勇者の影武者でやられる予定でしたが、魔王も偽物でした。

遠近法子

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第2話 影武者勇者の誕生

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 いよいよ明日が魔王討伐という夜、ヴァイスは宿屋の自室に俺を呼び出した。

「やってきたな」

 ヴァイスが俺に告げた計画は、驚くべきものであった。

「俺が、勇者の影武者に、だと……?」

「オレとお前は、背格好も似ている。ちょっと身なりを整えれば、初見の連中なら、まあバレない」

「なぜ、そんなことを……」

「オレの必殺スキル<デスブレード>は、一発目が勝負だ。確実に相手をしとめなければならない。そのためには相手の不意を確実につかなければならないんだ」

 勇者ヴァイスが、その名を轟かせるスキル<デスブレード>。

 巨大な龍さえ一撃で薙ぎ払う、あらゆる剣戟の中で最高峰に位置するスキル。

 たとえ魔王であっても、まともにその一撃をくらったら、ひとたまりもないだろう。

「デスブレード」の一発目を、より確実に当たるものにしたいというヴァイスの言葉は説得力があった。

「おまえが偽物勇者として、魔王の注意を引きつけている間に、オレは<デスブレード>を死角から打ち、確実に仕留める。それだけの話だ。
 すでにパーティの連中は、このことを知っている」
「しかし……」
 かすれた声で、俺は言う。
「何だ」
「しかし、それって……」

 それは、俺が魔王と直接対峙するということだ。

 スキルも何も持たない俺が、魔王の攻撃を直接受けたら……。

「わかってるな、リヒト。
 ここまで来て、逃げるとかナシだぜ」
「……」
「なぜ、おまえごときが俺のS級パーティ『トゥルーヒーローズ』にいられたと思ってたんだ」
 薄ら笑いを浮かべる勇者ヴァイス。
「……」
「すべて、このためだったんだ。俺の影武者になるため、おまえは今日まで生きてきたんだよ」
「そんな……」
 言葉も出ない。

 確かに、スキルを習得できない俺ごときが、なぜS級パーティに所属できていたのか、わからなかった。
 戦力にならない俺が、いくら皆に謝罪しても、周りのパーティメンバーはいつも笑って許してくれた。
 ヴァイスも「気にするな。お前には使命があるんだ。その日まで命を無駄遣いするな」と言ってくれていた。

「……そういう、意味だったのか」
 命を無駄遣いするな。
 使命がある。
「ほかの連中では、俺の身代わりにはなれない。その辺のごろつきを俺に仕立てるという考えもあったが、土壇場でばれてしまっては元も子もないからな。
 お前だけなんだよ。俺の身代わりになれるのは」
「……そ、んな……」
 俺だっていやだ。
 命を落とすのは、確実。

「死にたくは……ない……」
「おい、てめえ、ふざけるなよ!」
 急に激高するヴァイス。
「お前、ここまで俺たちのお荷物になって、いい思いをして、それで俺たちから逃げられると思うなよ!
 てめえのスキルは何だ! <失禁>じゃねえか!
 <失禁>の分際で、この<デスブレード>に意見しようなんて、十年早いんだよ!」
「……」

 ヴァイスの怒りに燃える瞳が、俺の気力をくじいた。
 本気で、怒っていた。
 本気で、俺のことをゴミとしか見ていなかった。
「てめえみたいなクズが、英雄になれるチャンスなんだよ。これは俺たちからの、お前への贈り物なんだ」
「……」
「いつも言ってただろう。お前、いつか人を救える英雄になりたいって。オレみたいな勇者になりたいって」
 ああ、そう俺は言っていた。
「パーティの連中は笑っていたが、俺はお前の気持ちがよくわかった。優しいし、人のためになりたいものな、お前は」
「……」
「チャンスなんだ、これは。お前が人生で一度だけ、英雄になれるチャンス」

 ジジ……とランプの芯が燃え尽きた。
 俺たちの姿が、闇に沈んだ。

「――わかった」
 俺は、言葉を絞り出す。
「俺は、お前の身代わりになる……」
「そうか、わかってくれたか」
 ヴァイスが俺の背中をたたいた。
「しくじるなよ。確実にやれ」
「ああ……」
「下で食事を用意してある。俺たちのおごりだ。酒も好きに飲め。最後の晩餐、っていうやつだ」
「要らない……」
 俺の声が、うつろに響く。
「そうか、好きにしろ。それじゃあ、明日準備するから」
 そう言って、ヴァイスは表へ出て行った。

「……」
 暗闇の中、俺は一人で呆然としていた。
「そうか、そうだよな……ははは……」
 虚ろな笑い声がこだました。
 何も使えないのに、S級パーティに居させてくれる仲間を、俺は勝手に『いいやつ』だとばかり思っていた。
 俺だって、スキルこそないけれど、基本の剣の技術や、初歩の魔法のレベルを上げるためにトレーニングを繰り返していた。
 冒険のためのさまざまな知識なども学んできた。
 そういう頑張りを、少しでも認めていてくれていた、と思っていたんだ。

 だから『いつか英雄になりたい』『いつかヴァイスのような、勇者になりたい』なんていっても、うなずいて聞いていてくれたんだと思っていた。

 笑っていたんだ。
 陰で、馬鹿にして笑っていたんだ。
(偽物が)
(影武者の分際で)
(お前は、死ぬ運命にあるんだよ)
「はは……はは……」
 俺はそうやって、一人で笑いながら、夜を過ごした。
 
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