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中級
青い鳥を探して
しおりを挟む私が居る職場は、リーマンショックの影響は少なく、軽症で終わった。堅実にやってきたおかげだと考えていました。単純に特殊な技術を使っている部署の為にオンリーワンだったためだ。
他の部署からの流入は、使っている技術が特殊な関係で、すぐに人員の補充は行えない。
しかし、万年人手不足だったのだ。
そんな世間では、リーマンショックでの傷跡が痛々しかった頃に、私の部署に人員を出している外注会社があったのですが、その外注会社で人員整理が始まったのです。理由は、よくある話で、業績不振です。私の部署に来てくれている人たちは、会社の意向として継続して欲しい旨は伝えてあります。私の部署に来てくれている人たちは、人員削除の対象になっていない状況だったのです。
その外注会社から来ていた主人公君がこの話のメインです。
この主人公君は、入社一年目ですが優秀な人間です。不慣れな事はありますが、十分戦力として数える事ができました。もちろん、私の部署からは、主人公君も”キープ”で、二年目からは単価のアップ交渉を受けると伝えていました。
しかし、この主人公君は、確かに優秀な人間だったのですが、繊細な心を持っていたようです。主人公君の上司(外注会社の使えないクズ)が人員整理された時期から、ちょっとおかしくなってしまった。
作業が詰まっていた週末。
主人公君を含めて土曜日と日曜日に出勤してきて貰いました。火が付いたわけではなく、海外からの返事を行う必要があるので、土日を使って問題点の洗い出しを行うのです。
私たち職場の人たちは、各々の作業を行いながら、外注会社で人員整理されたクズの使えない奴の話をしていました。外注会社の面々も解っていた話なので、内部の事情を含めて教えてくれていました。クズは会社のポケットに手を突っ込んでいたようなのです。人員整理で首にしたのは会社からのせめてもの情けだったのです。
その上司は私の居る部署の仕事はしていなかったのですが、外注会社の窓口をしていて、よく作業場所に顔を出します。仕事ができない人だとは思っていたのですが、出てくる話は酷い物ばかりでした。
外注会社の他の部署は人員整理が始まっていたようです。
主人公君の同期も入社当時は20名だったのですが、6人にまで減っていたのです。
雑談をしながらの作業はいつもと同じです。
昼になって空いている食堂で昼を食べて、食休みをしている時には、主人公君は普段を変わりなく話に参加していました。
食休みを終えて、午後の作業分担を決めていた時に、主人公君の一年先輩のスマホがなりました。
どうやら会社からのようです。席を外して、電話をしてきて、帰ってきた表情は暗く沈んでいました。
主人公君の先輩の同僚が3名と主人公君の同期が1名、今月末で退社すると決まったようです。依願退職の形にはなりますが、首になったのです。
それを聞いた主人公君は、明るく
「ダメな事はダメ、何をしても変わらない」
と話を始めたのです。
それだけではなく、その同期との思い出を明るく話しだしたのです。
この辺りで様子がおかしいと皆が感じますがもう手遅れでした。
主人公君は、急に立ち上がって
『僕の幸せはどこにあるのだろう』
皆が驚いた、真面目で通していて、私たちがシモネタ的な話やふざけた話をしている時でも、話に加わるわけでもなく、笑って聞いていた人物が、急に大声を上げて叫んだのです。
驚く私たちを無視して、主人公君は言葉を続けます。
『そうだ!幸せの青い鳥が居ないからいけなのだ』
『だから、僕は何時までたっても、幸せになれないのだ』
『そうだ、青い鳥を探しに行こう』
そういって、主人公君は、その場から出口に向かって行ったのです。走るわけでもなく悠然と歩いていったのです。私だけではなく、その場に居た全員が固まってしまいました。何が起ったのか解らないまま、主人公君を見送ってしまったのです。
出口の扉を叩く主人公君。私たちはお互いの顔を見て、主人公君が冗談を言っているわけでもなく、本気で探しに行ったのだと理解したのは、主人公君がエレベータに乗ってしまった後でした。
急いで追いかけましたが、簡単に追いつけません。
私たちも、開いたエレベータに乗り込みます。主人公君が全部のエレベータを呼んでくれていたので、すぐに乗れました。
22階建てのビルで、12階で一度エレベータを乗り換える必要があります。
12階で、主人公君に追いつきました。しかし、押さえつけようにも、簡単に振りほどかれてしまうのです。
やっと取り押さえられた私を含めた二人の男性を、主人公君は引きずって歩き始めたのです。
主人公君は、小柄で160cm にも満たない身長で、体重も成人男性の平均を下回っています。
12階のエレベータの前で、私たちを振り払ってエレベータに乗り込んでしまったのです。
そして、1階から悠然と出ていってしまったのです。
私たちは、主人公君が正面の門から出ていくまで、何が発生したのかが飲み込めなかったのです。
主人公君の、心のストッパーがはずれてしまったのです。
職場には、日曜日でも沢山の人たちが出社してきます。知り合いを見つけて、主人公君を探したのです。まだ、スマホがあるからと言って、主人公君の捜索は困難をきわめました。
10人以上で、職場の周りに詳しい人たちで探しても、見つからなかったのです。
警察にも連絡したのですが、それから、結局数ヶ月の間、主人公君は見つかりませんでした。
主人公君は、当時主人公君が借りていた部屋にも帰ってきていませんでした。
主人公君は、青い鳥を探して旅立ってしまったのです。
---後日談
この主人公君は、警察の捜査でとある県の病院にいる事がわかりました。家族を田舎から呼び寄せて、社その病院まで迎えに行きました。
落ち着いては居るのですが、やはり仕事関係の事を連想する物を見ると、情緒不安定になってしまうので、主人公君はそのまま、親元に帰る事になりました。幸いな事に、親御さんは理解のある人で、同じ仕事をやっていた同世代の私が平然としていたので、『主人公君が向いていなかったのだろう』と、理解を示してくれました。
その後、主人公君がどこで何をしているのかは知りません。親元に帰った次の年は、年賀状も届いたが、それ以降は、連絡もなく、私たちも知ろうとしませんでした。
元気にやっていてくれる事を、主人公君の信じる神に祈る事にしました。
無事、青い鳥を見つけてくれていれば良いのですが・・・。
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