伝えたい、伝えられない。

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41.引越前夜(前編)

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 創平は、真緒の両親に同棲の承諾をもらうことが出来た。
 予め真緒が話して了承を得てくれていたのだが、食事に誘われた際、改めて伝えると、少し渋い顔をされたのが気になったが、一応は承諾してもらうことが出来た。
 結婚の申し込みの時はどうなるのだろう、と思ったがとりあえず第一関門は突破した、といったところだろうか。
「何か困ったことがあれば、いつでも相談してください」
「え?」
「娘は実家を出たことがなく、一人暮らしをしたこともない、なのに人と同居するのには……親としては不安があります。ましてや、一般の方とは違い、意思疎通も簡単ではないのに、この先困らないことがないはずはありません」
「それは……」
「娘を、よろしくお願いします」
 真緒の両親が、創平に向かって頭を下げたのには、恐縮するしかなかった。
「あの、頭を上げてください。自分がお願いする側なんですから」
 大事な娘さんをお預かりするのは自分です、と創平は今までにないほど真剣な表情で頭を下げた。
 片や自分の実家には連絡なしだ。父親と弟にはメッセージを送って、引っ越すことは伝えているのだが。
 ……それからは、真緒と一緒に部屋探しを初め、春の入学転勤シーズンを過ぎてから住むことを決めた。
 会社に真緒が自転車で通勤できる範囲がいいということになった。だが創平は車で通勤するという、不思議な間柄だ。話し合いの結果そうなったのだ。
 社長夫妻にも伝えたが、特に問題はないと言われている。それ以外の会社の同僚たちには、二人の交際は未だ話してはいない。山岡だけが知っていることだった。


 いよいよ明日引越をするという五月の土曜日。
 明日の日曜日は朝から作業をするからと、真緒が創平の部屋に泊まることになった。よく外泊を許されたなと思ったが、彼女が頼み込んだらしい。引越を終えたら、一度家には戻ることになってはいるようだが。
「真緒がこの部屋に泊まるのって最初で最後ってことだよな」
『そうですね』
「今までも、もしかして外泊してもよかったのかな」
『うーん、それは駄目でした。旅行も駄目って言われてましたし』
「俺は信用無かった……」
『そういうことではありませんよ』
 真緒は慌ててそれを否定した。
 荷物をまとめたために物が少なくなった部屋で、二人はローテーブルの上でカップ麺を食べている。外食をしようかとも言ったが、部屋でゆっくりすることになった。質素かもしれないが、二人でカップ麺を食べるのは初めてだったので、新鮮ではあった。
 本当は今日引越をする予定だったが、会社で借りる予定の平ボデーのトラックが、稼働している現場班で資材を積むということで、借りることができなくなってしまったのだ。引越業者に頼むことはしていなかったし、正直一日ずれても問題のない状況だったので、事前にずらし、引越先のオーナーには連絡をしておいた。
「真緒がカップ麺食べるのはなんか新鮮」
『そうですか? 会社で時々食べてますよ』
「そうなの!?」
 いつも弁当のイメージだった。
 まだまだ真緒について知らないことはあるようだ。
 食事を終えて、片付けをし、風呂を沸かした。
「さっきお湯入れといたから」
 はーい、というように真緒が頷いた。彼女はキッチンを拭いているところだった。やかんだけがコンロに乗っている。それ以外をしまって、拭き掃除をしていたのだ。
 明日の朝まで必要なものは、仕舞わずによけていた。
 冷蔵庫やテレビは、明日手伝いに来てくれる山岡と一緒に梱包して運ぶ予定だ。資材運びなど体力仕事をしているおかげで、プロほどではないが、それなりにスムーズに行くだろう。山岡がトラックを借りて、ここに来てくれる予定になっている。
「一段落? かなあ」
『そうですね』
「なら、ゆっくり風呂に浸かって寝るか」
『はい、今日は早めに寝て、ゆっくり休みましょう』
 真緒が言うと、創平は驚いた顔を見せた。
「え、早めに寝るの?」
『え? 明日動きますから、休んでおかないと』
「えー……」
 掃除を終えてタオルを手にしたままの真緒に近づいて、彼女を見下ろした。
「せっかく泊まるのに? このまま寝るのか?」
 真緒は眉を八の字にさせ、困った表情で創平を見上げている。
『明日、疲れますよ……』
「疲れないように真緒に元気もらいたい」
『えー……』
「そんな気にならないか……」
『そ、そういうわけじゃないですけど……』
 真緒の両腰を掴み、自分に引き寄せた。
 そのまま顔を近づけ、キスを落とすと、真緒の瞳は自然と閉じられた。
「ま、明日からは毎日一緒だし、がっつかなくてもいいか」
 ぽんぽんと頭を撫でると、真緒が創平に抱きついてきた。
「おっと……どうした?」
『…………』
 胸に顔を埋めている彼女の顔を覗き込み、
「ん? どうしたんだよ?」
 と優しく言った。真緒はおずおずと顔を上げ、少し身体を離した。
『これからは毎日一緒で……その、わたしとしかしなくなると、他の人としたくなったりした時は……困りますよね? 毎日はしないほうが』
 何言ってんだ、と創平は顔を顰めた。
「真緒と会って、好きになってからは誰ともしてないし、真緒がいるのに他の女とセックスしようなんて思わない。それ、浮気だろ? 俺はそこまでのクズじゃないと思うぞ? 真緒とこれから一緒なんだし、真緒がいいって言えば、求めるつもりだけど。まあ、毎日はさすがに俺も無理かもしれない。真緒は毎日するつもりだった?」
『毎日は……ちょっと』
「毎日は体力的に無理かもよ?」
 その気はあるけどさ、と創平は笑った。
「俺が真緒しか欲しくないのに、妙なこと言って……。俺がどんだけ真緒が好きか、これまでにも伝えてきたつもりだったけど、足りないみたいだな。なら、教えてやるからな」
 真緒の手のタオルを奪い取って放ると、彼女を姫抱きにした。
「ひぃゃぁ……」
 驚いたらしい真緒が悲鳴を上げた。
「真緒、いいよな?」
『……』
 視線が彷徨っている。
「返事がないのは承諾ってことだな」
 ベッドにそっと下ろし、彼女の身体に跨がった。
「今日は一晩中一緒だし」
 にっと笑って、唇をぶつけた。
 荒々しく口内を侵し、手は真緒の両胸を乱暴に包む。早く地肌に触れたくて、カットソーをまくり上げた。
「ごめん、真緒、ちょっと起きて」
 身体を起こして、真緒の上衣を脱がせた。彼女がされるがままだ。下着もさっさと取り払い、豊満な乳房を目にしてすぐにかぶりつきながら、押し倒した。胸をまわりから手で包み、中央へと指を動かしていく。柔らかくて指が沈んでしまいそうだ。
 先端を舌先でゆっくりと舐め回し、真緒の苦悶と快楽の混じった表情だ。
「気持ちいい?」
 こくり、と真緒は頷いた。
「真緒のおっぱい、柔らかくてきれい」
 先程まで柔らかかった先端がいつの間にか固くなり、創平は親指と人差し指で摘まんで、くにくにと刺激した。
 最初は胸を見せることも恥ずかしがっていたのに、今じゃ創平に触れられて悦んでくれているのが嬉しい。
「こっちも可愛がってあげないとな……」
 真緒の履いているデニムに手をかけ、下着と一気に脱がせた。抵抗する様子はなく、創平にされるがままだ。
(いい子だ)
 だが未だに恥じらいはあるようで、いつも太腿を捩らせたり、身体を捻って隠そうとはするのだった。
「隠せてないぞ」
 当然創平はそれを許すことはなく、両脚を掴んであっさり開かせる。
 顔を背けて、創平に見られているのを見ないようにしているのだ。
「今日もしっかり……」
 真緒の耳元に顔を近づけ、
「濡れてる」
 囁くように言う。すると真緒の顔がもっと紅くなるのだ。
「俺にさわられて興奮してんだもんな。可愛い」
『…………』
 指を入れ、ゆっくり動かすと、真緒の腰が浮いて身を捩らせた。
「気持ちいい? ナカかきまわしてるよ」
 うん、うん、と彼女が首を縦に振る。
「ちょっと早くするぞ」
 くちゅくちゅ、と淫靡な音が聞こえ、動きを早めるとその音はもっと激しい水音になった。真緒の手が創平の手首を掴む。
「ん? やめるの?」
 顔を覗き込むと、
『おかしくなりそうなので』
 はぁはぁと荒い息を吐いていた。
「おかしくなれよ。俺がもっとおかしくしてやるから」
『恥ずかしいです』
「いつも言ってるだろ。恥ずかしいことしてるんだから。俺の前でなら恥ずかしくない。もっといやらしい真緒見せて」
『……無理ですよ……』
「無理じゃない。じゃあ、もっと乱れさせてやるからな」
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