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【第4部】浩輔編
37.約束
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舞衣の部屋のベッドに、二人抱き合い微睡む。
「舞衣、一緒に暮らしたい……でももう少し待てるか?」
「もう少し……?」
会う度に、浩輔は自分の状況を舞衣に話していた。
自分、というより同居人たちのことが主だ。
彼らは何事もなかったかのように振る舞っているが、思わぬところで日常に制限がかかって生きづらいこともあるようだ。元の仲間から別の組への勧誘があり、断ると暴行を受けることもあったようで、自分には知らない世界がまだまだあることを思い知らされている。
そんな彼らの支えに少しでもなれたら……というのは自分のエゴかもしれないが、浩輔は一緒に過ごすうちにそう思うようになっていた。
「待てるし、待つよ」
「ほんとか!?」
「だって……三原君がずっとわたしを思ってくれてたことに比べたら全然でしょ?」
もう少し、がどれくらいになるのか、浩輔は口にしなかったし、舞衣も尋ねたりはしなかった。しかし、これからずっと一緒にいたいと思っていることは伝わったようだ。
「よかった……嬉しい」
と浩輔はさらに舞衣を抱き締める。
「……舞衣の親御さんにもちゃんと挨拶にも行かないとだし、でも会長んちに居候の身で、自立してない情けない状態だから……待っててくれるか?」
うん、と舞衣は頷いた。
「早いとこ奨学金も返済したいし」
「わたしもあるけど……」
「舞衣は学校出たばっかだし。俺は二年しか通ってないのに、一応半額免除だったけど、それもまだまだあるからさ……。俺はいい格好したいし」
情けないけど、と身体を起こし、浩輔は顔を背けた。
「情けなくないよ」
舞衣も身体を起こし、タオルが身体から滑り落ちた。
彼女は手を伸ばして浩輔の顔を挟んでキスをする。
「……わたしは待ってるからね」
「ありがとな」
小柄な身体を抱き締め、背を曲げて首筋に顔を埋めた。
「一緒に住むまでにわたし、もっと料理が出来るようにならなきゃだね。三原君のほうが上手なんだもん。頑張らないと三原君に見捨てられちゃうよね」
「見捨てない。それに舞衣の飯、美味いと思うけどな」
「まだまだ頑張るから」
「はは、わかったよ」
頭を撫で、額をくっつけ合って笑った。
「けど」
まっすぐに舞衣を見る。
「誰か、いい男ができたら俺を待たなくていい。俺が……諦めるから」
「どうして」
舞衣は激しく首を振った。
顔が赤くなり、これは恥ずかしがっている時のものは全く違うことがわかる。どうしてそんなことを言うのか、と激昂しているのだ。
「待つって言ってるのに。どうして……」
「俺を待ってもらえる自信が……ない……んだ」
期間がわからない。
その時間を自分のために縛ってしまうのかと思うと、おのずと自信はなくなってしまう。
「わたしのこと信じられない? なんて、三原君を裏切ったわたしが言うなって話だよね」
「……そんなことない。舞衣のことは信じてる。今の俺のことを好きだって言ってくれたんだし」
「だったら信じて。約束よ」
わかった、と浩輔はゆっくり頷いた。
「……三原君、好き」
「……俺も、好き」
「じゃあ、一緒にいよう?」
「……うん」
舞衣から言ってくれたことに、大きく安堵した。
なあ、と浩輔は言う。
「そういえば。前から言おうと思ってたんだけど、いい加減の俺のこと、名前で呼んでくれないか? 俺はずっと名前で呼んでるのにさ」
「あー……うん……そうだね……」
「なんだよ、嫌なのか?」
そうじゃない、と舞衣は首を振る。
「恥ずかしくて……」
「恥ずかしくない。呼んでくれ」
「言うようにするから」
「こう……すけ、くん?」
「なんでくん付けなんだよ」
「えっ……だめ?」
「じゃあ、浩輔、さん?」
「さん付けはもっとおかしいだろー!」
「こうちゃん?」
「ん……結構いいな……ってそうじゃなくて。俺のことは呼び捨てでいいから」
無理だよ、と舞衣はさらに首を振った。
「人を呼び捨てにしたことないし、無理無理無理」
「……仕方ねえなあ、じゃあ、君付けで頼む」
「浩輔君、だね。これからそう呼ぶね」
「ああ」
名前一つ呼ぶだけでこんなに恥ずかしがられたら、どうすりゃいいんだよ、と浩輔は身悶えた。
(浩輔君、か……悪くないな)
「舞衣」
「はい」
「じゃあ、もう一回」
舞衣を押し倒した。
小さく悲鳴を上げた舞衣が、手をばたばたさせている。
「ちょっ……会長さんのおうち、早く帰らないとセキュリティかかっちゃうよ」
「わかってるけど舞衣が可愛くてもう一回したくなった。また一週間会えないしさ」
「もおーっ」
「そう言って俺の言うこときいてくれるんだろ」
ちゅっ、と唇を啄むと舞衣は眉を八の字にし、浩輔のキスを受け入れてくれた。
「かーわいい」
「そんなこと言って……」
そのあとの舞衣は何も言わず、ただ艶のある声を漏らすしかできなかったようだ。
浩輔は舞衣の身体を、まだ足りないと貪るのだった。
「舞衣、一緒に暮らしたい……でももう少し待てるか?」
「もう少し……?」
会う度に、浩輔は自分の状況を舞衣に話していた。
自分、というより同居人たちのことが主だ。
彼らは何事もなかったかのように振る舞っているが、思わぬところで日常に制限がかかって生きづらいこともあるようだ。元の仲間から別の組への勧誘があり、断ると暴行を受けることもあったようで、自分には知らない世界がまだまだあることを思い知らされている。
そんな彼らの支えに少しでもなれたら……というのは自分のエゴかもしれないが、浩輔は一緒に過ごすうちにそう思うようになっていた。
「待てるし、待つよ」
「ほんとか!?」
「だって……三原君がずっとわたしを思ってくれてたことに比べたら全然でしょ?」
もう少し、がどれくらいになるのか、浩輔は口にしなかったし、舞衣も尋ねたりはしなかった。しかし、これからずっと一緒にいたいと思っていることは伝わったようだ。
「よかった……嬉しい」
と浩輔はさらに舞衣を抱き締める。
「……舞衣の親御さんにもちゃんと挨拶にも行かないとだし、でも会長んちに居候の身で、自立してない情けない状態だから……待っててくれるか?」
うん、と舞衣は頷いた。
「早いとこ奨学金も返済したいし」
「わたしもあるけど……」
「舞衣は学校出たばっかだし。俺は二年しか通ってないのに、一応半額免除だったけど、それもまだまだあるからさ……。俺はいい格好したいし」
情けないけど、と身体を起こし、浩輔は顔を背けた。
「情けなくないよ」
舞衣も身体を起こし、タオルが身体から滑り落ちた。
彼女は手を伸ばして浩輔の顔を挟んでキスをする。
「……わたしは待ってるからね」
「ありがとな」
小柄な身体を抱き締め、背を曲げて首筋に顔を埋めた。
「一緒に住むまでにわたし、もっと料理が出来るようにならなきゃだね。三原君のほうが上手なんだもん。頑張らないと三原君に見捨てられちゃうよね」
「見捨てない。それに舞衣の飯、美味いと思うけどな」
「まだまだ頑張るから」
「はは、わかったよ」
頭を撫で、額をくっつけ合って笑った。
「けど」
まっすぐに舞衣を見る。
「誰か、いい男ができたら俺を待たなくていい。俺が……諦めるから」
「どうして」
舞衣は激しく首を振った。
顔が赤くなり、これは恥ずかしがっている時のものは全く違うことがわかる。どうしてそんなことを言うのか、と激昂しているのだ。
「待つって言ってるのに。どうして……」
「俺を待ってもらえる自信が……ない……んだ」
期間がわからない。
その時間を自分のために縛ってしまうのかと思うと、おのずと自信はなくなってしまう。
「わたしのこと信じられない? なんて、三原君を裏切ったわたしが言うなって話だよね」
「……そんなことない。舞衣のことは信じてる。今の俺のことを好きだって言ってくれたんだし」
「だったら信じて。約束よ」
わかった、と浩輔はゆっくり頷いた。
「……三原君、好き」
「……俺も、好き」
「じゃあ、一緒にいよう?」
「……うん」
舞衣から言ってくれたことに、大きく安堵した。
なあ、と浩輔は言う。
「そういえば。前から言おうと思ってたんだけど、いい加減の俺のこと、名前で呼んでくれないか? 俺はずっと名前で呼んでるのにさ」
「あー……うん……そうだね……」
「なんだよ、嫌なのか?」
そうじゃない、と舞衣は首を振る。
「恥ずかしくて……」
「恥ずかしくない。呼んでくれ」
「言うようにするから」
「こう……すけ、くん?」
「なんでくん付けなんだよ」
「えっ……だめ?」
「じゃあ、浩輔、さん?」
「さん付けはもっとおかしいだろー!」
「こうちゃん?」
「ん……結構いいな……ってそうじゃなくて。俺のことは呼び捨てでいいから」
無理だよ、と舞衣はさらに首を振った。
「人を呼び捨てにしたことないし、無理無理無理」
「……仕方ねえなあ、じゃあ、君付けで頼む」
「浩輔君、だね。これからそう呼ぶね」
「ああ」
名前一つ呼ぶだけでこんなに恥ずかしがられたら、どうすりゃいいんだよ、と浩輔は身悶えた。
(浩輔君、か……悪くないな)
「舞衣」
「はい」
「じゃあ、もう一回」
舞衣を押し倒した。
小さく悲鳴を上げた舞衣が、手をばたばたさせている。
「ちょっ……会長さんのおうち、早く帰らないとセキュリティかかっちゃうよ」
「わかってるけど舞衣が可愛くてもう一回したくなった。また一週間会えないしさ」
「もおーっ」
「そう言って俺の言うこときいてくれるんだろ」
ちゅっ、と唇を啄むと舞衣は眉を八の字にし、浩輔のキスを受け入れてくれた。
「かーわいい」
「そんなこと言って……」
そのあとの舞衣は何も言わず、ただ艶のある声を漏らすしかできなかったようだ。
浩輔は舞衣の身体を、まだ足りないと貪るのだった。
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