帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

文字の大きさ
91 / 96
第四章 噂話

第三話 撫養教

しおりを挟む

 ユウキたちの拠点がある地区の周りを囲むように、撫養教が教会の建築を開始した。

 拠点には直接的なダメージはない。
 周りを囲まれても、拠点が属している地区は、小さな町で、独立している。大きな括りには、属していない。

 その為に、小さな地方自治が出来上がっている。
 そのうえで、住んでいる人たちは、元々の住民と拠点に関係している者たちだけだ。元々住んでいた人たちも、拠点の恩恵を受けている。大きいのは、限界集落になっていた場所に、拠点が出来た事で、病院に変わる治療所が出来た。
 拠点ができるまでは、近い病院でも来るまで30分以上の時間が必要だった。それが、数分で病院に変わる施設に到着できる。それだけではなく、総合病院と言えるような治療が受けられるのに、治療費は格安になっている。
 厳密には、医者ではない者たちだが、限界集落に住んでいる人たちに取っては、治療が受けられて、崩れた体調が戻ることが大事だ。

 そして、拠点に居る者たちとの交流も地域の人たちに取っては、大切な時間になっている。
 漁を行っている人には、拠点に居る者たちが手伝う。畑を耕すのも手伝う。それも、”スキル”と言われるような力を使っている。

 限界集落が、限界集落では無くなった。

 撫養教の教会の建築が進むが、拠点と拠点を抱える地区には、影響は皆無だ。
 ユウキや今川の予測通りに、拠点に繋がる町道は有料道路に変更された。道路整備に資金が必要だという理由だ。しかし、県道と国道は、有料道路にはならない。拠点や拠点が置かれている地域への影響は皆無だ。
 撫養教は、県にも働きかけたが、現在の最大派閥は撫養教と懇意にしている者たちと違う派閥で構成されている。

 撫養教は、宗教法人の衣を着込んでいるが、実際には、政治家の集金と集票の組織だ。企業が、宗教法人に献金するのは禁止されていない。政治団体への献金も禁止されていない。献金の上限は決められているが、宗教法人が所有する団体からの献金は、大枠の献金とは認識されない。政治業者が自分たちに都合がいいように作成した”法”だ。抜け道があるのは当然だ。

 撫養教の司祭は、永田町にある雑居ビルに呼び出された。

「司祭。どうなっている?」

「ちゃくちゃくと準備は進んでおります。まもなく、先生に吉報をお届けできると考えております」

「ふん。まぁいい。司祭の出身は、会津だったな。寒い所は嫌いか?」

 議員の言葉に、司祭は言葉を失って、口を開けて声にならない音を発するのがやっとだった。
 そして、言葉になったのは一言だけだ。

「え?」

 司祭が狼狽えるのにも理由がある。
 議員の周りには、おこぼれを漁るような者たちが立っている。その中には、司祭の元部下で、文化庁の局長が居る。力のある議員にすり寄って、現在の地位を確保した者だ。自分を蹴落とした者がまた目の前に居て、偉そうにしているのが目に入った。

「文化庁では、政府高官と官邸からの要望で、紛争地域への文化的な支援を考えております。その中でも、が落ち着いてきている地域への文化使節団の派遣を考えています。その中に、宗教家の派遣も含まれています。現在、現地での教会設置を行えるのか打診をしております。現地からは色よい返事が来ています。教会を作れば、その教会で教義を行う者が必要だとは思いませんか?」

「まさか・・・。先生。お待ちください。年度内には・・・」

「年内だ。それまでに結果を出せ」

「はっ」

 司祭は、テーブルに付くくらいに頭を下げた。
 そこには、いろいろな思惑が降り注ぐ。

 議員がソファーから立ち上がって、部屋から出るまで、司祭はテーブルを睨みつけることしか出来なかった。

 議員に続いて、文化庁の局長が司祭の肩に手を置いた。
 それでも、司祭は頭を上げなかった。頭を上げれば、局長に暴言を投げかけてしまう。ここは、何も言わずに場をやり過ごすしかない。

「先輩。頑張ってください。あぁ安心してください。ガザではなく、もう一つの方ですよ。教会は、温かくなるようにしておきますよ。ハハハ。餓鬼の一人を攻略できないほどの無能だとは思いませんでしたよ。先輩は安心してください。先輩の後は僕が継ぎます。司祭ですか、いい生活をしているようですね。今から楽しみですよ」

 文化庁の局長は、大きな笑い声で部屋から出て行った。
 残された司祭は、テーブルを殴りながら、怨嗟の声を上げている。

 このままでは、ウクライナに飛ばされてしまう。
 ウクライナなら、まだ生きていられる可能性があるが、議員の言葉から、命さえも脅かされている可能性を感じ取った。

 実際に、撫養教は議員や議員の関係者から依頼されて、口封じを行ったことがある。
 宗教法人の衣を悪用することで得た免罪符だ。もちろん、違法行為だとは解っている。しかし、”撫養教の正義”を遂行することに命を掛けている者たちの育成は出来ている。その者たちを動かすだけで、十分な成果が得られていた。

 司祭は、呼び出された雑居ビルから出て、すぐに待たせていた車に乗り込む。

 司祭は、当たるように乱暴にドアを閉める。

「司祭様」

「煩い!早く出せ。あの青二才。自らの才覚だと思っているのか?絶対に絶対に絶対に・・・」

「司祭様。撫養教の本部に向かいますか?」

「あ?!それどころでは・・・。ん。そうだ。八王子に迎え」

「八王子ですか?」

「そうだ」

「かしこまりました」

 司祭を乗せた車は、静かに雑居ビルの前から八王子方面に向かった。

 永田町にある雑居ビルは、政治業者の東京に於ける事務所になっている場合が多い。その為に、土地が少ないのに、大きめの駐車場が備え付けられている場合が多い。駐車場の賃料は驚きの値段になっている。相場で言えば、月額4万でも安いのに、永田町にある駐車場の賃料は、額面では4万だが、実際には数千円の場合が多い。事務所の賃料も同じような理論が働いている。しかし、借りている議員によって賃料が変わっているのが、永田町らしい話だ。

 車は八王子に到着した。
 八王子にある教団施設は、別の場所にある教団施設の窓口になっている。

 司祭は、施設に入ると、何も告げずに奥に入っていく、盲目的に従っている者たちが多い撫養教だが、その中でも狂信的な者たちを集めて、訓練を施している施設への窓口が奥に設置されている。

「司祭様」

「動ける者は何人居る?」

「上位者は、3名です。中位の者でよければ、100名程度です」

「上位は動かせないな?」

「はい。教皇様の護衛をしております」

「中位の者は、教義を遂行するのに、問題はないのか?」

「教義に反する異端者を導くことは出来ます」

「そうか、全員の稼働に問題はあるか?」

「神のご許可があれば・・・」

「わかった。何人なら動かせる?」

「12-3名なら、司祭様のご命令で可能です」

「わかった。教義と教団を守る為の聖戦だ」

「かしこまりました」

 受付に居た男は、司祭に頭を下げてから、端末に情報を入力する。
 司祭が行っている内容の把握はできている。把握が出来ているからこそ、足切りが必要だとも考えている。

 司祭に預ける13人は狂信し過ぎて、撫養教の訓練施設でも持て余し始めている者たちだ。実際に、殺しを行っている者も少なくない。

 13名は、司祭の配下に加わる命令を受諾した。
 そして、各々の新しい身分証を持って、50年ほど前に廃村になった奥多摩にある教団施設から、伊豆に向かう。伊豆で作戦を実行する者と、静岡市内に向かうものに分かれる。

 撫養教は一つの間違いを犯してしまう。
 狂信者がやりすぎた場合に備えて、監視兼後始末を行う者を後から向かわせた。その者たちは、撫養教を示す証を持っていた。後始末を行う為には、地域の政治業者に話を通さなければならない、場合によっては警察や消防への対応も必要になってしまう。
 その為に、撫養教としては最悪を想定した動きで、規定の行動だった。

 相手が悪かった。
 ただ・・・。それだけなのだが・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...