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第一章
4話 崖の上のカラス
しおりを挟む安心した途端、ヒューーっと僕は引力に引っ張られるまま落下した。
わわわわわ!!!そうだ、今の僕はカラスなんだった。
無重力状態になって、肝が一気にヒヤッとする。
僕は慌てて羽ばたいたり、羽をあらゆる方向に傾けたり、色々調整しながら、なんとか安定して下降することに成功した。
スィーと飛行機の着陸体勢の様になって一先ずさっきの断崖の上に降り立つ。
と、間も無くどっと疲れが押し寄せた。もうヘトヘトだった。人生で一番恐怖したかもしれない。もーあんな思いはしたくない。
何となく後方を見る。崖の下には今さっきまで霧や猫の状態で彷徨い歩いていた森が見渡せた。鬱蒼と生い茂る森は、崖に囲まれ、陽の光が届きづらいのかはたまた狼に襲われたせいか、薄暗く不気味に見えた。
さっきまで彼処の遥か下に居たんだよね…。
今ここにいる事が何だか不思議に思える。
***********************
【カラス】
種族名 : カラス
種族 : 魔鳥
体力 : 50/50
魔力 : 123/123
スキル : 《突っつき 》 《フン落とし 》《疾空 》
特殊スキル : 《種族変化》 《黒神術 》 ◀︎
黒神術 : 《状態変化》 《創造》
***********************
ぐたーっとなりながらも、一先ず僕の状態を確認する。見て最初に猫より体力少ないことに気付いた。
しかもフン落としってスキル絶対要らない。それに絶対やりたくない。
空を飛べるという貴重な体験をパニック状態になって全然堪能出来なかった事を残念に思いながら、真っ黒なカラスの姿となった自分を見る。
空を飛べるのは便利だけど…意外と疲れるし、もし上空で大型の鳥にでも出会ったら体力少ないから一発でお陀仏だろう。
今は疲れて飛ぶ気もないし、かといって地上にいたら体力的な面で危ないし…
そう危惧した僕は、再び黒猫になった。
お、猫になったら疲れが取れた!
崖下の森はどうやら高い断崖に囲まれているのは、さっき上から見たときに気付いた。
僕がもしカラスになれなかったら、一生あの狼と追いかけっこすることになってただろう。そう思うと身震いした。
崖の上から向こうの方には、広大な草原が広がっていた。
つまり僕はこのまま歩いていけば、いずれ森から出られるだろう。
テクテクテクテク。
歩きながら考える。
このまま森から出て、どこに向かおう。これからどうすれば良いんだろう。
今のままだと行き当たりばったりのサバイバル生活になるのは確実か…。
どこかの村とか国を見つけて、この世界の情報とか知りたいところ。だけど、
その前にこの世界、人類って居るよね?どうしよう、人類居なくて、猿人とかだったら…絶望的過ぎる。僕としては元の日本に戻れたら一番なんだけどね。
そんな事を思いながら色々探索して歩くけど、中々森の出口が見えない。カラスで高度が上がって森が小さく見えてただけで、この森は結構広かったようだ。
丁度近くに小川を見つけたので、水分補給も兼ねてしばらく休む事にした。
小川に近づいて驚く。キラキラと流れる透明な川の水にピンクや白などのハスの花によく似た花々が浮かび、色とりどりの美しい風景があった。
【水精蓮】
【魔力が高く、水質の良い川や湖に咲く水草。水の精霊が好む花と言われているのが由来。魔法花の一種】
水精蓮…か。良かった、この川は水質が良いらしい。
僕は川に鼻先を沈めて、そのままコクコクと飲む。
っ!?
鼻に水が入って、川から飛び退いた。涙目になりながら、僕はフンフンと鼻に入った水を出そうと鼻を鳴らす。
そうだ、猫も犬も舌を使って水を飲むじゃないか。
その事に気付き、僕はチロチロと川の水を再び飲んだ。…うん、こっちの方が飲みやすいや。
満足に飲んだ後、僕はその場に伏せて休む。
優しい日差しが僕の体をポカポカと温める。気持ちよくて、目を細める。
日向ぼっこといったら猫の醍醐味だもんね。
やがてうとうとして、僕の思考が鈍くなっていく。
駄目だ、寝ちゃ…いけない…。
さっきみたいに、怖いモンスターが出てくるかもしれない。
けれど、崖の上に着いてから何かの生き物の気配はするものの、中々見かけないため僕の警戒心も緩んでいた。そんな僕は抵抗も虚しく睡魔に負けて寝てしまった。
***
寝て暫く経った頃だった。
モフッモフッ
「チュイー、チュイ?」
ん?
なんかモフモフして暖かいものが僕の身体に触れている気がした。それになんかの生き物の声がする。
寝起きで思考が鈍ったままの僕は、丸くなった寝たままの体制で、薄っすらと目を開ける。
「チュイー」「チュイー~」
まず真っ先に視界に入ったのは、モフモフの薄いベージュ色をした毛だった。
なんかよく分からない生き物が間近にいる事はわかった。
あ、寝ぼけているんだな…と思って目を閉じるが、チュイーという声とモフモフが鼻先をくすぐって、気になって寝られない。どうやら寝ぼけて見た幻影では無さそうだ。
僕はもう一度目を薄っすらと開ける。
するとさっきまで近くにいた生き物の全体が見えた。
キュルキュルの大きな瞳、小さな手足と耳にフワフワの丸い尻尾。僕の猫の身体の三分の一サイズ、ハムスターみたいな可愛さの小動物だった。
***********************
【アルラモルモ】
種族 : 鼠系の獣
性別 : メス
属性 : ノーマル
体力 : 10/15
魔力 : 48/50
スキル : 《穴掘り》 《逃げ足》《暗視》
***********************
僕は目をカッと開けて身体を起こした。何アレ!?可愛い!!!もっとおいで!!
その途端、近くにいたアルラモルモ達5匹ほどが一斉に逃げてしまった。
ああ、残念。もっとモフりたかった…。
それにしてもなんだったんだろ…見たところ何もされてなさそうだし…まぁいいや。
充分休みが取れ、しかも可愛い小動物に囲まれて疲弊した精神も癒された。思いっきり猫伸びをして、再び歩き出す。
歩いて数分、さっきの小動物、アルラモルモが一匹いるのを発見した。下を向いて何かを夢中でいじっているようで、こちらに全然気がついていない様子。
僕は、その可愛らしい姿をよく見たくて、草や木に身を屈め隠れながらこっそり近づく。
すると急にアルラモルモが顔を上げた。気付かれたと思ったけど、アルラモルモは僕とは真反対の方向を見ている。アルラモルモは首を傾げた後、また下を向いた。
良かった、気付かれてないみたい。
その事をいいことに、僕はアルラモルモにどんどん近づいて、とうとう一メートルぐらいになった時だった。
さっきアルラモルモが見た方向の草むらに、なにかパチっと光るものが見えた気がした。
何だろアレ…と思いながら見つめていた時、そこから一匹の全身ツンツンに逆立った白い毛を持つ凶悪な顔をした狐のような生き物が飛び出してきた。
ピコンッ
***********************
【サンダーフォックス】◀︎
種族 : 魔獣
性別 : オス
闇属性 : 雷
体力 : 170/170
魔力 : 87/87
スキル : 《空殺鉤爪 》 《雷電》《糾牙》
特殊スキル : 《生体感知》
***********************
「グルルルルル」
サンダーフォックスは牙を見せ、涎を垂らしながら見つめてくる。その視線の先はアルラモルモだ。
アルラモルモは震えて動かない。恐怖で身体が固まっちゃったんだろうか。
幸い、僕には眼中にないようだ。このまま逃げようとするけど、僕はアルラモルモから目が離せないでいた。
サンダーフォックスはジリジリと寄ってくる。動かない獲物を見て、笑っているようにも見える。
どうしよう。このままアルラモルモが食べられるのをただじっと見ることしか僕は出来ないのか。
サンダーフォックス、前見たレッドウルフに比べれば弱い方だと思うけど、僕から見たら十分脅威だ。
それに戦った事がないから、攻撃の仕方がまったく分からない。危険だ。一発で殺られるかもしれない。そう思って僕はゆっくりと後退する。
だけどサンダーフォックスが飛び上がってアルラモルモに食いつこうとした瞬間、僕の身体は無意識にアルラモルモを体当たりして跳ね飛ばしていた。
アルラモルモがどっか飛んで行って、僕はギリギリでサンダーフォックスを躱す。
「ガァァァァアアア」
狙ってた獲物を飛ばされて、怒り狂った狐の化け物の身体が、バチバチと音をたてて電気が発生する。
次の瞬間、空間を切り裂くように白い短い亀裂が現れ、目の前で光った…瞬間
ズゴォォンッと轟く激しい音が辺りを震わせた。
余りにも大きな音と眩しい光で一瞬気を失いそうになるのを堪え、僕のすぐ足元の地面に目をやると、
プスプスと煙をたてて焦げた深い穴が出来ていた。
もしやこれが魔法か!?スキルか!?
どちらにしろヤバ過ぎる!!!!
確かサンダーフォックスのスキルに【電雷】と言うのがあったから 今のが多分それだと思うけど…
こんなん避けられないよ、どうすればいい!?
混乱する中、サンダーフォックスは容赦なく僕に向かって飛びかかってくる。
その瞬間僕は無理矢理思考を加速させる。
僕にできるのって確か猫パンチとか引っ掻くとかふざけた攻撃スキルしかなかったはずだ。猫のままじゃ確実に殺られるだろう。
猫やカラス以外の強い動物に変化しないと…。
強い動物、動物、駄目だ思い浮かばない。森には強そうな動物がいっぱい居るのに、このままでは生きられない。
ん?待てよ、さっき見かけたレッドウルフ、アレに変身すればいいんじゃない!?
名案とばかりに、僕はちょっと前に襲われた恐怖のモンスターを思い浮かべ、身体を変えることに意識する。
人間になろうとしてもレベルが低くて変身できなかった。それなのに猫やカラスよりも何倍も強そうなレッドウルフに果たして本当に変化出来るのか。しかも一瞬見ただけだなのに、想像できるのか。いや、無理でしょ。普通だったらそう考える。
だけどこの時の僕の思考状態は普通じゃなかった。出来ないなんて微塵も思わなかった。出来る、良かった、これで起死回生だ!とすら思った。
身体が焼けるように熱くなる。ぐんっと一気に視点が高くなった時、すぐ目の前にサンダーフォックスの全開した鋭い歯がずらりと並んだ口を見て、思わず前足を振るって叩いていた。
グシャッッと前足が減り込む嫌な感触がした。
目の前のサンダーフォックスの顔が大きく引き裂かれていくのが、スローモーションの様にゆっくり見えた。そして口から何本の歯と大量の黒い血を噴出されながら地面に叩きつけられてバウンドし、そのままピクリとも動かなくなったサンダーフォックスを、僕は暫く唖然として見つめていた。
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