同じボトル、違う気持ち、同じ結末

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炭酸の泡が消える前に

3.エースの特権

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 合宿最終日。撤収作業に追われる宿舎の喧騒の中、結衣は必死に「いつも通り」を装っていた。
 けれど、ふとした瞬間に昨夜の熱を思い出しては、視線が泳いでしまう。
​「結衣ちゃん、これ車に運ぶの手伝って!」
「あ、うん! 今行くね」
​ 他の部員に呼ばれ、荷物を抱えて外に出ようとしたその時。
 背後から伸びてきた大きな手に、ひょいと荷物を取り上げられた。
​「……拓海」
「マネージャーがそんな重いもん持つなよ。ほら、貸せ」
​ ぶっきらぼうな口調。でも、荷物を受け取る瞬間に、彼の指先が結衣の手にわざと長く触れた。
「あ……ありがとう」
 顔が赤くなるのを感じて、結衣は慌てて俯く。周りには部員たちが大勢いる。付き合いたての、しかも「秘密」の二人の距離感は、あまりにも心臓に悪かった。
​「……ねえ、誰かに見られたら……」
「別にいいよ。見せつけてやりたいくらいだし」
​ 拓海はそう言って、結衣を物陰に促した。校舎の裏、大きな桜の木の陰。
 荷物を地面に置いた拓海は、そのまま結衣の行く手を塞ぐように壁に手をついた。
​「昨日のこと、夢だと思ってねーよな?」
「……思ってないよ。……忘れられるわけないもん」
​ 消え入りそうな声で答えると、拓海がフッと口角を上げた。その顔は、昨夜の切なげな表情とは違う、自信に満ちた「エース」の顔だった。
​「じゃあ、ちゃんと確認させろ」
 拓海が結衣の顎を少しだけ持ち上げ、自分の方を向かせる。
​「俺はもう、他の奴におまえを『マネージャー』なんて呼ばせたくねーんだ。……おまえ、今日から俺の彼女な。他の男に飲み物渡すときも、俺が隣で見てるからな」
​ あまりの独占欲に、結衣の胸が熱く震える。
「……そんなの、意地悪だよ。仕事なんだから」
「意地悪でいいよ。おまえの『特別』は、全部俺が予約したんだから」
​ 拓海はもう一度、結衣の唇を親指でなぞった。
 昨夜、初めて触れ合ったあの場所。
​「返事は?」
「……はい。……よろしくお願いします、拓海くん」
​「……っ、くん、とか呼ぶなよ。照れるだろ」
 ​さっきまで強気だった拓海が、急に顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
 そんな彼の反応が愛おしくて、結衣は思わずクスクスと笑ってしまう。
​「……今の、もう一回言え」
「やだ」
「やだって言うな。……ほら、ちゃんと俺の彼女になれよ」
​ 拓海はそう言うと、今度は隠すこともなく、結衣の指を恋人繋ぎでギュッと握り締めた。
 夏の空はどこまでも高く、二人の「これから」を祝福するように、真っ青に澄み渡っていた。

fin..


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