大人の恋愛の始め方

文字の大きさ
上 下
142 / 201
【第3部】祐策編

5.遊びの女

しおりを挟む
 一人でぼんやり飲みに出かけると、何度か関係を持った女に出くわした。彼女は若やトモという男を気に入っていたが、相手にされず、彼らと伝を持てると思ったのか祐策を誘ってきたことがあった。そんな魂胆を知らず、ふらふらと彼女のアパートに誘われて、何度か関係を持った。だが自分から誘ったことはない。
「祐策君、どうしたの? 久しぶりじゃない」
 彼女はどこかの店のホステスで、今客を見送ってきたあとのようだ。寒空の下、煌びやかで、胸を強調させる衣装を身に纏っている。
「うん、久しぶり」
 まるで友達と会ったように彼女は接してきた。ほんの少し世間話をしたあと、彼女は祐策を誘ってきた。
「暇なら久しぶりに……どう?」
「…………」
「あらら、恋人出来た?」
 返事をしない祐策に彼女は目を丸くさせる。
「出来るわけないだろ。こんな俺に」
「そんなことないけど? 祐策君はぁ、そっちはすっごく上手だし。女の子はみんな喜ぶと思うけどな」
「それだけじゃ、だめだろ」
 冷たい目で睨むと、彼女は肩を竦めた。
「なんか久しぶりに会った祐策君、ちょっと冷たいね。いいや、今日はもう誘わないよ」
 じゃあね、と踵を返そうとした彼女の手を取った。
「ひゃっ」
「そのつもりがあるなら……するか」
 ぼそりと言う祐策に、ややあって彼女は笑った。
「いいよ。しよ。じゃあ、着替えてくるから、ちょっと待っててね」
「……うん」

 遅い時間になったが、彼女のアパートに行き、久しぶりに彼女を抱いた。女を抱いたのも久しぶりだった。
 彼女──ユキミと言ったか、本名は知らないがそう名乗っていた。自分のアパートを教えるなんてよほど自分を信用しているのかなとも思ったが、こちらの身元も割れているし、元の若やトモをはじめとして、祐策も割り切った関係だと理解しているし、彼女は彼女で祐策が変なプレイや、乱暴のようなひどいことをすることがないとわかっていたからある程度は信用があるのだろう。女子供に暴力や乱暴は絶対にしてはいけないと若にも言われてたし、堅気になる気があるなら、入れ墨は彫るな、仕事を持てと言い聞かされてきた。ただ女関係に関しては、責任を持てる範囲で遊べと、今覚えばよくわからないことを言われてきた。
「やっぱり祐策君、上手ね」
「そうか……?」
「久しぶりのせいもあるけど、やっぱりすっごくよかった」
 生身の女に触れて、自分の性欲が衰えていないことがわかって安心した。
(雪野さんも……柔らかかったな……)
 いやいや、と首を振る。
(だから雪野さんに触れたことないのに……)
 どうして彼女の身体が柔らかい、なんて思ってしまうのだろう。まるで抱きしめたことがあるかのように思ってしまう。
(抱きしめて……?)
「祐策君?」
「悪い」
「……ねえ、祐策君、好きな人いるでしょ」
「えっ」
「図星だ」
 隣に寝転がるユキミは笑った。
「別に……」
「マジ恋なんだね」
「なっ……」
 顔が赤くなったかどうかは自分ではわからないが、恥ずかしくて顔を背けた。
「だってね、上手は上手だったけど、なんか……手つきが前よりもっと優しくなってた。もしかしてわたしのこと好きだったのかな、って勘違いしちゃいそうだったけど、そうじゃないなって。前は結構わたしのことなんかお構いなしに突いてたのに、大丈夫か、って気にかけて訊いてきたよね。胸も痛くなるくらい激しく揉むのが祐策君だったのに、指使いのいやらしさが増してたもん。もしかして好きな人としたのかなって」
「……わかるのか」
「わたしはねー、ふふふ」
 ユキミが笑うのを見て顔を背け、正面に向いたあと天井を見上げた。
「好きな人には優しくするんだね。わたしさ、遊び人だし、いろんな人とシてきたからなんとなくわかるよ」
「…………」
「その人のこと好きなんだね。わたしと遊んでていいの? 彼女、泣いちゃうよ?」
 そう言いながら、ユキミはしなだれかかって来た。
「別に。遊んでも何も言われない」
「寛大なんだ」
「いや。抱いたこともない。付き合ってもない。俺が勝手に好きになっただけだ」
 ユキミは驚いた顔をした。
「してないの? 祐策君の気持ちまだ知らないの? じゃあ、その人とするつもりでわたしとしたの? 予行演習につもり?」
 矢継ぎ早にユキミは言う。
「違うよ」
「……告白しないの?」
「相手には旦那子供がいる」
「え」
「だから言うつもりはない」
 そうなんだ、とユキミは祐策の胸に手を置いた。
「……じゃあ、わたしと付き合う?」
「え? 付き合わないよ。俺を慰めてくれるつもりなら、今日抱いた分で充分だ」
「祐策君なら真面目に付き合ってもいいかなって思うんだけど。最初は高虎さんやトモさん目当てだったけど、祐策君は他の男と違って優しいし」
「セックスが他の男よりいいだけなんだろ、自分ではわかんねえけど」
「それもあるけどね。祐策君って丁寧に前戯してくれるもん。自分本位じゃないところとか女の子に喜ばれると思うし。ひどいことしないし、嫌がることもしないし、自分の女、みたいな顔もしないし。祐策君が彼氏ならいいだろうなあって思ってたよ」
 ユキミの顔を見ると、ふざけて言っているような顔ではないように思えた。
「わたしは祐策君のこと結構好きだし」
「……でも俺は、俺のことだけ見てくれる女がいい」
「祐策君の彼女にしてくれるなら、祐策君だけにするに決まってるでしょ」
「そうなのか?」
「普通はそうよ。浮気公認っておかしいでしょ。祐策君だけにするよ」
 だめ?とユキミはより一層すり寄ってきた。
 祐策の乳首を指で撫でる。
「うっ……ちょ……何するんだよ」
「ねーえ、付き合おうよ」
 その手はゆっくりと肌を伝って下半身へと移動していく。
「だめ?」
 祐策の身体が反応し、先程あれだけ使って大人しくなってきたのに、一番反応が強いその場所にユキミは手で触れた。
「だ、めだ」
「どうして?」
 ぎゅうっと握られ、祐策は顔をしかめた。
「俺は、今はただの会社勤めで、しかもまだ一人前でもないし。俺の女になったっていいことないよ。おまえの欲しいものを俺はプレゼントしてやれない。高いバッグも、アクセサリーも時計も、全然手が届かないんだから」
「祐策君にねだったことはないでしょ?」
「ないけど……だからだよ。俺以外の男にもらってるだろ。俺一人だと、そういうの手に入らなくなるんだぞ」
 祐策は現実を突きつけた。
 祐策の月給は安くはないだろうが高くもないはずだ。法律の壁で、ヤクザを抜けて五年は様々な制限がある。まだ五年を経過していない身としては、十八歳の成人ですら出来る契約も自分には出来ない。
 ユキミとは、自分とは関係を持つだけで何の贈り物もしたことがない。彼女から祐策を求め、祐策の身体で満足だということで関係は成り立っていた。他の男たちは、相手からユキミを求め、その代わりにユキミの欲しいものを手に入れているはずだ。
「……うーん、それは困るかな」
「だろ」
 結局そういう女だ、と口にはしないが祐策は思った。
「もう、おまえとは会わない。会ってもセックスはしない」
「えー……したいよ。祐策君の身体が一番気持ちいいのに」
「駄目だ、もうこれっきりにしよう。俺以上の男なんてごまんといるだろ」
 ユキミは不満げに口を尖らせ、身体を起こすと握っていた祐策のものを咥えた。
「やめろよ」
「……んぐっ」
「やめろって」
 頭を両手で掴み、退けようと試みるが、ユキミは咥えたままだ。
「何してんだよ」
 押し問答の結果、ようやくユキミは離したが、
「じゃあ、祐策君に彼女が出来るまでっていうのは?」
「だーめーだ」
「えー」
「しないって決めた」
 身体を起こし、ユキミの顔を睨む。
「好きに呼び出していいから」
「呼び出さねえ」
「あたしは祐策君ともっとしたい」
「いい男がいるだろ。勘弁してくれよ」
「あたしじゃダメ?」
 邪険にユキミを払うが、彼女はすり寄ってくる。
「おまえはいい女だ、俺なんかじゃなくていいだろ」
「じゃあ、祐策君だけにするって言ったらつきあってくれる?」
「俺はおまえの望むものを買ってやれない。無理だ」
 祐策としたいから付き合いたいのか、祐策と本当につきあいたい気持ちがあるのか、真実はわからない。しかしどちらであっても、どんな理由でも祐策には無理だった。 
「……じゃ、これが最後。最後にするから、もう一回さっきみたいに優しく抱いてよ」
 ユキミは祐策にキスをする。
 拒めない自分がいた。
 猛るものをやわやわと握られ、そのあとはされるがまま彼女を受け入れた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

政略結婚は失敗だったようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:170

ユーカリの花をいつか君と

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:27

ペントハウスでイケメンスパダリ紳士に甘やかされています

BL / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:977

副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです

BL / 連載中 24h.ポイント:3,205pt お気に入り:30

皇太子殿下の愛奴隷【第一部完結】

BL / 連載中 24h.ポイント:1,015pt お気に入り:453

処理中です...