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第二章 帰還勇者の事情
第二十七話 ギアス
しおりを挟むユウキたちは、安全になってから、お嬢様の治療をしたほうがよいと考えていた。
ミケールも賛同した。問題の解決には、2週間程度は必要だとミケールから告げられた。
ユウキたちは、”2週間”という時間は、襲撃者たちの対応ではなく、反乱分子の始末に必要な時間だと考えていた。
しかし・・・。
「ユウキ!お客さんが来ているぞ」
「そうだな。いつもと同じ対処で頼む。質も落ちてきているから、捕えるだけでいい。後は、ミケールに渡して終わりにしよう」
最初の襲撃があってから、10日が過ぎているが、当初は夜だけの襲撃だったが、4日前からは昼間にも襲撃が来るようになっている。それも、金で雇われたような奴らだ。
最初は、その筋の訓練を受けている者が相手だった為に、ユウキたちも手加減が難しかった。自死を選ぶ者も居たために、捕えるのが難しい場面もあったが、5日目辺りから日本に居る。暴力を仕事にしている連中や、その予備軍が金で雇われたり、報酬に目が眩んだり、襲撃者の質が下がった。襲撃者が連携してくることもなく、組織だった襲撃でないだけに面倒になった。
対応が簡単になったのはありがたいが、数が増えていった。
組織に属していなくても、組織に属している者に雇われた者も含まれるために、襲撃の回数だけは増えていた。
警察組織に渡そうと思ったが、森下に相談したら、ユウキたちの力を警察に知られるだけならいいが、権力者に知られる可能性があるので、止めた方がよいと言われて、捕えた奴らは、森田を通して、馬込に相談した。
「ユウキ。馬込先生の所に連れていけばいいのか?」
「そうだな。五体満足なら、使い道があると言っていた。いろんな方面に恩を売るそうだ」
「わかった」
グレーではなく、ブラックな人たちだ。警察に連れて行っても、箔がつくだけの可能性もある。
それなら、流儀に乗っ取って対処してもらったほうがいい。調べれば、筋がわかるので、馬込は筋の反対に属している組織に渡すことで、恩を売る事にしている。また、多くはないが、手駒に使えそうな人材は、ユウキたちの為に働かせることにした。
「リチャード。頼む。俺は、先生の所に行ってくる」
「ん?それなら、ユウキが連れていけば?」
「あぁ先生の所には違いないが、スパイに仕立て上げる者たちが居るらしくて・・・」
「契約か?」
「あぁ」
「そりゃぁ確かに、ユウキが適役だな」
「だろう?だから、行ってくる」
「わかった。襲撃者は任せろ」
「頼む」
ユウキは、手を振りながら部屋から出ていく、部屋には、リチャードの他に、ロレッタやエリクやアリスも居たが、皆がユウキを見送った。
自分たちのリーダに絶対に信頼を寄せている。ユウキも、間違えることもあれば、失敗もするが、ユウキなら自分たちにすべてをさらけ出してくれると、教えてくれると、頼ってくれると、信頼している。自分たちも、周りの人物に・・・。一緒に過ごしてきた29名には、隠し事をしない。
召喚された勇者たちは、お互いしか信じられない。お互い以外では、家族と呼んでもいいと思える人たちしか信頼ができない。
「ユウキ君」
「先生。詳しく、お聞かせください」
馬込は、ユウキに椅子を進めてから、ユウキたちが捕えた者の中から、元々組織的な忠誠心が低い者たちをリストアップした。その者たちが属していた組織は、ユウキが目的を達成する為には、避けては通れない組織からの汚れ仕事を受け持っていた。
そして、組織の中にスパイを送り込むメリットとデメリットを馬込はユウキに説明した。
ユウキも異世界の勇者として活動する過程で、スパイのメリットとデメリットは理解していたが、自分の知識と日本での現状の違いが存在する可能性を考慮して、馬込の話をしっかりと拝聴していた。
「わかりました。先生のご提案を受けようと思います」
「よいのか?提案しておきながら・・・。二重スパイになってしまう可能性もあるのだぞ?」
「それは、スキルで縛ります」
「スキル?」
「はい。俺たちは、”呪い”と呼んでいます」
「”呪い”とは・・・。ユウキ君たちの仕事を手伝い始めてから、儂も”ラノベ”を何冊か読んでみたが、異世界は怖いな。奴隷を縛る方法があるのか?」
「ハハハ。そうですね。ラノベで書かれていることで、実際にできる事は少ないですが、奴隷制度は確かにありましたね」
「そうか・・・。それで、そのスキルを使用した時の、ユウキ君が被るリスクはあるのか?」
「ありますが、この世界では、ほぼ無いと思っています」
「それは?」
「ギアスが破られた場合に、私に返ってきます」
「それは・・・。そうか、ユウキ君のスキルを破るのは、君の仲間でも不可能だということか?」
馬込は、ユウキのリスクを一番に考えた。
そして、馬込はユウキの仲間が裏切る可能性を考慮したのだ。
ユウキは、馬込の言葉から、”裏切りを危惧している”と感じたが、気分を悪くしなかった。自分が、馬込の立場なら最初に考える事だからだ。そして、仲間・・・。家族なら、裏切らないと信じている。信じたうえで、”ギアス”が破られる事はないと考えている。地球に存在するアーティファクトは可能性として考慮したが、考えてもしょうがないと思っている。それに、ギアスが返されても、ユウキなら耐性がある。
フィファーナで散々やってきたことだ。それに、地球にユウキのギアスを解呪できる者が居るとは思えなかった。万が一の時には、解呪したことがわかるようなスキルを付与するつもりだ。それで、解呪された場所や時間が判明する。
ユウキと同等のスキルを持つ、召喚されて帰還した29名以外の勇者が存在することになる。
敵対するのなら、自分たちのルールで処分するつもりで居るのだ。
「無理です。俺のスキルを上回るのは、マイと・・・」「わかった。ユウキ君に任せよう。スパイたちに君が会う必要はあるのか?」
馬込は、ユウキの表情から、もう一人の名前が解った。それで、ユウキの話にかぶせるように話を進める。
「そうですね」
「例えば、その者たちを、目隠しをして、口枷をして、手錠と足枷で拘束しても大丈夫なのか?」
「大丈夫です」
「何か、”ギアス”と言ったか、発動の条件はないのか?」
「一人一人に同じスキルを発動するのは面倒なので、一か所に集めて貰っていいですか?」
「わかった。そうだ。ユウキ君。報告の方法は、何かスキルでできないか?」
「え?」
「スパイが判明してしまう理由のほとんどが、情報の受け渡しの場面だ。情報を盗むことは、さほど難しくなくて、受け渡しの時に・・・」
「あぁそうですね。半日ください。フィファーナで使っていた方法を再現します」
「それは?」
「ラノベ風に言えば、”念話”ですね」
「ほぉ・・・。しかし、それではユウキ君か、ユウキ君たちにしか受信できないのでは?面倒ではないか?」
「あっ大丈夫です。念話の仕組みは・・・。今度、時間があるときに説明しますが、素養がない人物に強制的に”念話”が使えるようにスキルを埋め込みます。そのうえで、常時発信させるか、感情が動いたときに発信させるか、方法は調整が可能ですので、後で説明します。受信機は、森田さんや今川さんが持っているような道具で受信可能です。仲間が改良をして、地球の技術と融合させて、パソコンに保存できるようにしたので、それを使います」
「おぉぉ。それなら、ユウキ君たちが拘束されるようなことはないのだな」
「はい。大丈夫です」
「今の説明だと、スパイは、スパイしている事を、知らないことにならないか?」
「そうですね。見たものや聞いたことが、保存できます」
「そうか、”ギアス”に制限がなければ・・・」
「人数は、保存される場所と、それを仕分けする能力に依存します。無限とは言いませんが、100名とかでも可能です。しかし、スキルをかけるのに1-2分は必要なので、街中でいきなりとかは難しいと思います。足元に、魔法陣が出てしまいます」
「そうか、捕えた人間なら可能だな。わかった。済まないけど、時間を・・・。一日ほど、貰えないか?」
「えぇ大丈夫です」
「その間に、情報を整理する人員と、スパイに仕立てる人物の選別をする。ユウキ君。意識を支配して、行動を支配することはできるのか?」
「ギアスで可能です。制限は、ロボット三原則に近い物です。自死は不可能です。忠誠心が高ければ、術が失敗します。その場合でも、命令がキャンセルされるだけで、スキルは解かれません」
「わかった。ありがとう。少しだけ人選を変える必要がありそうだ」
「ありがとうございます」
翌日、ユウキは馬込に呼ばれて、屋敷を訪ねて、ギアスを行使する。
行動を縛らないスパイを、50名。行動を縛って、通話で命令を伝えるスパイを、15名。
そして、情報を整理するために、行動を縛る者にもギアスを刻んだ。
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