『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

文字の大きさ
33 / 79
第一章 

25話 凍える分身達

しおりを挟む
尋常ではない感覚で焦る中、周りを見るとナーシア達は平気そうだった。ミニドラゴン状態の僕は今すぐ教会から出たくて堪らない。一方、教会の屋根の上に止まっているカラスの僕は、足が少し冷たいだけで教会の中と違って随分楽だった。

教会のような神聖な所には、僕のような魔物が入り込んではいけなかったのかも、と苦しさから思わず後悔し始めていた。

ナーシア達が教会の奥に進むたび、身体の冷たさは酷くなっていく。スースーする感覚が、歯医者で歯を削って神経まで貫いたようなツキンッとした痛覚になっている。
僕は痛覚を感じようと思わない限り、痛いと思う事は無いはずなのに、神経を削られるような痛みで、幻影も保っていられるか分からないほど、今にもどうにかなりそうだった。

それでもナーシアの側から離れるという選択は考えなかった。なんとかキーホルダーとしてナーシアの側にいるために、ミニドラゴン状態の自分の意識を奥底に沈めるようとする。

意識を沈めようと奮闘するミニドラゴンの僕の思考を常時感じながら、暇なカラスの僕は「この身体になって、どれくらい経ったのだろう」呑気に考えていた。

うーん、二ヶ月くらいは過ごしているかな。

実体と原型がないこの煙のような不思議な身体。だけど、身体だけではなく意識の持ち方も場合によっては人間と異なる事がある、というのを過ごしてきた中で分かって来た。
その意識の持ち方が人と異なる場合とは、黒神術を使って僕が「分裂」した場合の事。
僕の身体は、分裂した個体のそれぞれが別の思考を持ち、分裂した分の意識や感覚がある程度共有される。
この時、全ての意識を完全に同調させてしまうと、分裂している各個体自身の思考が混乱してしまうため、意識をある程度共有することにしている。
ちなみに、複数に分裂すればする程、意識や感覚が増えると同時に共有出来る意識が少なくなって、分身体同士のコンタクトや状況把握が難しくなっていく。つまり、分裂すればする程、一人の自分が分かれているという感覚より、自分と全く同じ思考をしている他人という意識が強くなってくる。

何度か一人遊びのついてで練習している分裂だけど、あまりに細かく分かれると意思疎通がうまく行かなくなって一つに戻る事が大変だった。また、二体や三体に分かれた時、ある一体が咄嗟に驚いた時やショックを受けた時、共有されるその一体の意識の比率が大きくせしめ、他の個体の意識に混乱を生じさせる事も分かった。
そこで僕は、分裂した幾つかの個体の意識や感覚を意識的に操作して、共有される意識や感覚を遮断したり主人格となる個体を作ったりすることを練習した。そうする事で、自分の分身をスムーズに操ることが出来るようになった。

まだ、上手く操れる訳ではないし、操作できる分裂の数も限られているけど、ある程度は…操れるようになったと言って大丈夫かな。


今回僕は、カラスとミニドラゴンの感覚を共有していなかった。強いショックの時は意識というか思念が増長する。だから痛みでミニドラゴンの思考がカラスの僕に多く雪崩れ込もうとしているのが今の状態だった。

ちなみに、ミニドラゴンを痛覚を感じないように、というより痛みで行動が左右されないようにする為に意識を沈めるというのは、気絶したり眠りについたりするする事ではない。僕が気絶したり、眠りに着くと、幻影も実体化も解けて黒霧になってしまう。だから、意識を沈めさせるというのは、意識を失わずに、感覚を保ったまま、感情を失くし思考放棄をなるべくさせることだった。

ミニドラゴンには、ナーシア達の様子を視る事、聴く事、幻影が見破れないよう身体を動かさない事、その3つだけを果たせるように、カラスの僕と視覚、聴覚をシンクロさせて身体を黒神術を使って固めた。カラス(僕)とミニドラゴンの意識をシンクロさせている訳ではないから、なんだかいつもより他人感があり、自分と同じ考えを持った人を道具として使っているような気がして少しチクリと罪悪感が胸を刺す。

不思議だな。どうせ自分自身に代わりないのに、心のどこかで別人と思ってしまう。僕が人間のままだったら、絶対に分からない感覚だと思う。人の場合に例えたら、一人お人形遊びで感情移入している感覚に近いのかもしれないけど、少し違う気もする。

分裂のこの能力は極めれば便利そうなんだけど、一歩間違えたら人間である僕の性格や意識に何か影響を与えそうで怖い。見た目が訳わからないのに、中身まで訳が分からなくなりたくないなぁ。
うーん、と考えつつ、僕は痛みで苦しむ片方の分身の思考に少し意識を傾けた。

(痛い、苦しい、早く消えたい。思考を放棄させて抜け殻になっても、この苦痛はずっと受け続けることに変わりない。それでも、ナーシアの側に居続けるには、この手段しかない。
ミニドラゴンの僕が例え痛みでおかしくなっても、僕にはもう一つのカラスの身体があるから大丈夫…僕が耐えるだけ……大丈夫…)

***

ミニドラゴンの僕は、カラスの僕と視覚と聴覚の同調し、その他の一切の情報をカラスの僕に伝わらないように遮断すると、

僕はすっと波が引くように一瞬にして楽になった。

はぁぁ、カラスの僕の方がやっぱり教会の影響が少ないのか。さっきまで教会の中で苦しかったのが嘘みたいにさっぱりした。それでも、教会の屋上だからか、スースーした感じが足元に少し纏わりついて足の裏に消毒液が塗られたような感覚がする。『先ほど』の苦しさからこの聖なる気配も恐怖を感じたけど、僕は平気で『ずっとここに居た』訳だし、あの痛みを味わった後ならこれぐらいなんともない。
ん?なんか矛盾してることを言ってる気がするけど…まあいいっか。
僕は今、本来のやっと一人の自分になれた気がして、頭の中が冴え渡っていくように気持ちがすっきりしていた。

ナーシア達は漸く歩みを止めたのは、教会の最上階に位置する果てしなく広い六角形の大講堂だった。その様子を、もう一つの目であるミニドラゴンの瞳でジッと見ていた。一階や二階では見られなかったステンドグラスの窓が、この部屋の全てを囲んでいる。太陽の光がステンドグラスの窓を透かし、対になっている窓が反射し、部屋全体が明るく鮮彩な色で染め上げている。
ナーシアは大講堂の真ん中に向かうと、鞄をビュラさんに預けた。当然、鞄にぶら下がっていた僕はナーシアと鞄と共に引き離れてしまった。
僕等、ゼフィルスさんとビュラさんと何人かの巫女さん?と五人の騎士の方は六角の講堂の端、ステンドグラスの窓際に立って、ナーシアを見守る。

ナーシアは部屋の真ん中にある円形の祭壇の中心に静かに佇むと、両手を組み目を閉じた。厚みのある本を開き、神官服の初老が詠唱を始めると、持っていた分厚い本が浮かび上がる。低く良く通る詠唱の声が、六角の部屋を反響し、神官の声が二重にも三重にも重なっているように聞こえた。一人の声で響き渡ると思えない広大な講堂、それなのに僕等の所でもはっきりと聞こえる。スピーカーのような拡声魔法とか使ってるのかな。  

ナーシアの円形の祭壇がナーシアを中心に、花が開くように光り輝く魔法陣が浮かび上がり始めた。中心のの魔法陣が一番大きく、その周りを天体のように小さな魔法陣がクルクルと複雑に、だけど規則的に、法則に従っているように回る。ナーシアの薄紫の髪がふわりと揺蕩い、白く淡い光に包まれる。

あああまさにファンタジーって感じだ、ナーシアが美し過ぎてこの世のものとは思えない。
本当に一体何をしているんだろう!?

神官の前に浮かんでいる分厚い本の見開きが金色に輝くと、神官が詠唱を唱えるのを辞めた。
それと同時に、淡い光も魔法陣も薄くなって消えた。

見た目からはナーシアは特に変わったように見受けられない。だけど、ナーシアが少しホッとしている様子から、僕はもう一度よくナーシアを見た。

んーー、ん? ナーシアから厄災の呪いの気配が弱まった?…うん、間違いない。ナーシアのステータスを今確認したけど、呪いの効力の言葉達が全体に少しだけ薄くなってる。特に、『死』という言葉が一番薄くなってるようだ。だけど、名前の横に書いてある(呪:強◀︎)という文字は変わらない。
そうか、と僕は納得する。
この儀式は、ナーシアの呪いを少しでも抑えるための処置なのか。
だけど、記述してある呪いの強さが変わらない事から、ナーシアの呪い自体が本当に弱まった訳ではないんだろう。きっと儀式では呪いの効力を一時的に遅らせたり抑えたりするのが精一杯なのかな。

ナーシアが安堵した顔で、額の前に手を組んで頭を下げている。その様子を見て、なんだか悲しくなった。
体の髄まで感じる聖なる力に満ちた協会で、あんなに濃密な魔力を練り上げる大規模な魔法陣を使って行った儀式なのに、それでも呪いの根本は消えないなんて。

ゼフィルスさんが神官の人達と言葉を交わした後、ナーシア達は教会を出た。これで本当に儀式は終わったらしい。そして、カラスの僕は上空を飛びながら、皆んなが馬車で元来た道を引き返して行くのを付かず離れず付いていく。

途中、一キロメートル先くらいの森で、ゴルフボールくらいある黒い虫の大群がナーシア達が乗る馬車の方角へ向かって飛んで来るのを生体感知で感じた。
少し不安に思った僕は、ナーシア達が虫に気付く前に虫の大群の進行方向に影裂界を開いて、すっぽりと大群ごと飲み込み、ナーシアと出会う前に居た森に黒虫の大群を放った。
他にも、黒っぽい変な生き物が馬車の進行方向に居たり、向かったりしていたけど、全部この要領で、僕が散々迷ったあの森にワープさせた。あそこ人いないし、虫を放っても多分大丈夫だよね。…あそこの森の生態系壊れたら、完全に僕のせいだな。

それらの黒っぽい生き物達は偶然ナーシア達のいる方角に向かっちゃっただけなんだろうけど、儀式で疲れてるナーシアにもしもの事があって欲しくないし一応対処した…。
でも、それぐらいのことばかりで、盗賊が出てきたりレッドウルフのような魔物が出る事もなく、無事に館に辿りついた。
黒猫ナイトになる!って意気込んだものの、ナイトが活躍するような場面もなく、僕は今回只々ナーシア達をストーカーして一人で辛い目に合って終わっただけだった。…ははは。

  馬車から降りるナーシアを見てから、僕は瞬時にカラスから黒猫に変化して、先回りしてナーシアの部屋にワープしてドアの前に待機した。

数分後、手を広げて満面の笑顔で部屋に入ってきたナーシアに向かって「お帰りなさいー!お疲れ様ー!!!」と全身で表すようにナーシアの腕の中に飛び込んだ。
優しいナーシアの微笑みを間近で見ながら、ナーシアの呪いを解く方法を探らなきゃ、と強く意気込む。

ちなみに、僕はナーシアのカバンについていたミニドラゴンが化けてるキーホルダーの存在をすっかり忘れていた。
視覚や聴覚と言った感覚の同調も、黒猫になった時点で解除する筈が間違えて遮断してしまい、明確にミニドラゴンの存在を意識しないとコンタクトが取れなくなってしまっているのだが、僕は全くもって知ることはなかった。




【神聖魔力の耐性が上がりました】


【呪いの持続的な攻撃を確認。呪いの耐性向上。呪術魔法及び呪い系統の無効化に成功しました】


分裂の能力:分裂していた個体が消滅、もしくは同調(意識の共有) を完全に遮断した場合、遮分裂していた個体の意識や記憶が一つに統合される。全ての個体の意識を遮断していた状態で一つに戻ると、全ての意識と記憶が統合されるので、しばらくの間、精神的な疲労と混乱が生じる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...