帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

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序章 召喚勇者

第三話 帰還(中)

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「陛下」

「勇者ユウキよ。魔物の王の討伐を成し遂げたようだな」

「はっ仲間たち、それに陛下のおかげです。感謝の言葉だけでは・・・」

「よい。余たちにも利があること、勇者ユウキ。目的のものは見つかったか?」

「はい。無事入手いたしました。明日、試したく思っております」

「・・・。そうか、勇者ユウキ・・・。ユウキ。余は・・・。儂は、お主を、お主たちを本当の子供のように思っている。后も、儂と同じ気持ちだ」

「ありがたきお言葉」

「解っている。わかっている。ユウキ。お主たちにはやらなければ・・・。目的があるのは、理解している。だから、儂たちは、お主たちを、笑って送り出す」

「・・・」

 ユウキは、玉座で跪いたまま国王に報告をしていた。
 周りには、貴族だけではなく、テクノクラートや軍の関係者が並んでいる。皆、国王と同じ気持ちなのだ。29人の勇者が、自分たちを頼ってくれたのが嬉しかったのだ。勇者たちが自分たちを助けてくれたことが嬉しかったのだ。勇者たちのことを、友であり子供であり同僚だと思っているのだ。
 勇者たちは、無理をしなかった。情報を集めて、訓練を行って、逃げることも厭わなかった。
 他の勇者たちや国が攻めてきたこともある。勇者奪還という大義名分だ。勇者たちは、自分たちが出頭すれば国や民は見逃せという条件で交渉を始めようとした。しかし、国王は・・・。軍が、貴族が、国民が、それを許さなかった。勇者たちを呼びつけて叱りつけた。”自分の子供を売る親がどこに居る”勇者たちが欲しくて、欲しくて得られなかった言葉を、異世界の王が、貴族が、国民が、勇者たちに投げかけた。
 そして、自分たちレナート王国を頼ってきた者たちは、自分たちの仲間だと言って、一緒に戦おうとした。
 初めて、自分たち以外の仲間を得たことが勇者たちには嬉しかった。国王が、全世界に宣言をしたことは驚きだったが、勇者たちは嬉しかった。国王は、魔物の国にも、人族の国にも属さない第三勢力となると宣言した。

「陛下」

「パパと呼んでもいいぞ?」

「へ・い・か!」

 貴族が立ち並ぶ場所の玉座に違い場所から、”ぷっ”という吹き出す音がする。
 皆が笑いをこらえている状態だ。

 王が、咳払いをしてから、ユウキに話しかける。

「まだ、だめか・・・。それで、ユウキ?」

「はい。やはり、魔物は”魔物の王”が抑えておりました。文献通りです」

「そうか、報告は受けている。魔物の大群が襲ってきた」

「はい」

「勇者たちの策で撃退できた・・・。我が国は、無傷だったのだが・・・」

「陛下、我らはできることをやりました。忠告もしました。しかし・・・」

「そうだな。奴らが決めたことだ。”魔物の王”討伐も、奴らが望んだことだ・・・。我らは、しっかりと忠告をした。それに・・・」

 ”第三勢力”となる為の条件を、連合国は要求してきた。
 セシリアとアメリアと勇者たちを差し出せという条件だ。これが飲めないのなら、”魔物の王”を討伐せよという物だった。

「陛下。お約束の物です。オーブは外しましたし、魔剣はサトシが砕きました。角はマイが効力を消してから、サンドラが祝福呪いをかけてあります」

「ククク。お主たち・・・。面白いのぉ・・・」

 王の笑いと同時に、列席する者たちも笑い始める。
 先程までの硬い雰囲気が一気に和らいでいく。

「ユウキ。サンドラ嬢の呪いは?」

「呪いといっていますが、それほど恐ろしい物ではありません。服用すると、表向きは”男性機能が復活”するように見えます」

「お!」「陛下!」

「ただし、”体中の毛が抜けます”」

「は?」

「サンドラ曰く、『あんな爺には髪の毛はいらない!24時間立ちっぱなしになるから薬としては成功する』だそうです」

「おいおい。治せるのか?」

 貴族たちを中心に自分の髪の毛を触る物や、引いた表情をしている者も居る。

「もちろん、『聖女サマなら治せるでしょ』が、ロレッタの言葉です」

「ククク。たしかに・・・。奴らは”聖女”なら何でも治せると豪語していたな。それで?」

「はい。回復と治癒は意味がありません。病気でもダメージでもないので・・・」

「たしかに・・・」

「それで、解呪を行うと・・・」

「行うと?」

「今度は、”役に立たなくなる”そうです」

「・・・。恐ろしいな」

「・・・。はい」

 二人は、お互いの顔を見ながら、この場に居ない”魔女”と”聖女”を思い浮かべて、苦笑を浮かべた。

「ユウキよ」

「はい。陛下?」

 ユウキは、話が終わっていると思っていた。

「サトシやマイ・・・。他にも数名が残ってくれると聞いた」

「はい。陛下。彼らをお願いいたします」

「ユウキ!儂は、この国は、お前たちを、我が子のように思っておる。お前たちの・・・」

「ありがとうございます。陛下・・・。俺も、リチャードもロレッタもフェルテもサンドラも・・・。この国が、本当の故郷だと思っております」

「ならば!」

「陛下。俺の、俺たちのわがままを許してください。必ず、必ず、帰ってきます。どの位かかるかわかりません。しかし、必ず、陛下の下に、皆様が待つ場所に帰ってきます」

 ユウキは、正面に居る王だけではなく、周りから優しげな視線を向ける皆に向かって言葉を紡いだ。

「わかった。宰相」

「はっ」

 最前列に並んでいた男が、王の呼びかけに応えて、ユウキの前に来た。

「ユウキ・シンジョウ」

「はっ」

 ユウキは、宰相と呼ばれた男が持っていた羊皮紙を見て頭を下げる。レナート王国の紋章が描かれている。

「サトシ・カスガ。マイ・フルザトを除く、27名から召喚勇者の称号を剥奪し、新たに、フィファーナ王国の貴族位を与える。ユウキ・シンジョウには辺境伯を与え、フィファーナ山脈より東の地、全てを領地とする」

「へ?」

「ただし、領地は、ユウキ・シンジョウがフィファーナに帰還したのちに与えるものとし、それまでは王家直轄領とする」

「は?はぁ??」

 ユウキが驚いたのは、”フィファーナ山脈より東の地”である。魔物が住んでいた場所を、ユウキに与えると言っているのだ。王国が今回の戦いで手に入れたすべてをユウキに渡すと言っているのに等しいのだ。それだけではなく、王家の身内になる二人は別にして、それ以外の27名を貴族にするなど、他の国に喧嘩を売っているとしか思えない。

「ユウキ・シンジョウ」

「はっ。陛下。我が身には・・・」

「ユウキ。これは、儂のわがままじゃ。お主たちが帰ってくるまで、儂が生きていられるとも限らない。次代の王は、お主たちに無体なことはしないと思うが・・・。儂を安心させると思って受けてくれぬか?」

「・・・。他の者たちに・・・」

「それは大丈夫だ。お主が受けてくれれば、他の者たちは”ユウキがいいなら問題はない”と言うに決まっている」

「・・・。陛下・・・」

 ユウキは、王を睨むように見るが、すでに内々に話をしてあるのだろう。

「わかりました。謹んでお受けいたします」

 王の顔が喜びで綻ぶ。拒否される可能性を考えていたのだ。
 ユウキの宣言を聞いて、喜んだのは王だけではない。列席している者たちが一人の例外もなく喜びの表情を見せる。

「よし!ユウキ!よく言った!今日から、お前たちは、儂たちの息子で娘だ!」

 宰相と反対側に居た大男が大声を上げた。

「将軍」

「ユウキ!皆に伝えろ。儂たちの”名を継げ”と・・・」

「え?」

「もちろん、残る者だけじゃない。帰還する者も・・・だ!ユウキ。お主以外にも戻る場所が必要だろう?」

 さっきと違って貴族たちが、ニヤニヤし始める。
 ユウキは、貴族たちが自分たちと家族になってくれると言っているように感じた。

「わかりました。皆に」「大丈夫だ。もう伝えてある。あとはお前だけだが・・・。お前に、継がせる名前はない」

「え?」

「ユウキ殿。皆、ユウキ殿を息子に迎えようとしたのですが・・・」

 今度は、宰相が話に加わる。もう、謁見の雰囲気は無くなっている。

「え?それも驚きです」

「でも、陛下が、ユウキ殿を”息子に迎えるということは、儂の親戚になるということだな”とおっしゃられて・・・」

「えぇ・・・。それは、皆さんにとっては・・・。”良い”ことなのでは?」

「ユウキ殿。本気で言っていますか?あの陛下を見て、同じことが言えますか?親戚になりたいですか?」

「・・・。いや、遠慮します。でも、俺が・・・。あっ」

「お気づきですか?流石ですね。アメリア様は、ユウキ殿以外との縁談は断ると宣言されています」

「・・・・。はぁ・・・」

 ユウキは、宰相から細かい話を聞いてから、玉座でニヤニヤしている人物に話しかける。
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