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第一章
3話 黒猫
しおりを挟むふと僕の脳裏に、幼馴染みの飼っている猫と戯れた記憶が思い浮かんだ。
猫か、猫は可愛いよね。
黒い霧が、僕の思考に合わせて渦巻いたり、独特な模様を描く。
尖った耳に、長い尻尾、細く柔軟な身体。あの吸い込まれそうな程魅力のある、透き通っていて、でも力強い瞳。
そういえば、最近遊びに行ってなかった。また癒してもらいに…と言っても今は難しそうだな。
そういえばこの世界に猫はいるんだろうか。いたらいいなぁ。
【特殊スキル : 種族変化を獲得しました】
また頭の中で声が響いた。種族変化?
はっとして自分の身体を見る。
もう既に猫っぽい形になってるようだ。
黒い霧が最後の仕上げと言わんばかりに一気に凝縮されて、猫のような形から、どんどん本物の猫っぽくなっていく。
質感のない霧が、艶やかで、モフモフの毛並みに。ちゃんと瞳もある。そして僕はどこからどう見ても猫になっていた。
友達の飼っていた猫は白猫だから白猫をイメージしたつもりだったけど、何故か黒猫になっていた。
まぁ、無事に猫になれたので良しとする。
それに、可愛いのでなお宜しい。
猫の体の上にあるカーソルに集中して、早速ステータス確認をした。
***********************
【黒猫】
種族名 : 黒猫
種族 : 魔獣
闇属性
体力:150
魔力 : 123/123
スキル : 《猫パンチ 》 《引っ掻く 》《暗視》
特殊スキル : 《種族変化》 《黒神術 》 ◀︎
黒神術 : 《状態変化》 《創造》
***********************
おお、ちゃんと黒猫になってる。
スキルも猫らしいスキルだ。
取り敢えず、猫となった身体で森の中を散策することにした。
テクテクテクテク。
猫の身体は思ったより身動きが楽で、身体が軽かった。猫の体と比べると、霧状の身体の時は重心も視点もあっちこっち行って、早く動けないし若干酔うしで意外と苦労してたことに気付かされた。
霧状の時は身体の感覚が無かったけど、猫の体は五感が冴え渡っている感じがした。
生き物の足音とか草木の匂いとか、そういうのが細かく感じられる。
始めはこの世界が夢だと思っていたけど、今では現実として受け止めている。
それぐらい、猫の視点から見た景色は余りにも新鮮だった。
カーソルが表示される物は調べられるらしく、僕は色んなものを調べながら歩いた。
【フラッシュランプキャニオン】
【魔力が満ちた森の中や、洞窟に生える。昼間は普通のキノコと見分けがつかないが、夜になると発光して幻想的な光景を生み出す。無味無臭な為、食用には向いていない】
ただの白いキノコだと思ったけど、まさか発光するキノコだったとは。
【トギクソウ】
【その葉は魔病に効くとされ、古くから薬草として重宝される。その味は途轍も無く苦い】
真っ赤な花びらが棘のようになっていて、見るからに毒々しいからてっきり毒草だと思ったのに、薬草だった。
魔病って何なんだろう?ここは地球とは違うから病気の種類も違って当たり前か…。
そんな感じで、調べられるって便利だなぁと思いながら進んでいく。
テクテクテクテク。
森の中広いなぁ。黒い霧の身体で移動した時も、森の外に出られなかったし。
見渡す限り大小様々な木々が生えている。その木も、絶対地球で見かけないような葉の形だったり木の色だったり…。しまいにはワサワサ動く不気味な大木まで見かけてしまった。正直言って無茶苦茶怖いので僕は全力で距離を取った。
森の中は平坦ではなく、所々地面が盛り上がっていたり、大きな岩が埋まってたりする。尖った草木や、倒木、蔦、それらの障害物もある。
しかし僕は足が取られるわけでもなく、するりするりと進んでいく。おまけに全然疲れない。
人間の僕だったらとっくに疲れ切って倒れていると思う。
猫の身体の万能さを見に締めながら歩き続けること何十分…何時間?。
時間の感覚が分からない…。
ふいに、猫の鋭い嗅覚センサーが反応した。
何やら甘くて良い匂いがする…!
匂いに釣られて向かうと、赤くて、丸っぽい、ピンポン球サイズの美味しそうな実を発見した。
毒があったら困るので早速調べる。
【カルカの実】
【ほのかな酸味と甘みが特徴の果実。森の中の代表的な果実】
おっよっしゃ初めての異世界の食べ物発見!!
僕はカルカの実を一つを軽く猫パンチではたき落とし、一口齧る。
シャクシャクシャク。
ん~みずみずしくて美味しい!なんだろう、この不思議な味…。
野イチゴと桃を足して割ったような味に近いかもしれない。
猫の口で食べるのは初めてだから上手く食べれるか不安だったけど、気付いたらペロリと食べていた。
良い発見した!森の中を散策し続けて良かった、と心の底から思った。
残りの果実もはたき落として食べようとした時、ゾクリと背中に悪寒が走った。
身体の芯が麻痺して、全身が強張る。
何かに見られている事を背中で痛いほど感じた。
初めて感じる殺気に、僕はゴクリと喉から音が出る。
ーーこれは、恐怖だ。
日本という命が直接関わるようなこともない、平和な世界で生きてきて、これ程までに危機を感じたことがなかった。猫としての生存本能が危機感をより一層感じさせるのかもしれない。
何がそんなに危険なのか、と意を決して振り返る。
少し離れた先に、草むらの影から血に飢えてギラギラする何者かの目と目が合った。
恐ろしい形相の、血のように真っ赤な生き物だった。
「ウグググルルルル」
地の底から響く低いうなり声。
…まずい。に、逃げなきゃ…
ピコンッ
***********************
【レッドウルフ】◀︎
種族 : 魔獣
性別 : オス
闇属性 : 火
体力 : 800/800
魔力 : 48/50
スキル : 《空殺鉤爪 》 《火狼の咆哮》《糾牙》《火炎達磨》
特殊スキル : 《遠吠え》 《生体感知》
***********************
勝手に脳内にステータスが表示された。
いやいや調べてる場合じゃねええええええええ
僕は全力でその場から逃げた。
後ろを振り向く時間すら惜しく全力で走った。
荒い息と、枝やらがバキバキと折れる音がすぐ後ろで聞こえてくるから、あちらさんも物凄い勢いで追いかけて来てるのが振り向かないでも良く分かった。
いやあああああ来ないでええええ!!!!
パニックに陥りながらも、速度を落とさずに寧ろ限界まで上げながら障害物を避けたりギリギリ躱して突き進む。猫の動体視力が良くて本当に良かった。
美味しくないって、だって元々ただの黒い霧だったヤツだよ!?
決して僕の声が届くわけでもないので、こんなこと言っても無駄な足掻きだと分かってるけど。けどーー!!
木々の間を全力疾走で駆け巡り、急カーブや急なターンでなんとか振りまこうとするが、全然距離が離れてくれない。それどころか荒い息がさらに近くなっている気もする。
息もどんどん上がる。このまま食べられてしまうかもしれない恐怖が思考を支配する。
追い討ちをかけるように、体力が限界に近くなってスピードが徐々に落ちていく。
嫌だ、喰われたくない。
だがその思いも虚しく、前方に切り立った崖が見え始めた。
行き止まりだ。
猫の身体では、ほぼ垂直に近い崖を登ることなんてできない。リターンしたくとも、周りの木々が少なくなったため、下手にリターンするとあの恐ろしい真っ赤な狼に向かい打てられるだろう。
ちなみにあの真っ赤なでっかい狼、さっき調べたから分かったけど、レッドウルフと言うらしい。
僕は脳をフル回転させて考える。
自分の身体を霧状に戻せば 捕まることはないだろうけど…あれがいつまで持つか分からないから危険だし、あれめっちゃ移動遅いし、それは最終手段にしよう。
ならどうすればいいか。後は崖にレッドウルフが通れないような穴があれば良いけど、そんな都合いい事は期待するだけ無駄だ。垂直な崖を登る事が出来たらいいのに…そんな動物聞いた事ないし無理だ。
だとしたら、だとしたら……そうだ、飛び越えるという手段があるじゃないか。
障壁となっている崖の上まで飛んで越えられることができたら、あの狼っぽいの 羽とか生えてなかったし、流石に空まで追ってこれないだろうから逃げ切れる!!
僕には特殊スキルで種族変化と言うのが出来たはずだ。猫になったステータスで、いつの間にかついてたのを確認している。
字面から考えるに、種族を変化出来ると言う意味だと思うし、僕が猫に変化したから獲得したスキルだろう。
今は猫しか変化してないが、恐らく人間以外の具体的な生き物のイメージが出来れば 変化することが出来るだろう。
僕は猫の身体で前方方向に力の限り飛ぶ。
その瞬間、僕はカラスを思い浮かべた。
猫だった身体の感覚が瞬間的に変わるのを感じ、全力で羽ばたきながら地面を蹴った。
ばさっと羽が風を切る音がして、足が地から離れた。その瞬間、すぐ真後ろで「ガヴンッッッ」とレッドウルフの口がスレスレで宙を切った。
危機一髪の瞬間だった事なとつゆ知らず、宙に浮いたことで飛べると理解した僕は身体に重圧がかかるのを無視してとにかく羽を動かした。
途中何度もバランスを崩して落下しそうになるが、取り敢えず気力で乗り切る。
気付いたら崖の上も通り越してたけど、未だ恐怖が残る僕は 無我夢中で高度を上げ続けた。
森全体を眺められるような高さまで来て、ようやく僕は下を見る。
地上から大分離れていた。あのレッドウルフとか言うやつも今は見えない。
良かった、逃げ切れたのかな。流石にもう追われることはないよね。
僕はそのことに安堵して、気を抜いた瞬間
落下した。
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