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第一章
11 ピンクの小竜
しおりを挟む目が覚めたら、青っぽい根っこに囲まれた空間にいた。
そのままフラフラ歩いて、青く輝くでっかい浮遊する石を探す僕は未だ寝ぼけているのだろう。
根っこに躓いて転んだ後、漸く現実世界に戻る。
ふかふかの毛布が敷き詰められた、細い蔦のような根っこで編まれた籠から起きたけど、あれは多分アルラモルモにとってベットのようなものなのだろう。
とりあえず根っこの部屋にあったアルラモルモサイズの穴から抜けて部屋を出る。昨日見た酷く幻想的な地下世界を目にしながら、地球上で見ないような色んな生き物達の横を調べながらテクテク通り過ぎていく。
んー、あのちっちゃくて白くてふわふわまん丸の動物、なんの種類だろう?
【ポルポナ】
【綿鼠系の獣。気が弱く、滅多に姿を表さない繊細な小型動物。木属性の魔法スキルを多く持っており、餌となる植物を魔法で育て自給自足する】
綿鼠…確かにふわふわしてるからね。重力を無視したようにふわ~、ふわ~って歩いているけど、これが魔法の力なのかな。
それにしても、木属性ね。やっぱり魔法を使うのにも、色々属性とかあるのかぁ。
他にも色々見て回ろう。
【ウォーターン】
【水属性の生物。身体の表面がジェル状に囲まれている。表面が乾くと、硬くなって防御力が高くなるが、動けなくなる。水属性の魔法を多く持つ】
【火蜥蜴】
【火属性の蜥蜴。火山付近や、暖炉の中に生息する。虫や草を燃やして、火ごと食べる。火属性の魔法を持つ】
【羽ウサギ】
【兎系の獣。耳が羽のようになっていて、少しの間飛べるが、主に高いところから低いところまで滑空するのに使う】
【羊】
【その毛は、防寒着などに役に立つ。唯一『羊毛爆発』という身体系スキルを持っており、危険を感じると毛の量が倍に膨らみ、敵が襲いにくると毛を身体から切り離して危険から回避する】
【トッキョ】
【水属性の鳥系の獣。鳴き声が名前の由来となっている。水属性のスキルを持っている】
…
………。
んー、なんか、地球上で見たことない変わった姿の生き物だったり、僕の知っている動物と似たような動物もいたり。
他にも色々いた。
さっきの羊とかもそうだけど、普通に地球上にいる動物もいたりしたから、少しホッとした。ちょっと身体系スキルとか、魔法スキルとか持っちゃってるのもいて、なんか若干違うのかもしれないけど。
像とかキリンだとか、ああいうでっかい動物とかも、似た系統としてちっちゃいのがいたりして、調べてて面白かった。
次はあのピンク色の丸っこくて可愛い首長竜を調べようかなぁと思った時、そのピンクの子と目があってしまった。
【エンジェルドラゴン(ピンク)】
【小型の竜種。妖精竜とも言われ、非常に珍しい。体色によって様々な属性に属する。ピンクは主に魅了や癒しなどの精神系魔法と、ヒーリング魔法のスキルを使う】
ステータスをちらっと把握する。どうやら色によってスキルとかが変わるらしい。ピンクは、やっぱり可愛い色だからかな…攻撃的なスキルとか無さそうでホッとする。
アルラモルモよりずっと大きいけど、円らな瞳、どこもかしこもまん丸で、鉤爪っぽいのがあるのに全く怖さを感じず、寧ろとても愛らしい。まるでぬいぐるみが歩いてきてるような感じだ。よく見れば、背中にちっちゃな比翼が付いている。飛べるのかな。
ってこっち向かってきてる!?どうしよう、でもここにいる以上安全な生き物のはずだけど…もしかしたらじっと見てしまったから怒ってるのかも…?でも目が離せない可愛らしさ…、うぅ怒られるなら甘んじてそれを受け入れようではないか。
そんなこんなで止まったままの僕を見て、ピンクの…エンジェルドラゴンは丸っこくて、牙の一つも生えていない大きな口を開いた。一瞬齧られるかと思ってたから目を瞑ったが、どうやらその心配は杞憂だった。
『ふふ、見ない顔の子鼠さんね。こんにちは』
キュウ、キュウ、と口では鳴き声を発してると同時に、頭の中に意思が言葉のように伝わってきた。
こ、これがテレパシーというものなのか!?
不思議な感覚、声じゃないのに…頭の中に直接響くし、意味もはっきりと分かる。
『あら、もしかして怖がらせてしまったかしら…?』
『【癒しの歌】』
テレパシーの摩訶不思議さに硬直している僕を見て、エンジェルドラゴンは怖がっていると思ったようだ。
すると突然、魔法スキル【癒しの歌】を発動して、歌を歌い始めた。
あの、怖かったんじゃありませんよ、と言おうとして、次の瞬間ピンクとオレンジの優しい光が、不思議でいて暖かいメロディが流れると共に全身を包み込んだ。
不思議な旋律を奏でるカラーエンジェルドラゴンの歌声が、体に染み渡るように響く。
わぁ…何これぇ…
楽しい、嬉しい、心地いい、気持ち良い、幸せ。
そんな、最高でポワポワ~とした夢見心地な気分になった。
歌声が静かに止むと、夢見心地な気分が徐々に収まっていく。それでも、なんだか幸せな気分が抜けきらない。
これが魔法なんだ、と身をもって体感させられた。
凄いな、魔法。僕も使えるようになりたい。
『ほら、もう怖くないでしょう?』
エンジェルドラゴンのテレパシーが頭の中に優しく響く。なんか…人の声にすると、年上のゆったりしたお姉さんみたいな感じな印象だ。
「チゥ、チュウ…?」
(はい、あの、僕に何か…?)
喋ってから気づいた。チュウ語だけど、会話が通じるのかなと。
『大丈夫よ、ここにいるみんなとは長い付き合いだから、【精神交渉】が可能なの。…あら知らない?このスキルは他の種族の声とともに発した心の声を聞き取り合う能力で、ずっとその種族と精神交渉していくうちに、ある程度心を的確に読めるようになるのよ』
精神交渉…テレパシー(念話)とはまた違ったスキルなのかな。僕の【獣話】は、僕と同じ種族としか通じない。精神交渉のスキルは正直欲しい。…あ、こう考えていることも心を読まれちゃってるのかな。
『小鼠さん、鑑定のスキルもっているでしょう?』
『え、鑑定スキル?もしかして、相手の能力とかを見ることが出来る力のことですが?』
僕のステータスには鑑定スキルって載ってなかったから、そんな名前がある事知らなかった。ずっとステータス表示って呼んでたなぁ。鑑定って短いから呼ぶの楽だし、これからそう読もう。
『そうそう、それを鑑定スキルっていうの。キョロキョロして他の種族とか植物をじっと見つめてたりしてたからもしかしてと思って…どうやら貴方は持っているようね』
『…はい、そうみたいです』
え、まさか鑑定出来るってバレたらまずい事なのかな…。
『あら、そんなに警戒しなくて大丈夫よ。貴方の種族で鑑定スキルを持っているなんて、凄く珍しいと思って…つい声をかけてしまったわ。けれど、…こうして話して分かったけど、貴方とても不思議な子ね。色も変わってるけど、小鼠さん達と本質が似て非なる存在というか…貴方の心も見えにくい』
エンジェルドラゴンさんの言葉に、ビクッと心臓が跳ねる。そんな僕の焦りを知ってか知らずか、エンジェルドラゴンさんはにっこり笑って
『きっと貴方は小鼠さん達のユニークモン…いえ、特別な子なのね!』
と潤んだ大きな目をキラキラ輝かして言った。
『初めて見たわ、鑑定のスキルは高位の生物しか取得できないと思ってた!私は調べたり、色んな種族の子とお話するのが好きだから、正直とても羨ましいけど…私の恩人である小鼠さん達の種族である貴方が鑑定スキルを持ってる事がそれ以上に嬉しいわ!凄い事よ!小動物達のスキル革命ね!』
穏やかそうな口調だったのが打って変わって話すエンジェルドラゴンさん。
でもエンジェルドラゴンさんはアルラモルモさん達が大好きなのが分かった。そして僕はこの日何度目かになるか分からない多少の罪悪感を抱きつつ、アルラモルモの恩恵に感謝した。
『本当に不思議、その小さな体に何が宿って居るのかしら。貴女はきっと…この世界に大きな影響を与えるわ』
エンジェルドラゴンさんは僕の何かを見透かすように、意味深なセリフを言って、ニコリと微笑んだ。
対し、僕はエンジェルドラゴンさんの言葉にギクリとする。
はい、実は人間の魂が宿ってますなんて…言えない。
『お、クロ!』
このままエンジェルドラゴンさんと話していると何もかも見透かれそうで怖い…と思っていると、丁度よく背後の方から、イテスの鳴き声が聞こえた。
『あら、お友達?貴方ともっとお話してみたかったけど、残念。いつかまた会いましょうね』
エンジェルドラゴンさんが名残惜しそうに言って微笑む。
『いつかって…』
ここにいればいつでも会えるだろうから、エンジェルドラゴンさんの言葉を不思議に思った僕は疑問の声を出す。
『だって貴方、ここからもうすぐ出るんでしょう?』
『!!』
このドラゴンさん、まさか僕の心 百パーセント読んでいるのではなかろうか。
そう、僕は村長さんに人間の話を聞いて、この世界をもっと知るために、遠からず人間の所へ行こうと思っていたところだ。
『どうやら当たりのようね。安心して、これは私の勘よ。それに私、この後用事があって暫く帰って来ないしね』
エンジェルドラゴンさんの言葉に少し安心しつつも、ぎこちない笑みをしながら『じゃあ…そろそろ…友達が呼んでいるので』とそそくさイテスの元へ走って行った。
エンジェルドラゴンさんにこれ以上何かを察せられるか、ちょっと怖かった。
『大変だろうけど、頑張ってね』
遠ざかるエンジェルドラゴンさんが、最後にそう言ってくれた。何に対してのエールなのだろうか。それに本当に何者なんだろう、エンジェルドラゴンさん…どこまで知っているのだろうか…。
そう思いながら、のんびりと待ってくれているイテスの元へ行くのであった。
*******
『え!!クロ、この村に引っ越すために来たんじゃなかったのか!?』
会って開口そこそこイテスのが口にしたのは、これから僕がこの村で住むための手続き(村のルールや動物達との付き合い方、住む根穴探し)の内容だった。
僕が地下世界で一生を過ごす前提の話で、どんどん話を進めていくので、慌てて『ごめん、違うんだ』と自分がこの地下世界に住まないことを説明した。
どうやら今まで他のアルラモルモは、大抵地下世界に一生暮らす目的で来ていたようだから、イテスもてっきりそう思っていたらしい。
『すまないな…勘違いしてしまった。クロが何処に行くかは気になるけどよ、アルラモルモの俺たちは弱いし、天敵が多いから気をつけろな』
天敵に襲われて、森で二度気絶したイテスの忠告だからこそ、ちょっと笑えてしまう。
『ん、イテスの言葉だと重みがあるね』
『あ、今笑っただろーー!』
イテスがふざけて僕の耳をくしゃくしゃ弄る。僕もやり返しに、おずおずとイテスの耳を触ってみた。めっちゃふわふわ。お互い精一杯手を伸ばして耳を触るアルラモルモの姿は可愛い。
はーー目の保養だー。
せっかくこの世界で初めて出来た友達なのに、すぐ別れるのは寂しい。
『ん、どした?』
ふと、静止した僕を、イテスは不思議そうに見る。
『あ、いや…せっかくイテスと知り合えたのに、すぐに出発するのは寂しいと思って…』
『なら俺んとこ暫く泊まれば?』
『え、いいの?迷惑じゃ…』
『気にすんな。あ、俺んとこ兄弟多いからさ、良かったら一緒に世話してくれると有難い』
こうして、僕は暫くの間、イテスのとこへお邪魔してすることになってから出発することにした。
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