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【第2部】15.恋愛初心者
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聡子の所に、トモは通うようになった。
月曜はトモの勤務先の店が定休日なので、聡子の部屋で食事をするようになった。
「料理人の智幸さんに食べてもらうのは心苦しいんですけど……」
「なんでだ?」
人並みに料理は出来るようになったが、あくまでも最低限だ。トモはプロだ。間違いなくレベルが違う。
食べてもらう前から凹む聡子に、トモは苦笑した。
「聡子の料理は充分美味いよ。そう凹むなって」
トモは言うが、聡子は気分が晴れないこともあった。
「だって智幸さん、美味しい料理を食べることが好きって話してくれたし、お店ではきっとわたしじゃ作れないような料理作ってるだろうし。家庭料理にもならない料理ですよ」
「何言ってんだよ。おまえが作ってくれる飯がいいんだろ」
「……そうですか?」
「そうだよ」
ごくごく普通の御飯と味噌汁にサラダ、生姜焼きだ。あとはほうれん草のおひたし。どこかの定食のようだ。御飯と生姜焼きは、トモには多目にしている。
「俺はあんまり家庭料理になじみがないからな……。会長んちで、朝は揃って食うって決まりだけど、昼も夜も各自だから、こんな料理を誰かと食べるなんてことなかったしな。俺は賄いで食べるっちゃ食べるけど」
そうなんですか、と聡子はトモを見やる。
会長と、会長宅に居候になっている男性四人、五人全員で朝食は食べるらしい。早朝家政婦が来て、午前中だけは世話をしてくれるらしい。
夜は人がいれば、誰かの分も合わせて作って一緒に食事をすることがたまにはあるという。元構成員でない男性は、会長の経営する会社の会社員で、ほぼ毎日いるらしいが、彼は一人で食事を作って一人で食べ、他の三人と時間が合うような日は一緒に食事をする、その程度だと言う。
「そうでしたか……」
「あのさ、聡子」
思い出したようにトモが呼んだ。
「はい」
「あの……」
なんだか言いづらそうだ。
「飯のリクエスト、してもいいか?」
「ええ、いいですよ。何か食べたいもの、あれば。あっ、でも難しいのはできないかもですよ」
「うん、大丈夫だと思う」
なんだろう、と聡子は耳を傾ける。
「カレー」
「え?」
「カレー食いたい」
「カレーって、カレーライス?」
「おう。店の凝ったようなんじゃなくて、家で出てくる、普通のカレー、食べたい。聡子んち流の、食べたい」
少し照れくさそうにトモは言った。
聡子はもちろん頷いた。
聡子の所に、トモは通うようになった。
月曜はトモの勤務先の店が定休日なので、聡子の部屋で食事をするようになった。
「料理人の智幸さんに食べてもらうのは心苦しいんですけど……」
「なんでだ?」
人並みに料理は出来るようになったが、あくまでも最低限だ。トモはプロだ。間違いなくレベルが違う。
食べてもらう前から凹む聡子に、トモは苦笑した。
「聡子の料理は充分美味いよ。そう凹むなって」
トモは言うが、聡子は気分が晴れないこともあった。
「だって智幸さん、美味しい料理を食べることが好きって話してくれたし、お店ではきっとわたしじゃ作れないような料理作ってるだろうし。家庭料理にもならない料理ですよ」
「何言ってんだよ。おまえが作ってくれる飯がいいんだろ」
「……そうですか?」
「そうだよ」
ごくごく普通の御飯と味噌汁にサラダ、生姜焼きだ。あとはほうれん草のおひたし。どこかの定食のようだ。御飯と生姜焼きは、トモには多目にしている。
「俺はあんまり家庭料理になじみがないからな……。会長んちで、朝は揃って食うって決まりだけど、昼も夜も各自だから、こんな料理を誰かと食べるなんてことなかったしな。俺は賄いで食べるっちゃ食べるけど」
そうなんですか、と聡子はトモを見やる。
会長と、会長宅に居候になっている男性四人、五人全員で朝食は食べるらしい。早朝家政婦が来て、午前中だけは世話をしてくれるらしい。
夜は人がいれば、誰かの分も合わせて作って一緒に食事をすることがたまにはあるという。元構成員でない男性は、会長の経営する会社の会社員で、ほぼ毎日いるらしいが、彼は一人で食事を作って一人で食べ、他の三人と時間が合うような日は一緒に食事をする、その程度だと言う。
「そうでしたか……」
「あのさ、聡子」
思い出したようにトモが呼んだ。
「はい」
「あの……」
なんだか言いづらそうだ。
「飯のリクエスト、してもいいか?」
「ええ、いいですよ。何か食べたいもの、あれば。あっ、でも難しいのはできないかもですよ」
「うん、大丈夫だと思う」
なんだろう、と聡子は耳を傾ける。
「カレー」
「え?」
「カレー食いたい」
「カレーって、カレーライス?」
「おう。店の凝ったようなんじゃなくて、家で出てくる、普通のカレー、食べたい。聡子んち流の、食べたい」
少し照れくさそうにトモは言った。
聡子はもちろん頷いた。
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