帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

文字の大きさ
54 / 96
第二章 帰還勇者の事情

第三十九話

しおりを挟む

 ユウキとリチャードは、マイとロレッタと合流してから、移動を開始した。

「リチャード」

 作戦復讐の実行が近づいてきているのを感じて、リチャードから殺気が漏れ出す。
 周りに人は居ないが、誰かに気が付かれては、これから何かがあると思われてしまう。

 ユウキは、リチャードの名前を呼びながら、肩を軽く叩く。

 ユウキにも、リチャードの気持ちは理解ができる。ユウキ自身も、目的復讐相手を前にして、普段と同じで居られるとは考えていない。そのために、準備期間だけではなく、ターゲットの順番を考えているのだ。

「すまん」

 リチャードは、ユウキを見て、自分の状況を把握する。
 気が急いている。これでは、会った瞬間に殺してしまう。リチャードは、心配そうに見ているロレッタを見てから、ユウキとマイを見る。本当なら、ここに居るべき一人の少女を思い出して、ゆっくりと息を吐き出す。

「気にするな」

 殺気が収まったことを認識して、ユウキは手を肩から離した。

 ユウキたちが用意した罠は、それほど難しい物ではない。
 罠だと解っていても、罠に飛び込まなければならないだけだ。そして、その罠が、成功しようが、失敗しようが、ユウキたちには、どうでもいいことだ。

「リチャード。それで、奴らは?」

「連絡をした。3日後に、”取引をしたい”と言ってきた」

 リチャードは、ロレッタとマイに、やり取りを行ったスマホを見せた。やり取りを再生して聞かせた。

「3日後?」

「そうだ」

 ユウキは、ロレッタの疑問を肯定した。

「ユウキ。まだ、一日しか経っていないわよね?」

 ロレッタは、時計を指さして、ユウキに笑いながら指摘している。
 作戦を聞いているので、状況の理解は出来ているが、それでもユウキとリチャードを揶揄っておきたいと考えた。ロレッタも、緊張しているし、自分の気持ちが押さえられるのか不安なのだ。だから、解り切っていることで、ユウキとリチャードを揶揄った。

「ん?あぁ正確には、時差もあるけど、21時間だな」

 ユウキは、ロレッタの心情がわかるのだろう。
 軽口を叩いて、揶揄いに対応をする。リチャードは、二人のやり取りを見て、大げさに驚いて見せる。

 初めてではない、今までも同じような作戦を実行してきている。異世界で、同じように召喚された者たちを殺したこともある。気負いはない。

「ユウキ。マイ。俺たちは、先に行く」

「わかった。ここに来た連中は確保しておく」

「悪いな」

 リチャードが差し出した手をユウキが握る。

 作戦はいたって簡単だ。
 ユウキとマイは、待機していて、待ち合わせ場所に罠を仕掛けに来た連中を確保する。

「あっ!これ!」

 マイは思い出したかのように、持っていた袋からカメラを取り出す。
 カメラは、森田にお願いして用意してもらった物で、日本に居る時に、マイが受け取っていた。ユウキも、カメラの存在を忘れていた。

「これは?」

 カメラが付いた伊達メガネをリチャードが受け取った。
 マイは、他にも”スパイカメラ”と呼ばれるような物を森田から受け取っていた。いくつかを取り出して、皆に見せる。

「そうだ。悪い。忘れていた。リチャードでも、ロレッタでも、どちらでもいいけど、これを身に着けておいてくれ」

 ユウキは、マイが取り出した物を見て、カメラの存在を思い出した。
 そして、リチャードたちが行う作戦には、証拠動画が必要になることも思い出したのだ。

「ん?カメラ?」

「そうだ」

「ん?」

「リチャード。忘れていないか?地球では、スキルを使った状況保存では、証拠にならないぞ?」

 リチャードもロレッタも、緊張からなのか、それともこれから行うことへの高揚感なのか、大事なことを忘れていた。

「あっ!そうか、忘れていた」

 マイが持っているカメラが仕込まれている物を、いくつか確認して、その中からスマホと連動するタイプを選択した。リチャードだけではなく、ロレッタもカメラを持っていくことに決めたようだ。証拠となる動画は多い方がいいに決まっている。

 カメラの操作方法を確認する。
 リチャードはボタン型のカメラを選んだ。ロレッタは、アクセサリ型のタイプだ。両方とも、スマホに動画を転送することができる様になっている。ユウキが作ったアイテム袋の中でも、動画が保存されるか確認してから、準備を進める。

「準備はよさそうだな」

 ユウキは、リチャードとロレッタの様子を見て、もう大丈夫だろうと判断する。

「あぁ」

「少しだけ早いが行くか?」

 実際に、開始時間は決めていない。相手次第ではあるが、リチャードとロレッタが安全に作戦の実行できる頃合いを考えていただけだ。
 なんとなく皆が夕方くらいからだと思っていた。スマホで時間を確認すると、現地時間で15時を少しだけ回ったくらいだ。日の入りまで、2時間と少しだ。

「そうだな。ロレッタ。大丈夫か?残ってもいいぞ?」

 リチャードは、ロレッタに残るようにいうつもりで居た。
 カメラが有れば、一人でも作戦は完遂できる。

「・・・。ダメ。一緒に行くと決めた。リチャード、一人にいい恰好は・・・。ダメ。マイ。お願い」

 ロレッタは、リチャードが言いたい事が解っているが、それでも一緒に行くと譲らない。リチャードがロレッタを置いていきたい理由と同じ事を、ロレッタも考えている。
 ユウキとマイは、二人のやり取りが通過儀礼のように感じて居る。

「うん」

 マイは、ロレッタに頼まれて、スキルを発動する。
 トリガー型のスキルで、二人にイベントが発生すると、スキルが発動する。

「行くのか?」

「あぁ。ユウキ。頼む」

「解った」

 ユウキは、スキルを発動した。
 場所は解っている。ユウキは、リチャードたちと合流する前に、現地を確認している。目視さえ出来てしまえば、移動ができるのがユウキのスキルだ。転移の応用技だが、スキルのレベルが上がっていて、地図アプリで見た場所にでも移動が可能になっている。
 これによって、ユウキが一人で移動するのなら、どこにでも移動ができる。誰かと一緒だと、目視した場所にしか移動ができない制限は変わらない。

 リチャードとロレッタは、ユウキに連れられて、目的地に到着した・・・。わけではない。
 わざと、目的地から1キロ近く離れた場所に移動をして、目的地まで徒歩で移動する。相手に、自分たちが襲ってきた思わせるためだ。子供の浅知恵だと思わせることが目的だが、目的が達成されなくても、構わないと考えている。

「ユウキ」

「送ってきた」

「そう・・・。それで?」

「俺よりも、マイの方が得意だろう?それとも、誰かを呼ぶか?ヒナとレイヤなら喜んで来ると思うぞ?」

「そうね。でも・・・。やめておく・・・。スキルを使う」

「任せた」

 マイが、少しだけ詠唱を行う。
 普段は、無詠唱で発動するのだが、範囲を広めにすることや、特定の人や物を見つけるのではなく、行動捕捉を行う為に、スキルを強めに発動するためだ。範囲内に居る人物の動きを把握して、待ち合わせ場所に指定した場所付近に近づこうとする者を把握するのだ。
 狭い範囲なら、ユウキもできるのだが、数キロに渡る範囲で、対象のなる人物の数が多い場合には、マイの独壇場となる。

 スキルを発動してから10分が経過して、マイはスキルを終わらせた。

「ユウキ!」

「見つけたか?」

「うん。全部で10。目的地を取り囲むように、待機している」

「え?まだ、時間じゃないよな?」

「うん。でも」

「マイが見つけたのなら間違いではないだろう。あぁ・・・。そうか、待ち合わせ場所でリチャードたちが先に現れて、罠を仕掛けるのを見張るためだろう」

「え?」

「相手も、罠があると思っているのだろう?ってことだ」

「・・・。そうね。どうする?」

「ん?やることは変わらない。捕縛するだけだ」

「わかった。それじゃ、さっさと捕縛して、リチャードたちに合流しましょう」

 ユウキとマイは、ゆっくりとした歩調で待ち合わせ指定した場所に向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...