『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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第一章 

22 少女

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壁際まで野良犬に追い込まれていた女の子は必死で両手を掲げ、緑に光るドーム型の薄い膜で野良犬達からの攻撃を防いでいた。だけど、今にも薄い膜は割れてしまいそうだった。

(大変だ!!)

僕は反射的に塀を伝って女の子の元に駆けつけると同時に、バリンと音を立ててドーム型の薄い膜が破れた。

(間に合って良かった)

そして、女の子を守るような位置に飛び出し、三匹の野良犬に向かって全身の毛を逆立てて威嚇する。

「***!!」と驚く女の子の声。

突然の黒猫の登場に、一瞬ポカンとした野良犬達であったが、更に凄い剣幕で吠え「引っ込んでろ」と言わんばかりに逆立った黒毛の一匹が跳躍して喰らいかかって来た。

…本能的に威嚇したけど、そんなんで退いてくれる筈ないよねー。

パッと調べてみたところ、野良犬達の体力は150前後であり、黒猫と余り大差が無い。一匹ならなんとか引き分けに持ち込めるかもしれないが、数で不利な分、真っ向からの勝負は勝ち目が無いだろう。
だけど、僕の直ぐ後ろには女の子がいるので野良犬達の突進してくる噛みつきを避ける訳にはいかない。

本当は黒神術でどっかに放り投げたいけど、女の子が見てる前で不審な事をしたくない。(←凶暴な野良犬の前に立ちはだかる黒猫も不審な事を分かっていない)

 という事で、僕は一歩も避けずに飛びかかってきた逆毛の黒い犬を真正面から受け止めた。当然、僕は犬に身体を噛みつかれ、同時に女の子の悲鳴が聞こえた。

(大丈夫だよ)

犬が噛んだところは既に黒神術で黒い霧状の黒魔力に変化させているので、痛くも痒くもない。怖いのは魔力による攻撃だが、野良犬達は何故だか魔力がゼロに近いしスキルも攻撃出来るのは『噛み付く』ぐらいしか持ってないので心配する由も無かった。

霧状の黒魔力の透過性を利用し、噛みついてきた犬の口の中に、霧状の僕の身体を犬の体内にスッと忍び込ませる。他の野良犬達は、地面を透過させて足元から体内に侵入させた。
ドラゴンの姿で女の子と会った時、女の子の落とした花々を掬い上げて籠に戻してあげた時と同じように、犬が目を瞬くよりも早くそれらをこなした。

僕に噛みついた犬は、するっと口を閉じたまますり抜け、呆けたような表情を一瞬してから飛び退いた。

その時には既に、表面をコーティングするように野良犬達を黒魔力ですっぽり包み込んでいた。勿論外から見えないように、黒い霧は野良犬の身体表面より僅かに内部に透過させて埋めている。

僕の黒魔力は幾つに分かれても僕の身体である。そして、生物に変化するより黒魔力そのものの方が、冴え渡って五感を感じ取れる為、三匹の野良犬の鼓動、呼吸、筋肉、瞳の動き、全てが今この時、手に取るように鮮明に分かった。

僕は野良犬達の動きを強制的に止めた。細かく言うと、骨の位置を空中に固定した。
野良犬からは表情は読み取れないが、明らかに心拍数が上がった感じがする。

「フーッ」

もう一度威嚇して野良犬達を睨みつけながら、野良犬の身体を外側から圧迫していく。あたかも、僕の頼りない猫の威嚇が犬に効いているように見せるため。
一歩ずつ、僕が野良犬達に間合いを詰める毎に、圧迫する力を徐々に高めていく。
 
さ、さぁ、僕は怖いぞ~?逃げないと大変な事になるよ~?
 
目を光らせ、瞳孔を極限まで細くさせ、のっしのっし進めば進むほど、わんちゃんたちの心拍数は鼠のように早くなる。きっとわんちゃんにとって、目の前の黒猫は死神のような恐怖の対象に思えるだろう。案の定、わんちゃんたちから高速に震える筋肉の振動を感じた。

パッと黒魔力による拘束を解くと、野良犬達は脱兎の如く逃げ去って行った。
その様子を見つめながら、ふぅと一安息の溜息を吐いた。

良かった良かった。初めてする黒神術の使い方だったから、上手くいくか不安だった。黒神術って、扱う調整を少しでもミスするとターディベアの時のようなモザイクかけるレベルのモノにしてしまうからなぁ。

それにしても日本に居たころの僕だったら野良犬なんて怖くて立ち向かう事出来なかったのに。きっと邪神や邪竜と言った化け物に会ったお陰だろう。

野良犬達の顔も一丁前に凶暴な顔をしていたなぁ。異世界の野良犬ってみんなどれもあんな感じなのかな。地球の野良犬が可愛く思えてしまう。
まぁ、僕はレッドウルフと言うとんでもなく恐ろしいモンスターを良く知っているし、あんなのと比べれば野良犬なんて子犬のようなもんだし全然怖くない。

寧ろ、あんなに怯えさせてしまって、申し訳いくらい…。脅す為に初めて扱うやり方で黒神術を使うなんて、なんて僕って鬼畜な奴なんだろうって思ってしまったくらいだよ…。

何がともあれ、女の子が無事で良かっ–––ッヘグゥ!
女の子の様子を確認しようとして振り返る最中、女の子が走り寄って来て、力強く抱き締められた。

「ーー!」

女の子の表情は見えなかったが、言葉にならない声を挙げていた。
よっぽど犬が怖かったんだろう。確かに、街中であんなの現れたらそりゃ怖いよ。

(もう大丈夫だよ、怖かったね)

女の子の細く華奢な腕の中で、黒猫はゴロゴロと喉を鳴らすのであった。
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