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20.知りたい(後編)
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よく考えてみると、かなりきつい体勢だった。上半身はベッドの上で、尻より下はベッドの下、そして春名が乗っているのは、少しばかり辛いのが本音だった。
意を決して春名の腰に手を回し、二人のはみ出た身体をベッドの上に乗せた。
「わわっ」
「すみません、ちょっとだけ辛かったので」
「あ、ごめん」
ひょいと顔を上げた春名の顔が近く、またドキリとしてしまった。
(慣れない……)
なんとか枕の上に頭を乗せ、春名を抱えてもさほど辛くない体勢に整えた。
(ふう……)
「前にさ、こうやって鈴木君にわたしが乗っかってるのに、ずっとそのままでいてくれたことあったよね」
「……そう、ですね」
春名も覚えていたらしい。
「あれ、嬉しかった」
「……そうですか」
「うん。優しい人だなあって」
「優しい人なんていくらでもいるでしょ」
「そういうことじゃなくて……んもう、鈴木君も大概ひねくれてるよね」
「そうですか?」
「そうだよ。……すごく救われたのに。もうっ、台無し!」
「あはは、すみませんね」
ぽんぽん、と彼女の背中を軽く撫でた。
「……重くない?」
「重くなんてないですよ」
祐輔の胸に上半身を預ける春名が、ひょこりと顔を上げた。
その彼女の頭を撫で、その顔を見て自然と笑みが零れる。
もぞもぞと彼女が動いたので、祐輔は腕を下ろした。
彼女は、祐輔の腹の上に跨がると、顔の両脇に腕を付き、至近距離で見つめてきた。
「ど、どうしました?」
彼女の髪がさらりと落ちてくると、髪を耳にかけた。
祐輔の両頬に手を添えると、顔を近づけてくる。
すぐ側に来たと思った時には祐輔は目を閉じた。
(また……キス、してる……)
すぐ離れるのを感じて、目を開けると、
「もう一回してもいい?」
と恥ずかしそうに春名は言った。
「え……あ、は、はい……」
そう言うと、また唇が重なった。
啄むようなキスを、何度もしてくれた。
(もしかして、僕からしなきゃいけない雰囲気だった……のかな)
離れたと思ったが、また至近距離で見つめられてぶつけられた。
祐輔は勢いをつけ、春名を抱いて形勢を逆転させた。春名を下にして、自分が彼女に跨がったのだ。
潤んだ瞳で祐輔を見つめてくる。
今度は祐輔から彼女にキスを落とした。
経験がないので上手くはないが、自分の気持ちを込めてぶつけた。
腕を伸ばして祐輔の背中に回し、春名は受け止めてくれた。少し離れて見つめ合ったかと思うと、またキスをする。頬や顎、首筋にもキスを落とした。
「んっ……」
とろんとした眼差しで見つめられると、またしたくなってしまう。
キスだけでどれだけ絡み合っただろう。
息を整えなければいけないほど、激しく交わしていたようだった。
「すみません……」
「ううん……」
ぱたんと祐輔は春名の隣に彼女に背を向けて倒れ込んだ。
狭いシングルベッドだ、落ちてしまいそうだったが、恥ずかしくて彼女の顔を見ることができない。
(野獣だよこれじゃ……)
自分のなかにそんな欲望があるなんて、思いもしなかった。
背中に彼女が身体を寄せてくるのがわかった。
「すみません……ほんとに……」
「大丈夫」
ありがと、と春名は言った。
少しの時間、そのままぼんやりとしていた。
「ねえ」
ふいに春名が背中越しに声をかけてきた。
「しなくていいの?」
「へ? 何をです?」
「その……キスより先のこと……」
「えっ!?」
唐突にとんでもないことを言われた、と祐輔は驚いた。
「先の、こと、ですか……」
「……うん」
「先っていうと、先、ですよね?」
「うん」
いわゆる身体の関係のことか、と祐輔はぼんやり思った。
「それは、まだ、早いので」
「え?」
昨日付き合い初めて、キスはしてしまったけど、だからと言ってすぐ次の段階へというのは早い気がした。もちろん世の中には、付き合ってすぐ関係を持つ間柄の人もいるだろうし、付き合う前に持つ人、付き合ってなくても持つ人たちもいるだろう。それは経験や実践を踏んだ人たちだからする駆け引きだ。
(自分には……早い)
春名のこれまではどうだったか知らないが、自分には考えられない。恋愛レベルゼロの自分にはまだだと思ったのだ。
「僕にはまだ早いと思います……。春名さんのことをまだよく知っているわけじゃないですし、その……身体の相性とか必要なのかもしれませんけど、それより僕は……あなたの好きなものや嫌いなものとか、どんなことに興味があるとか、今はそういうことを知りたいんです……」
中高生の頃は、可愛いから付き合いたい、ヤリたいから付き合いたい、とか曖昧な理由で異性とつきあっている者もいた。自分には理解できなかったが、そういうきっかけもあるんだなとぼんやり思っていた。そして自分には縁がないだろうということも。
「春名さんを知っていくうちに、もっと好きになって、その欲求は性のほうに向く日が来るんだろうとは思いますが……今は、段階をすっ飛ばしたくなくて」
こっち向いてよ、と春名が言ったので、祐輔はゆっくりと向きを変えた。
「……わかったよ」
「春名さんの、これまでの人は、そうだったかもしれませんけど、僕には……難しいハードルです。性欲がないわけではないですし、僕もその……願望がないわけじゃないんですけど、何分経験もないですから、失敗するかもしれませんし、その……」
「うん、わかったから」
彼女は困ったように笑った。
「……さっきのは、かなり箍が外れてしまったんですけど」
「さっきの……キスのこと?」
「は、い……」
「そうなの?」
「恋愛経験ゼロなんで……めちゃくちゃだったと思います」
そんなこと言わないでよ、と彼女は笑ってくれた。
祐輔の手を取ると、自分の頬に当てた。
「じゃあ、もっとわたしのこと知ってよ」
「そのつもりです」
「鈴木君のこと、わたしも知りたいから」
「……うん、知ってください」
見つめ合うと、どちらからともなく顔を寄せ、自然と唇が重なった。
「あ、遅くなりましたね、すみません」
「大丈夫。鈴木君が送ってくれるから安心してる」
「……そうですね」
二人で身体を起こし、春名は髪を手ぐしで整え、祐輔も上衣を整えた。
「あ、ねえ、鈴木君……、鈴木君のこと、下の名前で呼んでもいい?」
「え? あ、はい、いいですよ」
「じゃあ、祐輔君ね」
「呼び捨てのほうが良ければそれでも」
確か元彼は名前を呼び捨てにしていたなあ、と思い出したからだ。
「今は、ちゃんと君付けさせて」
「わかりました」
「鈴木く……祐輔君も、わたしのこと名前で呼んでほしいんだけど」
祐輔はきょとんとした。
「え? 春名さん」
「じゃなくて」
「呼び捨てってことですか?」
そういえば坂本や直輝も「春名」と呼んでいた。今の恋人は自分なのだから、呼ぶ権利はあると思われた。
「はるな?」
「あれっ……言ったことなかったっけ」
「え?」
「わたしの名前」
「へ?」
次の瞬間、祐輔は驚いて何も言えなくなるのだった。
「わたしの名前、春名明香里っていうんだよ」
fin...
意を決して春名の腰に手を回し、二人のはみ出た身体をベッドの上に乗せた。
「わわっ」
「すみません、ちょっとだけ辛かったので」
「あ、ごめん」
ひょいと顔を上げた春名の顔が近く、またドキリとしてしまった。
(慣れない……)
なんとか枕の上に頭を乗せ、春名を抱えてもさほど辛くない体勢に整えた。
(ふう……)
「前にさ、こうやって鈴木君にわたしが乗っかってるのに、ずっとそのままでいてくれたことあったよね」
「……そう、ですね」
春名も覚えていたらしい。
「あれ、嬉しかった」
「……そうですか」
「うん。優しい人だなあって」
「優しい人なんていくらでもいるでしょ」
「そういうことじゃなくて……んもう、鈴木君も大概ひねくれてるよね」
「そうですか?」
「そうだよ。……すごく救われたのに。もうっ、台無し!」
「あはは、すみませんね」
ぽんぽん、と彼女の背中を軽く撫でた。
「……重くない?」
「重くなんてないですよ」
祐輔の胸に上半身を預ける春名が、ひょこりと顔を上げた。
その彼女の頭を撫で、その顔を見て自然と笑みが零れる。
もぞもぞと彼女が動いたので、祐輔は腕を下ろした。
彼女は、祐輔の腹の上に跨がると、顔の両脇に腕を付き、至近距離で見つめてきた。
「ど、どうしました?」
彼女の髪がさらりと落ちてくると、髪を耳にかけた。
祐輔の両頬に手を添えると、顔を近づけてくる。
すぐ側に来たと思った時には祐輔は目を閉じた。
(また……キス、してる……)
すぐ離れるのを感じて、目を開けると、
「もう一回してもいい?」
と恥ずかしそうに春名は言った。
「え……あ、は、はい……」
そう言うと、また唇が重なった。
啄むようなキスを、何度もしてくれた。
(もしかして、僕からしなきゃいけない雰囲気だった……のかな)
離れたと思ったが、また至近距離で見つめられてぶつけられた。
祐輔は勢いをつけ、春名を抱いて形勢を逆転させた。春名を下にして、自分が彼女に跨がったのだ。
潤んだ瞳で祐輔を見つめてくる。
今度は祐輔から彼女にキスを落とした。
経験がないので上手くはないが、自分の気持ちを込めてぶつけた。
腕を伸ばして祐輔の背中に回し、春名は受け止めてくれた。少し離れて見つめ合ったかと思うと、またキスをする。頬や顎、首筋にもキスを落とした。
「んっ……」
とろんとした眼差しで見つめられると、またしたくなってしまう。
キスだけでどれだけ絡み合っただろう。
息を整えなければいけないほど、激しく交わしていたようだった。
「すみません……」
「ううん……」
ぱたんと祐輔は春名の隣に彼女に背を向けて倒れ込んだ。
狭いシングルベッドだ、落ちてしまいそうだったが、恥ずかしくて彼女の顔を見ることができない。
(野獣だよこれじゃ……)
自分のなかにそんな欲望があるなんて、思いもしなかった。
背中に彼女が身体を寄せてくるのがわかった。
「すみません……ほんとに……」
「大丈夫」
ありがと、と春名は言った。
少しの時間、そのままぼんやりとしていた。
「ねえ」
ふいに春名が背中越しに声をかけてきた。
「しなくていいの?」
「へ? 何をです?」
「その……キスより先のこと……」
「えっ!?」
唐突にとんでもないことを言われた、と祐輔は驚いた。
「先の、こと、ですか……」
「……うん」
「先っていうと、先、ですよね?」
「うん」
いわゆる身体の関係のことか、と祐輔はぼんやり思った。
「それは、まだ、早いので」
「え?」
昨日付き合い初めて、キスはしてしまったけど、だからと言ってすぐ次の段階へというのは早い気がした。もちろん世の中には、付き合ってすぐ関係を持つ間柄の人もいるだろうし、付き合う前に持つ人、付き合ってなくても持つ人たちもいるだろう。それは経験や実践を踏んだ人たちだからする駆け引きだ。
(自分には……早い)
春名のこれまではどうだったか知らないが、自分には考えられない。恋愛レベルゼロの自分にはまだだと思ったのだ。
「僕にはまだ早いと思います……。春名さんのことをまだよく知っているわけじゃないですし、その……身体の相性とか必要なのかもしれませんけど、それより僕は……あなたの好きなものや嫌いなものとか、どんなことに興味があるとか、今はそういうことを知りたいんです……」
中高生の頃は、可愛いから付き合いたい、ヤリたいから付き合いたい、とか曖昧な理由で異性とつきあっている者もいた。自分には理解できなかったが、そういうきっかけもあるんだなとぼんやり思っていた。そして自分には縁がないだろうということも。
「春名さんを知っていくうちに、もっと好きになって、その欲求は性のほうに向く日が来るんだろうとは思いますが……今は、段階をすっ飛ばしたくなくて」
こっち向いてよ、と春名が言ったので、祐輔はゆっくりと向きを変えた。
「……わかったよ」
「春名さんの、これまでの人は、そうだったかもしれませんけど、僕には……難しいハードルです。性欲がないわけではないですし、僕もその……願望がないわけじゃないんですけど、何分経験もないですから、失敗するかもしれませんし、その……」
「うん、わかったから」
彼女は困ったように笑った。
「……さっきのは、かなり箍が外れてしまったんですけど」
「さっきの……キスのこと?」
「は、い……」
「そうなの?」
「恋愛経験ゼロなんで……めちゃくちゃだったと思います」
そんなこと言わないでよ、と彼女は笑ってくれた。
祐輔の手を取ると、自分の頬に当てた。
「じゃあ、もっとわたしのこと知ってよ」
「そのつもりです」
「鈴木君のこと、わたしも知りたいから」
「……うん、知ってください」
見つめ合うと、どちらからともなく顔を寄せ、自然と唇が重なった。
「あ、遅くなりましたね、すみません」
「大丈夫。鈴木君が送ってくれるから安心してる」
「……そうですね」
二人で身体を起こし、春名は髪を手ぐしで整え、祐輔も上衣を整えた。
「あ、ねえ、鈴木君……、鈴木君のこと、下の名前で呼んでもいい?」
「え? あ、はい、いいですよ」
「じゃあ、祐輔君ね」
「呼び捨てのほうが良ければそれでも」
確か元彼は名前を呼び捨てにしていたなあ、と思い出したからだ。
「今は、ちゃんと君付けさせて」
「わかりました」
「鈴木く……祐輔君も、わたしのこと名前で呼んでほしいんだけど」
祐輔はきょとんとした。
「え? 春名さん」
「じゃなくて」
「呼び捨てってことですか?」
そういえば坂本や直輝も「春名」と呼んでいた。今の恋人は自分なのだから、呼ぶ権利はあると思われた。
「はるな?」
「あれっ……言ったことなかったっけ」
「え?」
「わたしの名前」
「へ?」
次の瞬間、祐輔は驚いて何も言えなくなるのだった。
「わたしの名前、春名明香里っていうんだよ」
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