローザスの婚約者だろう?
俺が何かを言っても意味がないよな?
それとも、ローザスが拒否しているのか?
そんな雰囲気は出ていない。
契約は、俺が行えば終わりだけど、神殿の運営に関しては、ギルドに任せている。
事務手続きを行うのはギルドの役目だ。俺との契約があっても事務手続きが簡略化されるだけで、審査は受けてもらう。
「・・・。わかった。ルナと・・・。その為にも、神殿にいかなければならないのか?」
「そうですね。ルアリーナ嬢は、神殿のギルドで過ごしています」
神殿にはハーコムレイにも行ってもらう。
一度は、見ておいて欲しいと思う気持ちが強い。
これから、敵になるのか、味方で居てくれるのか?最悪でも、中立で居て欲しいと思う。ルアリーナの家族と争うのは避けたい。ルアリーナが敵になるのなら、それでも構わないが、家族と敵対する者を神殿から出したくはない。
俺の表情から、ハーコムレイも何かを感じたのだろう。
「リン=フリークス。大丈夫だ。俺たちがニノサ殿から受けた恩は・・・」
そこで言葉を切った。
ハーコムレイは、神妙な表情のまま、俺に向けていた視線をローザスの手元に向けた。
ローザスが何かを見つけたのだろう。書類の一枚を読み込んでいる。
何度も、何度も、上から下まで読み込んでいる姿は、今までにない真剣な表情だ。
ハーコムレイも、ローザスの仕草が気になったのだろう。
「殿下?何を・・・」
ローザスを見ると、難しい表情をしているように見える。
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