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第一章
34話 呪いと想い①
しおりを挟むグルーファントムの襲撃があってから、クローゼル家の屋敷の警備は以前よりかなり厳重になった。
そのせいか、これまで屋敷で見られなかった人々が多く見られるようになった。
杖を持った人達は、魔術師組合の人らしい。ゼフィルスさんはその人達と、何やら魔物対策としてトラップや結界の増設を話し込んでいるようだ。
それから、厳つい顔をした大柄な人達は、身元がはっきりした信用のおける冒険者達。魔物と戦い慣れしている彼等を雇うことにしたらしい。
屋敷を出入りするようになったのは彼等だけじゃない。ナーシアの呪いが悪化していくことから、一刻も早く呪いを解くためにレネイア国中の聖職者達を呼び寄せている。
だけど、何百年も前から代々受け継がれてきた呪いは簡単に解ける筈もなく、ナーシアに会った神官や神女達は晴れない表情を浮かべるばかりだった。
屋敷の警備が固くなるのは良いことだけど、その代わり僕はナーシアから離されてビュラさんの自室に閉じ込められる事が多くなってしまった。ここ最近知ったけど、『黒い色』と言うのは魔物の特徴らしい。黒猫を見て嫌な顔をする人が多かったのはそういう理由か。ショック。
魔物と間違えられてややこしくなる為、屋敷に出入りする人達の目に入らないように隔離する事を、ゼフィルスさんが決定した。その決定に、始めは反発していたナーシアだったけど、教典で魔物を絶対悪としている聖職者や魔物討伐を日頃からしている冒険者に見つかればどうなるか想像出来たらしく、すぐに受け入れた。
そんな話を聞いて僕自身も彼等の目に触れないように気をつけなきゃと心から思った。
「エヴィー、少しの辛抱だけど、良い子にして待っていてね」
「にゃぁ」(うん!)
僕も僕なりにナーシアの呪いについてもっと調べなきゃ。寂しそうしながら立ち去っていくナーシア姿を見ながら、そう強く決心する。
グルーファントムの襲撃の後、ナーシア達の領地であるユミフィトニア領へ魔物が侵入する事例が増えてきたらしい。最近ではインタラチュラという蜘蛛の魔物が家の中に侵入して、一家が殺されたという事件も発生している。僕も嫌な予感がする度に屋敷を抜け出して、魔物をこっそり駆除する事がある。ナーシアの呪いが消えたら、こういう事もなくなるのかな。
ビュラさんはゼフィルスさんと付きっきりで、自分の部屋に戻る時は夜遅くなってから。ビュラさんが帰ってくるまで部屋にずっと居るのも退屈なので、僕は部屋に分身を残してコッソリ部屋を抜け出している。行先は書庫室や、屋敷周辺のユミフィトニア領。ナーシアにどんな事が起きても対応出来る様に、常に分身は遠からず近過ぎずの場所でナーシアを見守っている。
**
ビュラさん、今日は帰ってくるのが遅いなぁ。ナーシアはとっくに寝ているのに。
黒霧の状態でモクモクと屋敷の壁を透過しながらビュラさんを探し回る。あ、書庫室に発見。
真っ暗な書庫室で、魔法で作り出した光を浮かばせながら本を読んでいる。ビュラさんが開いている本を注目すると、そこには『呪いの種類』と書いてあった。
僕もその本は見たんだけど…呪術魔法を扱う魔物や、呪いのアイテムがどんな効果やどんな傾向の呪いがあるのか、そんな大まかな事しか書かれていなかったはず。
ビュラさんは難しい顔をしながら、次々と本を手にしていく。これは、帰ってくるの遅くなりそうかな。
うーん、一度でも良いからビュラさんと話し合いたい。そしたらナーシアの呪いももっと分かるのに。
…それは叶わない夢だけど、前みたいに魔法陣の本を教えてくれたりしないかな。このところビュラさんもナーシアも忙しくて、なかなか書庫室で前みたいに本を読み聞かせてもらえるような機会も少なくなったし…。
…。
本当は部屋を勝手に抜け出したらダメなんだけど、怒られるのを覚悟して書庫室に現れる。テーブルの上をテクテクと歩き、ビュラさんの光が届く距離まで近づくと
「……エヴィー?」
ビュラさんの目がゆっくり見開き、猛禽類のように瞳孔が縦に裂ける。
一瞬のうちに黒猫の尻尾がボンっと膨らみ、逆毛になってへっぴり腰になったまま身体が硬直する。
ビュラさん確か雪狼の血が入っているもんね。…ッじゃない!あばばッ怖い、めっちゃ怒ってる!うわッどうしよう!
怖い、怒るのにゆっくり開眼する人怖い。あ、確か幼なじみもあんな風に怒ったっけ。あ、やどうしよう、逃げるべき?どこへ?まず身体が動かない、、。
「…。良かった、やっぱりエヴィーだな。暗闇から突然黒いのが現れたから、少し驚いたぞ。ほら、おいで」
そう言ってビュラさんは空いた片手で黒猫の身体を持ち上げる。
はぁぁぁぁぁっ良かった!!そうだよね、暗いところから黒いものでたらまっくろく◯すけだと思うよね!←?
そりゃ、驚くよね!
安心すると同時に、硬直した身体がじんわりと溶けるようにビュラさんの片手に馴染んでいく。
「そういえば、おかしいな。扉に鍵を掛けて置いたはずなのに、どうやって脱走したんだい?」
安心した途端にギクギクッとなった。雪の粒のようにキラキラと光る瞳から、限界まで顔を逸らして知らんぷりを決める。
というか、いつも黒霧で壁や扉を透過するから、扉に鍵が掛かっている事を知らなかった…ッ。
そんな黒猫の様子に、小さく笑うビュラさん。
「本を読んでもらいたくて抜け出したのか。本当に本が好きな小さく賢い猫だ。毎日本を一冊読み聞かせてあげるから、勝手に抜け出すのはこれっきりにしておくれ」
う、そうです。何ら間違っておりません。僕は本が好きでビュラさんに本を読んで貰いたかったのです!
だけど、勝手に抜け出さないというのは約束できかねます。
「にゃぅ」
猫の鳴き声で返事をすると、ビュラさんは笑みを深めた。
「じゃあ、エヴィーが好きな魔法陣を探そうか」
「ぁにゃぁっ 」
今見ている本を閉じようとするビュラさんに、『待った!興味あるの!』と言うようにその本に飛びつく。
「あ、こら暴れない」
ビュラさんの片手からみょーんと伸びて、本に前足をかける黒猫。大事な本を傷付ける訳にはいかないので、勿論爪は出していない。
「…?どうしたのエヴィー。…まさか、この本を読んで欲しいのか?」
「にゃぁ」
「そうか…エヴィーには分からないと思うけど、仕方ない。読んであげよう」
どこまでも甘いビュラさんは、ただの猫に対して物騒な本を律儀に読み上げてくれた
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