大人の恋愛の始め方

文字の大きさ
36 / 222
【第1部】7.誘惑

しおりを挟む
 トモは聡子の手を強く引き、ずんずん歩いていく。
 どこに行くのだと思う間もなく、彼は聡子の手を引いたまま、近くのホテルに入った。
 ぐいぐいと引かれ、しかし聡子は抵抗すること出来ず、ただトモに付いて行った。
 力いっぱい掴まれ逃げることも抵抗することも出来なかったのだ。痛いとも離せとも言えず、一つの部屋に入ると、部屋の大きなベッドに力一杯たたきつけられた。
 初めて見るホテルの内部に感動する間もなく、何が何だかわけがわからないでいた。
 叩きつけられたかと思うと、トモに馬乗りにされ、身体は硬直していた。
「おまえ、ここがどういう場所かわかってんのか」
「えと……わか、わかります……」
 聡子は間抜けな返答をした。
「おまえ、今から俺に何されんのかわかってねえのか」
「えっと……? 何かする? つもりなんでしょうか」
(ここはラブホテルで、男女がいやらしいことをする場所で、トモさんとここに入って、今ベッドの上ということは……トモさんはわたしにそういうことをしようとしているってこと……)
 顎を掴まれ、口がゆがむ。
 うまく応えられないでいると、トモの顔が近づいてきた。
(いやっ……)
 ぎゅっと目を瞑る。
 唇を押しつけられ、貪られ、聡子は息をすることができずもがいた。
「下心なしでおまえの店に通ってると思ってんのか」
 ブラウスの上から両胸をぎゅっと掴まれ、聡子はびくりとした。
「でも、おまえを誘うわけにはいかねえと理性を働かせてたんだぞ。……けどな、これはおまえが誘ったんだからな」
「…………」
(なんだ、下心……あったんだ……)
 いきなりのことに驚いた。
(ガキだってよく言われたし)
 しかし思い返せば二十歳になってからは言われていない。
(いい女だって、褒めてくれてた)
 それが下心だったのかなとぼんやり思った。
 ぼんやり思う一方で、何度も胸を揉まれ、妙な感覚を得て、聡子は再び目を瞑る。
(トモさんは、わたしと「やりたい」だけだったんだ……)
 しかし不思議と嫌悪感はなかった。
 自分を気に入ってくれてたんだ、と前向きな思考が働いている。
「抵抗しねえのか」
 抵抗しようとしたが、思うように身体が動かないのだ。
 ブラウスのボタンをひとつひとつ、しかし乱暴に外され、胸元が露わになった。やっと動かせた両手で隠そうとしたが、おろおろとする両腕を頭の上で強く掴まれ、顔を背けるしかなかった。
(今日の下着……白だった……かな)
 頭上で押さえつけられた両腕が痛んで、聡子は動かない。
 恥ずかしい、と思いながらも、やはり動けずにいた。
「マジで抵抗しねえのかよ」
 下着をずらして胸元に吸い付かれ、また揉みしだかれ、妙な快感が身体を駆け抜けた。
「ふぁっ……」
 首筋にも吸い付かれ、スカートの中に手を入れられ、太股を撫でられる。
 身体が強ばり、されるがままだ。
 しばらくしてピタリ、とトモの動きがとまった。腕も外され、身体が少し楽になった。
「やめだ……会長の店の見習いホステスに手出したら、出禁にされちまうな」
(会長……の? 店?)
 トモは聡子から離れ、背を向けてベッドの縁に座った。
(ああ、そうか……店のオーナーはトモさんの所の会長さんだった)
 聡子はゆっくりと身体を起こす。
「服整えろ。すぐ出るぞ」
 トモは聡子のほうに目を向けずに、立ち上がった。
「あのっ……待って下さい!」
「なんだ」
 トモは振り向かずに言った。
「下心、持って下さってたんですよね? だったら続けてください」
「おまえ、自分でなに言ってっかわかってんのか」
「わかってます!」
 背中に叫ぶ。
「男知らねえんだろ」
「……経験のない女は面倒ですか?」
 二人の間に長い沈黙が流れていく。トモが答えないので、
「すみませんでした」
 聡子はぼそりと言った。
「や、やっぱり以前の彼女さんのほうがいいですよね。すごく上手だって言ってたし」
 と聡子は頭を下げた。
「付き合ってる女なんていねえよ。チンピラ崩れの分際で、まともに付き合える女がいるわけねえだろ」
 遊びの女しかいねえよ、と言う。
 相手もそれをわかっている、とも言った。
「俺は本気にならねえ」
「だったら……最後までしてください」
「バカ、自分を大事にしろ。おまえは二十歳だろ。俺なんかにくれてやるな、それに結婚前はするのはダメだって自分が言ってたろ。好きな男にくれてやれ」
「好きな人ならいいんですか?」
「ああ、いいんじゃないか」
 ぶっきらぼうな言い方だった。
「だったら、わたしは……トモさんのことが……好きだから……好きな人とするってことで、問題ないじゃないですか……」
「…………」
 聡子は言葉をうまく紡げない。
 トモのシャツの裾を掴み、俯く。
「トモさんがいい……」
「やっぱ惚れてんのか」
 後悔しねえのか、とトモは聡子を見下ろす。
「しません!」
 顔を上げて言ったが、恥ずかしさでいっぱいだった。
 トモは動かない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...