勇者の影武者でやられる予定でしたが、魔王も偽物でした。

遠近法子

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第5話 スキル〈奪取〉

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――そして、物語は最初に戻る。
 
「……一体何だ、この場所は……」

 豪華な、城の一室。
 ベッドの上には、俺と眠れる少女。
 そしてその少女は、紛れもなく……。
 
「……魔王……?」」

 今となっては、その正体も怪しい。
 本当に、彼女は魔王なのか。

 偽物として……あの場所に居させられた存在ではないのか。
 
 わからないことだらけだ。
 
 その時、バン! と扉が開かれた。
 
「お目覚めになりましたか! 勇者リヒト殿!」

 入ってきたのは、背が高く極めてガタイのいい、壮年の男性。
 貴族のような服をまとっている。
 喜色満面の笑みを浮かべ、こちらに歩みよってくる。

「ご無事でしたか! 何か食べたいものなどございますかな? 何か体に不調などはありますかな?」
 手を差し出される。
「……いや、別に」
 俺はそれを無視する。
「いや、勇者リヒト殿! 申し遅れました。私はザラストロと申しまして、魔王軍の最高司令官を担当しております!
 リヒト様の見事な戦いっぷりは、拝見しておりました!」
「戦いっぷり……」

 そうだ。
「ヴァイス……ヴァイスは……?」
「勇者ヴァイス! リヒト様のお仲間ですね! 彼もちろん、無事でございます。
 今は、私の部下に、手厚い歓待を受けていることかと」
「……ヴァイスは、無事なのか」
「いや、大変でございましたね。我々も、魔王様の前で、リヒト様とヴァイス様が同士討ちを始めたのには、びっくりいたしました!」
「……同士討ち・・・・・・」

 ああ、確かに、傍目にはそう見えなくもないな。
 俺は、ただの偽物――影武者にすぎないのに。
 ヴァイスの仲間なんかじゃないのに。
 
「――俺は一体……」
「そう、そのことでございます! 私どもも、リヒト様の身に起こったことを詳しくお聞かせ願いたい!」
 大仰な手振りで、ザラストロは大音声を響かせる。
「あのような事態は、私ども魔族の長い歴史でも初めてでございます! 今、魔界図書館の様々なアーカイブを利用して、鋭意調査しておりますところですが、是非リヒト様からも、御身に起こりなされたことについて、詳しく伺いたい! 
 一体全体、どのような奇跡が起こりなされたんですか?」
「あのとき……」

 頭を必死で動かす。
 なぜ魔王軍が俺のことを生かしているのか。
 俺の体に起こったことに、興味があるからか。
 
(だから、俺を生かしている)
 
 用済みとあらば、俺をさっさと退治するに違いない。
 
(迂闊なことは、口走れないか……)

 それはそれとして、俺も俺の身に起こったことを詳しく知りたい。
 魔族から、うまく有利な情報だけ引き出すことができれば最高だが、そうはしてうまくいくかどうか。
 ヴァイスの行方も気になる。
 
(成り行きに任せるか……)

 相手から話を聞くには、こちらも情報をある程度出さないわけにはいかなさそうだ。
 
「ヴァイスのスキル<デスブレード>が、俺のステータスに表示された……」
「<デスブレード>! 勇者ヴァイス様だけが使える、最強の剣撃スキル! いやその技に、我々魔族の同胞は、幾人倒れたことやら!
 そして、そのスキルとは一体……」
「もともと俺のスキルは<失禁>だった。
 もちろん、俺はそんなスキルを使ったことはない。
 だが、ヴァイスとの戦いの中で、俺は自分の死を意識した。
 その時、俺は失禁していた……」
 
 ザラストロの表情は変わらない。
 なにか興味深そうな顔で、俺の失禁の話を聞いている。
 
「だが、その時俺の<失禁>スキルは、使用回数の上限に達したというメッセージがあった」
「……使用回数の、上限?」
「その時俺のスキルは<空欄>となった。
 その状態で、ヴァイスが<デスブレード>を使用してきた瞬間、それが消失して、俺のステータスに<デスブレード>が入ったんだ」
「……素晴らしい……」
「俺が見よう見まねで<デスブレード>を選ぶと、俺の剣が光って、ヴァイスの技を使うことができたんだ」
「それは……伝説のスキル<ラーニング>に酷似していますね……」

「ラーニング」
 顔を上げた俺の視線を、ザラストロがまともに捉えた。
「相手の使ったスキルを、自分のものとするスキルです」
 
 ラーニング・・・・・・。
  
 相手の使ったスキルを、自分のものとするスキル……。
 
「普通は下位のスキルをラーニングすることしかできず、学んだスキルを使用することにも制限があるのですが……」
「ラーニング――しかし俺のスキルは<失禁>のはずでは」
 
 そこで俺は気づく。
 
 そうではないのだ。
 俺のスキルはもともとは<ラーニング>に近いらしい。
 俺のスキルは……<空欄>。
 相手から受けたスキルをそこに入れることができる。
 
 だが、なぜか俺の<空欄>には、<失禁>のスキルが入っていた。
 そのせいで、俺が相手からスキルを学ぶことができなかった。
 それが、魔王との戦いの最中に俺が失禁することで、スキルが<空欄>に戻り……。
「スキルを新たに得る余地ができた……」
 そこでヴァイスの<デスブレード>がラーニングされたのか。

「素晴らしい! 勇者のスキル<デスブレード>までラーニングできるなんて!
 ラーニング技能にも様々な種類があれど、ここまで強力なスキルは、聞いたことがございません!」

 興奮した様子で、ザラストロが拍手する。

「ぜひステータス画面をお開きになってください!
 私どもはもちろん、リヒト様のステータス画面は見ることができませぬゆえ、詳しく状況をお聞かせください!」

 俺は手元の空間をなぞり、自分のステータス画面を表示する。
 ステータス画面とは、自分の現在の体力や攻撃力、魔力などを数字で表したものだ。
 冒険者ギルドに所属し「ステータス確認」の力を得ることで、誰でも見ることができるようになるのだ。
 そこで、自分のスキルを見ることができる。
 
 ぼんやりと輝く、ノート程度の大きさの画面が現れる。
 俺の名前……レベル……体力……それから。
 あれ?
 
「……ラーニングのステータスが」
「何かございましたか?」
「3つに増えているんだが」

 そうだ、たしかそんなことを、言われた気がする。
 スキルが成長して、ステータスが増えたとかなんとか。

「戦いの中で、レベルが上がったのでしょう。それでは、今リヒト様は、スキルを三つ習得できるということですね!
 素晴らしい!」

 ザラストロが、感激に耐えぬという表情をする。

「まことに貴方様が、真の勇者というに相応しい」

「……実感がわかないな」

 俺は正直に、感想を口にする。
 俺のスキルが、そんなものだったなんて。
 ずっと<失禁>のスキルだと思っていたのに。
 誰のスキルを、自由に使うことができるなんて……。
 
「そして今、リヒト様のステータスには、何が入ってらっしゃるのですか?」
「ええと……<デスブレード>と……」
「<デスブレード>と?」
「……<デスブレード>三つだ」

 嘘をついた。
 俺のスキル画面には、違うスキルが表示されている。
 
 確かに一つは<デスブレード>。
 しかし残り二つは、見たこともないスキル<キングダムヒール>と<クァンタムテレポーテーション>。
 一体、何を表しているかわからない。
 しかし、ばか正直にすべてをザラストロに伝える必要もないだろう。
 
「……<デスブレード>三つ?」
 ザラストロが、不審そうな顔をする。
「同じスキルが、三つもあるということですか」
「俺のステータスは、使い切りみたいだからな。一回スキルを使えば、<空欄>になってしまう。
 今はヴァイスの<デスブレード>を三回打てるということじゃないかな」
「ふん……それにしては……」
 ザラストロは、まるで昆虫か何かを見るような目で、俺のことを凝視する。
 こういうところは、まさに魔族だ。
(舐めたことをすると、お前ごとき一撃で葬り去ってやるぞ)という、圧を感じる。

 上等だ。
 どうせ、ヴァイスの身代わりとして捨てられているはずの命だ。
 相手の意のままになって、たまるか。
 
「まあ、いいでしょう……」
 ザラストロは向き直り、俺に満面の笑顔を見せる。
「状況はわかりました。それでは改めて、リヒト殿を我ら魔族の賓客として歓待したい!」
「どういうことだ?」
「今の素晴らしいスキルのお話を聞いて、リヒト様は我々魔族の最高の友人であると判明いたしました」
 ――張り付いたような笑顔。
 詐欺師の笑顔。
 こちらを取り込んで、意のままに操ろうとする相手の顔だ。
「どうやらリヒト様のスキルは、いわゆる<ラーニング>系のスキルとはひと味もふた味も違うものだ。いわばそれは、敵のスキルを、自分のステータスに入れてしまう能力――我々はこれから、リヒト様の能力を『ステータスする』と呼称することにいたしましょう」
「ずいぶん馴れ馴れしいんだな」
「長いお付き合いになるかもしれませんから」
 ザラストロは、にっと笑う。
「我々は、リヒト様を我々の新たな魔王として迎えようと考えているのですよ」
「な、ま、魔王?!」
 これにはさすがに俺も驚いた。
 何を言い出すんだ、こいつは。
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