大人の恋愛の始め方

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【第1部】2.再会

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 九月に就職が決まってからは、よりバイトに勤しんでいる聡子だが、来年三月には高校を卒業する。就職するに当たって揃えるものも少なくないし、お金もかかる。自分のものはできるだけ自分でなんとかする、それが聡子の考えだ。
 明日からは冬休みで、もっとシフトに入れてもらえる。
 今日のバイトを終え、明日からもまた頑張ろうと決意する聡子だった。

 バイト帰り、なぜか電車の中が混んでいた。
(あー……そっか、今日はクリスマスイブだった)
 十二月二十四日。学校の終業式という「イベント」しか予定にない聡子には、恋人や家族の「イベント」の関心は薄い。
 クリスマスイブの夜のイルミネーションイベントがあったせいか、その帰宅客で電車内が混雑している様子だ。
(そういえば美弥も下山君と行きたい、って言ってたような)
 友人の鈴木美弥の発言も忘れてしまっていた。
 聡子はごった返す電車の中、押されてもぐっと堪えるしかなかった。

 ──そこに。
(え……)
 身体が硬直する。
 ぞぞぞ……と背筋が寒くなった。
 臀部を撫でられる感触。
 最初は触れただけのような感覚だったが、それが強くなっていくのがわかった。
(これ……)
 痴漢だ、と理解した聡子は、声を出そうとするが、脚が怯み……声が出ない。
(いやっ……)
 撫でていた手と思われるそれが、混雑の中スカートを捲って中に侵入してくるのを感じ、身体を捩ってどうにか逃れようと藻掻いた。
「ち、ちか……! この人……ちか……」
 声が思うように出ない。
(なんで……)
 こんな時に声が出ないの、と泣きそうになった。
 気持ち悪い、助けて、どうしたらいいの……と。

 聡子のすぐ近くで男の悲鳴があがり、かと思うと不快な感触が止んだ。
「おい、てめぇこの手はなんだ」
「!?」
 こいつ痴漢だぞ、とドスのきいた声がし、さっと人垣が動いた。
「てめえ、この嬢ちゃんに何してた?」
 声の主のほうをそっと見上げる。
(あ……この人……)
 見覚えのある男だ。
 瞬間、ぼろぼろと涙が零れ落ちて行く。
「なんなんだよ!」
 スーツ姿のサラリーマン風の男の手首を掴んだ男性がいる。
(この人……あの時の……人だ……)
「家で女房に相手してもらえねえから欲求不満なのか? 女子高生のケツ触って何が楽しいんだよ? 帰って女房の乳でも揉んでろや」
「人を痴漢呼ばわりするな!」
「痴漢じゃなけりゃ何だ? 強姦か? どっちも犯罪だけどな。きったねー手だよ。おい嬢ちゃん、痴漢されたんだろ?」
 急にふられた聡子は、ぶんぶんと首を縦に振った。
「それでも痴漢呼ばわりするなってか? 本当にやってないのか?」
「…………」
「混雑した電車で、バレないとでも思ったか?」
「…………」
「取りあえず次の駅で降りようや」
 サラリーマンはなんとか逃れようと腕を振るが、男の力が強いのかびくともしなかった。そのうち観念したのか、大人しくなった。
 混雑していたはずの電車は、聡子の周りだけ空間が出来ていた。  
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