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第十章 エルフの里
第十七話 ラフネス
しおりを挟む遮音の結界が発動した。
長老は、何かを探している。目線が、ボイスレコーダーで止まる。もしかしたら、遮音の力で、ボイスレコーダーが無効になっていると期待しているのか?原理が解らなければ、無効になると考えても不思議ではない。
遮音の結界だけではなく、物理攻撃を弾く結界も発動しているようだ。外部からの攻撃を警戒しているのか?気が付かないフリをしておいた方がよさそうだ。何か、進展があったのだろう。
俺が考えるのもおかしな話だけど、もう少し腹芸とか学んだ方がいいと思うぞ?商人に騙されまくって、終わってしまうぞ?
どうだ、商人に騙された愚か者が、この問題の発端だったな。
「それで?話はまとまったのか?」
軽いジャブのつもりなのに、いきなりクリティカルヒットしてしまったか?
「くっ」
「まとまっていないのなら、何しに来た?譲歩を期待するのは間違っているぞ?」
まとまっていないのに来たとは、考えられない。
そこまで、愚かなのか?
それに、マルスから上がってきている警告が気になる。物理攻撃を弾く結界はわかるが、それだけでは意味がないだろう?長老を結界の範囲内に含める。リーゼにはより強固な結界を張るように指示をだしておく。
「神殿の主殿」
「なんだ?いい加減にしてくれよ。言い忘れていたけど、俺が死ぬのを待つのは得策ではないぞ」
俺を殺しに来ているのか?
それなら、長老が一人で俺のところに来る意味がない。さっさと攻撃を仕掛けてくればいい。
「へっ」
さて、もう一つの目も潰しておくか?
「あはは。やはり、寿命でのタイムアップを狙っているのか?本当に、クズだな」
エルフ族は、寿命による戦略を取る。
その可能性を潰しておく方がいいだろう。最初から潰してもよかったけど、手札を初めから切る必要はない。
「いえ、違い・・・」
ん?違うのか?
反応が、今までとは違う。
「最後まで言い切れよ。まぁいい。お前たちに、残念なお知らせだ。俺の寿命は、お前たちと同じか、それ以上だ。面倒だから教えてやる。外から、俺を狙っているやつらが、俺を殺せたとしても無意味だぞ」
「・・・」
やはり、”殺して”終わりだと考えたのか?
「やはり。そこまで、愚かなのか?残念だよ」
「主殿?儂は反対を」
「お前が、どう考えるかではない。お前たちの行動が、自分たちの選択肢を少なくしているのだと、”なぜ”気が付かない。リーゼも殺すつもりか?」
「いえ、姫は・・・」
「簡単な誘導尋問に引っかかるなよ。やっている俺が悲しくなる。あぁついでだから言っておくけど、俺は神殿に吸収された存在だ。神殿を攻略して、コアを破壊してみるか?」
長老の狼狽えぶりを見ると、今までとは違う。
リーゼを殺そうとしているとは思えない。俺から提示された条件を持って行ったら、内部が割れたのだろう。よくある話だ。
「・・・。主殿?」
どうやら、本当に、長老は話がしたいようだ。
情報を抜き出して、譲歩を求める様子はない。
「わかった。わかった。それで、遮音の結界を用いてまで、何を相談したい?」
「ラフネスを御身とリーゼ様の側使いに・・・。そして、ラフネスの案内で、エルフの森に案内をいたします」
案内と来たか・・・。そうだな。長老が案内して、何かあったら謝罪では済まない。それこそ、里の存続に関わる問題になってくる。ラフネスなら、ラフネスを切れば話が終わる可能性が高い。いい判断だ。それに、ラフネスなら、アフネスとの繋がりでの減刑も期待ができる。
「ほぉ。それで・・・。俺は、襲われた場合には、反撃をして、殺してしまっても問題はないよな?お前たちは、護衛を付けないのだろう?」
長老の表情が変わるが、予想していた内容のようだ。
「はい。それは、問題ではございません。それから、今まで捕えた者も、御身に預けます」
なにやら、長老の中で話し合いが行われたのか?
「割れたか?」
「はい」
そうか、穏健派と強硬派とでも考えておけばよさそうだ。
そうなると、俺やリーゼから見ると、目の前に居る長老が実権を握っていてくれる方がありがたいな。強硬派が、実権を握ると、リーゼから権利を取り上げようとするだろう。その為には、”武力行使も辞さない”ような愚かな答えを持ってくるかもしれない。
「わかった。貴殿の提案を受け入れよう」
「ありがとうございます」
長老の提案だが、別に捕えている奴らは必要ないが、派閥の対立に使われるのも、大きな問題ではない。
取り返しに来る連中が居るかもしれないけど、返り討ちにしていれば、いい。簡単なことだ。
「わかった。捕えている者たちは、神殿の中で過ごしてもらおう」
問題は、ラフネスと長老の安全だな。
『マルス』
『悪意を感知しております。対処しますか?』
悪意か、襲ってこなければ無視してもいいのだけど・・・。
今のところは、対処の必要はないだろう。むやみに、攻撃性の魔法を行使したくない。手の内はギリギリまで隠しておくのがいいだろう。どうせ、里に向かえばまた襲ってくる。その時に、対処を行えばいいのだろう。
『必要ない。FITの防御を強化。俺とリーゼの結界を強化。長老とラフネスはどうしたらいい?』
リーゼは、十分な守りがあるし、俺から離れなければ、マルスが守れる。結界も常時発動できる状態にはなっている。
問題は、ラフネスと長老だな。
俺が、敵対する勢力なら、俺やリーゼは狙わない。
長老やラフネスを狙う。
殺せればいいけど、怪我でもしたら、俺の責任を追及するだろうな。
『個体名ラフネスと呼称名長老に、魔石を渡してください。結界を施します』
『わかった』
二つの魔石を取り出す。
「これは?」
「貴殿とラフネスの二人に持たせたい。結界と俺との繋がりを”担保”する物だ」
必要になるか解らないが、持たせておけばいいだろう。マルスが位置の把握ができるから、誘拐されたり、監禁されたり、強要されるような状況でも把握ができる。位置の把握ができれば、最悪の場合に”助ける”という選択肢が現れる。
「首輪の変わりか?」
そう考えるよな。
長老も、本来なら、しっかりと考えられる人物なのだろう。そうでなくては、エルフの里をまとめることなど不可能だ。
問題は、一部の愚か者が居て、そいつらの声が大きいために、なんとなくで、感情を含めて、流されてしまったのだろう。
俺からの提案を考えて、心境に変化が産まれたのだろう。
「どう考えるか・・・。貴殿の自由だ。俺としては、決まった内容を問題なく、履行するために必要だと判断した。今更、貴殿以外の誰かが出てきて、別の交渉を行い始めても困る」
「・・・」
俺の説明を、”どう”解釈するかは、長老が判断することだ。
表情を見ると、これ以上の説明は必要がないようだ。よかった。
「解ったようだな」
「感謝する」
”感謝”か、そうだな。これから、発生することを考えれば、落としどころとしては最良だろう。エルフの里も存続ができる。状況次第では、神殿だけではなく、王国の助力も期待ができる。
不満分子を排除できるというおまけまでついて来る。
長老としては、問題がないレベルまで譲歩を引き出せたことになる。
神殿から、長老を認めて、”死ぬな”と言ったのだから、そのくらいの状況判断ができていて欲しかった。
こちらの意図が伝わっていると思える返事を聞くことができた。満足ができる状況だ。
「感謝しなくてもいい。これ以上の死者が出るかは、貴殿に掛かっている」
「解っている」
長老は、遮音の結界を止めた。違う。魔道具で、ラフネスを呼び出した。
ふたりに、魔石を必ず持っているように命令する。
長老は、先に里に移動するようだ。内々には話を通しているが、反対をしている連中をできるだけ抑えたいと言っていた。犠牲者が少ない方がいいと考えたのか、それとも違う思惑があるのか解らないが、許可を出した。
ラフネスも承諾しているのだろう。
黙って、魔石を受け取った。
これで、準備が整った。
これで、リーゼの安全が確保された。
エルフの里に向かえる。長かったな。こんな交渉は俺の役目じゃないと思う。
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