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2章 白い帝国にて

2話 登って下ってまた登って

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 馬車に乗り帝国へと向かった私達は、はぐれていた護衛2人を乗せて数時間ほどで無事にシュネーヴァイス帝国へと到着。今は山を降りている最中だ。帝国へ近づくと雪が降ってきて、帝国へ入った頃には辺り一面真っ白だった。服装のせいもあるだろうけど凍えるほど寒くて、エーデルにフード付きのコートと手袋を貸してもらった。耳あてはないみたいだしフードを被っておく。

 「フブキ様、あちらが我が帝国の首都であるカルトです」

 そう言ってエーデルが指した方には大きな円形の城下街があった。北側は小さな山のようになっていて城と森があり、その周りの麓に街がある。首都は壁に囲まれていて東、西、南の3方向から入れるそうだ。城門は首都の南門から一直線上にあり、城にはそこからしか入れないらしい。帝国が広いのと、首都近くに来るまで山を登って来なければならなかったため、ここまで来るのに少しだけ時間がかかった。

 「大きいし更に真っ白だ」
 「一年中真っ白なのでシュネーヴァイスは白い帝国とも呼ばれているんですよ」
 「安直だよなぁ」

 エルガーの言う通り安直だ。分かりやすいけどもっと他になんか、なんかなかったのかな。
 そんなことは置いておいて、数分舗装された道を進み南門へと到着すると、私だけ門番から手荷物検査を受けた。他の4人は外へ行ってすぐ私を連れて帰ってきていたから驚かれていたけど、事情を話すと同情されていた。そういえば、人間は魔物に遭遇した時の死亡率が高いらしい。魔物は個体ごとに攻撃手段や耐性も違うみたいだし対策が難しいのかな。
 門を通って街に入ると、雪が降っているのにもかかわらず街は活気に満ち溢れていた。

 「こんな寒いのにみんな元気だね」
 「「「「えっ? 」」」」
 「さ、寒いですか? 今日はまだ暖かい方だと思うのですが……」
 「あー、外の国のヤツからすれば寒いんだろ。お嬢、防寒具まだあったよな?」
 「えぇ。……フブキ様、ぜひこれを。魔法がかかっているので今の物より少しだけ暖かいと思います」
 「ごめん、ありがとう」

 寒いと思っていたのは私だけだったようで、馬車にいた全員から驚かれた。貸してもらったコートは確かに先程より暖かい。聞いてみるとこのコートは魔物の毛皮でできていて、エーデルが勉強がてら魔法をかけたものだったらしい。どうやら魔物の毛皮などには魔法や魔術が付与できるみたいだ。後々エルガーがこっそり教えてくれたが、魔物の毛皮はとっても高価でそうそう手に入らないんだとか。しかもフード付きだからその分お値段も……。エルガー曰く「お嬢は金銭感覚が狂ってんだよ」とのこと。ちなみに魔法の付与はかなり高難易度とされているようで、エーデルはそれを1発で成功させたらしい。それを見た国にいる賢者(世界に5人しかいないすごい強い魔法使いのこと)は成功させるのに半年かかったそうで、その後しばらく落ち込んでいたらしい。
 話を聞きながら街を見ていると八百屋や装飾品の店など様々な店があった。大きな広場もあり、街の人々の憩いの場となっているようだ。
 しばらく進むと城の門がはっきりと見えてきた。首都周りの壁もそうだったが、壁は石を積み上げて作られている。門の扉はおそらく鉄で、かなり重そうだ。

 「フブキ様、申し訳ありません。本当は国に入る前に言えばよかったのですが、わたくし、すっかり忘れていたことがありまして…」
 「どうしたの?」
 「実は、この国では黒い髪や瞳は不吉だとされて忌み嫌われているのです……。幸い今はフードを被っていらっしゃるので国民に気づかれてはいなかったようなのですが、できるだけ髪や瞳を露出されないほうがよろしいと思います」

 護衛の3人をみると、今思い出したかのような顔をしていた。狼たちから聞いてはいたけど、本当にこの色がダメ、とかいう国があるんだ。

 「そうなんだ、教えてくれてありがとう。コートは借りたままで良いかな」
 「もちろんです」
 「ありがとう。…エーデル達は不吉だ、とか思わなかったの?」
 「いえ、私の魔法の師がフブキ様と同じなので皆忘れていたのだと思います」

 魔法の先生がいるんだ。国にも賢者がいるみたいだし、その人の知り合いとかかもな。少し心配なのでフードを深めに被り直す。

 「それと、私たちはまず陛下へご報告に参らねばならないのですが、その際、フブキ様の紹介も兼ねて共に参りませんか?」
 「わかった、行くよ」
 「本当ですか! ありがとうございます」

 皇帝に挨拶はしなければならないとは思っていたし、ちょうどいいな。……あれ、ちょっとまって。私敬語とか使えない! ど、どうしよう!? ずっと家にいた弊害が……!!

 「最後に、報告後は別行動になると思いますので、これだけは覚えておいて欲しいのです。絶対に私たち以外を信用してはなりません」
 「エッ、あっ、うん、どうして?」
 「……詳しくは話せません」

 うん、敬語のことは一旦放置しよう。エーデル達以外を信用するなってことは城内で何か起こっているのかもしれない。……城の中に入りたくなくなってきたけど、そういえばお金もってないし、宿無しはこの寒さだと困るし、服も欲しい。それにここまで来てじゃあやめとくとは言いづらいし、城に入るしかないな。面倒事は避けたいけどしょうがないか。

 「分かった。何が起こってるのかはわからないけど、信用しなければいい話だよね」
 「何も説明ができず、申し訳ありません」
 「いいよ、気にしないで。その代わりと言ってはなんだけど、少しだけ城に泊めて欲しい。今お金ないんだ」
 「わかりました、元からそのつもりでしたので、後ほど金銭をお渡しします」
 「え、いいの? ありがとう」

 この国では誰も信用しない。城にいられるかも分からないし、貰ってもなくなる前にお金稼ぐ手段を探さないとな。
 話をしている間に門の前に着いたみたいだ。また私だけ荷物検査を受ける。門番はすぐ帰ってきたことに驚いていたが、事情を説明すると同情されていた。

 「ではそちらの方が、」
 「えぇ、我々を救ってくださったフブキ様です。水魔法の使い手なのですよ」

 紹介されたのでぺこっと頭を下げておく。門番は一礼を返してくれた。皇女殿下の命の恩人だということで、快く城へ入れてくれるみたいだ。
 門を開いてもらい、城の敷地内に入る。どうやら城の周りをぐるぐる回ると頂上へ着くようで、道は傾斜になっていた。そのまま進むと傾斜はなくなりそこからは森だったが、あまり広くはなかった。森を抜けると凄く豪華な城があり、色は微妙に違うが、某テーマパークのお城ような外観のとても広そうな城だった。実際柵の中は山を降りている最中にも見えていたが外から見てもとても広い。

 「ひっろ……でっか……」
 「ふふ、他の国からここへ来た方はみんなそうおっしゃるんです。ちょっとした自慢なんですよ?」

 これは自慢になるだろうな。他の国の城は知らないが、かなり敷地が広いし、白い壁と藍色の屋根がとても綺麗だ。
 城の入口で馬車から降り、エーデル達に連れられて中へ入った。エルガーは別方向へ向かったが、どうやら馬車を置きに物置へ向かったようだ。もう1人の護衛は帰還の報告と皇帝に謁見のお伺いをたてに行ったらしい。全員が集まるまでの間私たちは客間で待機することになった。
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