『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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第一章 

41話 神聖皇国エメストリア②

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司祭が司る聖教会での、聖女神教の祈りから対魔の儀式、邪気を払うのに圧倒的な効果を持つと言われる聖歌を聴かせたり、神聖花のエキスが使われた湯浴みを浴びせたり、ナーシアの呪いの治療は思ったよりも本格的に行われるようだ。お陰でナーシアは初めて会った時のように元気になり、今の所日常生活で良く起きる小さな不幸もすっかり鳴りを潜めている。
だけど、呪い自体は一向に解ける様子はない。

「御令嬢の呪いの力は非常に強い。聖女様の力をお借りするしかありません」

聖職者である司祭は、オーラで呪いをきちんと察知しているようだ。

「聖女様がこの国はお帰りになるのはいつ頃だろうか」
「現在は勇者様、戦士様方と黒竜退治に向かっているそうですが…その後足取りが掴めないそうです」
「人類最前線で闘う御方達だ、致し方がありませんね」
「非常に残念ですが、御令嬢の呪いを完全に解くにあたって、私の持つ力だけでは力不足なのは確かです…キュエイム大聖堂の枢機卿に協力を要請しましょう」

司祭が難しい顔をしながら、聖職者達とこそこそ話している。話の中で黒竜退治という言葉にピクリと反応した。黒竜…まさか、僕の事を探しているんじゃ…いや、そんな訳ない。他にも黒い竜が居るんだろう。どちらにしろ、オルシヴィオンに変化し辛くはなったが。

それから2日後、ナーシア達はキュエイム大聖堂に向かう。神殿は、メイサール宮殿の近くにある一番大きな聖教会だ。
この国の至る所に見られる青い花の造花は、アイピスというこの国の象徴である聖花なのだそう。
そんな聖花に似せた装飾が付けられた豪華な馬車に乗り、ナーシア達はエメストリアの中心地、聖都に向かう。


キュエイム大聖堂は古代文字が刻まれた八つの柱に囲まれたドーム状の巨大な建物だ。それぞれ八方から出入り口があり、大勢の人々が行き来している。
馬車から降りたナーシア達は、参拝者と共に大聖堂に続く石畳の上を歩いていく。
「わ!綺麗」
大聖堂の中に入ったナーシアは、目を輝かせ天井を見上げた。
聖堂内の天井には、女神と思わしき二対の翼を広げた一番目立つ女性と、その周りに八人の天使など、壮大な神々の壁画が描かれている。
ドームの中央には不思議な輝きを放つ天窓があり、そこから虹色のカーテンが降り注ぎ、女神を拝む信徒達を優しく照していた。ナーシアが定期的に行く教会だって負けていないくらい幻想的な場所だったけど、ここはまた違って美しい。人々の心に根差した場所だと言うことが良くわかる。
司祭が神殿関係者と話をする為に一旦分かれ、ナーシア達はその間、広い聖堂内の壁画や古代文字を見て回る。

ふふ。親子揃って真剣に古代文字の解読を試みているようだ。最近ようやく、殆どの国で公用語として使われるエムシーア語と現セルタ文字を少し理解できるようになった僕。古代文字なんて当然分かる訳がない。
ちなみに、古代文字とは神聖語と呼ばれていて、神々が使っていた言語なんだって。ナーシアの机の上にある本に書いてあった。
術式展開魔法や、結界魔法に組み込むマジックワード(魔法単語)も神聖語の一部らしい。僕はプログラミング言語のような物だと勝手に推測している。
神聖語は特殊な材質に刻まれたり、魔力溶媒のインクで書かれると発光する。ただ、意味のある羅列じゃないと発光しない。このの神殿内や外の柱に刻まれている神聖文字は殆どが薄らと光っている。ずっと神聖な気配に浄化されまいと耐えている僕だが、もしこの文字の意味するものが今この瞬間発動したらと思うと……怖い。
ナーシア達が解読に熱中している中、司祭が帰ってきた。司祭の背後には、真っ白で長い髭、立派で重そうな冠を被り、司祭より派手な青地に金の祭服を着た神殿の関係者がいる。凄く偉い人っぽい。

「では、御令嬢、こちらへ」

偉い人っぽいキュエイム大聖堂の関係者が、神官達に声を掛け参拝者を退かすと、天窓がある明るい中心部への道がモーゼの滝のように分かれた。ナーシアが神官達に囲まれて、中心部に連れて行かれる。ゼフィルスさんと護衛騎士達もそれに続こうとしたが、司祭に止められた。

「申し訳ありません、少々お待ち下さい。ただ今、聖使団と司教枢機卿が御令嬢へ直直祈りの言葉を捧げます。一般信徒には行われる事が滅多にない、大変貴重で神聖な儀式で、神聖力と親和性が高くない者が不用意に近づくと儀式が失敗に終わる恐れがあります。…ご理解頂いたようですので、幸いです」

僕も咄嗟にナーシアの所に付いて行こうと思ったが、司祭の話を聞いといて良かった。危うく、神聖力と親和性が超低い、と言うか相性が悪過ぎる僕が儀式に乱入して儀式を失敗させてしまうところだった。
司祭の言う通り、慎重に行われる儀式なのだろう。さっきまで天窓の真下にいた信徒達はいなくなり(追い払われ)、代わりに司祭と同じ服を着た高位の聖職者達や、その使いの神官達、そして楽譜を持ったナーシアと同じくらいの子も居る少年少女達楽団も現われた。
うわ、ナーシアが埋もれて見えない。
ナーシアはなるべく呪いの力を遠退けるため、この国の信徒達が着るような真っ白なローブを着ている。そして、少年少女楽団も、似たような真っ白なローブを身につけている。楽団はローブの胸元に青い薔薇の刺繍と金のチョーカーをしているけど、みんなフードを被っているし、ナーシアと見分け辛いこの上ない。しかも神殿内に居る人々の多くが白い服だし。
恐らくあの聖職者達集団の中心にいるのだろうけど、これだけみんな似たような白い服をしていると、見失わないか不安になる。僕の視点操作は自分の身体から1メートル以内しか動かせないし…儀式が失敗する条件が正確に分からないから、迂闊に中心部の天井から見下ろすと言う方法も取れない。
というか、僕のような存在が、神聖な大聖堂内に居ることが駄目な気がする。僕のせいで儀式を失敗させる訳にはいかない。ナーシアから離れるのは不安だけど…ここまで大勢の人に手厚くサポートしてもらっているし…神殿内にはゼフィルスさん達が居るから大丈夫か。
そう考えて、ナーシアの儀式が終わるまで、ネズミのような小さな黒猫はチョロチョロと神殿外へ抜け出した。
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