『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

文字の大きさ
19 / 79
第一章 

15 眼差し

しおりを挟む



内臓が全て潰れ、右半分顔が抉り取られたかのような想像を絶する痛み。

痛い、痛い痛い痛い痛い苦しい息が出来ない痛い。

痛みで意識が朦朧とし、黒神術を使うことも出来ない。
敵の近づく足音がする。死にかけの獲物を仕留める捕食者の余裕か、その足取りはさっきと違って明らかに遅い。

霧のままの方がこんな痛みなかった。生き物を真似るのに、こんな痛みまで忠実になるとは思わなかった。
蠍のゆっくりとした足取りに悔しさがこみ上げ、ズタズタになったであろう歯をくいしばると、違和感に気づいた。



あれだけ顔面を殴り飛ばされたのに、歯は今のところ欠けてないし、抜けてもない。それに血の味もしない。両目はすんなりと開けられた。右顔面の直撃は失明は免れないダメージだったはずだ。

それに気づいた途端、さっきまで壮絶な痛みが嘘のように消えた。


***********************

【レッドウルフ】◀︎

種族 : 魔獣
闇属性 : 火 

体力 : 2804/3650
魔力 : 600/600

スキル : 《空殺鉤爪》 《火狼の咆哮》《糾牙》《火炎達磨》

特殊スキル : 《種族変化》 《黒神術 》 ◀︎
黒神術 :  《状態変化》 《創造化》《遠吠え》《生体感知》

***********************

鑑定で今の状況をすぐ様確認。確かにダメージは入っている。けど…

待って、え?めっちゃ僕強くなってる!?
驚いてスクッと立ち上がると、僕がまだ元気だということに気付き、蠍が威嚇の咆哮を上げる。そうだった、まだ危機からは脱してない。

「キシャァァアアアアアア」

巨蠍が針のついた尻尾を半身ごと頭上高くに持ち上げ、先端をこちらに向ける。威嚇のポーズだろうか?と思ったが、先端が膨れ上がれ針に魔力がこもって行くのが見えて、それが違うと分かった。

なんか来る!
急いで倒さなければと思い、さっき鑑定で見たレッドウルフのスキルを思い出す。

確か《火炎達磨》って言うのがあった!達磨って言うのだから、丸くなるのだろう。

『火炎達磨』

蠍が針からレーザービームのように、紫色の液体を僕のいた場所目掛けて噴出する。それより少し前に、レッドウルフの火炎達磨を発動した。全身に黒炎を纏い、頭と尻尾が半端自動的に丸まり、炎を利用した烈火の如く転がるスピードでビームを避けた。そのまま一直線に進んだ僕は、巨蠍の真正面へ体当たりを運良く食らわす。

『ッッギ…シャ』

巨蠍が潰れた声で鳴くが、火炎達磨の勢いは止まらない。
そのままギュルギュルと高速回転し、巨蠍の頭部をどんどん焼き削って行く。

当の本人だが、余りにも早い回転に蠍より驚いていた。回転を止めようと思っても止められず、自分が黒い炎を纏いながら爆回転する様子を外の視点から呆然と眺めていることしか出来なかった。

そのまま巨蠍の頭部から胸部まで黒い炎の荒れ狂う大車輪は回転しながら沈み、巨蠍の針の尾が地面にズンと落ちたところで漸く止まる。



***********************

【エンシャードスコーピオン】◀︎

種族 : 蠍系魔物
闇属性 : 火 
死亡
体力 : 0/3080
魔力 : 324/600

スキル : 《ポイズンビーム》 《スラッシュ》《クイックアロー》

特殊スキル : 《蠍の舞》 

***********************

そのままシュタッと地面に四足で着地し、鑑定した。
エンシャードスコーピオンはもうピクリとも動かない。
しかし、その巨体は今にも起き上がってきそうな程迫力があり、あまりそこに長居したくない僕はその場から移動することにした。

***

太陽はもう沈みかけ、夕暮れとなる。この異世界で、太陽と言うのか分からないけど…。
エンシャードスコーピオンとの戦いの後、巨大な双頭亀–––鑑定の結果デュオタートルと言うらしい––を何匹か遠目から見かけた。

辺りの木々は青やら白やらの巨木が多かったのに、幹が茶色、葉が緑のだいぶ普通の色で普通の大きさの木が多くなってきた。崖の上の森を歩いてから随分と歩いてきたが、もしかして森を抜けられるのも近いのかもしれない。

普通の木を見かけるようになってからは、魔物をあまり見かけなくなった。それなら猫になっても安心かな…と黒猫に変化する。レッドウルフは強くて良いんだけど…やっぱり自分から見てもかなり怖い姿だから気を貼ってしまうし、図体が大きいから足音が響くし小回りも効かない。それより、可愛い猫の姿の方が慣れてるし安心する。

刻々と辺りが暗くなって行く中を、猫の夜目を効かせながら今日のエンシャードスコーピオンとの戦いを思い出す。

エンシャードスコーピオン…強かった。そう言えば初めて他の生物になってスキル使ったなぁ。

あれだけ回転したのに目が回ってないのは、スキルだからだろうか?それにしても、凄い光景だった…。

レッドウルフはレベルが上がって、攻撃が二回も直撃したのに案外体力が残ってたし、良かったけど…もし、種族変化した状態で体力がゼロになったらやっぱり死ぬのかな。
そういえば攻撃食らった時めちゃくちゃ痛かったのに、攻撃を食らっても体力は減ってたが、今くまなく身体を見ても怪我とかがなかった。

それに気づいた途端、痛みが無くなったし…うーん、つまりレッドウルフはすごく頑丈で、あれくらいのダメージじゃ怪我はしないのかな?
あと、ダメージなんて大したことない、全然大丈夫と思えば痛みを感じなくても済むのだろうか。

猫の姿で悶々と考えながら、すっかり暗くなった森を歩く。取り敢えず、ダメージを受けないように頑張ろうと決めた。

***

森の中を一匹の黒猫が静かに進む。白に近い蒼銀に輝くその珍しい瞳は、夜の闇の中でぼんやりと神秘的に揺らめく。

青い月明かりは黒猫を照らすが、よくよく見ればその黒より暗い漆黒の身体には毛艶が無く、どこか異質で 普通の猫と違う。

「~♪」

そんな不思議な猫を、普通の人間ならば見えないような場所から見つめる者がいた。

青い月から最も近い木、この世界では世界樹と呼ばれるその雲を突き抜けた先の枝の上で、体を揺らしながら機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。

「あは、楽しみだなぁ」

光る太い線模様の入った黒いフードの下から覗いた口元は、にんまりと弧を描く。

予測がつかない方向へ日々成長しているソレが、後々この世界にどんな影響を及ぼすのか、楽しみで仕方がない。

この黒猫の形をしたソレは、もうすぐ森を抜けるだろうと予測する。そして、黒猫に待ち受けるのは闇の者では決して渡り切ることの出来ない大河。そして、その向こうの黒猫の目指す人間の国。

この先どんな行動をするのか。その身体で、その心で、どんな反応をするのか。

ずっと黒猫の様子を見ていたかったが、それが出来ない事を残念に思いつつ、その人物は見ていられる今のこの状況を楽しむ事にした。

「まぁ頑張れよ、俺の『弟』」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...