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第六章 ネット盗聴
第四話 報告書作成
しおりを挟む荷物の片付けを終えて、ユウキに声をかける。
「帰るぞ!」
「うん!」
帰ろうと席を立つと、塾の事務員が話しかけてきた。
報告を忘れていた。
「篠崎さん?」
「情報流出は、この端末を始末すればなくなると思います。留意する必要はありますが、大丈夫だと思います。後日、報告書を提出します」
「わかりました。お待ちしております」
「念の為に、明日もう一度調査をします」
「わかりました」
塾の問題はこれで片がつくだろう。
明日また来て野良基地局がないかを確認する事にする。
今日調べた限りでは大丈夫だとは思うが、盗聴犯が一人とは限らない。
ユウキも、そのまま俺の家に着いてきた。
どうやら今日もこっちで過ごすことにしたようだ。
「タクミ。お風呂もらうね」
「あぁ。俺は、解析を行って報告書を書くから、部屋に籠もる」
「わかった。お風呂から出たら、部屋に行くね」
「ん?別に来なくてもいいぞ?」
「ううん。そっちに行くね」
何を言ってもダメ事は経験で解っている。
「わかった」
一言だけ告げて、部屋に移動する。
まずは、ログの解析を行う。
目視では問題になりそうな箇所は見つからない。
念の為に、ログチェッカーを起動して、全部のログを機械的に分類する。マッチングリストを作って、安全だと思われるログを省いていくのだ。
短時間だったがかなりのログが収集出来ている。TCPだけではなく、UDPも取得しているのでログが多くなってしまうのは当然だな。流石に、DCCPやSCTPは必要ないだろうと思っている。今日はIPv6を無視するようにしたが、明日は念の為にIPv6もログを取得するようにしてみるか?
ツールがどんどんとログを吐き出していく。
甘く見ているわけではないが、特定ポートに対するアクションは全て安全だと思っていいだろう。
いくつかの怪しいログが見つかったが、同じ端末からのアクセスを見ると、単純にスマホの中に入れているアプリが悪さをしているのだろう。ログを元に情報を検索してみると、SPAM関連ではなく、キャリアのサービスを利用して居る時に記憶されるログのようだ。チャイルドロックに関するログらしかったので、マークはするが無視する事にした。
いくつかの端末が、SPAMアプリに汚染されているようなので、報告書に情報を添付して注意喚起してもらう事にしよう。
ログに関しては大丈夫そうだな。
「ねぇタクミ」
「!!」
「ユウキ?風呂から出たのか?」
「うん。かなり前からここにいるよ?」
「悪い。気が付かなかった」
「それはいいけど、ドライヤー使っていい?」
「あぁここじゃなくて洗面台の奴なら大丈夫だぞ」
「わかった。ありがとう!」
パタパタと部屋から出ていくユウキを見送った。
シャンプーの匂いだろうか?最近、ユウキが自分用のシャンプーを使うようになってきた。うちの風呂にも買ってきて置いてあるようだ。以前に、俺が好きだと言った匂いに似ているのだが、ユウキも気に入ったのだろうか?
ドライヤーも以前はこの部屋で使っていたけど、部屋の電源がヤバそうなので、オヤジが系統を分けた。契約関係も変更して、アンペアを増やして、作業部屋を独立させている。俺の部屋も独立させているが、オヤジが使っている作業部屋とは違うので、やはり作業部屋が欲しい。
下からドライヤーの音が聞こえる。
俺の部屋を見ても、ユウキの荷物が増えてきている。
ドライヤーの音が止んだ。そろそろ上がってくるかもしれない。
ログは明日また行って収集してから報告書に添付すればいい。
実際に問題は見つかっていないから、これ以上なにかあるとは思えない。
「タクミ!」
「どうした?」
「ん?お茶!」
「ん?さんきゅう」
急に、ユウキがコップを差し出してきた。
お茶と言っているが、正確にはマスカットティーだ。おふくろがどこかからもらってきたのだけど、大量にありすぎて消費するのに時間がかかりそうだったので、オヤジがアイスティーにしてしまった。濃い目に入れたマスカットティーを氷にしてウィスキーをロックで飲む時に使ったりしている。桜さんも喜んでいるから、美味しいのだろう。ユウキが手を出しそうになって、おふくろと美和さんに怒られていた。
「まだかかるの?」
「ん?解析?」
「そ」
「ログは終わったから、次は端末だな」
「そう・・・。わかった。おとなしくしているね」
「先に寝ていてもいいぞ?」
「ううん。見ている」
どこからか持ってきて、いつの間にか俺の部屋に置いてある人間をダメにするクッションの上に座って居る。
ユウキに見られているからって緊張する事はないが面白いのか少しだけ不安になる。
でも、仕事として受けているからやる事だけやってしまおう。
端末の熱も十分に冷めている。
SIMが刺さっていた。抜いてみると、雑誌の付録に付いていたSIMだ。こりゃぁダメかもしれない。
契約を辿れればいいのかもしれないけど、解約されていたらもうわからないだろう。
へぇ・・・。
SDカードが刺さる端末なのだな。珍しい。それで、WIFI機能付きのSDカードにして、それで構内のWIFIに繋いでいて、フリースポットとして使えるようにして居たのだな。独自のプログラムを入れないとダメだろうけど、ハックしたのだろうか?
何にせよ。
SIMやSDカードを外して、USBに繋いでから電源を入れてみるか・・・。
ケーブルは・・・。
「ユウキ。お前の後ろの棚にケーブルがあるから取ってくれ」
「どれ?」
「あぁタイプBのUSBケーブル」
「そんな事言われてもわからないよ」
まぁそりゃぁそうか・・・。
「あっ今、手に持っている奴でいい」
「これがそうなの?」
「お!ありがとう。これこれ!」
ユウキからケーブルを受け取って、机の上に出しているUSBのHUBに端末を接続する。
起動に時間がかかるな。
フリー端末じゃなかったようだな。大手通信メーカーのロゴが表示される。
端末も開発者モードになっているし、署名していないアプリの受け入れもするように設定されている。
さて、何が出るか楽しみだ!
接続した端末の中身の検索を行う。
アプリは殆ど入っていない。削除しているようだ。
アプリなのか?
ガジェットが作られている。
ネームスペースから、これがログの収集とメール送信をしていると考えて間違いなさそうだ。
そうか、ガジェットとしてWIFIの監視を行っている作りになっているのだな。リソースを大量に喰らうから、他のアプリが起動できなくなったりしていたのだな。それから、バージョンアップも止められているところを考えると、余計な通信をしたくなかったのだろう。
SIMが生きている?
解約をしていない?
別のフリーSIMの端末に刺してアクセスしてみると、まだアクセスできる事が確認できた。
どういう事だ?
1年近く維持していたのか?なんのために?
「タクミ!電話!」
「ん?」
ユウキが俺のバッグからスマホを取り出している。
バイブレーションにしていたので気が付かなかった。
「ありがとう」
ユウキから端末を受け取る。そろそろ、通話とメール専用の端末を用意しようかな。スマホも便利だけど、
オヤジからだ。
『どうだった?』
「スマホが一台隠されていて、テザリング設定になっていた」
『そうか、端末は?』
「持って返ってきた」
『アプリが入っているだろう。その解析はこっちでやる』
「わかった。作業部屋に置いておけばいい?」
『そうしてくれ。他にはなにか気がついた事はあるか?』
「そうだ。SIMが刺さっていた」
『SIM?使えないだろう?』
「いや、使えている。雑誌の付録で付いてきたやつ有っただろう?あれだと思う」
『ちょっとまて、あれはサービスが終了・・・あぁ終わってないな。月に一回以上アクセスすれば、110MBまで通信できるだったか?』
「そうなのか?」
『たしかな。調べないとダメだな。製造番号はわかるか?調べてみる』
「わかったメールしておく」
『今日は、俺も、沙菜も帰らないからな。桜も美和も用事があるとか言っていたぞ』
「わかった。報告書はどうする?」
『メールしておいてくれ』
「念の為、明日もログ取りにだけ行ってくる」
『・・・。そうだな。頼む』
電話を切る。
ユウキが起き上がって、椅子に手をかけていた。
「克己さん?」
「あぁ今日帰って来ないらしい」
「そう?僕、そろそろ眠くなってきたら寝るね」
「あぁわかった。そうだ。桜さんも美和さんも用事ででかけたみたいだぞ」
「え?そうなの?」
「オヤジが言っていた」
「・・・」
「いいよ。奥のベッドを使えよ」
「いいの?」
「あぁまだやる事があるし、眠くなったらソファーかそこで寝る」
「わかった。おやすみ」
「おやすみ」
ユウキが部屋の奥に設置している俺のベッドに潜り込んでいく。
最近特に多くなっている。誰も居ない時に寂しくなるのだろうか?
解析は、オヤジがやると言っていたけど、できる所はやっておこう。
少なくても、端末に関しての情報だけでも探っておきたい。犯人への手がかりの1つでも見つけられたらいいとは思う。
犯人が自分で作ったアプリなら、署名しないで入れる方法なんて沢山ありすぎて判断できない。
アプリをインストールする為のアカウントも削除されている。
キャリアに聞けばなにか情報がわかるかもしれないけど、中古で買った可能性もあるから無意味なのだろうな。
それにしてもSIMを殺さないで使い続けている意味がわからない。
熱暴走なのか、端末が古くて一定期間で再起動がかかるのかわからないが、定期的に再起動がかかっているようだ。
端末の動作ログにも再起動時のログが書き込まれている。
開発モードで全部のログを取っているのか・・・。
通話ログを見ると、定期的にSIMからのアクセスが確認出来ている。
ログの収集を行って、定期的・・・。2週間に一度程度の割合で、メールを送信するという感じになっているのか?
考えているな。
確かにこれなら、110MBを超える事は考えにくい。その上、1ヶ月に数回のアクセスが見込めるから、アカウントが切られる心配もなしという事か・・・。
そうか、それだけじゃなくて、SIMからの通信だから、構内LANのログにも残らないで送信する事ができる。
実際の犯人探しは、俺のやるではない。それに、俺にはSIMの情報から利用者を特定する事が出来ない。美和さんか未来さんに頼めばできるかもしれないが、依頼料が発生するし、犯人を見つけた所で、俺の報酬がアップするわけではない。
手口の特定と、構内の安全が確保されるまでが俺の仕事だ。
手口は、簡単だった。
問題は、中に入っていたアプリだが、解析はオヤジが行うのだろう。悔しいけど、俺ではまだ解析は出来ない。できるかもしれないが、時間がかかってしまう。
報告書は、状況の説明と発見場所と発見のプロセスをまとめるだけで良さそうだ。
ベッドを見ると、ユウキが寝息を立てている。
腹出して・・・。風邪引いても知らないぞ?
ユウキに毛布をかけてから、書類のまとめに入る。
まとめると言っても書類にするだけなので、それほど手間ではない。
解析の結果だけじゃなくて、過程も一緒につけておく。
残された謎は、どうやって本棚の隙間に落としたのかだが、それは犯人がわかればオヤジたちが聞き出すだろう。
よし。
大筋はまとめられた。
背もたれに思いっきり寄りかかって伸びをする。声が少し漏れてしまう。疲れているわけではないが、身体が硬直していたようだ。関節から音が聞こえる。
「あれ?まだ起きているの?」
「おっ悪い。起こしたか?」
「ううん。喉が渇いて起きちゃった」
「そうか、俺も一通り終わったから、一緒にお茶でも飲むか?」
「うん!」
二人でキッチンに降りた。
誰も居ない家だが、オヤジの魔改造で、人が通ると灯りが点く仕組みになっている。一部の部屋では、RFIDの素子を持っていないと鍵が開けられない仕組みも入れられている。ここまでする意味がわからないのだが、オヤジは一言『楽しいだろう?』と説明にならない説明をした。本当は、生体認証を入れたいようだが、RFIDのような簡易な生体認証がないので、まだ導入できないでいる。この前、某OS会社のクラウド上で発表された顔認証システムはかなり融通が利くようなので、実験がてら作ってみると言っていた。
「また寝るだろう?」
「うん」
「ホットミルクのハチミツ入りでいいか?」
「うん!ありがとう。ハチミツは少しでいいよ」
ハチミツはいらないと言わない辺りがユウキだな。
ティースプーン1杯のハチミツでも味がかなり変わる。
俺は、おふくろが買ってきていたアッサムティーが有ったので、アッサムティーのハチミツ入りにした。
「ほら」
「ありがとう」
二人なのだから、正面に座ればいいのに・・・
「ん?」
お揃いになるように買ってきていたカップをユウキが持ってソファーに移動する。
「タクミ!」
「あぁそうだな」
ソファーに移動する。
なにか見たいTVでも有ったのだろう。ソファーに移動して腰をおろした。
ユウキの隣に座って、TVのリモコンを操作する。
HDMIが3系統あるTVで、3系統の1つは4入力のマルチピュアーが付いている。
「なにか見るのか?」
「ううん」
「そうか?」
「うん」
結局、ユウキは俺の隣に座って、ただミルクを飲んでいる。
飲み終わったのか、コップをテーブルに置いて、俺を少しだけ見てから、コテッと頭を俺の肩に乗せて寝始めた。ソファーに足を揃えて載せているから、このまま寝るつもりなのだろう。俺も、温かい紅茶を飲んだら眠くなってきた。
最後に報告書を読んでから寝ることにしよう。
ユウキを起こすのも面倒だし、端末もあるし、文章も参照できる。このまま、文章だけ読んで・・・。ユウキに、毛布をかけないと・・・。もう少しこのままでいいか・・・。寝息が聞こえてきてから、横にすればいいよな。膝枕になるけど、別に構わないだろう・・・。
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