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第4話 失禁と失望
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「ま、待て!」
状況の不自然さ。
この魔王が影武者である想定。
罠の可能性。
俺が思わず声を上げたのは、そんな理由などではなかった。
何と言ったらいいのかわからない。
ばかばかしいかもしれないが、それは俺が単に「この少女を守りたい」と思ったから、なのだと思う。
このときの自分の気持ちを、未だにうまく説明できない。
それでも、この年端もいかない少女が、魔王として手にかけられてしまうのは、なにか間違えているという気持ちが、胸の奥に強くあふれてきた。
俺は、少女を庇って、ヴァイスの前に立ちはだかった。
「待て、ヴァイス!」
残忍な光を宿す、勇者の瞳。
「リヒト、てめえもろとも魔王をぶっ倒してやるぜ!」
剣が妖しく光る。
ヴァイスが笑う。
(こ、殺される――)
深甚なる恐怖が、俺を貫いた。
その時、俺の体が緊張に耐えられなくなり、生暖かい液体が俺の股間からほとばしった。
(し、失禁――)
なんてことだ。
この期に及び、俺の体は間抜けなことに、漏らしてしまった。
つくづく、格好がつかない。
(そういえば、俺のスキルは<失禁>だったなあ――)
レベルを上げたところで手に入れることができなかった、さまざまなスキル。
その中で、唯一手に入れられた<失禁>。
俺はそれを憎んで、決して漏らさないようにしてきた。
どんな状況でも、絶対それだけはしないように心がけてきた。
(けれど、うまくいかないものだな――)
俺は諦めの気持ちに支配された。
このまま、股間をぬらして死んでいくのか。
せめて、この少女は守りたかったな――。
(スキル<失禁>が発動しました)
その時、俺の周囲で声が響き渡った。
何だ?
周りの誰も気づいた様子はない。
俺だけが気づいたのか?
(スキル<失禁>使用回数に達したため、消去されます)
(スキル……空欄×1)
(指定された任意のスキルを自由に『奪取』し、空欄に入れることができます)
な、何だ……。
一体どういうことだ……。
その瞬間、禍々しい色に輝いたヴァイスの刃が、眼前に迫って――。
「食らえ! <デスブレード>!」
「わあああ!」
(スキル<デスブレード>を『奪取』し、空欄に入れますか? Y / N )
すべての時間が硬直し、俺に選択肢が突きつけられる。
な、何だ?
訳もわからず、俺は絶叫した。
「い、イエス! Yだ!」
瞬間――すべての時間が動き出した。
「な、何だと――」
ヴァイスがあぜんとする。
こちらも、一体どうしたのかわからない。
襲い来る、すさまじい剣気――それが、一瞬にして消失したのだ。
まるで、陽炎のように。
「……何が起こったんだ?」
とにかく、ヴァイスの<デスブレード>が、完全に防がれた。
勇者の最高レベルの剣戟スキル。
それが、無効化されたのだ。
ありえない。不可能だ。
「これが、魔王のチカラか……?」
ヴァイスが言う。
「違う……」
俺は、思わずつぶやいた。
「何ィ?」
「この女の子は、何もしていない……」
俺は、呆然とつぶやく。
わけのわからないまま、俺は空中に浮かんだメッセージを凝視していた。
「スキル<デスブレード>を奪取しました(使用回数×1)
スロット使用の経験により、新たなスロットが2つ拡張いたしました。
以降のスキルは相手の使用時に、自動的に「奪取」され空欄に挿入されます。
現在のスロット。
(デスブレード)
( )
( )」
「<デスブレード>獲得……?」
理解できない。
その時。
「くそっ! そんなはずがあるか! もう一回食らえ!」
「や、やめろ、ヴァイス!」
俺はとっさに言った。
「なんだ、てめえ! 俺を邪魔するのか!」
「何か、異常な事態が起こっている! 危険だ! いったん戻ろう!」
「何言ってるんだ! バカが!」
再び、刃が<デスブレード>のまがまがしい色に染まる。
「ぶっ潰してやるぜ、ガキ!
俺のスキルは最強なんだアアアアア!!!」
「や、やめろ!」
俺は、とっさに反応した。
「<デスブレード>おおおお!!!!!」
「で……<デスブレード>!」
ガキィイイイイイイイ!!!!
「な、何っ!」
俺とヴァイスの間で、すさまじい剣戟の光が散った。
偽物の俺の剣。
そこから放たれたのは――。
「<デスブレード>……リヒト、なんで手前が……」
「し、失禁したから……」
俺は答える。
「くそ!」
怒り狂った勇者が、何度も<デスブレード>を放つ。
その度ごとに、俺の周囲で、妙なナレーションが響く。
「スキル<デスブレード>獲得しました。
スキル<デスブレード>獲得しました。
スキル<デスブレード>獲得しました」
「く、くそ、訳がわからない!」
俺は、ヴァイスの攻撃をかわしながら、必死に叫ぶ。
訳がわからないまま、俺はスキルを発動する。そうしなければ、倒されてしまう。
「<デスブレード>!」
「リヒト、てめえっ!」
俺がスキルを使うごとに、ヴァイスの顔が怒りで染まる。
「まねするんじゃねえ!」
振り下ろされる『デスブレード』。
しかしそれは、俺の手前で消失。
代わりに、響き渡るのは声。
「スキル『デスブレード』獲得しました」
「こ、混乱する! ちょっと黙ってくれ!!!!」
「了解いたしました。以降、音声でのナレーションは行われません」
俺のとっさの懇願の後で、不思議な声はパタリと消えた。
ほとんど反射的に、俺は手に入れたスキルを使い続ける。
他のことに意識を向けている余裕はない。
それでも、俺の想念は勝手に自走を始めた。
(他のパーティの連中は、どうしているんだろう……)
(魔王軍に、援護は来ないのか……)
(少女は……無事なのか?)
意識の間隙をつく、なにかの不吉な予感。
その時、少女の背後から、俺でもわかるほどの強大な魔力の膨らみが起こった。
「何か、来る……っ!」
やはり、この少女は囮か?
魔王の本隊は、背後に控えていたのか。
俺は少女に覆い被さるようにして、体を庇う。
続いて、巨大な魔力の集中。
(喰らうがいい……<獄炎>)
すさまじい炎が巻き上がる。
巨大なプロミネンス。
圧倒的な、人の身でおよそ行使することの叶わない、炎の最強魔法。
それが、俺たちめがけてぶち当てられようとしていた。
(さ、避けられない……)
その時、俺の体の下になった少女が、そっとつぶやいた。
「<リフレクション>」
「えっ?」
次の瞬間。
暗闇から巻き起こったすさまじい爆炎。
それがちょうど、なにかガラスの壁で遮られたように、はじかれてしまったのだ。
なんだこれは――。
少女の力なのか?
(邪魔をするな!)
再び巻き起こる、巨大な炎。
「く、くそ、させない!」
俺はヴァイスと、炎の魔力の集中する場所に、<デスブレード>を放つ。
なぜ使えるのか分からない。でも、これに頼るしかない。
「グアアアア!!!」
闇に吸い込まれた、最強の刃。
姿の見えぬ敵に、確かに一撃を与えた感触があった。
だが、相手を倒すまでは届いていない。
憎悪に満ちた呻きが、室内に響き渡る。
「キ……貴様ラ、ユルサン……」
――来る。
俺は、無駄と知りつつも、身構える。
次に、あの炎の一撃が来たら、耐えられない。
それでも――。
(この子だけは――)
(<キングダムヒール>)
その瞬間、清らかな声が響き渡る。
「何?」
清浄な光が周囲に満ち溢れた。
一同が、唖然とする。
続いて、
(<クォンタムテレポーテーション>……この場から逃れなさい)
謎の声が続ける。
瞬間、すさまじい光があふれた。
「くそおおおおお!! 邪魔を……するなぁぁぁ!!!」
先ほどの怒りに満ちた声が響き渡る。
白い光が、目の前を覆った。
そこで、俺の意識は途切れた。
状況の不自然さ。
この魔王が影武者である想定。
罠の可能性。
俺が思わず声を上げたのは、そんな理由などではなかった。
何と言ったらいいのかわからない。
ばかばかしいかもしれないが、それは俺が単に「この少女を守りたい」と思ったから、なのだと思う。
このときの自分の気持ちを、未だにうまく説明できない。
それでも、この年端もいかない少女が、魔王として手にかけられてしまうのは、なにか間違えているという気持ちが、胸の奥に強くあふれてきた。
俺は、少女を庇って、ヴァイスの前に立ちはだかった。
「待て、ヴァイス!」
残忍な光を宿す、勇者の瞳。
「リヒト、てめえもろとも魔王をぶっ倒してやるぜ!」
剣が妖しく光る。
ヴァイスが笑う。
(こ、殺される――)
深甚なる恐怖が、俺を貫いた。
その時、俺の体が緊張に耐えられなくなり、生暖かい液体が俺の股間からほとばしった。
(し、失禁――)
なんてことだ。
この期に及び、俺の体は間抜けなことに、漏らしてしまった。
つくづく、格好がつかない。
(そういえば、俺のスキルは<失禁>だったなあ――)
レベルを上げたところで手に入れることができなかった、さまざまなスキル。
その中で、唯一手に入れられた<失禁>。
俺はそれを憎んで、決して漏らさないようにしてきた。
どんな状況でも、絶対それだけはしないように心がけてきた。
(けれど、うまくいかないものだな――)
俺は諦めの気持ちに支配された。
このまま、股間をぬらして死んでいくのか。
せめて、この少女は守りたかったな――。
(スキル<失禁>が発動しました)
その時、俺の周囲で声が響き渡った。
何だ?
周りの誰も気づいた様子はない。
俺だけが気づいたのか?
(スキル<失禁>使用回数に達したため、消去されます)
(スキル……空欄×1)
(指定された任意のスキルを自由に『奪取』し、空欄に入れることができます)
な、何だ……。
一体どういうことだ……。
その瞬間、禍々しい色に輝いたヴァイスの刃が、眼前に迫って――。
「食らえ! <デスブレード>!」
「わあああ!」
(スキル<デスブレード>を『奪取』し、空欄に入れますか? Y / N )
すべての時間が硬直し、俺に選択肢が突きつけられる。
な、何だ?
訳もわからず、俺は絶叫した。
「い、イエス! Yだ!」
瞬間――すべての時間が動き出した。
「な、何だと――」
ヴァイスがあぜんとする。
こちらも、一体どうしたのかわからない。
襲い来る、すさまじい剣気――それが、一瞬にして消失したのだ。
まるで、陽炎のように。
「……何が起こったんだ?」
とにかく、ヴァイスの<デスブレード>が、完全に防がれた。
勇者の最高レベルの剣戟スキル。
それが、無効化されたのだ。
ありえない。不可能だ。
「これが、魔王のチカラか……?」
ヴァイスが言う。
「違う……」
俺は、思わずつぶやいた。
「何ィ?」
「この女の子は、何もしていない……」
俺は、呆然とつぶやく。
わけのわからないまま、俺は空中に浮かんだメッセージを凝視していた。
「スキル<デスブレード>を奪取しました(使用回数×1)
スロット使用の経験により、新たなスロットが2つ拡張いたしました。
以降のスキルは相手の使用時に、自動的に「奪取」され空欄に挿入されます。
現在のスロット。
(デスブレード)
( )
( )」
「<デスブレード>獲得……?」
理解できない。
その時。
「くそっ! そんなはずがあるか! もう一回食らえ!」
「や、やめろ、ヴァイス!」
俺はとっさに言った。
「なんだ、てめえ! 俺を邪魔するのか!」
「何か、異常な事態が起こっている! 危険だ! いったん戻ろう!」
「何言ってるんだ! バカが!」
再び、刃が<デスブレード>のまがまがしい色に染まる。
「ぶっ潰してやるぜ、ガキ!
俺のスキルは最強なんだアアアアア!!!」
「や、やめろ!」
俺は、とっさに反応した。
「<デスブレード>おおおお!!!!!」
「で……<デスブレード>!」
ガキィイイイイイイイ!!!!
「な、何っ!」
俺とヴァイスの間で、すさまじい剣戟の光が散った。
偽物の俺の剣。
そこから放たれたのは――。
「<デスブレード>……リヒト、なんで手前が……」
「し、失禁したから……」
俺は答える。
「くそ!」
怒り狂った勇者が、何度も<デスブレード>を放つ。
その度ごとに、俺の周囲で、妙なナレーションが響く。
「スキル<デスブレード>獲得しました。
スキル<デスブレード>獲得しました。
スキル<デスブレード>獲得しました」
「く、くそ、訳がわからない!」
俺は、ヴァイスの攻撃をかわしながら、必死に叫ぶ。
訳がわからないまま、俺はスキルを発動する。そうしなければ、倒されてしまう。
「<デスブレード>!」
「リヒト、てめえっ!」
俺がスキルを使うごとに、ヴァイスの顔が怒りで染まる。
「まねするんじゃねえ!」
振り下ろされる『デスブレード』。
しかしそれは、俺の手前で消失。
代わりに、響き渡るのは声。
「スキル『デスブレード』獲得しました」
「こ、混乱する! ちょっと黙ってくれ!!!!」
「了解いたしました。以降、音声でのナレーションは行われません」
俺のとっさの懇願の後で、不思議な声はパタリと消えた。
ほとんど反射的に、俺は手に入れたスキルを使い続ける。
他のことに意識を向けている余裕はない。
それでも、俺の想念は勝手に自走を始めた。
(他のパーティの連中は、どうしているんだろう……)
(魔王軍に、援護は来ないのか……)
(少女は……無事なのか?)
意識の間隙をつく、なにかの不吉な予感。
その時、少女の背後から、俺でもわかるほどの強大な魔力の膨らみが起こった。
「何か、来る……っ!」
やはり、この少女は囮か?
魔王の本隊は、背後に控えていたのか。
俺は少女に覆い被さるようにして、体を庇う。
続いて、巨大な魔力の集中。
(喰らうがいい……<獄炎>)
すさまじい炎が巻き上がる。
巨大なプロミネンス。
圧倒的な、人の身でおよそ行使することの叶わない、炎の最強魔法。
それが、俺たちめがけてぶち当てられようとしていた。
(さ、避けられない……)
その時、俺の体の下になった少女が、そっとつぶやいた。
「<リフレクション>」
「えっ?」
次の瞬間。
暗闇から巻き起こったすさまじい爆炎。
それがちょうど、なにかガラスの壁で遮られたように、はじかれてしまったのだ。
なんだこれは――。
少女の力なのか?
(邪魔をするな!)
再び巻き起こる、巨大な炎。
「く、くそ、させない!」
俺はヴァイスと、炎の魔力の集中する場所に、<デスブレード>を放つ。
なぜ使えるのか分からない。でも、これに頼るしかない。
「グアアアア!!!」
闇に吸い込まれた、最強の刃。
姿の見えぬ敵に、確かに一撃を与えた感触があった。
だが、相手を倒すまでは届いていない。
憎悪に満ちた呻きが、室内に響き渡る。
「キ……貴様ラ、ユルサン……」
――来る。
俺は、無駄と知りつつも、身構える。
次に、あの炎の一撃が来たら、耐えられない。
それでも――。
(この子だけは――)
(<キングダムヒール>)
その瞬間、清らかな声が響き渡る。
「何?」
清浄な光が周囲に満ち溢れた。
一同が、唖然とする。
続いて、
(<クォンタムテレポーテーション>……この場から逃れなさい)
謎の声が続ける。
瞬間、すさまじい光があふれた。
「くそおおおおお!! 邪魔を……するなぁぁぁ!!!」
先ほどの怒りに満ちた声が響き渡る。
白い光が、目の前を覆った。
そこで、俺の意識は途切れた。
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